月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第60話 舞踏会が始まる

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 勇者候補を招いた王家主催のパーティーは城内の会場で行われる。城の入口からもっとも近い会場だ。勇者候補のほとんどは平民。いくつかある会場の中でも最も格が低い会場が選ばれたということだ。といっても王家主催のパーティーに招待されることがただ事ではない、平民にとって孫の代、もっと先まで自慢出来るような出来事。会場がどこかなんて気にする勇者候補はいない。入口に近くて良かったと思っている人のほうが多いだろう。

「……ちょっと意外」

「何が?」

「アークの家族の人たち、良い人ばかりだった。正直、もっと嫌な人たちだと思っていた」

 アークは実家を嫌っている、魔法が使えないことで嫌な思いを沢山してきたことをミラは知っている。だが実際に会った家族は嫌な感じがまったくしなかった。魔族である自分を普通に迎え入れてくれた。さすがに驚かせてはしまったようでも。

「ああ……嫌な奴らは使用人とか将爵家に従っている家の者たち。家族は、姉上に関すること以外では普通かな?」

 アークが父親に反発したのは行方不明になった姉を探そうとしないから。将爵家の力を使えば手がかりが掴めるはず。アークはこう思っているのだが、父親はまたく動こうとしなかったのだ。

「そうだったの」

「父上には今も腹が立っているけど、何か事情があるのだろうとは思っている。正直に話すと、家を出た理由には将爵家では動けない事情があるなら自分がと考えのもある。というか、これ、今話すこと?」

 父親の考えには納得していない。ただ何の理由もなく娘を見捨てる父親ではないという思いもある。何か動けない理由が、その理由を話すことも出来ない事情があるのだと、アークは思っている。
 実際には、これは家出をした後、少し冷静になってから考えたことだが。

「……ちょっと緊張していて。気持ちを紛らわせようと」

「ああ……大丈夫。俺が側にいるから」

 この言葉は嬉しい。ただミラが緊張している原因はティファニー王女の存在のほうが大きかったりする。どういう人なのか、厳しく当たられないか、など色々と考えてしまうのだ。

「アークはこういう場は慣れているの?」

 ミラは当然、初めて。魔族であることは関係なく、極一部の豪商などの有力者を除いて、平民が王家や貴族家が開くパーティーに参加することなどない。身内での宴会はあっても、まったくの別物だ。

「いや、全然。何度参加しても慣れない」

「でも場数は踏んでいるのね?」

「その場数を踏ませる為に子供の為のパーティーが開かれる。それに強制的に参加させられていた」

 こういう場でのマナー、立ち居振る舞いを身につけることは貴族にとって必須のこと。それは武の家である将爵家でも変わらない。その為に年齢に合わせた形式のパーティーが何度も開かれ、参加させられるのだ。

「……だから王家の人たちとも親しいのね?」

「ああ、でもパーティーだけじゃない。小難しい話になるけど、将爵家は良くも悪くも影響力がある家だから。王家も内心はどうであれ、関係を深めようとする」

「子供の時から?」

 王侯貴族の世界はミラには分からない。なんとなく複雑なものがあるのだろうと思うくらいだ。ただ子供の頃からそういうことに巻き込まれることには疑問を覚えた。良くないことだと考えた。

「子供だから政治に関係なく仲良くなれる。こういうことだと思う。喧嘩にもなるけど」

「色々あるのね?」

 幼馴染という関係は大人になってからも一定の影響を持つ。悪意を持つことに抵抗を覚えるような関係になれば、それは両家にとって成功だ。王家と将爵家が対立して良いことなどない。ただ分かっているはずなのに欲や猜疑心が関係を悪化させてしまうことがある。その歯止めを幼い頃から作っているのだ。
 ここまでのことはミラには分からない。なんとなく面倒くさそうと思うだけだ。

「……その当時は何も考えていなかったかな?」

 アークのほうは特に思うことはない。王家に対する最低限の礼儀を守ることは実家から言われていたが、それ以外は、ただ年の近い子供同士で遊んでいただけという感覚だ。
 もちろん相手との相性もあってのこと。アルファイド王子もティファニー王女も立場の違いを感じさせるような態度を見せなかったのだ。

