ファンタジー小説
レグルスが立っているのは王都から一週間ほど西に移動した場所となる街道。王都を中心に四方に伸びる主要街道とは違う、そこから外れた支線というような道で、さらにその行き着く先は登山口とあって、道行く人の姿は見えない。そんな場所に、どうしてレグル…
アリシアが知る限り、居住地から逃げ出したカリバ族は捕まっていない。実際にどうかは分からないが、捕まったという情報は、アリシアには届いていた。ジークフリート王子も聞いていないと言っている。 アリシアは居住地でジークフリート王子、白金騎士団と合…
何の考えもなくカリバ族の居住地に入ったアリシア。領主の犯罪に加担していた者たちを捕まえるという時間稼ぎの口実は、当然だが、現実のものとはならない。それが出来るのであれば、とっくに行っている。アリシアは、まったく手がかりが掴めなくて、悩んで…
カリバ族の協力を得て、領主が犯罪を行っている証拠を手に入れようとしているアリシア。だが、それは上手く行っていない。カリバ族が協力してくれるといっても、そのカリバ族の中に、自らの意志で犯罪に加担している者がいるのだ。しかもそれが誰かは、まっ…
エリザベス王女とゲルメニア族との交渉とは異なる時と場所でも、王国と少数民族との間で交渉が行われている。少数民族は王国中央北西部に暮らすカリバ族。王国側の交渉役はジークフリート王子だ。元々反抗的なカリバ族が大規模な反乱を起こそうとしている。…
ゲルマニア族との和解交渉を終えたエリザベス王女は、そのままゲルマニア族の居住地に向かった。彼女にとっては、こちらのほうが一番の目的。レグルスの母方の血、ゲルマニア族の人々との関係を深めたいと考えているのだ。 ブラックバーン家からはジャラッド…
モルクインゴンにエリザベス王女が到着したのは、当初予定から二か月遅れ。予定が狂うことは使者を送って伝えていたので、到着を待ちわびる気持ちはあっても、交渉そのものに問題はなかった。モルクブラックバーン家もゲルメニア族も、その日が訪れるのを、…
レグルスの指示を受けた暁光騎士団、というよりエモンとその仲間たちの動きは早かった。あらかじめ犯人と繋がりがあるのではないかと疑われる人物の洗い出しは終わっている。全員の証拠を調べ上げる時間はなかったが、そんなものは関係ない。手段を選ぶ必要…
ジークフリート王子率いる白金騎士団の初任務。それは王国中央の北西部。西方辺境伯領に近い位置にある山地を居住地とするカリバ族の反乱鎮圧となった。正式な命令は、大規模な反抗の恐れがあるので、実際に事が起きる前にカリバ族を抑え込めというもの。戦…
キャンベル子爵令嬢誘拐事件。この場所でまた誘拐事件が起きているという事実はエリザベス王女を驚かせた。キャンベル子爵自身にその事実を確認したことで、レグルスたちは同行している諜報部にも協力を仰いで、本格的な調査に入る。難しい調査だ。事件が起…
旧テイラー伯爵領は現在、王国の直轄地ということになっている。公式書類ではそうなっているということであり、実際には新しい領主、正しくは領主候補、はいる。 キャンベル子爵がその人だ。子爵の身分で伯爵領を継ぐということではなく、近々、伯爵位を与え…
レグルスは大きな荷物を背負って街道を歩いている。同行しているのはスカルとココ。他の団員たちも同じ目的地、旧テイラー伯爵領に向かっているのだが、別行動をとっているのだ。そうする理由は。 「騎士には思われないかもしれないけど、隠密行動にはなって…
ハートランドでの任務を終えて、レグルスたちは王都へ帰還した。次の目的地は北方辺境伯家の領地、分家のモルクブラックバーン家が治めるモルクインゴンだ。そう決まったのは、暁光騎士団の任務というより、エリザベス王女のゲルメニア族に会いたいという望…
ラクランの地元であるハートランドは王都から南西の方角にある。王国中央部に属する地域で、王都からは半月で到着する場所だ。王都から近いといえる距離にあるハートランドだが、大きな街道からは外れていて交通の便は良いとは言えない。山地が多くて平野は…
白金騎士団は王国騎士団の下部組織となっているが、その運営はジークフリート王子にほぼ全て任されている。これはエリザベス王女の騎士団と同じだ。先に創設された白金騎士団がそのような運営形態であったので、エリザベス王女の騎士団もそのようになったと…
