ファンタジー小説-黒き狼たちの戦記
第十特務部隊は任務の為に帝都を発った。白夜にとっては初任務。入隊して一週間での出動だ。怪しまれる何かがあったわけではない。新入隊員も同行させるように、という命令が発せられた結果だ。白夜の知ったことではないが。 任務地へは船で川を下って海に出…
エーデルハウプトシュタット教国は都市国家。ベルクムント王国の王都、今は旧王都だが、ラングトアにもオストハウプトシュタット王国の都ツェントラールにも勝る広大な都であるが、領土としてはそれが全て。耕作地は教国で暮らす人々が消費する分をわずかに…
次の一手を考えながら向かい合っているシュバルツと老騎士。といっても攻め手を考えているのはシュバルツだけで、老騎士のほうは受けに徹している。対峙しているシュバルツが、どうやらアルカナ傭兵団の愚者らしいと分かって、少し様子見をしようと考えてい…
足下から皮膚を覆いつくすほどのムカデが這い上がってくる感覚。その不快さに、全身に鳥肌が立つ。振り払おうと必死に両足をバタつかせても、その感覚は消えない。消えるはずがない。実際にムカデがいるわけではないのだから。 やがて、そのおぞましい感覚は…
フィデリオが何故、他人に教えられるくらいに内気功を身につけているのか。その理由と、それがオトフリートの反乱に繋がっていく話は、トゥナとルーカスに衝撃を与えた。 反乱の下地は二十年以上前から作られていた。その事実にトゥナもルーカスも、二人だけ…
ノートメアシュトラーセ王国にまた新たな王が立った。新王ジギワルドとその忠実な臣下たちはオトフリートの即位を正式なものとして認めていないので、「また」という表現は受け入れないだろう。 新国王になったとはいえ、ジギワルドたちに安堵はない。戦いに…
膠着状態に陥っていたノートメアシュトラーセ王国の玉座を巡る戦いはジギワルド、そしてオトフリートにとっても想定外のきっかけで、一気に激化した。日和見を続けるであろうと思われていた中央諸国連合加盟国が、ジギワルド支持を宣言したのだ。中央諸国連…
ベルクムント王国の王都ラングトアが陥落した。国王は王城に突入してきた連合軍の騎士に討ち取られて死亡。王妃は連合軍が発見した時にはすでに自害。ジークフリート王子はそれ以前の戦いで戦死。王家の残る一人、カロリーネ王女だけが生死不明という状況だ…
ベルクムント王国軍も逃げ出し、抗う者のいなくなったラングトアの街では、すでに略奪が始まっている。軍規で禁止されている行為だが、そんなことは歯止めにはならない。それには複数国の連合であることも悪影響を与えている。自国の兵士たちを押さえつけて…
反ベルクムント王国連合軍の迎撃に向かったベルクムント王国軍が負けた、しかも総大将であるズィークフリート王子が戦士したという情報が届いた途端、王都の人々の動きは一気に慌しくなった。 どこに逃げたら良いか分からない、生活基盤がない、なんて言って…
暴政を行う国王を排除する。ベルクムント王国の為にそれを決断したズィークフリート王子であったが、決起の直前になって、一時断念ということになった。そうせざるを得ない状況になってしまったのだ。 ベルクムント王国に反旗を翻した国々の動きは、ズィーク…
ノートメアシュトラーセ王国の内乱は膠着状態に陥っていた。オトフリート、ジギワルド両陣営とも相手の戦力を測りかね、自陣営の勝利を確信出来ないまま、戦いを避けてきたのだ。 生死不明のディアークを含め、アルカナ傭兵団上級騎士のうち七名が行方不明と…
シュバルツたちがいるシュタインフルス王国は、ベルクムント王国に従うことを止めている。正式にベルクムント王国に通達したわけではないが、命令に従うつもりはない。 今の状況は叛意が明らかになっても討伐軍を差し向けられる心配がないという点では良い。…
クローヴィスの殺害に成功した後、シュバルツたちは国境を越えてシュタインフルス王国に入った。正規のルートではない。かつて任務で潜入した時に使った山中の道なき道を進んで、同じく任務の時に隠れ処として利用していた場所に入ったのだ。そこは今、黒狼…
ノートメアシュトラーセ王国にて新王が即位したという情報は、それがクーデターによるものであることと合わせて、すぐに中央諸国連合に加盟している各国に伝わった。加盟各国の諜報は、連合内にも向けられている。必ずしも一枚岩とは言えない中央諸国連合。…
