
真実は明らかになった。細かい点で、元々考えていたこととは違っていたが、概ね彼が話していた通りだ。ダンジョンサチュレーションを起こした犯人は駐屯騎士団の団長。きっかけも彼の言った通り、ダンジョンの奥に踏み入った結果、凶悪な魔物を刺激したということで間違いなさそうだ。
最初に我々が検知した異常も。これは彼の推測だが、ダンジョンサチュレーションと言えばダンジョンサチュレーションだった。原因は彼が送られてきた転移魔法。彼とクリスティーナ様が転移させられる前に、凶悪な魔獣が送られてきていたということだ。
元いた魔物たちより強い魔物がダンジョンに生まれると、その強者が支配地域を広げ、元いた魔物たちの縄張りが狭くなる。居住地域が狭まれば、それは数が増え過ぎた時と同じ。別の場所、つまり、ダンジョンの外に飛び出すことになる。それが起きようとしていたのだ。
転移させられた彼とクリスティーナ様は脱出する時に、その飽和状態の魔物に遭遇し、それと戦い、討った。結果、数を大きく減らしたことでダンジョンサチュレーションが実際に起きることは避けられたのだ。これは駐屯騎士団の騎士たちが事実だと認めた。
魔物が大きく数を減らしたことでダンジョン探索は容易になった。駐屯騎士団長はそれを利用したのだ。未到達のダンジョンの奥に部下と共に進み、新たな通路を発見し、さらに進んだ。
ダンジョンの様子は一変。広大な空間が広がっていた。これまで見たこともない魔物や魔獣がそこにいた、らしい。これは駐屯騎士団の騎士たちの証言。私の部下は確認していない。またそこにいる魔物を刺激してしまうことを避ける為に、調査はその手前まで。それで十分だった。部下が確認したのは何者かが洞窟を広げた形跡。駐屯騎士団が狭くなっていた場所を大きく広げてしまったのだ。当然、巨大な魔物が通り抜けられるようになったのは結果で、目的は宝を運び出すのに邪魔にならないようにだ。
こういうことだ。盗掘からダンジョンを守る役目を任された駐屯騎士団が、盗掘を行っていたのだ。駐屯騎士団の騎士たちの証言を信じるのであれば、ここまで大胆な盗掘は過去、一度も行っていないそうだ。だが、実際に掘り出された宝、ダンジョンの宝らしい宝ではなく魔石や鉱物だが、の量と帳簿に付けられた量に差があるという噂は知っていた。駐屯騎士団長が帳簿を誤魔化し、私服を肥やしていたということだ。
これらの調査結果と駐屯騎士団の騎士たちを尋問した時の調書、それと事件についての考察をまとめ、すでに王都に送った。そう遠くないうちに王都から指示が届くだろう。駐屯騎士団の処分について。これでまだクリスティーナ様が犯人だと疑うのは無理がある。事実、犯人ではない。
ただ、あまりに出来過ぎている。偶然が偶然を呼び、結果、駐屯騎士団の悪事が露わになった。もし彼とクリスティーナ様が転移されなければ。もしその時、ダンジョンサチュレーションがすでに起きた後だったら。逆にダンジョンサチュレーションが起きるような状態になっていなければ。そして、もし彼らが間に合わず、町が壊滅していたら。悪事は暴かれないままで終わったかもしれない。
結局は彼なのだ。彼がこの件に関わった。これが全てなのだろうと思う。
その彼はまだこの地に残っている。王都からの連絡を待っているのだろう。まずないと思うが、彼が思う結果にならない時は、また何かを始めるつもりなのかもしれない。そうならないことを願うばかりだ。次は当家が災いに巻き込まれることになるかもしれない。
「ただいま戻りました」
「ご苦労だった。ダンジョンの様子はどうだ?」
ダンジョンについては、まだ安心出来ない。駐屯騎士団の騎士たちは全員を拘束している。王都から指示があるまで、そのままだ。今またダンジョンサチュレーションが起きれば、当家だけで戦わなくてはならない。守り切れる可能は、かなり低い。
「異常は見つかっておりません。塞いだ箇所もそのまま。奥にいる魔物が出ようとした形跡は確認出来ませんでした」
「そうか……他には何か?」
駐留騎士団の団長の指示で広げられた場所は、また塞いだ。完全に塞いだわけではないが、少なくとも、巨体の魔物は通れなくしている。
ただ絶対に大丈夫という確信があるわけではない。頻繁に確認に向かわせている。ただ、それも魔物の数が減っているから出来ること。元に近い数に戻れば危険が増し、調査に行く頻度は減るだろう。元々はその手前が到達できる最も深い場所だったのだ。
「それが……別の転移魔法陣を見つけました」
「……ひとつではなかったのか?」
「カイト殿はダンジョンから出る為だけの転移魔法陣ではないかと言っております。調べようと思えば調べられるがどうするかと聞かれました」
「調べる……実際に使ってみるということか」
そういうことだろう。実際に使ってみれば、どこに繋がるか分かる。簡単ではあるが、危険な方法だ。とんでもない場所に転移してしまう可能性も無ではない。正常に動作しなかった場合はどうなるのか。知識はないが、悲惨な結果になるのだろう。
「はい。そうです」
「……王国の許可なく使用することは出来ない」
転移魔法は許可なく使用することを禁じられている。禁呪のひとつだ。王国の許可があれば使えるので、禁呪としては制限が緩いほうだ。
「はい、ですが今なら咎められることはないだろうとカイト殿は申しております」
「今なら? 事件の調査を口実にしてということか……」
何が起きていたのかの詳細を調べる為に、という口実であれば、使っても咎められることはないかもしれない。だが、それが必要だと私は思わない。調べるにしても王国の許可を得てからにすれば良い。
「調べるのは王国の許可を得てから行う。今は無用だ」
「片道の準備で済む……いえ、承知しました」
彼の言う通り、その魔法陣がダンジョンの外に出るだけのものであれば。ダンジョンの調査、そしてその後の仕事が楽になる。帰り道のことを考えなくて済む。食料や医薬品など一度の調査で用意しなければならないものが半分の量で済む。
一度の動作確認ではなく、ずっと使えるようにしてほしいものだ。
「……カイト殿は何をしている?」
「我々の調査に同行してくれる以外は、鍛錬でしょうか? 魔法を調べたり、体を動かしたりしています」
当家の騎士と変わらない日常。特別おかしなことをしているわけではない。
「いつ王都に戻るか聞いているか?」
「明日にも発つようなことを言っておりました」
「なんだと?」
私は一言も聞いていない。会って話をすることもないのだから当たり前だが、この地を去るのであれば、領主である私に事前に話があってもおかしくないと思ってしまう。
「ほぼやることは終えたそうで、あとは帰りながら試すと言っていました」
「試すとは?」
「新しいスキルのようです。慣れるまで時間が掛かりそうで大変だと、少し愚痴を言っていましたから」
新たに得た技の習練。これも騎士がやることだ。彼は普通のことをしている。そうであるのに、それに違和感を覚えてしまう。第一印象のせいか。それはあるだろう。もっと話をしておくべきだったかもしれない。そうしておけば彼の印象は違ったものになっていたかもしれない。
今更だ。それに恐らく彼は私と親交を深める気はない。王都に報告書を送ったと話した以降、私の前に顔を出さなくなった。私の役目は終わった。終わってしまえば、それまでということだ。
彼は人を信用していない。信用されるどころか、知らなかったとはいえ、彼を酷い目に遭わせた私を許していないのだろう。