「……あのね……ティファニー王女って、どういう方?」

「えっ?」

「アルファイド王子殿下にはこの間、お会いしたけど、王女殿下はまだだから……どういう方なのかなって……」

 アークの口からティファニー王女の名が出ることはなかったのに、周囲はすぐに彼女の名を出す。アークにとって特別な存在であるかのように感じさせる言い方をする。

「どういう……? 一歳しか違わないのに、お姉さんぶっていて……口うるさくて、生意気で……気が重くなってきた」

「気が重いって、どうして?」

「王子殿下と話す機会を得られたら、きっとティファニー、いや、王女殿下も側にいる。家出して初めて会うことになるから、顔を合わせたら絶対にきつく叱ってくる。どうするか……王子殿下と話せたら、すぐに逃げるか」

「逃げる……」

 王女相手にこんなことを考えられる。これは親しさの証。ミラはこう受け取った。

「……受付、空いている。遅刻していないよな?」

「大丈夫だと思うけど」

 こんな話をしている間に会場手前の受付にたどり着いた。人はそれほど多くない。招待客の中でも勇者ギルド関係者用の受付であることも空いている理由なのだが、これはアークは分かっていない。

「アークとミラです」

 招待状を渡しながら名を伝えるアーク。

「勇者候補ですね? パーティー名は?」

「ブレイブハートです」

「……はい。確認出来ました。中に入ってください」

 名簿に視線を落とし、二人の名を確認した窓口担当者は会場への入場するように伝えてきた。

「あの、アルファイド王子殿下にアークが来たと伝えて欲しいのですけど?」

「はい?」

「少しお時間を頂けないかと伝えてください」

「……あのな、自分の立場を分かっているのか?」

 アークの話を聞いた窓口担当者は態度を一変。元々、アークから見ると、少し丁寧な程度で招待客を向かえる態度としてはどうかというものだったが、今はさらに酷いもの。平民である勇者候補を下に見ているのだ。特別この担当者が酷いというわけではなく、城で使える者たちにとっては、普通のことだが。

「お許しいただけないだろうことは分かっています。ですが、伝えるだけ伝えて頂ければ」

「招待されたからって調子に乗るな。追い返しても良いのだぞ?」

「それは……そうですか……」

 ウィザム将爵家という肩書がなければ、扱いはこんなもの。これまでこういう経験をしてこなかったアークだが、使用人のこういう態度は以前から知っている。力ある者には媚び、ない者には侮辱を与える。さすがに正面から侮辱する使用人はいなかったが、陰で、聞こえていると分かっていて酷いことを言う使用人はウィザム将爵家にも大勢いたのだ。

「お久しぶりです。アーク様」

「えっ……?」

「シャッテン侍従次長!?」

 驚きの声をあげたのは窓口担当者。現れた人物は彼にとって上司、それも普段は直接言葉を交わすことも出来ない立場の人なのだ。

「侍従次長。お久しぶりです。えっと……窓口に?」

 アークは彼を知っている。アルファイド王子に仕える使用人の中でトップ。王家全体の使用人の中でも国王の近臣である侍従長に次ぐ立場の人だ。窓口業務を行うような人ではない。

「殿下に命じられまして様子を見に参りました。お姿が見えないので欠席するのではないかと心配されていたようです」

「ああ……遅刻していました?」

「いえ、そうではありません。他の招待客の皆さまが早くお着きになっているだけです」

 窓口が空いていたのは、何があっても遅刻してはならないと思った勇者候補たちが皆、早く会場入りしたから。これ自体は間違った行動ではない。下位の人たちが先に会場入りして、上位の者たちを待つのは普通のこと。ウィザム将爵家に居た時の感覚で会場入りしようとしたアークが間違っているのだ。

「そうでしたか」

「殿下には私からお伝えしておきます。会場内でお待ちください」

「ありがとうございます。あっ、大切な人も一緒にとも」

「……承知しました」

 ミラの視線を向けてほほ笑むシャッテン侍従次長。そのシャッテン侍従次長に軽く頭を下げることでミラは挨拶した。

 アークに手を引かれて共に会場の入り口に向かうミラ。二人と距離が出来たところでシャッテン侍従次長は視線を窓口担当者に向けた。

「……名簿に書かれている情報だけで招待客をお迎えしていては、良い仕事は出来ません。以後、気を付けるように」

「も、申し訳ございません」

 窓口担当者に厳しい視線を向けながら叱責の言葉を伝えたシャッテン侍従次長。彼も二人の後に続いて、会場に戻っていた。

 

