月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第52話 これが恋バナというものか

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 この世界ではどうすれば強くなれるのか。スキルを増やすこと、スキルを成長させること。自分自身のレベルをあげること。簡単に言うとこれだ。もっとも分かりやすいのはレベルを上げること。敵を倒せば良い。魔物でも魔獣でも悪魔、魔人族でも、そして人族でも、殺せば経験値のようなものが得られ、それが一定値に達するとレベルがあがる。
 ただこの世界のレベルは微妙だ。スキル<解析>を使ってもステータスは見えない。HPもMPも力も速さも数値になっていない。実際は数値になっていて、自分の<解析>がまだレベル不足で見えないだけかもしれない。そうだとしても、やっぱり微妙だと自分は思っている。レベルが上がっても、それほど強くなった気がしないのだ。
 自分は<悪魔の迷宮>で、かなりの数の魔獣を倒している。ハイハイも出来ない頃から戦ってきたので、百や二百ではないはずだ。レベルもあがった。今いくつなのか神様の声は教えてくれない、<解析>でも出てこないので、数字は分からない。でも、レベルも十や二十ではない。
 ただレベルが上がったからといって、それまで苦戦していた敵に余裕で勝てるようになったかというと、そうでもない。それよりも新たなスキルを得て、それを使った戦い方を見つけた時のほうが強くなれた実感が得られる。実際に強くなる。これはどういうことなのか。
 ずっと前から考えていた。レベルが上がってもあまり強くならないと気付いた時からだから、もう、何年か分からないくらい前からだ。一日中それを考えているわけではないので、何年前からは関係ないだろうけど。
 思いついたひとつの可能性はレベルは強さを示すものではなく、基準の一つなのではないかということ。この世界で重要なのはスキル。そのスキルを得られる資格としてレベルがあるのではないかということだ。
 今保有しているスキル<獣速>は最初<獣歩>というスキルだった。全力ハイハイを行っている時に、いきなり得られた。四つ足で歩いている、本人はブラザーたちのように駆けているつもりだったけど、だけ。だから<獣歩>。ふざけたスキルだ。
 でも、ずっとハイハイをしていてもスキル<獣歩>は<獣歩>のまま。立って走れるようになって、魔獣を倒した時にレベルアップと同時に<獣速>に進化した。
 サンプル数としては不十分だと自分でも分かっている。だから、この考えはあくまでも仮説。でも、弱い敵でも忍耐強く数を倒し、レベル上げをしても強くなれないのは間違いないと思う。
 では、スキルはどうすれば得られるのか。一番は加護だ。加護を与えられると、それと同時にスキルが得られる。これは学校の授業で教えていたので、確実な情報だ。さらに最初は持っていなくても、経験を積むことで得られるスキルもある。
 この「経験を積む」というのが曖昧。鍛錬を続ければ良いのか、実戦経験なのか。どういう形でも殺せば良いのか。明確な答えは授業では得られなかった。授業中だと「あいつ、何聞いているの? 馬鹿じゃね?」と思われるかもしれないので、終わった後で教授に尋ねてみたけど、これという答えは得られなかった。
 どれか分かっていない。こういうことだとは自分は考えていない。組み合わせではないかと考えている。加護とレベルと使用回数、それと実戦での使用回数も関係するかもしれない。この組み合わせで取得条件が決まる。進化する条件も同じだ。
 唯一の例外がスキルポイントによる取得。自分は何の経験もないのに<火炎魔法>を得た。スキルポイントと引き換えに得られた。
 このスキルポイントは謎のままだ。今、自分がどれだけのスキルポイントを持っているか分からない。スキルポイントいくつで、どのようなスキルが得られるかの情報もない。これが分かれば、もちろんスキルポイントを持っていればだけど、戦闘の幅を広げられるかもしれない。だが、まったく手がかりがない。
 この世界の神様は不親切だ。元の世界の神様は、声を聞いたこともないけど。

 

「……イト……カイト、聞いているのか?」

 

「……ああ、聞いている。ニューイヤーパーティーの話だろ?」

 

「聞いてないじゃないか。何だよ、その、にゅーなんとかって?」

 

 この世界の言葉も微妙だ。カタカナには通じるものと通じないものがある。この違いも、まったく分からない。

 

「えっと……新年会」

 

「いや、まあ、そうだけど、新年祝賀会な。この学校では」

 

「その新年祝賀会が何だ?」

 

 自分には関係がないこと。警護の仕事をしないというわけにはいかないので、まったく関係ないとは言わないが、他の学生のように浮かれるイベントではない。

 

「だから、お前は誰を誘うのかって話」

 

「誘う……誰を?」

 

「だから……恋人とか?」

 

「ええっ!? 皆、恋人がいるのか!?」

 

 どうやら新年祝賀会は恋人同伴が基本のようだ。ダンスとか踊るのだろうから、そうなるかと、今の話を聞いて初めて思った。

 

「いない。だから誘うんだろ?」

 

「えっ、告白? 新年祝賀会って……なるほど。そうか」

 

