月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

ファンタジー小説-災厄の神の落し子

災厄の神の落し子 第68話 秘密

部屋の中を激しい風が吹き荒れている。その中心にいるのはプリムローズ。猿轡も体を椅子に縛り付けていたロープも、その風によって切り裂き、自由の身となったプリムローズだ。立ち上がった彼女の髪が風に靡いて、ふんわりと浮かんでいる。周囲の風の勢いと…

災厄の神の落し子 第67話 宿る力

コープス騎士団の拠点は帝都第三層にある。その中でも帝都の暗部とも呼ばれる酒場や売春宿が立ち並ぶ繁華街の深部だ。元々は多くの騎士団がそうであるように第五層に拠点を構えていたコープス騎士団だが、最近、その場所に拠点を移動したのだ。それは本格的…

災厄の神の落し子 第66話 失態

油断。今の状況に陥った原因は何かと問われれば、この言葉が思い浮かぶだろう。護衛任務についてから十か月が経過している。その間、危険を感じることはなかった。屋敷の外を見張っている仲間たちが怪しい動きを見つけることもなかった。 平日の昼間はプリム…

災厄の神の落し子 第65話 必然の再会

帝国騎士養成学校で関係者以外が観戦できるイベントは年に二回ある。ひとつは秋の体育祭。今年はすでに終わっている。残る一つは三年生の卒業イベント。帝国騎士団との模擬演習だ。 三年生全員、およそ百五十名と帝国騎士団の同数が正面から戦う模擬演習。実…

災厄の神の落し子 第64話 迷い

本来、騎士養成学校は帝国騎士団の騎士候補、従士を養成する為に設立された。だが今の騎士養成学校は私設騎士団の為に存在すると言っても過言ではない。シュライクのように高度な騎士教育を受ける為に騎士養成学校に入学する者もいれば、より良い条件で私設…

災厄の神の落し子 第63話 当事者が知らない事実

騎士養成学校の授業が終わった放課後。いつもであれば急ぎ、居候させてもらっているエセリアル子爵屋敷に帰るローレルなのだが、今日はリルを先に帰らせて残ることになった。帰宅を許さない人たちがいたからだ。トゥインクル、グラキエス、ディルビオの三人…

災厄の神の落し子 第62話 気まぐれに翻弄される人々

帝国の重臣会議。定期的に行われている会議だが話し合うことは沢山ある。問題は山積みなのだ。だがどれだけ話し合いを重ねても、ほとんどの事柄は結論が出ないままに次回に持ち越しとなってしまう。問題は認識している。だがこれがベストだという解決策がな…

災厄の神の落し子 第61話 お忍び、その二

アークトゥルス帝国に国教はない。宗教団体が存在していないわけではない。だが、いくつかある宗教団体のどれもが帝国政治に影響を与えるほどの勢力を持っていないのだ。帝国も特定の宗教団体に肩入れする理由がない、というか出来ない。 帝国統治下となった…

災厄の神の落し子 第60話 乱世を生きる資格

トゥレイス第二皇子の周囲が騒がしい。そう思っているのはトゥレイス第二皇子本人くらいで、実際の動きは、まだ小さなものだ。だが、これまで立場的に大きな期待を向けられていなかった身としては、手のひら返しに思えるような周囲の反応が煩わしく思えてし…

災厄の神の落し子 第59話 行き着く先

ローレルとプリムローズが出て行ったあとのイザール侯爵家。厄介者扱いされていた二人がいなくなったことで、イザール侯爵家内の雰囲気もかなり穏やかなもの、にはなっていない。蔑みや虐めの対象、怒りの向け先がいなくなっても、結局はまた別の不満が生ま…

災厄の神の落し子 第58話 思わぬ反響

トゥレイス第二皇子の評価があがっている。理由は体育祭でのルイミラ第三妃とのやり取り。トゥレイス第二皇子はルイミラに対し、臆することなく意見を述べた。皇子の実の母であればまだしも、第三妃に臆することがなかったことなど特別でもなんでもないはず…

災厄の神の落し子 第57話 息抜きの時間

一年生の目の色が変った。体育祭の後に一年生に変化が生まれるのは毎年のこと。だが今年は例年とは変化の仕方が違っている。いつもは自分たちの力不足を痛感し、自信を失い、落ち込み、そこから徐々に立ち直り、授業にそれまで以上に身が入るようになる。こ…

災厄の神の落し子 第56話 祭りの後、も盛り上がっています

エセリアル子爵屋敷に一年ガンマ組の騎士候補生たちが集まっている。体育祭前のように訓練を行う為ではない。ローレルが主催、といってもエセリアル子爵家にお世話になりっぱなしだが、の体育祭の打ち上げだ。 体育祭の結果については皆、満足していない。騎…

災厄の神の落し子 第55話 番狂わせ

帝国騎士養成学校の体育祭もいよいよ終盤。競技は最後の騎馬戦を残すのみとなった。一回戦の第一試合、第二試合は、これの前の棒倒しと同じで二年生クラスの順当勝ち。これから第三試合が始まろうというところで、会場にわずかではあるが、騒めきが起こって…

災厄の神の落し子 第54話 人生の選択

帝国騎士養成学校の体育祭も、あっという間に、中盤に差し掛かった。これまでの競技は徒競走がメインの個人戦。多くの人たちにとっては、ただ走っているのを見ているだけの退屈な時間だ。 その多くの人たちにはハティたちも含まれる。実際に文句を口にしてい…