 

◆◆◆

 今日のパーティーの主役は私。この考えを傲慢と非難出来ないほど、カテリナは注目を集めている。普段も周囲からどう見えるかを意識し、武具としては派手な装いを身に着けているカテリナだが、今日はそれと比較にならないくらい気合が入っている。王家主催のパーティー。招待客には上級貴族もいると聞いている。注目を集めなくては気が済まないカテリナが、気合を入れないわけがない。
 純白のドレスに派手な装飾品を身に着けたカテリナ。全てこの日の為に揃えた物だ。メイクも貴族の貴婦人たちのそれを真似たもの。社交界での今時の流行を追ったものだ。
 その甲斐あって貴族を含めた多くの男性の視線を集めているカテリナ。男性だけでなく女性の視線も集めている。男性のそれとは異なり、好意的とは決して言えない視線だが、それも自慢すべきものだ。貴婦人たちの嫉妬を買うくらいの美貌ということなのだから。

「少し嫉妬してしまうな。カテリナに向く周囲の視線が憎らしいよ」

「セーヴィングだって人のことは言えないわ。女性たちの熱い視線で体が火照っているのではなくて?」

 二人のやり取りを聞いたフェザント、それにピジョンまで小さくため息をついている。二人にはカテリナとセーヴィングのような感覚はない。二人のやり取りが恥ずかしいと思う感覚は共有出来ている。

「王子殿下とお話する時間が待ち遠しいわ」

「王家の方々が勇者候補と話す時間など作るはずがない」

 恥ずかしいから黙っていて欲しい。そんな思いがカテリナの期待をフェザントに否定させた。ただ否定しただけでなく、実際にそうだと思っている。平民が王家の人たちと口を利けるはずがない。近づくことさせ許されないはずだと。

「セーヴィングであれば頼めるわよね?」

「えっ、私?」

「セーヴィングの実家はウィザム家。武の名門だもの」

「それは……そうですが……」

 セーヴィングがウィザム将爵家の関係者であるというのは嘘。本当の実家はヘルブレア家で、ウィザム将爵家の従属騎士家だ。王家の人々に目通り出来る立場にはないのは平民と変わらない。そうであるのに見栄を張って実家が上位貴族であるウィザム将爵家の系統であるかのようにカテリナに話したセーヴィングが悪い。

「多くの貴族家が招待されている状況で我々、勇者候補に割く時間はないと思いますよ?」

 助け舟を出したのはピジョン。彼もセーヴィングと同じウィザム将爵家の従属家出身。ヘルブレア家よりも格上の家だが、この場での立場は変わらない。

「でも私たちが主賓でしょ?」

 このパーティーは勇者ギルドの勇者候補を歓待する為に開かれたもの。カテリナの考えは間違いとは言えない。ただそれと立場を超えて王家の人たちに謁見出来るかは別の話だ。

「……少し騒がしいね。何かあったのかな?」

 この話は速やかに終わらせたい。セーヴィングはこう思って話を変えようとした。会場の一部から声があがったのは事実。入口近くがざわざわしていた。

「……あれは……誰?」

 セーヴィングの思惑通り、カテリナもそちらのほうに注意を向けた。向けざるを得ない理由があった。
 現れたのはウィザム将爵家の正装をまとったアークと黒髪の女性。黒いドレスだけでなく、女性の肌まで光っているように見える。小柄ではあるがスタイルの良さは離れた場所からでも良く分かる。正装のアークと並ぶその姿は注目を集めるのに充分な美しさだ。

「それは……アークの隣にいるのだから……彼女だろう?」

 フェザントも心を震わせている。実際に美しいミラだが、男性を魅了するのは彼女の種族の性質も影響している。その性質が種族の女性に悲劇をもたらすこともある。
 ミラが常にマント纏い、分厚い眼鏡で瞳を隠していたのは魔族であることを知られないだけでなく、この性質を表に出さない為でもあるのだ。

「……彼女、魔族だったのね?」

「えっ?」

「赤い瞳。あれは魔族の証だわ」

 ミラが魔族であることを仲間に知らせたミレットは厳しい目つきでミラを睨んでいる。彼女にとって魔族は忌むべき存在なのだ。

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