月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第41話 とんぼ返り

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 自分は目立たないように図書館に移動します。これだけで理解出来ないほど、皆、馬鹿なのだろうか。図書館で待っているとリーコ先輩が現れた。王子様とクリスティーナ、それと退魔兵団の同期たちも一緒に。大勢でぞろぞろと、それも王子様とクリスティーナが一緒では、周囲の注目を集めてしまう。何かあるのかと思われてしまう。どうして分からないのだろうか。
 とはいえ、文句は言えない。あとで二人に言えない分の文句も、断空に向けよう。

 

「その術式の解析? それはどういう術式なのかな?」

 

「転移魔法です」

 

「……カイト君。転移魔法には使用制限がかけられていることは知っているかな? 王国の許可なく使うと罪に問われるよ?」

 

「知っています。ですからリーコ先輩には解析だけを手伝ってもらいたいのです。それと全ての解析は無理だと分かっています」

 

 犯罪に巻き込むつもりはない。たまたま手に入れた術式を解析していた。解析は使用ではない。リーコ先輩には罪は及ばないはずだ。

 

「……本当に良いのかな?」

 

 これは自分に向けられた問いではないだろう。リーコ先輩の視線は自分を向いているけど、違うと思う。

 

「私の指示だと思ってくれて良い」

 

 王子様が答えてくれた。自分の指示とまで言った。貴方と貴方の婚約者の為ですから、それくらいは言ってもらわないと、だけど。

 

「しかし……これはどうやって入手したのかな?」

 

 王子様の言葉に反応を示すことなく、リーコ先輩は話を進めてきた。王子様の言葉を信用していないのか。そうであれば話を進めようとはしないはず。王子様の「私の指示」という言葉をなかったことにするつもりかもしれない。だとすれば、分かっていたけど、良い人だ。

 

「これで無理やり、あるところに転送されました。その時に」

 

「……カイト君。君は本当に面白いね?」

 

「面白い……どこが?」

 

 どうしてこういう話の展開になるのか。面白がられる話をした覚えはない。面白い話をしようとして滑ったことは、最近多いけど。自分の頭の中だけでも。

 

「転移魔法の術式については詳しくない。この図書館にも資料はないからね。カイト君の期待に応えられる自信はない」

 

「はい。分かっています。どうやって転移させているのかではなく、これが正常に動くかを調べたいだけです」

 

「それを確認するにも……いや、言葉で否定しているばかりでは何も進まないね。まずは見てみよう」

 

 きちんと動作を保証してもらう必要はない。試してみれば分かることだ。ただ、失敗を防げるのであれば防ぎたい。その為に許される時間を半日と自分で決めた。長く調べていても正確な結論は出ないことは分かっているのだ。

 

「知らない記述が多いな……」

 

「この辺りは制限だと思っています」

 

「……ああ、これは良く使われている記述だね? 回数制限……他には……」

 

 回数制限は問題ない。制限に引っかかるようであれば、発動しないだけだ。危険はなく、他の人にも失敗したことが分かる。最悪は転移に失敗したのに、王子様がそれに気付けないこと。失敗と分かるまで、下手したら一か月は必要。その間、ほとんど何もしないままになってしまう。

 

「これも見てください」

 

 もう一つの術式も展開する。

 

「これは?」

 

「転移先の術式です。見比べることで分かることがあると思って」

 

「確かにそうだね。なるほどなるほど……この部分は同じなのに、意味をなしていないね?」

 

 さすがリーコ先輩。読み込みが速い。コピーを覚える速さは自分もそれなりだと思っているけど、読むことそのものはリーコ先輩には及ばない。才能と知識の差なのだろうと思っている。

 

「俺はこれが座標でなないかと思っています」

 

「意味のない記号の羅列ということか……これだと転移魔法は対でしか動かないことになるね?」

 

「普通は違うのですか?」

 

「普通というか、古文書の類には、各地に転移魔法の魔法陣があって、人々は一瞬で各地に移動出来たなんて記述があるそうだよ? 作り話かもしれないけどね」

 

