
パトリオットの騎士候補が一人増えた。正しくは騎士候補見習い。卒業後に騎士になる保証はない。本気でパトリオットの騎士候補見習いをやる気があるのか、まだ疑っている状況なので、今はそれはどうでも良い。
出来れば、疑いは晴れて欲しい。マイルズが加わって、ランクBは二人になった。コルテス君がランクCで自分がランクD。コルテス君と自分の二人が、伸びしろのない自分はどうかと思っているけど、頑張ってランクを上げられれば。ランクBが三人でランクCが一人。弱いチームとは言えなくなる。トップチームには敵わないまでも、良いところまでは行ける可能性が出てきたのだ。
あと一人、理想はランクAの学生だけど、それは無理として、せめてランクBのメンバーが欲しい。それかクリスティーナに頑張ってもらう。総合力はランクAなのだ。剣術の才能も与えられているかもしれない。
ランクBが四人で、ランクCが一人。こんな編成になれば「優勝を目指す」と公言しても、笑う人はいなくなるだろう。あくまでも実現出来ればの話だ。
「……どうしたら、その動きが出来るのだ?」
「どうしてと言われても……出来るから?」
マイルズは自分の動きが、やはり気になるようだ。彼にとっては敗因。なんとかしたいと思うのは当然だろう。ただ「どうして?」と聞かれても困る。スキルがあるからが答えで、それを得たのもハイハイ出来るようになった時のこと。実際はスキルを使っている意識はほとんどないのだ。
「カイトの真似をしようと考えるのは意味がない。どう対応するかを考えるべきだ」
「対応ですか……下手に自分から動くべきではない?」
「そうだな。自分も動いている状態では、目で追いきれない。だったら止まっていたほうが良いかもしれない」
王子様は自分が何をしているか分かっているのだろうか。スパイの可能性がある、いつまた寝返るか分からない相手に、自分の攻略法を教えているのですけど。止めて欲しい。
「……どれほど変則的な動きをしようと、最後は近づいてくるわけですから……」
攻略法を考え始めた。だから剣での戦いは難しい。魔法が使えるなら、敵の死角に入った瞬間に攻撃出来る。そうやって自分はこれまで戦ってきた。戦ってこられたのだ。だが剣術対抗戦となるとこの自分の戦い方は使えない。
「……恐れながら殿下。もう一度、カイトとの戦い方を拝見させてもらえますか?」
「鍛錬の場で堅苦しい言葉遣いはいらない。かまわない。カイト、やろう」
「ええ……」
自分の了承を得ることなく、勝手に決めないで欲しい。王子様にはほぼ完璧に対応されている。それをマイルズに何度も見られることには抵抗を覚える。
「私に苦戦しているようでは優勝なんてできない」
「それは言い過ぎ」
「言い過ぎではない。剣に限定しての戦いとなると、アントンは私の上を行く。十やって、取れるのは二か三だな」
「……嘘でしょ?」
勇者よりも強い奴がいるなんて聞いていない。そんな相手に勝てるはずがない。何かの間違いであって欲しい。
「嘘ではない。事実だ。言っておくが全力でやれば、負けるつもりはないからな」
レベルは違うけど、自分と同じ。剣だけという制限が大きいようだ。単純に魔法では上ということだろうか。アントンの加護は何なのか。コルテス君に聞いたら分かるだろうか。
「……まずは何かで上回ること……それから、か……」
得意を伸ばすこと。とりあえず、これから始めるしかない。本番まで、まだ二年ある。伸びしろが残っていれば、強くなれる。少なくともスキルは伸ばせる。「これ以上、成長しない」と師匠にはっきりと言われた自分でも、スキルは伸びているのだ。
ただそれだけでは勝てないだろう。そんなに甘くないと考えるべきだ。勇者を超える剣士を負かそうというのだから。
「カイト、やるぞ」
スキル<立体跳躍>は鍛錬の場では封印だ。元のスキルで出来た範囲の動きにとどめる。何であれ、手の内を明かすのは避けるべきだ。方向転換時に速度を落とさないで動く。でも、これだけでは王子様には通用しない。
先手を取ったつもりでも反応される。剣の速さが自分を上回る。最低でも、これをなんとかしなければならない。
「……凄い」
マイルズの呟きが耳に入る。その通り、王子様は凄い。だが剣だけであればアントンはこの上を行くのだ。体の動きだけでなく、剣を振るう速さで王子様を上回る。そんなこと自分に出来るのか。
どうすればもっと速く剣を振れるようになれるのか。鍛え方が足りなかった。これまで魔法に頼りきりだったせいだ。でも、魔法に頼らなければ自分は生きていない。最大の武器を温存して生き残れるほど、悪魔との戦いは緩くなかった。
「くっ……」
むきになっても剣は速くならない、逆に遅くなるだけだ。王子様は軽々と剣を振るっている。見た目にはそう見える。力を込めるのは違う。これは師匠にも教わっている。
むきに。自分は何をむきになっているのだろうか。アントンに勝ちたいから。これはパトリオットの望みだ。自分はそんなもの求めてはいない。求めてはいないはずだ。
「よし。もう一本」
「ええ……」
だから自分は熱血なんて求めていないと言っている。口に出してはいないけど。
何かに熱くなることなんてなかった。いつからだろう。心が冷めたのは。母親に捨てられてから。これは違う。自分を捨てた母親のことは恨んだ。恨めた。悪い方向であっても心に熱があった。
では父親からDVを受けるようになってからか。これはそうかもしれない。これがきっかけで生きることを諦めたような気がする。でも、死ぬことまで諦めてはいなかった。死ぬことが怖くもあった。
「まったく……」
王子様は自分とは違う。熱くなれる人だ。
新たな人生を生きることになっても、まだ自分のことが分からない。仲間を求めたこともある。似た境遇の仲間。皆、そこいると心地良いと言っていた。それを聞いて、自分は違うと思った。この世界には自分が生きる場所はないのではないかと思った。
大げさだ。今はそう思う。居場所なんてなくても人は生きられる。呼吸をし、水分と栄養を採り、眠れれば、それで人は生きられる。孤独が辛いのは求めるからだ。求めなければ得られない苦しみを味わうことはない。求めなければ失った悲しみを感じることはない。
「……カイト……どうした?」
「あっ。すみません。考えすぎて、体が止まってしまいました」
「考えすぎてって……君はそういうタイプではないだろ? 本能で戦うほうだ」
戦闘では自分はそうかもしれない。でも、生きることを考えすぎても足は止まる。前に進むことが出来なくなる。力強く手を引っ張って、前に進んでくれる人に出会えなければ。
自分は、彼女を求めているのだろうか。どうして彼女はこの世界にいないのだろうか。もし彼女がいてくれたら、自分はやり直せるのに。やり直そうと思えるのに。その為に生きるという目的を持てたかもしれないのに。
でも、彼女はいない。