
最悪だと思っていた野外授業だったけど、まったく無意味というわけではなかった。価値ある、かはまだ分からないけど、情報も得られた。エミリーは転生者。それも元の世界での俺を知っている同級生、か同じ学校の生徒。これは確実。あいつだと断定出来そうではあるが、それをする意味はない。
そしてかなりの確率でイーサンも転生者だ。エミリーが話していた効率的に強くなる方法。あれは元の世界で得た情報。そうなると、やはり、この世界はゲーム世界ということになる。
もう一人、アントンも、この世界がハーレムゲーム世界で主人公のエミリーに攻略された登場人物でなければ、転生者。転生者三人がつるんで、ゲーム攻略をしているつもりなのだろう。
ここまでの仮説は、自分にとって、あまり良い内容ではない。エミリーが主人公で、残りの二人が取り巻きキャラだとすれば、この世界は三人に有利に動く。主人公補正というやつだ。ゲームストーリーの強制力というほうが、自分にとっては正しい表現。奴等に有利に働く力が正しい力だとは思わない。奴等の人生が上手く行くことを正しいとは自分は思わない。
別に自分の知らないところで転生成功に浮かれているのであれば、どうでも良い。ただ自分が関わることになり、自分の知る人たちが奴らのせいで苦労するのは納得出来ない。
やはり、今回の仕事がなければ良かった。王都に来て、王立騎士養成学校の学生になることがなければ、関りのないところで生きていられた。奴らの存在にイラつくことはなかった。
では、どうするか。物語に介入し、エンディングを変える。なんてことは不可能だろう。物語が学校生活だけで終わるはずがない。その先もある。でも、その時には自分は王都にいない。別の仕事をしているはずだ。自分は物語に影響を与えられる存在ではない。もし、与えられるとしても、せいぜい学校にいる間だけ。それではエンディングは変わらない。
「何を調べているの?」
「一人なのですか?」
「いつも殿下と一緒にいるわけではないわ」
出会ったばかりの頃に比べれば、クリスティーナの感情は少し読みやすくなった。今は少し怒っている。ただ何を怒っているのかは分からない。王子様との仲を揶揄われたと思ったのだろうか。
「それはそうですね。調べているのは加護についてです」
「もしかして野外授業の時に話をしていた?」
「そうです。加護とスキルの関係について調べています。ただ、分かっていたことですけど、情報は少ないですね?」
今のところはだけど、王立騎士養成学校の図書館では求める情報は見つからない。情報がないということではないはず。この世界において加護はとても重要なものだ。どういう加護が存在し、どういうスキルが得られるのか、研究していないはずがない。
王立騎士養成学校で見つからないのは、重要情報だから。学生が知って良いことではないからだろう。
「どうして調べようと思ったのかしら?」
「……あの時、彼女が言った効率的な鍛え方。あれが一般的なものだとすれば、加護が分かれば戦い方も分かると思いませんか?」
「スキルから戦い方を推測するというの? 可能なのかしら?」
「簡単ではありません。得られるスキルはいくつもありますから。でも、相性は分かるかもしれません」
得られるスキルが分かれば、得ていないスキルも分かる。あくまでも効率的な鍛え方とやらを行った人の場合だ。動きの速さに関わるスキルを得ていない相手であれば、他の点で圧倒的に負けていても、自分にも勝ち目が出てくる。セイムに勝てた時のように。
「……それが分かると、カイトに有利ね?」
「あれ?」
「な、何? 別に良いでしょ?」
わざと呼び捨てにしたのか。まさかと思うけど、あの女を意識してなのか。それはないか。クリスティーナは呼び捨てにしたことを指摘されそうになっただけで、顔を真っ赤にしている。こういう可愛げを、あの女も見習うべきだ。
「もちろん、文句はありません」
「そ、そう」
