ファンタジー小説-黒き狼たちの戦記
最初は小さな、揺らぎのようなものだった。言葉の中にある音、イントネーションのどちらとも違う揺らぎ。上手く説明出来ないそれが何を意味するかなど、最初はまったく分からなかった。 その意味を教えてくれたのはカードゲーム。相手が嘘、はったりを口にし…
結局、森の中に作られた休憩所でシュバルツたちは一晩過ごすことにした。シュバルツたちは王都どころかノートメアシュトラーセ王国から出ようとしている。まだまだ先は長いのだ。無理することなく休める時に休んでおく。これがこの場所での野営をシュバルツ…
ノートメアシュトラーセ王国、王都シャインフォハンの争乱は終息した。あくまでも王都内での戦闘が終わったというだけで、何かが定まったわけではない。その後の状況が見えてくるにつれて、混迷は広がっている。 反乱勢力の被害は甚大。近衛騎士団は壊滅とま…
ディアークの声は反乱側を大いに動揺させた。ディアークはまだ健在。もしこのまま彼を逃がしてしまうようなことになったら、反乱は失敗だ。オトフリートは反逆者となり、後継者の資格を失う。そうなれば、今は彼に従っている王国騎士団もディアークの側に付…
城外にも異常事態が起きていることが伝わり始めている。王国騎士団が完全武装で、門に向かって駆け出していけば、何かが起きたことなど誰にでも分かる。だが、何かが起きていることは分かっても、一般の人々には何をどうすれば良いかなど分からない。せいぜ…
反乱側の計画はディアークたちの奮戦によって狂い始めている。各所に配置されていた部隊は、予定通りにディアークたちを仕留めきることが出来ず、彼らを追って城内を駆け回っている。戦いによる死傷者もかなりの数だ。 時間の経過と人数の減少は、この先の計…
争乱の響きは城内全体に、やがて王都シャインフォハン全体に広がっていくことになる。だがそれはまだもう少し後のこと。今はまだ城での出来事は王都の人々には届いていない。何も知らないまま、感謝祭期間を迎えた人々は家族団らんの時間を過ごしている。そ…
アルカナ傭兵団の将来に暗い影が落ちていることをディアークは知っていた。トゥナの未来視がそれを教えてくれていた。そうでありながら、この様な事態を招いてしまったのは、ディアークの迂闊さのせい。確かにそうかもしれない。だが、誰がそれを責めるのか…
両親の顔はよく覚えていない。幼くして亡くしたというわけではない。両親と暮らしていた記憶はある。ただ、窓一つない昼でも暗い部屋の中から、外の光を背にした人の顔はよく見えなかったというだけのことだ。実際はそれだけではないのだが、ルイーサはそう…
上級騎士最後の登場は第二シードのルイーサ。対戦相手はクローヴィスだった。ここまでなんとか勝ち上がってこられたクローヴィスにとって、この対戦が最後の腕試しの機会。それを理解していたルイーサも、彼の実力を確かめるような戦い方を行った。それなり…
武術競技会が始まった。大会はトーナメント方式。アルカナ傭兵団幹部であるアーテルハイドとルイーサは自動的に第一シードと第二シードという位置づけになり、決勝戦まで当たらない振り分けになっている。残る上級騎士の三人、シュバルツとジギワルド、ベル…
各地に散っていたチームが全て帰還。申し込みが締め切られ、武術競技会の参加者が確定した。参加者数は過去最大。一方で上級騎士の参加は予定外の少なさとなった。開催決定時から参加が確定していたシュバルツとアーテルハイド、そしてルイーサ以外では、ジ…
感謝祭期間に入って、最前線に張り付いていたチームのメンバーたちも帰還してきている。常に緊張を強いられている団員たちにとっては、年に一度、訪れる安息の日々。家族を持つ人たちにとっては団らんの日々だ。 セーレンの父であるテレルも久しぶりの家族団…
愚者のメンバーは相変わらず鍛錬ばかりの毎日。朝早くから本部の訓練場に集まって、体力作りや剣の素振り、型稽古などの基礎訓練。昼食を食堂で済ませると、今度は屋敷に戻っての鍛錬だ。対戦するか分からない相手の弱点をいちいち探るつもりはないが、探ら…
いつもであれば様々な事柄についての議論が交わされているか、仕事とはまったく関係のない私的な会話で盛り上がっている執務室に今は、重苦しい空気が漂っている。部屋にいるのがディアークと普段から無口なトゥナの二人だけであるから、というわけではない…
