ファンタジー小説-竜血の玉座
一度は焼き払われた木々も少しづつ、かつての姿を取り戻そうとしている。まだ若い木々ばかりで、完全に陽の光を遮るほどには生い茂っていないが、森に出来た影の中には、今も危険なアンデッドモンスターが潜んでいる。腐死者の森の危険度はすでにかつてと同…
ソルを斬り捨てようと剣を振りかぶったアルノルトの前に飛び出してきたのはルナ。ソルを背に、両腕、両足を広げて、アルノルトの剣から守ろうとしている。父であるアルノルトを睨みつけているルナ。その彼女に向けるアルノルトの視線も厳しいものだ。 「どう…
死屍累々。多くの屍が地面に倒れている中、ソルは一人立っている。竜王軍の中隊はほぼ全滅。逃げる間も与えられなかった。仮にソルに背を向けて逃げ出していたとしても、味方に殺されるだけであることが分かっているからでもある。アルノルトの命令を受けて…
味方と別れて、たった一人で竜王軍の陣に向かうソル。背負っているのは、遠くからでは分からないが、幾本もの剣。全ての剣が竜殺し、ドラゴンスレイヤーなど呼び方は様々だが、腐死者の森の墓地から持ち出してきた、名剣とされる剣だ。 ソルの行動に反応して…
その時を間近に控え、ツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイは慌しさを増している。ソルの下には各地から情報が届いている。当初は治安の悪化と物資不足を訴える陳情書ばかりだったが、ある時期からそれとは異なる情報も混じってきた。公国領内を軍…
軍人として動乱に関わっている人たち以外の多くの民衆はまだ気が付いていないが、戦場が一か所にまとまろうとしている。ツヴァイセンファルケ公国に竜王軍、そして連合軍も向かっているのだ。連合軍のほうは、まだツヴァイセンファルケ公国で何が起きている…
ツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイの城の一室。公国主の執務室であった部屋の机にソルは座っている。自ら望んでそうしているわけではない。ツヴァイセンファルケ公国残留軍の指揮官であったホークウェルに呼ばれて、この部屋にやって来たのだ。 …
ソルはツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイまで、あと一日の距離までやってきた。予定よりも早い進軍。ある時期を境に、ツヴァイセンファルケ公国軍の抵抗が弱まった結果だ。 公都の守りに戦力を集中させる為など理由は考えたが、それはソルにとっ…
一騎当千。戦場での竜王アルノルトの活躍は、その表現では物足りない凄まじさだ。圧倒的なアルノルトの力を前にして、オスティゲル公国は戦術の見直しを行った。アルノルトを倒せば戦いは終わり。この考えは変わっていないが、まずは竜王軍全体の戦力を削る…
空には満月が浮かんでいる。のんびりと眺めている場合ではないのだが、ソルは空に浮かぶ月から目を離すことが出来ないでいた。やるべきことは分かっている。監禁されているというルナを助けに行く。だが決めているのはそれだけだ。どうやって助けるのか。無…
クリスティアン率いる竜王軍にツェンタルヒルシュ公国への補給線を断たれた状況で、ルシェルもただ手をこまねいているだけでは終わらなかった。補給線を回復する為に、領地に残っていたノルデンヴォルフ公国軍を率いて、出撃した。数は五千。補給を妨害する…
ツェンタルヒルシュ公国にいる連合軍は、その矛先を、公都を囲むようにして陣取っている竜王軍に向けることになった。多くても千五百ほどの軍勢。誘いである可能性はあっても、上手くいけば各個撃破出来る。クリスティアン率いる竜王軍の増援が領内に侵攻し…
竜王アルノルト自らが率いる竜王軍に、領境の防衛線を突破されたオスティゲル公国は戦術転換を図ることになった。防衛線をいくつも重ねた縦深陣で敵を削るのではなく、決戦と言うべき戦力を一度に投入することにしたのだ。 一か八かの賭け、ということではな…
クリスティアン率いる竜王軍との戦いで、多くの被害を出しながらも、なんとか撤退に成功した連合軍。当初は領境を超えたところで滞陣し、ツェンタルヒルシュ公国の公都ヴィルデルフルスにいるディートハルトの指示を仰ぐ予定だったのだが、進軍を止めること…
ツェンタルヒルシュ公国領内への進軍を開始したノルデンヴォルフ公国とナーゲリング王国の連合軍一万。その戦いは、想定外の地点で始まることになった。クリスティアン率いる竜王軍がツェンタルヒルシュ公国領内に入ったばかりのところで、襲い掛かってきた…