やばいな。ダンジョンに飛ばされた時もそうだったけど、公爵家令嬢としての大人の仮面を外した彼女は、とても可愛い。ツンデレに近いか。王子様もこれにやられたのだろうか。
「有利とまでは言えません。私の戦い方は決まっていて、相手に合わせて変えられない」
速さで上回れる相手であれば、勝率はあがる。でも、そこで負けていると自分に勝ち目はなくなる。他に上回れる部分がないのだ。速さとまあまあ強力な魔法。これ以外の武器がない。
「今は、でしょ?」
「そうだと良いのですけど」
自分は加護に関係なくスキルを得ている。自分が特別だとは思わない。スキルを得られる条件は様々。加護によって得られたスキルだけを鍛えたり、戦ったりしているだけでは得られないスキルもある。
ひとつのスキルを伸ばすという点では、あの女の言った通り、効率的だ。でも、それは結局、戦い方のパターン化を生むだけではないかと思っている。今の自分が<獣速>と<黒炎魔法>に頼りきっていて、ワンパターンの戦い方しか出来ないのと同じだ。
「カイトはどういう鍛え方が一番だと考えているのかしら?」
「その答えは持っていません。どれが一番なんてないのではないですか? ただ、実戦は絶対に数をこなすべきだとは思っています。想定外のことが起こりますから。その分、危険ではありますけど」
パターンが通用しない戦い。結果、勝てなくても得られるものがある。何度も死にそうな目に逢いながらも生き延びてこられたのは、その経験というもののおかげだと思っている。
「カイトはずっとそうしてきた」
「やりたくてやってきたわけではないですけど」
戦うことを強いられてきた。『悪魔の迷宮』で暮らしていた頃は、家族に守られているという安心感があったので、危険とは思わなかったけど、戦わなければならなかったというのは同じ。家族の中で自分一人が役立たずというのは嫌だった。
「……私はどうすれば良いのかしら?」
「ああ、支援役だからですか……私は違う役割なので……でも、これまではどうだったのですか? 成長出来たなと思えた時はないのですか?」
クリスティーナは後衛。魔法で味方を支援する役目。その支援系の魔法を鍛えることが必要なのだろうけど、そういった魔法を持たない自分には鍛え方が分からない。あの女の言う「とにかく使う」が良いようにも思う。
「……カイトとダンジョンで戦っていた時」
「ああ……あの時は助かりました。クリスティーナ様がいなければ微妙でしたね?」
特別強い魔獣がいたわけではないけど、とにかく数が多すぎた。息つく暇もなく襲い掛かってくる魔獣の群れ。その全てを躱しきるのは不可能で、怪我を負いながらの戦い。クリスティーナの治癒魔法がなければ、生きて出られたか怪しいところだ。
先に転送された強い魔獣のせいにしたけど、それがなくても、いつかはダンジョンサチュレーションは起きていたのだろうと思う。
「それは私の台詞だわ。私の場合は微妙ではなく、確実に死んでいた」
「そんな戦いで生き残れたのだから成長もしますか……じゃあ、クリスティーナ様が強くなるには、また私とダンジョンに行くのが一番ですね?」
「そうね……そうしたいかも?」
「…………」
誘われているのか。いや、誘われているとしても鍛錬の為。強くなりたいからだ。勘違いもここまで来ると図々しい。反省しよう。
「……まさかと思うけど……変なこと思い出している?」
「変な……あっ……今思い出した」
「わ、忘れて! 二度と思い出さないで!」
いや、思い出させたのは貴女ですから。綺麗だったな。美人なだけでなく、スタイルも良かった。透き通るような肌というのは、ああいうのを言うのだろう。現実にこんな女性がいて、普通に話せている。これについては、この世界は素晴らしい。転生万歳。
「思い出さないでって、私はお願いしているのだけど?」
「申し訳ありません……」
クリスティーナから人を動揺させるようなことを言ってきて、綺麗な裸を思い出せておいて、そのことに怒って、自分が謝ることになった。ちょっと理不尽だ。
でも、良いか。可愛いは正義。彼女は今笑っている。それで許せる。