ベルクムント王国の状況は悪化している。ただそれに気が付いているのは、まだ極限られた人たちだけ。国政に関われるような立場にある人たちだけだ。アルカナ傭兵団との戦いでの連敗が原因ではない。国王が引き起こす粛清の嵐が、さらにその激しさを増してい…
対抗戦の開催が正式に発表された。名称は武術競技会で開催は感謝祭期間中。多くの団員に参加の機会を与える為に、前線に張り付いているチームも帰還出来る、その時期が選ばれたのだ。開催までは残り二か月。参加を迷っている人はまだ多いが、それに関係なく…
二人で部屋を出たシュバルツとディアーク。並んで歩きながら話をするのは、結局、任務のこと。シュタインフルス王国の今後の見通しについて。中央諸国連合に引き込むことは可能か。可能であるとすれば何が必要か。ベルクムント王国の出方次第という結論が共…
シュバルツがアルカナ傭兵団の団長になることはない。トゥナのこの発言はディアークにとっては驚きで、シュバルツを排除したいと考えているルイーサもその真意を知りたがった。唯一、アーテルハイドだけは、少なくともシュバルツがその地位を喜んで引き受け…
アルカナ傭兵団の全団員が参加可能な競技大会。その成績によって傭兵団内の序列が決まり、従士であれば上級騎士に取り立てられチームを持つことが出来るという特別待遇が得られる。そんな団員であれば誰もが興味を惹かれるネタをぶち上げて、軍法会議の話題…
長期間の任務を終えてノートメアシュトラーセ王国の王都シャインフォハンに帰還したシュバルツたち。そこで待っていたのは思いがけない展開だった。またシュバルツが軍法会議にかけられることになったのだ。告発者はルイーサ。罪状は任務中に意図的に敵を利…
愚者の任務に関して、一部はまだ情報制限がかかっているが、そのおおよその内容は一般団員も知るところとなっている。もともと良くも悪くも目立っていて、その動向が注目されていたシュバルツ。その彼と愚者のメンバーの姿が一年以上、見られなかったのだ。…
ヘルツに会って話を聞き、事実関係をある程度確かめることが出来たカーロは、シュバルツに情報を届けてもらう手筈を整えた上で、城近くにある屋敷に向かった。ズィークフリート王子が謹慎期間中に過ごす場所として用意された屋敷だ。謹慎中だとしても、城か…
山中の拠点で待機していたキーラたちと合流して、シュバルツたちは山越えで隣国のベルクムント王国に向かった。アルカナ傭兵団としてのシュタインフルス王国での任務は終わり。そのまま自国に帰還することになる。 シュタインフルス王国に残ったのは教会に捕…
愚者の任務は終了した。まだシュバルツたちは帰還途中で、今どこにいるのか本部では把握出来ていないが、報告は届いている。帰還後の任務完了報告を行うつもりがないのではないかと思うくらいに、詳細な報告が。 その報告内容についてディアークたちは話し合…
シュバルツたちの奇襲により、甚大な被害を受けたズィークフリート王子率いるベルクムント王国軍。目的地であるシュタインフルス王国への進軍を一旦、取りやめ。自国に帰還して対応を検討することになった。被害の多さが一番の理由であるが、それだけではな…
自分は何をしているのか。食堂の前を行ったり来たりしながらオトフリートは考えている。初めて入る店ではない。何度か訪れている場所だ。そうであることを父であり、国王であり、アルカナ傭兵団の団長であるディアークに知られてしまった。それがオトフリー…
十人、二十人と増えていく教会騎士。その数にローデリカは一瞬、罠であることを疑った。だがそんなはずはない。聖神心教会がローデリカの存在など知っているはずがない。罠に嵌める理由がない。ではシュバルツに対する罠かとも思ったが、それもすぐに否定す…
ズィークフリート王子がいる天幕は夜営地の中央付近、周囲からもっとも遠い場所にある。グローセンハング王国は従属国であるとはいえ、油断は出来ない。こういうことではあるが、今回が特別というわけではなく、たんに規則に従って設営されているだけ。実際…
シュタインフルス王国の状況は逐一、アルカナ傭兵団本部に伝えられるようになっている。状況は悪いものではない。アルカナ傭兵団として、中欧諸国連合として何をもって任務は成功というのか今となっては微妙だが、愚者から伝えられていた通りの展開になって…