月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

ファンタジー小説-勇者の影で生まれた英雄

勇者の影で生まれた英雄 #61 銀狼兵団

グレンはローズたちを連れてゼクソンの王都に辿り着いた。 同行したのは三十名。信頼出来る者だけを厳選した結果だ。グレンとローズを入れて総勢三十二名の一行は、王都に入るとすぐに丸々借り上げられた宿屋に案内された。 それだけの人数で戻ってきたこと…

勇者の影で生まれた英雄 #60 接近

裏町を出た健太郎と結衣は、予定通り買い物をする為に表通りの店に入った。あらかじめ決めていた店だ。 人の行き来の多い大通りに面している店であるのだが、他に客の姿はない。店の方で気を使って人払いをしたのか、そもそも普段からこのようなのか分からな…

勇者の影で生まれた英雄 #59 代役

ここ最近ずっと健太郎のイライラは止まらない。自慢気に異世界の知識をひけらかしてみても、そのほとんどを金が掛かるという理由で否定されてしまう。大将軍という地位に就き、軍の頂点に立ったと聞かされているのに、結局は自分の思ったようには物事が進ま…

勇者の影で生まれた英雄 #58 勇者のつまずき

――グレンたちが王都を発って数日後。 ウェヌス国軍の兵舎の会議室では、いくつもの会議が行われていた。今は三一○一○中隊が会議中だ。会議といってもその内容は第三軍の実質的な解散の通達だった。 「第三軍は丸々、勇者の直轄軍になることに決まった。所属…

勇者の影で生まれた英雄 #57 グレンの秘密

――ローズの正体はソフィア・ローズ・セントフォーリア。大陸を統べていたエイトフォリウム帝国の皇族。 執事の衝撃の告白からグレンが立ち直るには、長い時間を要した。ようやく口を開いて出来てきたのは。 「嘘ですよね?」 否定の言葉だった。執事が嘘をつ…

勇者の影で生まれた英雄 #56 ローズの秘密

幾本もの木々が整然と立ち並ぶ緑豊かなその場所はウェヌス王都の墓地。木々の間には白い墓石が、これもまた整然と並んでいる。 人気のないその場所に一人佇む男の姿があった。漆黒の髪、どこにでもいそうな商人の様な姿をしたその男は、グレンだ。 墓石にフ…

勇者の影で生まれた英雄 #55 ちぎれた鎖

翌日、何の先触れもないままにゼクソン国王は採掘場にやってきた。 それなりに豪奢な馬車を囲む騎馬がわずかに十騎。一国の王としては身軽な移動だろう。それを確認しながらも、グレンはいつまでも視線をそれに向けることなく、自分の仕事に取り掛かった。 …

勇者の影で生まれた英雄 #54 虜囚の身

一本の木も生えていない赤茶けた岩肌を晒している荒涼とした山の麓。 そこでは多くの人間がボロ衣を纏って忙しく働いていた。山壁に大きく開けられた洞窟。そこから次々と運び出された岩は何か所かに積まれていき、それをまた大金槌を持った者たちが細かく砕…

勇者の影で生まれた英雄 #53 上に立つ者の重み

城内の食事室。今日も健太郎たちは打ち合わせを行っていた。 今日は、いつもよりも健太郎は飛ばしていた。少しでも早く自分の軍を、こんな思いがあらぬ方向に進んでいるのだ。 「駐屯地の名前はトキオが良いと思う」 「はっ?」 「僕の軍の駐屯地だから僕の…

勇者の影で生まれた英雄 #52 悲劇

フローラとメアリー王女のことを知っても健太郎と結衣の心情は大きくは変わっていない。二人のそれが変わる時は、このまま来ないのかもしれない。二人のどちらかがこの世界で命を落とすまでは。 夕食の後、そのまま食事室に留まって打ち合わせをしている二人…

勇者の影で生まれた英雄 #51 違い

城内の食事室。かつてはメアリー王女と健太郎たち、そしてグレンが集っていたその場所は、今は面子を代えた話し合いの場になっていた。 集まっている面子は健太郎と結衣、そしてジョシュア王太子と勇者親衛隊の副官であるマークの四人だ。 ウェヌス王国にと…

勇者の影で生まれた英雄 #50 愚行

敗戦の第一報が入った時点では、動揺はしても戦争である以上はそういうこともあると冷静に受け止めていた軍上層部も、続報が入るにつれて大混乱に陥っていった。 王都とエステスト城塞の間を多くの軍使が行き来し、情報のやり取りが行われた結果、決められた…

勇者の影で生まれた英雄 #49 退却戦

アシュラム国境から少しゼクソン側に街道を戻った場所。 アシュラム国境から少しゼクソン側に街道を戻った場所。 そこには迫り来るアシュラム軍を懸命に防いでいるウェヌス国軍の姿があった。どの兵士も満身創痍と言って良い状態だ。 崩壊寸前の部隊を支えて…

勇者の影で生まれた英雄 #48 勇者の野心

いよいよ先軍が国境を越える日となった。 予定からは二日遅れているが、その理由は公表されていない。知っているのは、一部の将だけだ。前日に総大将であるハドスン将軍の名によって密やかに通達された内容は、ゼクソンが裏切る可能性がある、いざという事態…

勇者の影で生まれた英雄 #47 裏切りの気配

ゼクソンとの国境にある城塞は、両国を結ぶ街道のすぐ脇、街道南側の丘陵突端に築かれており、常時二千程のウェヌス国軍東方辺境師団が駐屯している。 街道をそのまま東に進むと、少し先に両側から山がせり出している地点があり、そこを抜けるともうそこはゼ…

