月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第43話 これは救いなのか?

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 救援要請は発した。緊急事態用の伝書鳩を使ったので、すでに王都に要請は届いているはずだ。だが、そこまでだ。救援は鳩のように空を飛んでこられない。到着するまでには、ひと月かそれ以上の期間が必要だ。その頃には、私は生きていない。私だけでなく、騎士たちも。
 逃がした領民たちの無事を願う。生き延びることは出来るだろう。だが、魔物に占拠された町に戻ることは出来ない。魔物が撤退したとしても、荒れ果てた町でどうやって暮らして行くのか。作物などひとつも残っていないかもしれない。町に迫ってきた魔物の数は、そう思わせるとてつもない数のようだ。
 ダンジョンサチュレーションの脅威は知っていた。だが知っていただけだ。実際にそれが起きた時、領地の被害はどれほどのものになるのか。起きた後の備えとして何が必要なのか。何も考えてこなかった私は、領主失格だ。
 そんな無能な私に出来るのは、命尽きるまで魔物と戦うこと。少しでも魔物の数を減らすこと。町の被害をわずかでも減らすことだ。

 

「門を開けろ! 負傷者を収容するのだ! 急げ!」

 

 駐屯騎士団の騎士たちが撤退してきた。多くがかなりの怪我を負っている様子。彼らでは止められなかった。こういう時の為にこの地に配置されている騎士団でも。

 

「すぐに来るぞ! 戦闘準備を急げ!」

 

 すぐに魔物の大群が現れる。この外壁が最後の防衛線だ。ここを突破されれば、もう市街地への侵入を許すということ。戦いは負けだ。

 

「……そんな……まだあんなに?」

 

 すぐ近くにいる騎士が思わず弱音を漏らした。他の者たちも同じ気持ちだろう。言葉にしなかったのは、あまりの事態に絶句しているだけだ。駐屯騎士団はほとんど数を減らせなかったようだ。それともかなり減らして、これなのか。今は確かめている時間はない。とにかく目の前に迫る魔物を追い払う以外にない。

 

「放てぇええええっ!!」

 

 号令で、一斉に矢が放たれる。ただの気休め、せいぜいが開戦の合図の意味しかない。通常の矢が当たったくらいで倒せる魔物ではない。
 それでもわずかでも怪我を負わせ、動きを鈍らせ、次の攻撃がとどめになることを願って、矢での攻撃を続ける。

 

「何なのだ、あの魔物は? あのダンジョンのどこにあんな魔物が?」

 

「泣き言を言う暇があれば攻撃しろ! 間を空けるな!」

 

 激を飛ばしたものの、騎士の気持ちも分からなくはない。魔物の大群の中に、人の背丈の三倍はあろうかという巨大な魔物が混ざっている。あれほどの巨体な魔物がダンジョンにいたというのは驚きだ。ダンジョンには、まだ未知な魔物がいたのだ。
 もし分かっていれば。王国騎士団の編成も違ったものになっていたはずだ。凶悪な魔物に対抗できる騎士がここにいたはずだ。これも泣き言だ。

 

「近づけるな! 投石用意!」

 

 こちらの矢の攻撃を物ともせず、魔物の大群は町の防壁に迫ってくる。防壁の手前にある濠を超えられたら、次は投石での攻撃。セオリー通りの戦い方だ。魔物の大群に通用するかは別にして。

 

「……何だ? 馬鹿な!?」

 

「矢を放て! 濠に近づけるな!」

 

「狙い撃て! あのでかぶつだ!」

 

 巨大な魔物が濠に投げ入れているのは大木。大きな岩を投げている魔物もいる。それに比べれば小さい岩も、他の魔物が次々と投げ入れている。濠を埋めようとしている。魔物の意図は明らかだ。だが魔物というのは、そんな知性があるものなのか。

 

「無理だ! 投石の準備を急げ! 数も増やせ! すぐに来るぞ!」

 

 濠を埋められるのを止められない。元から矢の攻撃は通用していない。止められるはずがなかったのだ。私も動揺している。正しい指示を出せないでいる。

 

「魔法攻撃の用意!」

 

 防壁のすぐ側まで来られたら投石だけでなく、魔法による攻撃も行う。この距離であれば、確実に当てられる。実際は接近されてからが勝負なのだ。

 

「魔獣だ! 止めろ!」

 

 だが襲ってくる魔物の大群は、こちらをあざ笑うかのように、新しい攻撃を繰り出してくる。魔獣が駆けてくる。足場がない空中を。こんな敵とどうやって戦えば良いというのか。
 本格的な戦いになる前に、心が折られそうだ。

 

「迎撃用意! 剣、抜け!」

 

 一気に接近戦に持ち込まれる。魔獣が防壁の上に到達し、乱戦になれば、魔法での攻撃はままならなくなるかもしれない。さらなる接近を許すことになる。

 

「よし、やった!」


「倒したぞ!」

 

 空を跳ねるように駆けてきた魔獣が燃え上がった。魔法の攻撃が命中。多くがそう思った。実際に魔法が命中して、魔獣は燃え上がった。これは間違いない。

 

