ファンタジー小説-SRPGアルデバラン王国動乱記~改~
王立王国学院の実技授業は、かなり自由に行われている。それぞれが自由に鍛錬を行い、聞きたいことがあれば教官に尋ねる。教官は基本、その様子を見ているだけで、細かな指導は行わないのだ。 こういう形を取るのにはいくつかの理由がある。今はそれほどでも…
物語が始まるとすぐに、アリシア・セリシールは苛めを受けることになる。名家ではあるが貧乏貴族家の出であるアリシアが、ジークフリート第二王子と急接近したことを妬んだ女子学生たちの仕業だ。さらにその彼女たちを裏で操っているのはサマンサアン。動機…
王国中央学院でのクラス分けはホームルームや数少ない共通授業、年にいくつかある学院行事以外では、ほとんど意味をなさない。ほとんどの授業は文系と武系に分かれており、さらに実力テスト等によってグループ分けされて、行われることになる。生徒の実力に…
王国中央学院は身分に関係なく誰でも入学出来る学校だ、というのは当然、建前。平民は、貴族の子弟のようにほぼ無条件で入学出来るわけではなく、一般入学試験に合格しなければならない。文字の読み書きも出来ない庶民の子が、試験に合格できるはずがないの…
ブラックバーン家を訪問してから一週間が過ぎているが、アリシアの心の動揺は未だに収まらない。アオがレグルス・ブラックバーンであった事実を受け止めきれないでいるのだ。 レグルス・ブラックバーンは世の中を乱す悪。王国に平和をもたらす側であるアリシ…
王都を囲む外壁の内側に入り、王都中心部に続く街道をさらに進む。馬車の窓から見える景色。「懐かしい」という気持ちが彼女の心に広がった。やがて何千回と行き来した場所に辿り着く。馬車を降りて駆け回りたいという衝動が湧き上がるが、それは出来ない。…
次の次の北方辺境伯を継ぐかもしれない人物。彼はそれに相応しい人物であるのか。こんなことを考える資格など自分にないことは、ジャラッドには分かっている。騎士は当主がどのような人物であろうと、全身全霊を尽くして仕えるだけ。そうでなければならない…
ブラックバーン家の王都屋敷内には緊迫した空気が漂っている。現当主、北方辺境伯コンラッド・ブラックバーンが領地から王都にやってきたのが、その理由だ。彼の父、ベラトリックス・ブラックバーンも家臣に舐められるような人物ではないが、王都屋敷にいる…
裏社会の縄張り争い。ワ組と彼との戦いはそういうことにされた。当然、それにブラックバーン家が関わっていたなんて話はない。憲兵に連れられていた子供は、犯人ではなくワ組に誘拐されていた被害者。連行されたのではなく保護された、という強引な作り話が…
裏中央通りを西門から城に向かって真っすぐに進み、三つ目の交差点を北側に曲がって、最初の路地。そこを右に折れるとすぐに見えてくる建物は一見、普通の宿屋。入口の扉を抜けるとすぐのところに受付があり、その雰囲気もまた宿屋そのものだ。 だが実際にそ…
ワ組の組長の耳に届いた報告は、化け物と子供に襲われ、五人のうち四人が殺されたというもの。あり得ない事態に、組長であるベージルは激怒した。返り討ちにされたことに怒ったのではない。子供はまだ、喧嘩での彼の実力は分かっているので受け入れられるが…
花街の花は美女と喧嘩。その喧嘩が今日も行われている。ただ、今日の喧嘩は花とするには賑やかさが足りない。始まったばかりの時は、いつものように野次馬の歓声でそれなりに盛り上がっていたのだが、今は皆が固唾をのんで中央で戦う二人を見つめている。彼…
華やかなドレスを身にまとった女性たち。その彼女たちをエスコートする男性の装いも豪奢なものだ。王城で最も大きい広間を、さらにそれに繋がる庭園までも開放して行われているパーティー。王都で暮らす貴族だけでなく、王国中央部に領地を持つ貴族たちも招…
北方辺境伯家の王都屋敷。広大なその屋敷に置かれている家具はどれも一級品。ダイニングセット一つで、庶民であれば、何年も暮らしていける金額であったりする。貴族と平民、それもトップクラスの貴族家と平民の家では、その暮らしに大きな、という表現では…
悲しみを心の内に宿しながらも彼は前に進んでいる。進むしかないのだ。本来、彼の人生において苦難が始まるのは、まだ先のこと。今はその時に備えて、自分を鍛える時だ。実際には、その目的に対する意欲は以前よりも、かなり弱まっているが、自らを鍛えると…
