ファンタジー小説
二戦連続での敗北。それも圧倒的に有利な状況からの惨敗だ。その結果がもたらしたものは大きかった。王国北部はほぼ反乱軍一色に染まる。北部貴族はブラックバーン家に、形としてはエリザベスに、仕えることを選択したのだ。北部だけではない。各地でブラッ…
戦いの帰趨を決めるかもしれない戦いが始まろうとしている。こう考えているのはブラックバーン家、そしてアルデバラン王国上層部の一部だけで、大多数は、この先も続く戦いの中のひとつ、それも反乱鎮圧に向けた戦いの始まりだという認識だ。 そう思われる理…
王国の重臣会議。今日の会議は、通常の参加者ではなく、その中から更に人選を行って、開かれている。多くに知らせるにはまだ早い情報。未確定な部分が多いというだけでなく、伝える人を選ばなければならない重要な情報がもたらされたのだ。アルデバラン王国…
アルデバラン王国西部に侵攻したエルタニン王国軍を撃退する為に派遣された王国騎士団。総指揮官は王国騎士団三神将の一人、オーガスティン中将。領土内に他国が侵攻したという一大事だ。三神将が総指揮官を努めるのは当然のこと。ただ彼が任命された理由は…
アルデバラン王国騎士団との一戦での勝利で盛り返したブラックバーン家軍。一度は王国に降伏したブラックバーン騎士団や家臣たちが味方に戻ったことで戦力も充実。勢いに乗って、王都に向かって進軍を開始する、ことにはならなかった。 情勢はそこまで甘くな…
ジークフリート王は今日も重臣たちを招集して、会議を行っている。王国全土で事が動いている。その勢いを止めることなく、次の一手を繰り出していかなければならない。世界制覇までは、まだ道は遠いはず。のんびりしている余裕はないのだ。今は何もかも自分…
エリザベスを担いだ反乱は、それを起こした側にとっては上手く行っていない。要因はいくつかある。ひとつは、反乱を起こす側であるのに後手に回ってしまったこと。エリザベスが旗印となる前、アルデバラン王国とブラックバーン本家に反旗を翻した人たちは、…
戦争中は軍同士の戦闘以外の、表には出ない闘争も行われている。諜者同士の戦いだ。戦時中でなくてもある戦いだが、平常時と異なるのは躊躇うことなく敵側を殺すこと。泳がせて相手の意図を探るなんて真似はしない。少しでも多くの情報を入手すること、情報…
ジークフリート王はご機嫌だ。いくつかの誤算はあったが、主導権を握ってからは、自分が求める通りに物事は進んでいる。順調と評価できる状況だ。 姉のエリザベスは行方不明。所在が明らかになることはない。すでに死んでいて、死体はどこかに埋められている…
東方辺境伯領ほどではないが、西方辺境伯家の状況も慌しい。辺境伯家は王国の守りの要、とはなっているが、近年は自国の領土を攻められることなど、ほとんど想定していない。一方的に攻め込む側だったのだ。 そうはいっても備えは万全。エルタニン王国軍が全…
物事はジークフリート王の、もしくはジョーディーの思い描く通りに進んでいる。そんなことにはならない。そんな簡単に物事が進むのであれば、ジークフリート王かジョーディーのどちらかが、とっくに目的を果たしている。想定外のことが起きるからゲームは、…
さすがに、城内に女性を連れ込んで遊び惚けることをずっと続けるなんて真似は、ジョーディー新王には許されない。王としての責務を果たさなければならない。しかも今は国難の時、と言っても良いくらいの状況。考えるべきこと、決めるべきことは山ほどあるの…
サマンサアンは王妃になる。その座を奪うはずだったアリシアのほうが今回、絞首台に昇った。何度も何度も繰り返された悲劇が、ようやく回避されたのだ。 そうであるのにジョーディーの気持ちは晴れない。今の状況に心を痛めている。彼の目的はサマンサアンを…
国王の急逝を受けて、王国は速やかに次の国王を決定した。ジークフリート王子がその人だ。長幼の序を守れば、ジュリアン王子が次の国王となるべき。こういう声は当然あった。どちらに決まるにしても片方が不在の間に決定するのはいかがなものか、という意見…
花街での出来事は、その日のうちに国王の耳に届いた。花街と国王の間には特別な繋がりがある。隠すことなど出来ない。それでも国王は一日の間を空けた。自分に花街での話を伝えてきた者を、ジークフリート王子に推測させない為だ。それでもジークフリート王…