「……誰だ、あれ?」

 

 騎士たちの手が止まる。魔獣が間近に迫っているというのに。それでも手が止まるような驚きなのだ。
 魔獣の大群の中を歩いてくる者たちがいる。黒い装いの、おそらくは男たち。その男たちの周囲にはいくつもの影。魔法であることは間違いない。それ以外の想像が、私には出来ない。
 急ぐ様子もなく、ゆっくりと近づいてくる男たち。魔物や魔獣が襲い掛かるが、男たちの歩みを止めることも出来ず、影の中で消えていく。
 こちらに向かっていた魔獣が反転。その男たちに向かう。だが魔獣は男たちに近づくことも出来ず、空中で燃え上がった。漆黒のあれは炎なのだ。より近くで見て、それが分かった。

 

「……あれは……斬ったのか?」

 

 さらに巨大な魔物も倒れていく。それも異常な倒れ方。巨体の上半身がまず地面に落ち、その後に下半身が倒れていく。魔物の体を一刀両断にした。そうとしか思えない倒れ方だが、そんなことが出来るのか。
 さらに別の巨体の魔物が、今度は宙に浮いた。大きな地響きを立てて、地面に落ちた魔物。その魔物以外も、体が小さい魔物が次々と宙に跳ね上がる。

 

「あれは……」

 

 四方八方に跳ぶ魔物。その中心に人がいる。魔物を殴っているようにしか見えない男が。あの巨体を素手で殴り飛ばしたというのだろうか。

 

「救援なのか……我らは……助かるのか?」

 

 尋常ではない戦い方。こんな真似が出来るとすれば、王国騎士団本隊の上級騎士。貴族家の騎士団でも王国で名が通っている騎士のはずだ。

 

「あの……ひとつ聞きたいことがあるのですけど?」

 

「えっ? 君は?」

 

 いきなり背後から声をかけられた。まったく気配を感じなかった。

 

「王都から来ました。騎士団長というのは、どの人ですか?」

 

「ああ、騎士団長なら……王都からということは君は王国騎士団なのか? そうであれば用があるのは駐屯騎士団の団長か。彼であれば、そこにいる」

 

 王国騎士団の騎士には見えない。だが黒の装いは外壁の外で戦っている者たちと、まず間違いなく、同じもの。若く見える彼も同じ所属だということだ。
 ここには騎士団長と呼ばれる者が二人いる。一人は当家の騎士団長。もう一人は王国騎士団所属の駐屯騎士団の団長。騎士団長といっても、王国騎士団本隊の騎士団長とは、まったく格が違うが。

 

「ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げて、駐屯騎士団の団長の下に向かう彼。何か気になる。救援にきた騎士であれば、自分も話を聞くべきか。

 

「貴方が騎士団長?」

 

「なんだ? 私は忙しい。用件があるのであれば、さっさと言え」

 

 駐屯騎士団長はかなり苛立っているようだ。本来、魔物を抑え込むのは駐屯騎士団の責任。それが出来なかったので、気が立っているのだろう。

 

「では……クリスティーナ=アッシュビーを知っていますか?」

 

「……な、何の話だ?」

 

「貴方が王都に訴えたクリスティーナのことです。知らないはずないですよね?」

 

「そ、それは……そうだ。この事件の犯人はその女だ。だから私は王都に訴えた。それの何が悪い?」

 

 駐屯騎士団長は何を言っているのか。クリスティーナ様は無実だ。それはもう分かっている。確かにダンジョンサチュレーションは起きた。だがそれとクリスティーナ様に何の関係があるのか。証拠は何もない。少なくとも私は知らされていない。

 

「発見。さて、騎士団長なのだから貴方も戦わないと」

 

「何を言う? 私は戦っている」

 

「安全な場所で立っているだけのことを、僕たちは戦っているとは言わない。前線に出ないとね?」

 

「私は指揮官だ! その必要はない!」

 

「うるさいな。大人しく言ってやっているうちに行けよ。自分で行けないなら手伝ってやる」

 

 若い騎士の口調がいきなり変わった。彼は王国騎士団の騎士ではないのか。それとも若く見えるが駐屯騎士団長よりも階級が上なのか。

 

「うわっ。うわぁあああああっ!」

 

 そのようなことを考えている場合ではなかった。なんと若い騎士は駐屯騎士団長を防壁の下に落としてしまった。何が起きているのか。何故、彼がこのような真似をしたのか。答えが見つからず、頭の中が混乱している。

 

「助けてくれ! 誰か!? 助けて!」

 

「意外と頑丈。腐っていても騎士団長は騎士団長か。でも、やっぱりうるさい。他の人たちは静かにしていましょう。魔物を残したまま、僕たちに帰られたくなければ」

 

「……分かった」

 

 明確な脅し。王国騎士団の騎士ではない。では彼らは何者なのか。彼らは我々にとって救いなのか、それとも魔物以上の災厄なのか。考えても意味はない。目前の災厄。魔物を追い払えなければ我らは終わるのだ。

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