勇者の影で生まれた英雄 #46 夢物語

夜の野営地に並ぶ多くの天幕。その幾つかの中からは、今夜も嬌声が聞こえてくる。行軍の最初の頃は少なかったそれも今ではかなり数も増え、聞こえる声も大きくなってきている。 グレンは、この状況を批判する気にはなれなくなっていた。戦地に近付くにつれて…

勇者の影で生まれた英雄 #45 行軍中も鬱陶しい

ウェヌス王国の王都から東に延びる街道を多くの人馬が進んでいる。戦争に向かうウェヌス王国騎士団の隊列だ。 王都を出立したウェヌス王国騎士団は、軍団単位に分かれて進軍を続けることになった。行軍の規模を小さくして進軍速度を上げる為だ。形式だけとは…

勇者の影で生まれた英雄 #44 一つの区切り

出陣式当日。騎士団は慌ただしく準備に追われていた。 国王を筆頭に王族が一同に会する式である。晴れ姿を披露しようと、騎士たちは自慢の鎧兜をピカピカに磨き上げて式に臨むのだ。 式が終われば直ぐに出陣となる。戦争に臨む前の最後の華やかな式典。戦争…

勇者の影で生まれた英雄 #43 触れ合う想い

国軍が王都から出陣した。中隊単位に分かれての密やかな出立だ。王都から少し離れた場所で集合して、ゼクソン国境の砦に向かうことになる。 密やかなと言っても見る人が見れば分かる。毎日のように王都から国軍部隊が幾つも出て行って戻らないとなれば、それ…

勇者の影で生まれた英雄 #42 王女殿下の贈り物

グレンたちの仕事の期限が近づいて来ていた。 グレンとしてはいささか不本意な状況ではある。やはり期限までには全てをやりきる事は出来そうもないからだ。それでも、自分たちなりに見つけた問題点をあげて、それの改善案を策定し、それに基づく行軍計画を粗…

勇者の影で生まれた英雄 #41 招かれざる訪問者

フローラが頻繁に訪れるようになったグレンの執務室は更に活気が溢れるようになった。グレンが望まない方向に。 今、グレンはそれを無視して、仕事を行っているところだ。 「資料の検証が一通り終わったところで気になるのは、やはり騎士団だな。行軍からし…

勇者の影で生まれた英雄 #40 胸に抱く想い

戦争の準備が本格化し、軍部は大わらわ。特に指揮官クラスは連日、朝から晩まで会議と演習を繰り返す毎日だ。 そんな中で唯一といっても良い例外が健太郎。勇者親衛隊の隊長である健太郎は指揮官ではあっても戦術を検討する会議に呼ばれることはなく、演習に…

勇者の影で生まれた英雄 #39 まさかの訪問者

アシュラム侵攻軍の編成が正式に決定された。正式と言っても表向きはゼクソン侵攻軍という名目になってはいるのだが。 侵攻軍は大きく三軍に分かれる。先鋒軍として全軍に先駆けて進むのが王国騎士団第一大隊および国軍第二軍の前備五大隊六千。率いる軍団長…

勇者の影で生まれた英雄 #38 新しい仕事

結衣との会話によってムカムカした気持ちを抱えながらも、グレンは顔見知りの侍女を見つけて伝言を頼んだ。結衣に頼んだ侍女への伝言だ。 結衣は伝えておくと言ったが、グレンはもう結衣の言葉を信じられなくなっている。 伝言の中身を聞いて少し驚いた顔を…

勇者の影で生まれた英雄 #37 せつなさと苛立ちと

グレンが勇者付騎士から外れる事が正式に通達された。 国王直々の通達。実際には署名だけにせよ、それを短期間で実現したゴードン大将軍の国王への影響力はかなりのものだと分かる。 それでもたかが準騎士一人のこと。勇者付という点で、多少の注目を集める…

勇者の影で生まれた英雄 #36 出所祝い

五日間の独房送りを終えて、グレンは宿屋に戻っていた。 真っ先に行ったのは体を洗うことだ。久しぶりの帰宅に抱きついてきてグレンをどぎまぎさせたフローラも、さすがに五日間の汗の匂いには辟易したようで、すぐに離れて水場への直行を命じた。 何度も水…

勇者の影で生まれた英雄 #35 グレンの価値

グレンの処分は翌日には決まった。こんなくだらない事件で、グレンの活動を長く止めておきたくないというトルーマン元帥と複数の将たちの意向からだ。 処罰は独房送り五日。ただの喧嘩としては厳しくはあるが、上職への反抗と捉えると軽い処分だ。折衷案を選…

勇者の影で生まれた英雄 #34 衝突

調練場に健太郎と親衛隊が現れた。 失敗に終わったと思った説得が功を奏したのかと思ったグレンであったが、それが誤りだとすぐに分かった。 彼等に鍛錬をするつもりはない。ただ冷やかしに現れただけだった。 「おい! 何だ、その振りは!? そんな剣で人を…

勇者の影で生まれた英雄 #33 空想の中で生きる人

城内の食事室は重苦しい雰囲気に包まれていた。 この場にいるのは、グレンとメアリー王女。そして健太郎と結衣の四人だ。 メアリー王女に呼び出されて食事室に来た健太郎は、隣の席にグレンが座っていたことで、何の用件か分かったのだろう。少しふてくされ…

勇者の影で生まれた英雄 #32 勇者の悪評

グレンの指導の下、従卒たちの厳しい調練は続いていた。 そんなある日。グレンに近づいてきたのは、いつもの通り、トルーマン元帥だった。 「調練はどうだ?」 「正直、思うようには進んでおりません」 「ほう。そう、うまくはいかんか」 グレンの泣き言を聞…