ファンタジー小説-災厄の神の落し子
魔獣オリオンと一週間の時を過ごして帰宅したリルたち。戻ってすぐにリルは登城することになった。ルイミラ第三妃からのお召しを受けてのことだ。呼び出されたのはリルだけ。ローレルは一緒ではない。それに疑問を抱いていても登城しないわけにはいかない。…
エセリアル子爵屋敷に戻って半月。リルはまた帝都を離れることになった。正しくは帝都外壁の内側なので広義の帝都内ではある。怪我が完治したといえる状態ではないリルが帝都を離れたのは治療の為。怪我の治療に良いといわれる温泉に向かったのだ。治療が必…
発見されたリルは、その場で応急処置を受けた上でエセリアル子爵屋敷に運ばれた。イザール侯爵家ではないのはリルの希望だ。特別な意味はない。リルが普段暮らしているのはエセリアル子爵屋敷。家に帰るとなれば、それはエセリアル子爵屋敷になるだけのこと…
何故こんなことになったのか。遥か上にわずかに見える光を見上げながらリルは考えている。帝国騎士団に同行しての課外授業の途中のことだった。希望者だけが参加する課外授業だったが、リルは悩むことなく参加を決めた。実戦経験を、それが魔獣相手のもので…
ワイズマン帝国騎士団長は忙しい。今に始まったことではないのだが、これまでとは少し変化がある。帝国騎士養成学校の運営に関わる打合せの時間が、以前よりも、増えたのだ。今年度から授業内容を変更した影響だ。毎年、決まった内容をこなしていく前年度ま…
本日、帝国騎士養成学校では課外授業が行われている。二、三年生が参加する課外授業だ。昨年度まではなかったもので「基礎を固めるだけでなく、より実戦的な内容も」という方針変更の結果、行われることになったのだ。 それでも、本格的な戦闘訓練を半年も経…
イザール侯がエセリアル子爵屋敷を訪れた。彼なりに 長男アイビスの事件について整理をつけたつもりで、その結果を話しに来たのだ。ローレルではなく、リルに。 イザール候はリルに息子であるローレルに伝えている以上のことを話している。リルが先に事態を…
イザール侯爵家のアイビスが、成人式の最中に亡くなった事件の影響は、意外なところにも波及した。トゥレイス第二皇子の嘘がバレるきっかけになったのだ。嘘がばれることは想定内のこと。トゥレイス第二皇子は嘘がばれ、自分への無用な期待が消え、兄のフォ…
アイビスの死は帝国に衝撃を与えた。少なくとも、この百年間、成人式は形式的なものだった。成人式を終えた人たちも、式の前と後で何が変ったか分かる人はほとんどいない。変ったと思う人もなんとなくそう感じるだけという、周囲からはまったく認識出来ない…
帝国騎士養成学校の昼休み。クラスの仲間たちと授業の話や養成学校とは全然関係ない雑談で過ごす時間だったのだが、それが変わってしまった。まさかの事態によって。 トゥレイス第二皇子が同じテーブルに座ってきたのだ。ローレルはまだしも、他の二年ガンマ…
帝国騎士養成学校が騒がしい。その原因はトゥレイス第二皇子。前日の模擬戦で人々を驚かせたトゥレイス第二皇子が、今日も養成学校を訪れているのだ。しかも昼休みの食堂に。 食堂にいた騎士候補生たちは突然現れたトゥレイス第二皇子に驚いた。驚くだけでな…
本日の授業は全学年合同となった。といっても騎士候補生たちはただ見ているだけ。帝国騎士団の模擬戦を見学するという授業だ。 これには騎士候補生の多くが戸惑いを覚えている。この授業は前から決まっていたものではない。前日になって急に伝えられたのだ。…
帝国騎士養成学校の授業は日々、帝国騎士団との合同訓練のようになった。と言っても、まったく同じ訓練を行っているわけではない。帝国騎士団の団員たちは、従士を除けば、基本、教える側。一人の教師役が教える騎士候補生の数を大きく減らすことが目的だ。…
新学期の始まり。ローレルたちは二年生になった。といっても特別何かあるわけではない。騎士養成学校での訓練の日々が、二年目に突入したというだけのことだ。 新一年生が入学しても日常の交流などない。上級生ともそれは同じ。帝国騎士養成学校においては先…
イアールンヴィズ騎士団の訓練は以前よりも、リルやシュライクたち、ガラクシアス騎士団の若手が参加するようになってからよりも更に激しさを増している。プリムローズ救出作戦がその理由だ。 プリムローズの救出には成功したが、参加したイアールンヴィズ騎…