我ながら馬鹿なことをしたものだとアリシアは思う。あの場は惚けておけば良かったのだ。サマンサアンは確たる証拠をもっていたわけではない。だから自分に白状させようとした。あとから考えて、それが分かった。 仮にその場を逃れた後に証拠が見つかっても、…
国民の人気を集めるアリシアとジュリアン王子を結婚させて、王家への支持を高め、慶事を作ることで乱れている世の中への不満から目を逸らさせる、という国王の計画は失敗。それも最悪の形で終わることになった。 アリシアは、罪状はまだ確定していないが、牢…
レグルスが暗殺された。この情報はオーウェンからエリザベス王女に、エリザベス王女から国王に伝えられた。そこから先は、ある意味いつものように、極限られた人物だけが知ることになる。具体的にはジュリアン王子、宰相、諜報部長、あとは王国騎士団長の四…
物事が、当事者を除け者にして、先に進んでいく。 ジュリアン王子とアリシアの結婚手続きが、双方の合意を待つことなく、動き出したのだ。もちろん、今の段階では正式に公表はされていない。あくまでも下準備という段階だ。 だがその動きを王国は、国王は隠…
一度は焼き払われた木々も少しづつ、かつての姿を取り戻そうとしている。まだ若い木々ばかりで、完全に陽の光を遮るほどには生い茂っていないが、森に出来た影の中には、今も危険なアンデッドモンスターが潜んでいる。腐死者の森の危険度はすでにかつてと同…
ソルを斬り捨てようと剣を振りかぶったアルノルトの前に飛び出してきたのはルナ。ソルを背に、両腕、両足を広げて、アルノルトの剣から守ろうとしている。父であるアルノルトを睨みつけているルナ。その彼女に向けるアルノルトの視線も厳しいものだ。 「どう…
死屍累々。多くの屍が地面に倒れている中、ソルは一人立っている。竜王軍の中隊はほぼ全滅。逃げる間も与えられなかった。仮にソルに背を向けて逃げ出していたとしても、味方に殺されるだけであることが分かっているからでもある。アルノルトの命令を受けて…
味方と別れて、たった一人で竜王軍の陣に向かうソル。背負っているのは、遠くからでは分からないが、幾本もの剣。全ての剣が竜殺し、ドラゴンスレイヤーなど呼び方は様々だが、腐死者の森の墓地から持ち出してきた、名剣とされる剣だ。 ソルの行動に反応して…
その時を間近に控え、ツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイは慌しさを増している。ソルの下には各地から情報が届いている。当初は治安の悪化と物資不足を訴える陳情書ばかりだったが、ある時期からそれとは異なる情報も混じってきた。公国領内を軍…
軍人として動乱に関わっている人たち以外の多くの民衆はまだ気が付いていないが、戦場が一か所にまとまろうとしている。ツヴァイセンファルケ公国に竜王軍、そして連合軍も向かっているのだ。連合軍のほうは、まだツヴァイセンファルケ公国で何が起きている…
ツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイの城の一室。公国主の執務室であった部屋の机にソルは座っている。自ら望んでそうしているわけではない。ツヴァイセンファルケ公国残留軍の指揮官であったホークウェルに呼ばれて、この部屋にやって来たのだ。 …
ソルはツヴァイセンファルケ公国の公都フォークネレイまで、あと一日の距離までやってきた。予定よりも早い進軍。ある時期を境に、ツヴァイセンファルケ公国軍の抵抗が弱まった結果だ。 公都の守りに戦力を集中させる為など理由は考えたが、それはソルにとっ…
一騎当千。戦場での竜王アルノルトの活躍は、その表現では物足りない凄まじさだ。圧倒的なアルノルトの力を前にして、オスティゲル公国は戦術の見直しを行った。アルノルトを倒せば戦いは終わり。この考えは変わっていないが、まずは竜王軍全体の戦力を削る…
空には満月が浮かんでいる。のんびりと眺めている場合ではないのだが、ソルは空に浮かぶ月から目を離すことが出来ないでいた。やるべきことは分かっている。監禁されているというルナを助けに行く。だが決めているのはそれだけだ。どうやって助けるのか。無…
クリスティアン率いる竜王軍にツェンタルヒルシュ公国への補給線を断たれた状況で、ルシェルもただ手をこまねいているだけでは終わらなかった。補給線を回復する為に、領地に残っていたノルデンヴォルフ公国軍を率いて、出撃した。数は五千。補給を妨害する…