最初は小さな、揺らぎのようなものだった。言葉の中にある音、イントネーションのどちらとも違う揺らぎ。上手く説明出来ないそれが何を意味するかなど、最初はまったく分からなかった。 その意味を教えてくれたのはカードゲーム。相手が嘘、はったりを口にし…
結局、森の中に作られた休憩所でシュバルツたちは一晩過ごすことにした。シュバルツたちは王都どころかノートメアシュトラーセ王国から出ようとしている。まだまだ先は長いのだ。無理することなく休める時に休んでおく。これがこの場所での野営をシュバルツ…
ノートメアシュトラーセ王国、王都シャインフォハンの争乱は終息した。あくまでも王都内での戦闘が終わったというだけで、何かが定まったわけではない。その後の状況が見えてくるにつれて、混迷は広がっている。 反乱勢力の被害は甚大。近衛騎士団は壊滅とま…
ディアークの声は反乱側を大いに動揺させた。ディアークはまだ健在。もしこのまま彼を逃がしてしまうようなことになったら、反乱は失敗だ。オトフリートは反逆者となり、後継者の資格を失う。そうなれば、今は彼に従っている王国騎士団もディアークの側に付…
城外にも異常事態が起きていることが伝わり始めている。王国騎士団が完全武装で、門に向かって駆け出していけば、何かが起きたことなど誰にでも分かる。だが、何かが起きていることは分かっても、一般の人々には何をどうすれば良いかなど分からない。せいぜ…
反乱側の計画はディアークたちの奮戦によって狂い始めている。各所に配置されていた部隊は、予定通りにディアークたちを仕留めきることが出来ず、彼らを追って城内を駆け回っている。戦いによる死傷者もかなりの数だ。 時間の経過と人数の減少は、この先の計…
争乱の響きは城内全体に、やがて王都シャインフォハン全体に広がっていくことになる。だがそれはまだもう少し後のこと。今はまだ城での出来事は王都の人々には届いていない。何も知らないまま、感謝祭期間を迎えた人々は家族団らんの時間を過ごしている。そ…
アルカナ傭兵団の将来に暗い影が落ちていることをディアークは知っていた。トゥナの未来視がそれを教えてくれていた。そうでありながら、この様な事態を招いてしまったのは、ディアークの迂闊さのせい。確かにそうかもしれない。だが、誰がそれを責めるのか…
両親の顔はよく覚えていない。幼くして亡くしたというわけではない。両親と暮らしていた記憶はある。ただ、窓一つない昼でも暗い部屋の中から、外の光を背にした人の顔はよく見えなかったというだけのことだ。実際はそれだけではないのだが、ルイーサはそう…
上級騎士最後の登場は第二シードのルイーサ。対戦相手はクローヴィスだった。ここまでなんとか勝ち上がってこられたクローヴィスにとって、この対戦が最後の腕試しの機会。それを理解していたルイーサも、彼の実力を確かめるような戦い方を行った。それなり…
武術競技会が始まった。大会はトーナメント方式。アルカナ傭兵団幹部であるアーテルハイドとルイーサは自動的に第一シードと第二シードという位置づけになり、決勝戦まで当たらない振り分けになっている。残る上級騎士の三人、シュバルツとジギワルド、ベル…
各地に散っていたチームが全て帰還。申し込みが締め切られ、武術競技会の参加者が確定した。参加者数は過去最大。一方で上級騎士の参加は予定外の少なさとなった。開催決定時から参加が確定していたシュバルツとアーテルハイド、そしてルイーサ以外では、ジ…
感謝祭期間に入って、最前線に張り付いていたチームのメンバーたちも帰還してきている。常に緊張を強いられている団員たちにとっては、年に一度、訪れる安息の日々。家族を持つ人たちにとっては団らんの日々だ。 セーレンの父であるテレルも久しぶりの家族団…
愚者のメンバーは相変わらず鍛錬ばかりの毎日。朝早くから本部の訓練場に集まって、体力作りや剣の素振り、型稽古などの基礎訓練。昼食を食堂で済ませると、今度は屋敷に戻っての鍛錬だ。対戦するか分からない相手の弱点をいちいち探るつもりはないが、探ら…
いつもであれば様々な事柄についての議論が交わされているか、仕事とはまったく関係のない私的な会話で盛り上がっている執務室に今は、重苦しい空気が漂っている。部屋にいるのがディアークと普段から無口なトゥナの二人だけであるから、というわけではない…