 クリスマスにデートに誘う。これと同じなのだと勝手に解釈した。それでも、クリスマスだからデートに誘おうなんて考えたことは一度もないので、自分にはやはり関係ない。この世界でも同じだ。

 

「やっぱり、誘いたい相手がいるのか?」

 

「何だよ、やっぱりって。いないから。だいたい、皆、誰を誘うつもりだ? 女性学生って少ないだろ?」

 

 王立騎士養成学校の女子学生比率はかなり低い。騎士を志す女性は、この世界には滅多にいないのだ。クリスティーナは例外だ。彼女も、本気で騎士になるつもりはないだろう。
 女子学生の多くはリーコ先輩と同じ、魔法の研究者、もしくは魔道具師を目指している。騎士となると、スキルで補完出来ても、やはり体力の男女差は大きいということだ。魔法騎士という、要は魔法士、の職もあるけど、戦場に立とうという女性は、この世界には多くないのだと思う。

 

「なんで、学校の女子を誘わなければならない? 学校にしか女子がいないわけじゃないだろ?」

 

「いつの間に……俺、学校の外の知り合いなんて、男でもいない」

 

「ああ……お前は、そっか、貴族だものな?」

 

「この場合、貴族であることは関係なくないか?」

 

 貴族だから学校の外に知り合いがいない。これは違うと思う。

 

「関係あるだろ? たとえば、町の食堂で飯食うか?」

 

「ああ、たまに」

 

「はい?」

 

 学校の外に出ることは、あまりないけど、許される時は外で食べる。自炊なんてしたくないから。作ってくれる人もいない。

 

「でも、同じ店ばかりだな。<竜神亭>って知っているか? 海鮮料理の店。そこの<海鮮盛り合わせ>が安くて、ボリュームがあって、上手い。そればかり食べている」

 

 王都では珍しい海鮮料理の店。王都は海に接していない。それなのに何種類もの海の幸のメニューがある。特別な仕入れルートがあるのだと店員に聞いた。もちろん、詳細は企業秘密。
 自分はずっと洞窟育ち。洞窟を出た後も海鮮料理なんて食べる機会はなかった。王都でこの店を見つけた時は涙が出そうになった。頻繁に敷地の外に出ることは許されていないので、外に出られる時は必ず行く店だ。

 

「……そうか……お前か?」

 

「えっ、何が?」

 

「お前がリンリンちゃんの心を奪ったのだな!?」

 

「誰だよ、リンリンって?」

 

 パンダか。この世界にもパンダがいるのか。

 

「<竜神亭>の看板娘のリンリンちゃんだ! 何度デートに誘っても断られ、勇気を振り絞って、他に好きな男がいるのかと聞いたら」

 

「いや、違うから。俺、そのリンリンちゃん、知らないから」

 

 店員の女の子は知っている。でも名前を聞いたことがない。そんなに親しくしているつもりもない。確かに可愛い子かもしれないけど、クリスティーナに比べると。
 これだ。クリスティーナを毎日見ているから、いつの間にか女の子の基準が、とんでもなく贅沢になっているのかもしれない。なんといっても、王子様の婚約者に選ばれるくらいの美少女だからな。

 

「……スペシャルメニューを超おまけして食べさせてもらっているくせに、知らないとは何だ!?」

 

「えっと……すみません。知りませんでした」

 

 どうやら「海鮮盛り合わせ」が安くてボリュームがあるのは、おまけしてもらっていたからのようだ。知らなかった。

 

「これだからモテる奴は。お前とは友達だと思っていたけど、これっきりだな」

 

「い、いや、ちょっと待て。それはないだろ?」

 

 女の子にモテて、友達に文句を言われる。こんなことは、元の世界を通じて、生まれて初めてだ。ただモテている実感がまったくない。それでここまで言われるのは、なんだか納得いかない。

 

「じゃあ、お前が誘え」

 

「はっ?」

 

「お前がリンリンちゃんを新年祝賀会に誘う。彼女は当然、喜んで来る。そして会場では俺が彼女のエスコートをする」

 

「それ、騙すことにならないか? 絶対に嫌われると思う。俺もお前も」

 

 そうなると「海鮮盛り合わせ」を食べられなくなるかもしれない。それは困る。

 

「……確かに。ああ、じゃあ、こうしよう。俺がなんとか彼女を誘う。そして当日、お前はクリスティーナ様と一緒に会場に現れる」

 

「どうしてそうなる?」

 

「いや、彼女はお前のことを諦めるかなって……」

 

 なるほど。こいつから見ても、クリスティーナは好きな女の子よりも可愛いのか。それはそうとして、姑息だ。こいつはどこまでも姑息だ。女性の口説き方なんて知らない。でも好きな女性には、もっと誠意をもって接するべきだ。これくらいは自分でも分かる。
 恋愛なんて自分には関係ない。でも、こういう話をしているのは楽しいかもしれない。こういう時は、転生も悪くないと思える。

www.tsukinolibraly.com