ファンタジー小説-奪うだけの世界など壊れてしまえば良い
救援要請は発した。緊急事態用の伝書鳩を使ったので、すでに王都に要請は届いているはずだ。だが、そこまでだ。救援は鳩のように空を飛んでこられない。到着するまでには、ひと月かそれ以上の期間が必要だ。その頃には、私は生きていない。私だけでなく、騎…
図書館まで付いて来るべきではないと分かっていたが、欲求を抑えられなかった。クリスティーナも同じ気持ちなのだろう。カイトは何をしようとしているのか。どう今の問題を解決しようと考えているのか。詳しい説明がないまま、別れることなど出来るはずがな…
自分は目立たないように図書館に移動します。これだけで理解出来ないほど、皆、馬鹿なのだろうか。図書館で待っているとリーコ先輩が現れた。王子様とクリスティーナ、それと退魔兵団の同期たちも一緒に。大勢でぞろぞろと、それも王子様とクリスティーナが…
王都に戻れたのは拘束から逃れて、二十日後。クリスティーナとはすぐに合流出来た。自分も脱獄してくるものと考え、ある程度離れた後は、急がないようにしていたそうだ。とりあえず、アレクを責めた。自分を置き去りにして、先に逃げ出したことを。クリステ…
ウィリアム第二王子が自ら署名した通達が届いた。地方の小領主である私のところにだ。ウィリアム第二王子と言えば、王位継承権は二番目でありながら、次期国王と目されている御方。勇者になることが約束された加護を持つ御方だ。 そのような方からどうして私…
この世界に来てから、意外と幸運に恵まれている。なんてことを考えたのは、ついこの間。撤回しよう。自分に幸運はない。かろうじて悪運に助けられてきただけだ。 無事にダンジョンを抜けられた。外に出ると完全武装の騎士たちが待っていた。出迎えかと思った…
何か大きな力が働いている。こうとしか思えない。だが、大きな力とは何なのか。国王である父上を動かす力というのは、どういうものなのか。有力貴族家の意向。これはある。国王であっても臣下の意向をまったく無視することは出来ない。ミネラウヴァ王国にお…
生命力の違い。加護やスキルはまったく関係がないとは言わない。でもそれを超える力が、ダンジョンで戦うには必要。それが生命力。こう思った。王立騎士養成学校の評価では私はランクA。カイト殿はランクD。でもここでの戦いは全てカイト殿が主導している…
自分はまだ生きている。魔獣の義理の息子として生きることになった。魔獣の子なのだから魔獣として生きる。そうするしかないのだけど、これが難しい。ブラザーたち、シスターもいるけど、の成長は早く、自分は完全に落ちこぼれ。家族に頼りっきりの毎日だ。 …
目が覚めた。生きている。地獄に堕ちたと思ったところから始まった新たな人生にも、少しは幸運があるようだ。考えてみれば、スライムとの死闘を勝ち抜いたのも幸運だ。神様のお助けがなければ、あれで自分は死んでいた。新しい人生が、あの時点で終わってい…
転移させられたダンジョンは、最初に思っていたよりも遥かに大きく、危険な場所だった。殺すつもりで転移させたのであれば、こういう場所であるのは当然のこと。自分の認識が甘かっただけだ。 こうなると、認めたくないけど、アレクがいてくれたのは助かる。…
ジタバタしても何も解決しない。分かっていても、じっとしていられない。焦っても物事は進まない。分かっていても気持ちが抑えられない。クリスティーナとカイトがどこかに転移させられてから、すでに五日。二人の所在を示す手がかりは見つかっていない。 転…
洞窟の中で野宿。こんなことをする日が来るなんて思っていなかった。きちんと考えてみれば、この先の王立騎士養成学校の授業でもあるのかもしれない。野外授業は少しずつ難易度が上がっていくと聞いている。そうであるなら、こういう課題もあるのかもしれな…
生まれ落ちてからこれまでで最悪の失態。私は何をやっていたのか。術式魔法が発動したことに気付いて、すぐに動いていれば、クリスティーナ様をこのような目に遭わせるにはならなかった。 救いは黒炎も一緒に飛ばされたこと。この男の反応は速かった。転移魔…
薄暗い洞窟の中。でも、元居たダンジョンではないことはすぐに分かった。私の他にはカイト殿しかいない。他の人たちは消えてしまった。そうではない。消えたのは私。私が彼らの前から消えたのだ。恐らくは転移魔法によって。 ここが元居た洞窟ではないことは…