災厄の神の落し子 第53話 ちゃんと観戦しましょう

開会式での挨拶を終えたワイズマン帝国騎士団長は、今回特別に皇帝の為に用意された観覧席に移動した。ここから先、ワイズマン帝国騎士団長の仕事は帝国騎士養成学校の最高運営責任者としてではなく、皇帝の護衛兼接待役ということになる。絶対に言葉には出…

災厄の神の落し子 第52話 開会式の最中

帝国騎士養成学校の秋の行事、体育祭の会場となったのは帝国騎士団の施設。帝都第五層にある演習場だ。一軍規模、万の軍勢が演習出来るほどの広大な演習場。そこに、この体育祭の為だけに、競技が見易い中央近くに観戦席を設けるなど、かなりの労力を費やし…

災厄の神の落し子 第51話 熱持つ人たちとそうでない人たち

帝国騎士養成学校の定員は、きっちりと定められているわけではないが、一クラス四十人ほどで一学年四クラス。一学年には百六十人くらいの騎士候補生がいる。ただ、そのうちの三割から五割は貴族家の子弟についてきた騎士や従士たち。既に何らかの騎士団に所…

災厄の神の落し子 第50話 夏休みを終えて

夏休みを終えた帝国騎士養成学校の騎士候補生たちにとって、次の大きなイベントは秋の体育祭。騎馬戦、棒倒しなどの競技をクラス対抗で行うイベントだ。「祭」という文字が使われている通り、卒業年度に行われるチーム対抗競技会に比べれば、遊びの要素が強…

災厄の神の落し子 第49話 お忍び

ローレルたちの今日の訓練はエセリアル子爵屋敷内で行われている。イザール侯爵家やエセリアル子爵家の人たちの手前、さすがに毎日イアールンヴィズ騎士団の拠点に入り浸っているわけにはいかない。イアールンヴィズ騎士団の通常訓練の邪魔、とは相手はまっ…

災厄の神の落し子 第48話 第二皇子

帝国騎士団の活動範囲は帝都周辺だけではない。当然だが、帝国領全土が帝国騎士団の活動範囲だ。常に何らかの活動を行っているわけではない。治安維持活動などは領地を治める貴族家の騎士団が、その役割を担っている。帝国騎士団は他国による侵攻や貴族家の…

災厄の神の落し子 第47話 合宿参加者は募集していない 

トゥインクルには六歳離れた姉がいる。幼い頃、姉は彼女にとって憧れの存在だった。妹想いで面倒見の良い姉という性格面はもちろん、彼女の美しいと評される外見も。さらに勉強もダンスも上手。そしてなにより、自家の騎士団の男性たちに優るとも劣らない彼…

災厄の神の落し子 第46話 合同合宿継続中

帝都でいかにも帝国の中心都市と思える賑わいがあるのは、内壁の内側まで。内壁の外から外壁の間は、公式には帝都となっているが、山あり谷あり、森もあり、深い川も流れていたりと、都市とは呼べない風景が広がっている。かろうじてアネモイ四家の城がある…

災厄の神の落し子 第45話 夏季合宿?

ローレルとリル、そしてプリムローズの夏は毎日毎日、鍛錬鍛錬。いずれある騎士養成学校の課外授業のひとつ、訓練合宿でもやっているようだ。実際に今日は、宿泊こそしないが、それに似ている。イアールンヴィズ騎士団の拠点に来ているのだ。 夜明けから日が…

災厄の神の落し子 第44話 それぞれの夏

ムフリド侯爵家騎士団の名称はプルウィア騎士団。騎士、従士合わせて四百名ほどになる。同じアネモイ四家であるイザール侯爵家のノトス騎士団の約二倍の規模。その差が生まれたのは近年、ムフリド侯爵家が積極的に騎士団の強化を進めてきたからだ。 ただ増員…

災厄の神の落し子 第43話 父子の会話

現在、反帝国勢力の中でも力を持つのは三人。一人は前宰相のヴィシャスで帝国南部で勢力を広げようとしている。ヴィシャスは現皇帝を無視して善政を行おうとしたことで地位を奪われ、地方に追放されたということになっており、反帝国勢力の中でも良識派とさ…

災厄の神の落し子 第42話 四候会議

帝国建国の功臣の裔。それがアネモイ四侯爵家だ。彼らの祖先は帝国初代皇帝アルカス一世と同じく、守護神の加護を得て、守護神獣を使え、その力を持って敵対勢力との戦いを勝利に導いた。 イザール侯爵家の守護神は南風の神ノトス。収穫の神とも呼ばれる。守…

災厄の神の落し子 第41話 求める形

騎士養成学校は一か月の夏季休暇に突入。だからといってローレルの日常はそれほど大きく変わるわけではない。のんびりと休暇を楽しむ、なんてことは許されず、日々、厳しい鍛錬を行っている。ローレル自身がそれを望む望まないは関係ない。プリムローズがそ…

災厄の神の落し子 第40話 帝国騎士団公安部

帝国騎士団公安部の本部は帝都の第五層東区域にある。皇城近くの帝国騎士団施設内にも事務所はあるが、部員の多くが働く本部は、この第五層東区域にある建物だ。独自の訓練施設を造ろうとすると、第五層しか広い土地が空いている場所がなかったというのが、…

災厄の神の落し子 第39話 悪いのは人

ダークタイガーの特徴は、普通の虎に比べてかなり大きな牙。虎にしては長い体毛は黒一色で縞模様は見えない。模様がないわけではないのだが、黒の微妙な濃淡による縞は、パッと見では判別出来ないのだ。ただそれが魔獣が虎系と分類され、ダークタイガーと名…