月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第51話 生きる目的

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 パトリオットの騎士候補が一人増えた。正しくは騎士候補見習い。卒業後に騎士になる保証はない。本気でパトリオットの騎士候補見習いをやる気があるのか、まだ疑っている状況なので、今はそれはどうでも良い。
 出来れば、疑いは晴れて欲しい。マイルズが加わって、ランクBは二人になった。コルテス君がランクCで自分がランクD。コルテス君と自分の二人が、伸びしろのない自分はどうかと思っているけど、頑張ってランクを上げられれば。ランクBが三人でランクCが一人。弱いチームとは言えなくなる。トップチームには敵わないまでも、良いところまでは行ける可能性が出てきたのだ。
 あと一人、理想はランクAの学生だけど、それは無理として、せめてランクBのメンバーが欲しい。それかクリスティーナに頑張ってもらう。総合力はランクAなのだ。剣術の才能も与えられているかもしれない。
 ランクBが四人で、ランクCが一人。こんな編成になれば「優勝を目指す」と公言しても、笑う人はいなくなるだろう。あくまでも実現出来ればの話だ。

 

「……どうしたら、その動きが出来るのだ?」

 

「どうしてと言われても……出来るから?」

 

 マイルズは自分の動きが、やはり気になるようだ。彼にとっては敗因。なんとかしたいと思うのは当然だろう。ただ「どうして?」と聞かれても困る。スキルがあるからが答えで、それを得たのもハイハイ出来るようになった時のこと。実際はスキルを使っている意識はほとんどないのだ。

 

「カイトの真似をしようと考えるのは意味がない。どう対応するかを考えるべきだ」

 

「対応ですか……下手に自分から動くべきではない?」

 

「そうだな。自分も動いている状態では、目で追いきれない。だったら止まっていたほうが良いかもしれない」

 

 王子様は自分が何をしているか分かっているのだろうか。スパイの可能性がある、いつまた寝返るか分からない相手に、自分の攻略法を教えているのですけど。止めて欲しい。

 

「……どれほど変則的な動きをしようと、最後は近づいてくるわけですから……」

 

 攻略法を考え始めた。だから剣での戦いは難しい。魔法が使えるなら、敵の死角に入った瞬間に攻撃出来る。そうやって自分はこれまで戦ってきた。戦ってこられたのだ。だが剣術対抗戦となるとこの自分の戦い方は使えない。

 

「……恐れながら殿下。もう一度、カイトとの戦い方を拝見させてもらえますか?」

 

「鍛錬の場で堅苦しい言葉遣いはいらない。かまわない。カイト、やろう」

 

「ええ……」

 

 自分の了承を得ることなく、勝手に決めないで欲しい。王子様にはほぼ完璧に対応されている。それをマイルズに何度も見られることには抵抗を覚える。

 

「私に苦戦しているようでは優勝なんてできない」

 

「それは言い過ぎ」

 

「言い過ぎではない。剣に限定しての戦いとなると、アントンは私の上を行く。十やって、取れるのは二か三だな」

 

「……嘘でしょ?」

 

 勇者よりも強い奴がいるなんて聞いていない。そんな相手に勝てるはずがない。何かの間違いであって欲しい。

 

「嘘ではない。事実だ。言っておくが全力でやれば、負けるつもりはないからな」

 

 レベルは違うけど、自分と同じ。剣だけという制限が大きいようだ。単純に魔法では上ということだろうか。アントンの加護は何なのか。コルテス君に聞いたら分かるだろうか。

 

「……まずは何かで上回ること……それから、か……」

 

 得意を伸ばすこと。とりあえず、これから始めるしかない。本番まで、まだ二年ある。伸びしろが残っていれば、強くなれる。少なくともスキルは伸ばせる。「これ以上、成長しない」と師匠にはっきりと言われた自分でも、スキルは伸びているのだ。
 ただそれだけでは勝てないだろう。そんなに甘くないと考えるべきだ。勇者を超える剣士を負かそうというのだから。

 

「カイト、やるぞ」

 

 スキル<立体跳躍>は鍛錬の場では封印だ。元のスキルで出来た範囲の動きにとどめる。何であれ、手の内を明かすのは避けるべきだ。方向転換時に速度を落とさないで動く。でも、これだけでは王子様には通用しない。
 先手を取ったつもりでも反応される。剣の速さが自分を上回る。最低でも、これをなんとかしなければならない。

 

「……凄い」

 

 マイルズの呟きが耳に入る。その通り、王子様は凄い。だが剣だけであればアントンはこの上を行くのだ。体の動きだけでなく、剣を振るう速さで王子様を上回る。そんなこと自分に出来るのか。
 どうすればもっと速く剣を振れるようになれるのか。鍛え方が足りなかった。これまで魔法に頼りきりだったせいだ。でも、魔法に頼らなければ自分は生きていない。最大の武器を温存して生き残れるほど、悪魔との戦いは緩くなかった。

 

「くっ……」

 

 むきになっても剣は速くならない、逆に遅くなるだけだ。王子様は軽々と剣を振るっている。見た目にはそう見える。力を込めるのは違う。これは師匠にも教わっている。
 むきに。自分は何をむきになっているのだろうか。アントンに勝ちたいから。これはパトリオットの望みだ。自分はそんなもの求めてはいない。求めてはいないはずだ。

 

「よし。もう一本」

 

「ええ……」

 

 だから自分は熱血なんて求めていないと言っている。口に出してはいないけど。
 何かに熱くなることなんてなかった。いつからだろう。心が冷めたのは。母親に捨てられてから。これは違う。自分を捨てた母親のことは恨んだ。恨めた。悪い方向であっても心に熱があった。
 では父親からDVを受けるようになってからか。これはそうかもしれない。これがきっかけで生きることを諦めたような気がする。でも、死ぬことまで諦めてはいなかった。死ぬことが怖くもあった。

 

「まったく……」

 

 王子様は自分とは違う。熱くなれる人だ。
 新たな人生を生きることになっても、まだ自分のことが分からない。仲間を求めたこともある。似た境遇の仲間。皆、そこいると心地良いと言っていた。それを聞いて、自分は違うと思った。この世界には自分が生きる場所はないのではないかと思った。
 大げさだ。今はそう思う。居場所なんてなくても人は生きられる。呼吸をし、水分と栄養を採り、眠れれば、それで人は生きられる。孤独が辛いのは求めるからだ。求めなければ得られない苦しみを味わうことはない。求めなければ失った悲しみを感じることはない。

 

「……カイト……どうした?」

 

「あっ。すみません。考えすぎて、体が止まってしまいました」

 

「考えすぎてって……君はそういうタイプではないだろ? 本能で戦うほうだ」

 

 戦闘では自分はそうかもしれない。でも、生きることを考えすぎても足は止まる。前に進むことが出来なくなる。力強く手を引っ張って、前に進んでくれる人に出会えなければ。
 自分は、彼女を求めているのだろうか。どうして彼女はこの世界にいないのだろうか。もし彼女がいてくれたら、自分はやり直せるのに。やり直そうと思えるのに。その為に生きるという目的を持てたかもしれないのに。
 でも、彼女はいない。

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