また野外授業が行われる。それにあたって王立騎士養成学校は護衛体制を強化した。かなり異例の体制だということは、詳細を聞かされていなくても、分かる。前回の悪魔による襲撃は、そうするだけの衝撃を王立騎士養成学校に、王国に与えたということだ。もし…
卒業するまで学業に専念、なんてことは仕事の為に王立騎士養成学校に潜り込んでいる自分が求めて良いことではない。それは分かっている。ただ、もう少し落ち着いた学校生活を送らせてもらえないものだろうか。 また野外授業が行われる。犠牲者はいなかったと…
王子様が鍛錬に、頻繁に参加するようになって、さらに自分の時間が少なくなった。強者との立ち合いはそれなりに意味がある。特に剣術は、個人の鍛錬ばかりで、あまり実戦では使っていない。剣術レベルは上がっても、強くなれた実感が得られていなかった分野…
王立騎士養成学校には入学出来たものの、こんな日が来るとは思っていなかった。コルレオーネ子爵家は他家から毛嫌いされている。話には聞いていたが、王立騎士養成学校に入学して、それを思い知らされた。どうやって知るのか、俺がコルレオーネ子爵家の人間…
幼い頃はよく五人で遊んでいた。それぞれの立場なんて意識したことはなかった。大人たちは子供同士でも関係性を厳しく見るようで、何度か小言を言われたが、そのようなものは気にしなかった。兄弟に近い意識を四人に対して持っていた。 それが崩れ始めたのは…
落ちこぼれ主人公が血の滲むような努力を重ねて強くなる。良くあるストーリーだ。自分もそんな主人公になろうとして努力をした覚えは、実はほとんどない。これまでまったく努力をしてこなかったわけではない。それは自分の評価が甘いわけではなく、事実だ。 …
会場に響いた音。それを聞いて、ずっとモヤモヤしていた気持ちが、少しだけ、晴れた気がした。私の婚約者は小気味良い。こんな風に思ったと知ったら、クリスティーナは怒るだろうか。 剣術対抗戦は観戦席で見ることになった。自分から参加を申し出ておいて、…
学校は学びの場。これは間違いではないけど、これだけで全てを示しているわけではないことは元の世界ですでに学んでいる。ただ、これもまた学びなのだとすれば、学校は学びの場という言葉は正しいことになる。 そうかもしれない。社会は平等ではない。ヒエラ…
剣術対抗戦に向けて、人数を揃えなければならない。王子様がスポットで加わるという話はあるけど、それは自分がどうにかすることではない。仮にそうなっても、まだ一人足りない。その一人を確保するのが自分の役目だ。いや、出来ることなら一人とは言わず、…
寮の共有棟にあるアッシュビー公爵家の部屋に行く機会が増えた。理由は明確。他の騎士候補がいなくなったからだ。野外授業で副官気取りの奴はクリスティーナを残して逃げ出した。主であるパトリオットを守る為という言い訳も通用しない。奴はパトリオットの…
甘い考えだった。愚かな行動をしたと、今更だけど、後悔している。王立騎士養成学校に久住はいる。それが分かっていても、会えるはずがないんだ。会えるはずがないのに、会いに来てしまった。どうしても衝動が抑えられなかった。 結果はこの通り。標的だった…
彼には「もう会わない方が良い」と伝えたつもりだったのに、理解してもらえなかったみたいだ。自分に会いに来たと決まったわけではないけど、目的が何であれ、無謀なことを考えるものだと思う。 ここは悪魔と見られている彼にとって、敵本拠地のど真ん中。こ…
婚約者というものの、ウィリアム王子殿下とはそれほど親しいわけではない。幼い頃から知ってはいた。でもウィリアム殿下と年が近いのは私だけでなく、兄のパトリオットとアントン、イーサンもいる。私だけが女性だった。私以外の四人が遊んでいるのを少し離…
恋愛ゲームの悪役令嬢糾弾シーン。自分は今、それを見せられている。心の中は違和感でいっぱい。クリスティーナが入学して、まだ半年。こういう場面はエンディング近くで起きるものなのではないのか。そもそもクリスティーナは本当に悪役令嬢なのか。彼女が…
どうしてこのような事態になったのか。嘆きの思いが頭に浮かんでくる。いつになく楽な仕事のはずだった。ミネラウヴァ王国の王立騎士養成学校に今年、注目すべき新入生がまとめて入学した。一人はミネラウヴァ王国の第二王子ウィリアム。<勇者の器>という…