帝都第三層、商業地区の表通りにある酒場でベンティスカは元コープス騎士団の仲間と会っている。イアールンヴィズ騎士団に勧誘する為だ。相手はグラトニー団長に指定された通り、二人。ベンティスカとしてはもう少し人数を増やしたところだが、団長の指示を…
イアールンヴィズ騎士団の拠点をリルたちは訪れている。団長のグラトニーに、至急ということで呼び出されたのだ。そのような呼び出しは初めてのこと。何事が起きたのかと思い、慌ててやってきたリルたちだったが、状況は想定外のものだった。いるはずのない…
帝国騎士団の週例会議。一週間に起きた出来事や次の一週間に予定されているイベントなどを報告する場だ。数か月前に比べると会議時間はかなり長くなっている。以前は訓練に関するものくらいだった帝国騎士団本隊の報告だが、実戦経験を積ませることを考えて…
部屋の中を激しい風が吹き荒れている。その中心にいるのはプリムローズ。猿轡も体を椅子に縛り付けていたロープも、その風によって切り裂き、自由の身となったプリムローズだ。立ち上がった彼女の髪が風に靡いて、ふんわりと浮かんでいる。周囲の風の勢いと…
コープス騎士団の拠点は帝都第三層にある。その中でも帝都の暗部とも呼ばれる酒場や売春宿が立ち並ぶ繁華街の深部だ。元々は多くの騎士団がそうであるように第五層に拠点を構えていたコープス騎士団だが、最近、その場所に拠点を移動したのだ。それは本格的…
油断。今の状況に陥った原因は何かと問われれば、この言葉が思い浮かぶだろう。護衛任務についてから十か月が経過している。その間、危険を感じることはなかった。屋敷の外を見張っている仲間たちが怪しい動きを見つけることもなかった。 平日の昼間はプリム…
帝国騎士養成学校で関係者以外が観戦できるイベントは年に二回ある。ひとつは秋の体育祭。今年はすでに終わっている。残る一つは三年生の卒業イベント。帝国騎士団との模擬演習だ。 三年生全員、およそ百五十名と帝国騎士団の同数が正面から戦う模擬演習。実…
本来、騎士養成学校は帝国騎士団の騎士候補、従士を養成する為に設立された。だが今の騎士養成学校は私設騎士団の為に存在すると言っても過言ではない。シュライクのように高度な騎士教育を受ける為に騎士養成学校に入学する者もいれば、より良い条件で私設…
騎士養成学校の授業が終わった放課後。いつもであれば急ぎ、居候させてもらっているエセリアル子爵屋敷に帰るローレルなのだが、今日はリルを先に帰らせて残ることになった。帰宅を許さない人たちがいたからだ。トゥインクル、グラキエス、ディルビオの三人…
帝国の重臣会議。定期的に行われている会議だが話し合うことは沢山ある。問題は山積みなのだ。だがどれだけ話し合いを重ねても、ほとんどの事柄は結論が出ないままに次回に持ち越しとなってしまう。問題は認識している。だがこれがベストだという解決策がな…
アークトゥルス帝国に国教はない。宗教団体が存在していないわけではない。だが、いくつかある宗教団体のどれもが帝国政治に影響を与えるほどの勢力を持っていないのだ。帝国も特定の宗教団体に肩入れする理由がない、というか出来ない。 帝国統治下となった…
トゥレイス第二皇子の周囲が騒がしい。そう思っているのはトゥレイス第二皇子本人くらいで、実際の動きは、まだ小さなものだ。だが、これまで立場的に大きな期待を向けられていなかった身としては、手のひら返しに思えるような周囲の反応が煩わしく思えてし…
ローレルとプリムローズが出て行ったあとのイザール侯爵家。厄介者扱いされていた二人がいなくなったことで、イザール侯爵家内の雰囲気もかなり穏やかなもの、にはなっていない。蔑みや虐めの対象、怒りの向け先がいなくなっても、結局はまた別の不満が生ま…
トゥレイス第二皇子の評価があがっている。理由は体育祭でのルイミラ第三妃とのやり取り。トゥレイス第二皇子はルイミラに対し、臆することなく意見を述べた。皇子の実の母であればまだしも、第三妃に臆することがなかったことなど特別でもなんでもないはず…
一年生の目の色が変った。体育祭の後に一年生に変化が生まれるのは毎年のこと。だが今年は例年とは変化の仕方が違っている。いつもは自分たちの力不足を痛感し、自信を失い、落ち込み、そこから徐々に立ち直り、授業にそれまで以上に身が入るようになる。こ…