後方支援組織が入っている騎士団官舎は敷地の中央部にある。どの組織からも一定の距離にあるという条件で、そこが選ばれているのだ。そうはいっても王国騎士団の中枢、騎士団長を始めとした将たちの部屋はすぐ隣の建物の中にある。全てが平等というわけでは…
エリザベス王女が、自分が団長となる騎士団を創設するという噂は、かなり広がっていた。ジークフリート王子が創設した白金騎士団もそうであるように、エリザベス王女の騎士団も組織上は王国騎士団の下部組織になる。新しい下部組織を創設するのであるから、…
いつもは実技授業を行っている訓練場に多くの人が集まっている。武系コースの学院生だけでなく、文系コースの学院生たち、それといくつかの有力貴族家の人たちが集まっているのだ。 行われているのは、卒業を目前に控えての求人求職フェアのようなもの。貴族…
エリザベス王女誘拐事件は、かなり遅れて王都に伝わって来た。現場からは、ただ移動するだけで一か月ほどの距離がある。遅れて伝わるのは当然のこと。とはいえ、時間がかかり過ぎている。エリザベス王女はすでに救出され、王都に戻ってきているのだ。 事件を…
エリザベス王女救出作戦において、レグルスの参加は公式の記録には残されていない。作戦は諜報部と王国騎士団だけで行われ、そして成功した。こういうことになっている。レグルスの参加は公式には諜報部の独断。国王を始めとして分かっている人は分かってい…
通路に金属音が響いた。見張りとしてその場にいたテイラー伯爵家の騎士にとっては驚きの出来事。開くはずのない鍵が、勝手に開いたのだ。驚かないではいられない。 何が起きたのか分からないまま、あまり考えることなく、扉に近づいたのがその騎士の不幸。と…
ゲルメニア族の居住地を出て、山を下りたレグルスは、モルクインゴンの街に寄ることなく真っすぐに現地に向かった。出来るだけ作戦決行までに準備する時間が欲しいというのが一番の理由。もう一つの理由は同行者がいるからだ。諜報部長ではない。ゲルメニア…
王国諜報部長との面会は、いつも食事会が行われている建物で行われることになった。参加者もいつもと同じだ。当たり前かもしれないが、二人きりで話をすることなど許されなかった。レグルスにとっては、どうでも良いことだ。どうせ後で根掘り葉掘り聞かれる…
モルクインゴンの街に大きな動きはない。新たな戦いに向けての動きがないだけで、崩壊した砦の再構築作業などは行われている。モルクブラックバーン家の戦いは防衛戦。山岳地帯への侵攻など出来ない、行っても大きな被害を出すだけなので、ゲルメニア族側か…
王都で会議が開かれる半月前――エリザベス王女拉致事件の発生から、現地では何度も作戦会議が行われていた。だがいくら会議を重ねても、妙案は出てこない。逆に、救出作戦の成功を困難にする事実が増えるばかりだ。それでも諜報部は諦めることなく、調査を続…
レグルスの行動範囲が広がった。これまでは牢の中と、その牢のすぐ前の広場だけが行動範囲だった。たまに、レグルスにとっては意味不明の食事会に参加することがあるが、その場所は行動範囲とはレグルスは考えない。食事会の参加は強制されたもの。自由に動…
レグルス戦死の情報が王都に届いたのは戦いから三か月後のこと。伝令の移動速度を考えると、一か月以上、ブラックバーン家は報告を留めたということになる。意味があってのことではない。戦場を分析し、生きている可能性はないと判断するまでに必要な期間。…
砦から退却したドミニク率いるモルクブラックバーン家軍。そのままモルクインゴンの街で籠城戦を挑む、ということにはならなかった。ゲルメニア族がいつまで経っても、侵攻してこないのだ。何も分からないままでは対処のしようがない。ゲルメニア族相手では…
手足はずっと拘束されたまま。牢から出されることもない。不自由があるとすれば、それくらい。レグルスにとっては、それほど不快な生活環境ではない。牢の奥には水が流れている場所があり、体を洗うことが出来る。排泄も水が流してくれるので、不潔ではない…
魔道が起動し、魔道石に込められていた魔力が活性化する。巨大な魔道石に、長い時をかけて蓄積された魔力。眠っていたそれが起き上り、大きく膨れ上がっていく。魔力を扱えない人でも、近くにいればそれをはっきりと感じられるくらいの強烈な魔力の膨張だ。 …