月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第53話 王子としての勤め

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 ミネラウヴァ王国では毎年、王家主催で新年を祝う宴が開かれる。恒例行事というものだ。正直、煩わしいという気持ちが強い。招待客の数は百を優に超える。貴族、王国の官僚と王国騎士団の中でも上位者、そして神殿関係者と御用商人も宴に招待される。王都に駐在している他国の外交官も。
 その招待客たちと一言二言、言葉を交わすだけでも、かなりの労力が必要。軽い挨拶程度のやり取りでは済まない相手もいる。会話の内容が楽しければ良い。だが退屈な話を延々続けられるとウンザリしてしまう。そんな内心を隠す術は、すでに身につけているが、それはそれで疲れるものだ。
 こういう時、王子という立場が嫌になる。我が儘だとは分かっていても、湧いてくるこの思いは抑えられない。

 

「ウィリアム殿下。初めてお目にかかります。セイム=マコウでございます」

 

「おお、マコウ男爵か。良く来てくれた」

 

 会いたかった招待客もいる。マコウ男爵はその一人だ。彼の領地の近くにあるダンジョンで起きたダンジョンサチュレーションで、クリスティーナを冤罪から救ってくれた恩人。直に御礼を伝えたいと思い、私に許されている招待枠を使って、来てもらった。

 

「この度はご招待いただきありがとうございます。私のような者を招待していただけるなど、過分なご配慮に恐縮しております」

 

「そのように思う必要はない。男爵にはクリスティーナが世話になった恩がある」

 

「そ、それは……」

 

 マコウ男爵の表情が強張った。緊張とは違う。怯えのような表情だ。どうして、このような反応を見せるのか。理由が分からない。

 

「男爵が真相を究明してくれたおかげで、クリスティーナの無実は明らかになったのだが……」

 

「その件ですか……いえ、その件だとしても、殿下に恩などと思われるようなことはしておりません」

 

 マコウ男爵は謙遜を知る人物のようだ。恩に着せてくるような人物ではないと分かったことも良かった。ただ「その件」という言葉は気になる。別に何かあるということなのか。あるとすれば、それは何か。

 

「他に何かあるのか?」

 

「……カイト=メル殿から何もお聞きになっていないのですか?」

 

「カイト……カイトからは報告を受けている。ダンジョンサチュレーションは住民には大きな被害を出さずに終わったと……他にも何か?」

 

 カイトからはマコウ男爵について、ほとんど話がなかった。駐留騎士団に問題があったようで、それを調べていたという程度だ。だが、マコウ男爵の聞き方は、それだけではない何かがあることを示している。カイトは何かを隠しているということだ。

 

「……恐れながら、私の口から話して良いものなのか……少なくとも、この場でお話することではないと考えます」

 

 誰が聞き耳を立てているか分からない、この場所では話せない。こういう意味だと理解した。やはり、カイトは何か隠し事をしている。何を隠しているのか。何故、隠したのか。本人に聞けば、素直に白状するか。しないだろうと思う。私は知るべきではないとカイトは思ったのだ。

 

「……宴の後に別の場を設ける。そこで聞かせてもらいたい」

 

「しかし……いえ、承知しました」

 

 マコウ男爵は少し躊躇いを見せたが、受け入れた。自国の王子の頼み、命令として受け取ったのだろう。

 

「では、後ほど」

 

「はっ」

 

 この場を離れていくマコウ男爵。心なしかその足取りは重いように見える。カイトの隠し事を話すことへの躊躇いがまだ残っているのだと、勝手に、考えた。
 カイトが何を隠しているのか私は知らなければならない。悪事だとは思っていない。悪事だとしてもクリスティーナの為だ。彼はクリスティーナを守るために、転移魔法を使って、現地に戻った。これがもう罪なのだ。
 彼が現地に戻った結果、クリスティーナの冤罪は晴れた。真犯人が見つかっただけでなく、駐屯騎士団の不正まで暴かれた。この事実はマコウ男爵が調査した結果となっているが、きっとカイトも関わっているのだろう。私は、ただ王都で待っているだけであったのに。

 

「どうした? 周囲の者たちが近づけないでいるよ?」

 

「兄上」

 

 兄上が声をかけてきた。そうしてしまうほど、私の雰囲気はおかしかったのだろうか。「周囲の者たちが近づけないでいる」と兄上は言った。そういうことなのだろう。

 

「何か心配ごとかな? そうだとしても、今ここで考えることではないね」

 

「申し訳ありません」

 

「ウィリアム。私のほうが、お前に負担をかけてしまっていることを申し訳なく思っている。私に背負えることであれば、遠慮なく任せてくれ」

 

 兄上は優しい。この優しさが国を治めるのに必要だと私は思っている。一部の者たちは私が勇者だから次期国王にと考えている。だがどうして勇者を国王に相応しいと思うのか。魔族と戦う力だけで、国を豊かに出来るのか、民を幸せに出来るのか。私は違うと思う。
 国を、民を守る力にはなれる。だから私はそれをする。だが国王は兄上だ。私は兄上が治める国を守る為に戦うのだ。

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、違うのです。心配ごとではなく……ちょっと……勝てないなと思う男がいて……」

 

「ウィリアムに? それは驚きだ。でも……良いことだね?」

 

「良いこと、ですか?」

 

 兄上に泣き言を漏らしてしまった。このような場で。兄上は「良いことだ」と言ってきた。何が「良いこと」なのだろう。

 

「背中を追いかける相手がいるのといないのとでは、いるほうが楽だと思うよ? 進む方向を迷わないで済む。孤独を感じることもない」

 

「……そうですね」

 

 兄上の言う通りかもしれない。「進む方向を迷わないで済む」というのは、少し違うかなとは思う。同じ場所を目指していないことが分かるから。でも、勇者という漠然とした目標よりも、遥かに目指すものが分かりやすい。自分はまだまだ。こう思うと人々が期待する勇者になるという重圧から、少し解放される気がする。勇者を目指す前にやらなければならないことが明確になるから。一歩一歩進むしかない。こう思えるとその一歩に手応えを感じられるようになる。

 

「しかし……ウィリアムにそんな相手が? 驚きだ。アントンやイーサンではないね。二人はそういう存在にはなりえない」

 

「……どうしてそう思うのですか?」

 

 幼い頃から、何であれ、競い合ってきた二人。でも兄上は、二人は私が背中を追う相手ではないと断言した。断言できるほどの理由があるのだ。

 

「二人はウィリアムを気にしているから。背中を追いかけたいと思える相手は、追いかける側を見ていない。先を見ているから背中が見えるのだよ」

 

「……そうですね」

 

 兄上の言葉に納得した。私のことを気にしていない。見るべきものを、自分が目指す先を、もしかすると、守るべき人だけを見ているのかもしれない。

 

「そういう相手に出会った。良い出会いだ」

 

「……兄上も私が背中を追いかける相手です」

 

「嬉しいことを言ってくれるね? でも、私などはさっさと追い抜いて、もっと先に進んでくれ。ウィリアムは私の自慢の弟だからね」

 

 この人が王として治めるミネラウヴァ王国を私は守る。その為に強くなる。その為に出来る全てを行う。改めて。これを誓った。

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