 失われた技術。元の世界でロストテクノロジーなんて言われていたものがこの世界にもある。神級魔法、それにダンジョンで見つかるお宝もそのひとつ。元の世界よりも身近に、という表現はおかしいかもしれないけど。その存在を感じられるのだ。

 

「でも、都度、この記述を変えれば」

 

「誰もがそれが出来た……その時代だと僕は研究者と認められないね?」

 

「誰もがとんでもない魔法を当たり前に使えた時代ですか……」

 

 神代の時代というものか。それとも神なんて呼ばれる存在でなくても、そうであったのか。そうだとすれば今の時代の人たちは退化したということになるのか。

 

「話が逸れているね? 戻そう……とはいえ、やはり分かることは少ない。知っている単語をつなぎ合わせるだけではね」

 

「罠みたいのがなければ良いだけです」

 

「術式というより、呪術の類か。書き方は同じだから」

 

「えっ? 呪術って呪いの術のことですよね?」

 

 魔法の術式と呪いが同じ。そんなことがあるのかと思った。

 

「魔法ってそういうものだよ? 呪いの術は悪だけど、人を殺せる攻撃魔法は善? 違うよね?」

 

「確かに……」

 

 こういうところもリーコ先輩は尊敬出来る。魔法の知識が多いだけでなく、大きな視点で魔法というものを見ている。そう感じる。

 

「……僕が知る限りの術式では、そういうものはない。でも絶対とは言えない」

 

「分かっています」

 

「これ……発動させるつもり?」

 

「……それ、聞きます?」

 

 発動までさせてしまうと罪。リーコ先輩が知るべきことではないと思う。あくまでも解析を手伝っただけ。この言い訳を崩してはいけない。

 

「転移元と転移先両方の術式を知っているのだから、試してみれば良い。何も人で試す必要はないよね?」

 

「転移先にはすでに魔法陣があります。だから、もう一つ発動は出来ません。それこそ、どうなるか分かりません」

 

「……そうであっても試してみれば」

 

「転移先には誰もいないので」

 

 試すことは出来る。でも、現地まで移動して確かめなければならない。そんな時間がないから、転移魔法を使おうとしているのだ。

 

「……転移先の魔法陣の魔力が不足している可能性がある」

 

「必要十分と思われる魔力を宿す魔石を置いてきました」

 

 実際に行き来して、試そうと思っていた。その準備として、少し躊躇ったけど、高そうな魔石を仕込んできた。

 

「……ここから?」

 

「また聞きます? 仮に、万が一ですけど、これを試すとしても学校の外、王都の外でやります。何が干渉するか分からないので」

 

 王立騎士養成学校も王都も、何らかの魔法を阻害する措置、結界が張られている可能性がある。可能性であってもリスクは避ける。

 

「そうか……」

 

「ありがとうございました」

 

「えっ?」

 

「今日はもう時間がないので。良ければ、また解析を手伝ってください」

 

 これ以上、調べても新たな発見はない。これが分かれば、もう先に進むべきだ。半日という期限には明確な理由はない。現地に行くのは早ければ早い方が良いのだ。

 

「じゃあ、行こうか?」

 

「……どうして、お前がそれを言う?」

 

「ええ~、カイト君、一人で行くなんてズル~い。二人で行こうよ。初めての旅行♪」

 

 どうして「ずるい」になるのか分からない。というか夢魔のことは、いつも分からない。旅行って、まさか、こいつはファーストキスだけでなく、それ以上を奪うつもりなのか。

 

(……別に良いか)

 

 そうじゃない。それはまた別の機会、でもない。

 

「ぐずぐずしていないで行くぞ」

 

「はっ?」

 

 断空よ。お前もか。

 

「時間がない。急げ」

 

 断空だけでなく暴威、それと無影まで。同期で旅行。だったら夢魔との二人旅のほうが期待が。

 

「……暇人どもめ」

 

 拒否しても付いてくる。そういう奴等であることは、良く知っている。一緒に来てくれれば楽が出来るのは間違いない。ここは諦めて、受け入れることにした。
 そういえば五人揃っての仕事は退魔兵団での初仕事以来だ。今回のこれは、退魔兵団の仕事とは言えないだろうけど。

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