オスティンゲル公ヴィクトールは竜王軍を自公国領に引き入れての戦いを選んだ。アルノルトが生きていることを知らなかった当時、前オスティンゲル公の戦略は他国へ攻め込むことを前提としたものだったのだが、アルノルト率いる竜王軍の戦力を把握しきれてい…
ルッツ率いる旧ナーゲリング王国軍はノルデンヴォルフ公国の南にある軍事拠点を本陣とした。再編されたノルデンヴォルフ公国軍の内、およそ半数の五千、そしてそれを率いるルシェルもその拠点に入っている。最前線に出ることは叶わなくても、出来るだけそれ…
ぱっと見、辺りを見渡しても、長閑と言える風景が広がっているだけ。丘陵地の先にある山の木々は色付き始めており、秋の気配を感じさせる。一時、竜王軍とツェンタルヒルシュ公国軍が激しい戦いを繰り広げていることを忘れさせてくれるような景色だ。 だがそ…
混沌とした状態が方向性を持って、動き出そうとしている。どちらの動きがそうさせたというわけではない。それぞれが判断を下し、それが方向性を決定付けた。機は熟した、という言葉が表現として正しいのかもしれない。誰にとって、という部分が抜けた状態で…
生い茂っていた草を綺麗に除去し、木々を間引きして、居住空間を作る。城か砦の残骸である石材と、間引きした木を加工した木材で家を建てていく。まずは雨露をしのぐことが出来るだけの簡素なもので十分。衣食住のうち、住の充実は後回しだ。 火を使う場所に…
ソルが住民たちと共に隠れて暮らす場所として選んだのは、ツェンタルヒルシュ公国の北東部にある山中。山と山の間を流れる川を超えてしまえば、そこはもうノルデンヴォルフ公国。正式には川向こうの山とその先まで緩衝地域という位置づけで、元はだが、ナー…
街を襲った軍勢はおよそ五百。それを把握した時、ソルは敵が油断してくれていたことを喜んだ。個の能力はかなり高いソルたちだが、数に抗うには限界がある。自身を過小評価しがちなソルは、仲間たち以上にそう思う。 ただ、ソルは少し他の人たちよりもネガテ…
ソルたちがその晩の宿泊地として選んだのはツェンタルヒルシュ公国北部にある街。戦場となっていたノルデンヴォルフ公国とオスティンゲル公国の領境近くから、ツェンタルヒルシュ公国に真っすぐに移動してくると最初に辿り着く街だ。ただソルは、街道から外…
ノルデンヴォルフ公国とオスティンゲル公国の停戦および対竜王軍事同盟は成った、といっても具体的なことは。これから。多くのことを話し合い、取り決めて行かなければならない。 まずは停戦条件。優先すべきは竜王との戦い、それに勝利する為の方策を考える…
ディートハルト率いる旧ナーゲリング王国軍の戦場は、ツヴァイセンファルケ公国領内。そう想定して動いている竜王軍だが、中々、旧王国軍を捕捉出来ないでいる。ディートハルトの側にツヴァイセンファルケ公国領内で積極的に戦うつもりはない。わざわざ敵地…
王都、今はなんという王国の王都なのか分からないが、とにかく王都周辺、大陸南部の中央から南部にかけての地域では、今も戦いが続いている。竜王アルノルトによる支配を受け入れない人たちが立ち上がった、わけではない。戦わざるを得ない状況にアルノルト…
バルドルの先導でソルたちが向かったのはノルデンヴォルフ公国の砦。領境を守る軍事拠点にしては規模も小さく、堅牢とも言い難い砦だ。フルモアザ王国は、反乱を警戒して、公国が領境の防御を固めることを許していなかった。元は何もなかった場所なのだ。 フ…
先行していたルシェル王女と近衛特務兵団第一隊に合流したソルと第二隊のメンバー。一行は予定通り、北に向かっている。ルシェル王女に合流したのはソルたち第二隊だけではない。ルッツ率いる、激戦で元の八千から五千まで数を減らした王国軍も一緒だ。 王国…
竜王アルノルト復活の噂は、王都を中心にして、徐々に周辺地域に広がっていた。だがその速さは、衝撃的なその内容からすれば、かなり遅い。人々の行動が制限されていることが、その理由のひとつだ。 アルノルトによってユーリウス王が殺され、ナーゲリング王…
ツェンタルヒルシュ公国での戦いは佳境を迎えている。クレーメンス率いるツェンタルヒルシュ公国軍とルッツ率いる王国軍の連合は、ツヴァイセンファルケ公国主力軍相手に敗走を続け、いよいよ公都ヴィルデルフルス近くの、最後の防衛線とされる川岸まで追い…