
パトリオットと過ごす時間が増えている。自分の立場は、クリスティーナではなく、パトリオットの騎士候補見習い。そうであるのに、この数か月、パトリオットをほぼ放置。王都にいられなかったのだから、そうなるのは当然だ。
一応は、それを申し訳なかったと思う気持ちがあって、パトリオットとの時間を優先するようにしている。遊ぶわけではなく、鍛錬をしているのだから無駄な時間とは思わない。
パトリオットは真面目に鍛錬に取り組んでいる。格下の加護であることにコンプレックスを抱いているのは知っている。だったら加護なしの自分には生きる資格もないのか、と思わなくもないが、そんな自分には関係なく、真面目だ。
才能の差は努力で埋められる。こんな風に思っているのかもしれない。戦いには相性があり、学校の評価のままに勝負が決まるわけではないことは、自分も知っている。実際に勝利した。
でも、世の中はそんなに弱者に優しくない。努力ではどうにもならないことばかりだ。
自分も異世界に転生したと知った時は、夢を抱いた。いきなり地獄に落とされて絶望したが、スライムとの死闘を制し、家族を得て、生きる希望が生まれたことで、また期待が膨らんだ。ここから自分は奇跡の成長を遂げ、この世界で英雄になる。こんな風に思った。
だがその期待は失われた。期待を、自分が勝手に思っていただけだが、育ててくれていた師匠によって砕かれた。師匠は自分に告げた。「お前はこれ以上、飛躍的に成長することはない。凡人として平凡な人生を生きるのだ」と。その時は納得出来なかったが、実際に成長は止まった。それまでとは違い、どれだけ自分を鍛えても、強くなれた実感は得られなかった。
師匠は才能のない自分を、乏しい才能の限界まで成長させてくれた。こう感謝出来るようになった。期待は失われたが、引き換えに感謝の気持ちを得た。
パトリオットはどうなのか。彼は加護持ち。神の加護よりは格下とされる御使いの加護だが、それでも加護持ちだ。彼は努力次第で、神の加護を持つやつらに匹敵する力を得られるのだろうか。
少なくとも、本人はそのつもりのようだ。
「剣術対抗戦で優勝を目指す……優勝なんてあったのですか?」
剣術対抗戦では一戦しかしない。分かる人が見ていれば、どこが優勝か分かるのだろうとは思う。でも、優勝者がどのチームか決められた記憶がない。
「三学年で行われる対抗戦だ。その年の最強を決める大会がある」
パトリオットが優勝したいという剣術対抗戦は、自分が知るのとは別。そんな大会があることは今初めて聞いた。別に困らないはずだった。学校の、必須以外で、かつ護衛の必要性がないイベントは、参加する必要のない立場だったのだ。
「それで優勝……無理」
「やってみないと分からないだろ?」
「いや、分かります。そもそもパトリオット様の騎士候補は、見習いの私を加えても二人です。クリスティーナ様を加えても、まだ数が足りません」
やってみなくても分かる。戦力が足りない。数も質も。少し考えればパトリオットだって分かるはずだ。
関係ないが、一人称を元に戻した。戻したは正しくないか。いつの間にか”俺”に戻っていたことに、パトリオットに指摘されて気付いたのだ。パトリオットは、意外とこういう礼儀作法に厳しい。もっと厳しそうなクリスティーナは何も言わなかったのに。
「人は増やす」
「当然です。ですが、今はまだ増えていません。それに、失礼ですが、クリスティーナ様は戦闘向きではありません。ダンジョンで一緒に戦って、これは分かりました」
クリスティーナは治癒魔法が得意な支援型。攻撃魔法も使えるので後衛型というべきか。大会では剣術の技を競うことになるはず。剣を使って強くなければならないのだが、後衛型のクリスティーナはそうではない。基礎能力は高そうだから人並みは超えるだろうけど、それ以上ではないだろう。
そうなるとチームのエースはパトリオットかコルテス君。組み合わせ次第で勝てるチームはあるだろうけど、優勝はあり得ない。
「それなら……無理か……」
「ウィリアム殿下のことを考えました? すでに一度、妨害されています。殿下の助力は期待するだけ無駄です」
ウィリアム殿下を加えることは出来ない。前回、それをしようとして邪魔されている。同じ結果になるだけだ。剣での戦いでAランクがいない。これでは優勝なんて夢のまた夢だ。
「……それでも優勝したい。妹の為に」
「ああ……それですか」
パトリオットは優勝したいのではない。アントンのチームに勝ちたいのだ。彼の妹、クリスティーナを何度も侮辱してきたアントンを負かしたいのだ。気持ちは分かる。だけど、気持ちだけでは勝てない。
「まだ二年ある。諦めるのは早い」
二年で急成長。これはある。パトリオットにはまだ成長する余地がある。だが相手にはもっとあるかもしれない。加護の格が強さに直結するというなら、成長限界は相手のほうが上だ。
勝機があるとすれば、二年後に相手がまだ成長途上、それもパトリオットの成長を大きく下回っていること。この可能性はなくはない。ただ、相手次第だ。性格が最悪だからといって、怠け者とは限らない。
「……二年……頑張ることは無駄にはならないでしょう」
師匠も言っていた。自分はもう成長しない。それでもこれまでやってきたことは無駄にはならない。生きる為に役立つと。強さが必要になった時に、過去の努力が報われるだろうとも。
師匠の教えだ、弟子の自分が否定するわけにはいかない。結果が伴わなくても、努力を否定してはいけないのだ。
「では、協力してくれるな?」
「私は。コルテスも良いのか?」
「強くなる為の努力を避ける奴は、ここに入学しないだろ?」
「なるほど……」
そういうことなのだ。自分は他の人と違う。自分は幼少期から鍛え、鍛えられてきた。洞窟内を歩くだけでも強くならなければならなかった。ブラザーたちに頼ることなく、自分の食料を調達する為には、さらに強くならなければならなかった。生きる為に強くならなければいけなかった。その為の努力を努力とは思っていなかった。
きっとあの毎日は普通の人とは違う。洞窟に住んでいたのだから、普通の人と違うのは当たり前だけど、そういうことではなく鍛錬のあり方が、きっと違うのだ。
これまで怠けてきたとまでは言わないが、パトリオットとコルテス君にはまだ成長余地がたくさんある。伸び悩みなんて感じたことがないのだろう。もう何年も前に成長限界を迎えた自分とは違う。まだ諦める時期に来ていないのだ。
正直羨ましい。でも、自分もまったく強くならないわけではない。スキルを伸ばすことで、まだ強くなる余地はある。そこに拘ってみても良いかもしれない。悪魔と戦うばかりの毎日ではなく、今は色々なことを行うことが許されている。これを無断にする理由はないのだから。