大切な家族。そう思える存在を失った彼だが、その日常は大きく変わらない。変わらな過ぎて、リキなどは、逆に心配になるくらいだ。 朝早くから郊外に出て、走って開墾場所に向かう。開墾と鍛錬を兼ねた作業を行って、午前中の大半を過ごす。その中にはリキ、…
もう何度通ったか数えきれなくなったくらい通い慣れた道。その道を彼は速足で歩いている。本当は駆け出してしまいたいのだが、それを行っては不安が現実のものになってしまうような気がして、逸る気持ちを抑え込んでいるのだ。何もない。あっても、せいぜい…
遂にこの時がやってきた。両親から話を聞かされた彼女の心に浮かんだのは、この思いだ。この段階で説明されたのは養女になることだけなのだが、それでも彼女はこう思う。自分が貴族の養女になることを、彼女は知っていたのだ。養女になるだけでなく、名も変…
危険な目に遭ったことはない、と言えば嘘になる。よそ者には怪しげな人ばかりと思えるだろうが、ずっとこの場所で育った彼女にとっては、皆、ご近所さん。赤ん坊の頃から自分を知っている人たちだ。変な人に絡まれそうになっても周りの人たちが助けてくれる…
桜太夫の行列と共に花街を歩くことになったナラズモ侯爵。道中の好奇の目は心に痛かった。花街の人々は、行列がいつもの太夫道中とは違うことを知っている。ナラズモ侯爵が花街を訪れた理由を知っているのだ。事情を知らない客を除いて、事の成り行きがどう…
彼はまた王家主催のパーティーに参加することになった。開催を聞かされた時、迷うことなく欠席を決めたはずのパーティーだ。だが彼は今こうしてパーティーの場にいる。実家に強制されたからではない。第一王子から参加するように頼まれたからだ。では何故、…
いつものように郊外の開墾地に行き、鍛錬を始めるはずだった彼。だが、そうはならなかった。その場では彼女とリキが先に到着して、彼が現れるのを待っていた。二人だけではない。彼の知らない、同い年か少し上くらいの男の子たちも集まっていたのだ。 「……俺…
朝早く出た彼が屋敷に戻るのは日が暮れてから。そんな生活が長くなっている。彼にとっては本当の家よりも、彼女の家のほうが遥かに居心地が良い。彼女と魔法や勉強についての談義をしたり、彼女の父親と喧嘩の稽古をしたりと自分の家では出来ないことがある…
王家への挨拶が終わった後は、彼は父親とも別れて、いつものように会場の隅で一人でいる。王家と王都在住の守護五家の関係者が一同に会している場だが、彼にそれらの人たちと親交を深めようなんて気持ちはない。そんなことは弟に任せておけば良い。どうせ北…
元々、忙しい彼の一日が、さらに忙しくなった。午前中の始まりはほとんど変わっていない。開墾場所まで走って行き、作業を行いながら筋力を鍛える。合間の休憩時間は魔力の制御訓練。休憩といっても体を動かしての鍛錬を行わないだけだ。それが終わると郊外…
花街は王都内壁内の北東区にある。正確には、内壁の北東部から外にせり出している曲輪のような場所。実際にかつては軍事目的で作られた出曲輪だった。だが外壁が作られ、王都が攻められる事態が遠い過去のものとなったことで、軍事目的としていることが無駄…
彼の日課が変わった。その内容ではなく、それを行う場所を変えたのだ。午前中の鍛錬を行う場所もそう。開墾地まで歩いて二時間の道のりを走りぬき、現地で彼女とリキの二人と合流。開墾作業で汗を流す。途中でリキへの指導を兼ねて魔法の訓練。魔力の活性化…
この世界はゲーム世界。これを彼女は知っている。ゲーム名は「アルデバラン王国動乱記」。シミュレーションロールプレイングゲームだ。前世で何度もやったことのあるお気に入りのゲーム。良く知っているゲーム世界に転生するという、実に都合の良い話だ。 彼…
彼が開墾許可を申請した場所は内壁からはかなり離れた場所。これまで鍛錬を行っていた場所からさらに外壁に向かって、二時間は歩かなければならない場所だ。当たり前だが、内壁に近い耕作地に適した場所は、とっくに誰かの所有地になっている。新しく開墾を…
彼の過去の人生において、今のような楽しい時期はなかった。実際にはあったのかもしれないが、記憶には残っていない。 確実に違っているのは彼女との関係。彼にとって彼女は仇敵。それを彼は出会った瞬間から意識し、婚約者である彼女と距離を置いていた。逆…