
ミネラウヴァ王国騎士団には七星将と呼ばれる騎士たちがいる。七星将なんて、いかにもゲーム世界という感じ。ただこの世界がゲーム世界だとして、どういうゲームなのか。
現在、最有力は「夢のハーレム実現ゲーム」。主人公がエミリーなので、個人的にはエロゲーとしてどうかと思うけど、今の時代、性別のこだわりは悪とされているので、女性であっても成立するのだろう。女性が好きな自分の好みとしては、色々な美女のXXXシーンを見られるゲームのほうが好きというだけだ。
次点は普通の恋愛ゲーム。主人公であるエミリーが攻略対象であるウィリアム王子と結ばれるのがハッピーエンド。ウィリアム王子の攻略に失敗しても、他の攻略対象を落とせれば良いのかは分からない。正直、エミリーが誰とどうなろうと興味がない。周りの人の迷惑にならなければという条件付きだけど。
そして三番目がRPG。魔王を倒すという目的を果たす為に、主人公は様々な人と出会い、共に成長していくというストーリー。七星将という存在が、この可能性を高めている。自分の中で勝手に高めているだけだ。
まあ、恋愛要素はRPGにだってあるだろうから、この中のどれと特定することに意味はないのかもしれない。振られても友達でいよう、なんてパターンもあるだろうし。
どうでも良い話だ。問題は自分が色々と巻き込まれているという現実。自分の知らない、遠い世界で全ての物事が進んで欲しいと思う。
「話を聞いているのか?」
「ああ……七星将って厨二だよな?」
「そういう話じゃない。深刻な話をしている」
こいつは、懲りもせずにまた自分の前に姿を現した。自分は悪魔だという自覚がないのだろうか。自分の仕事は悪魔を殺すことだということが、分かっていないのだろうか。
しかし、よくまた王都に入れたものだ。王都の警備体制ってザルだな。
「分かっている。その七星将が国内の悪魔掃討作戦に参加していると。俺たちではなく、そんな大物たちまで投入するのだから、かなり本気なのだろうな」
悪魔討伐は退魔兵団の仕事。だが今回、退魔兵団だけでなく王国騎士団も積極的に動いている。七星将なんて強そうな騎士たちを投入することまでしている。本気で国内の悪魔を一掃しようとしているのだろうことは分かる。追い出される側にとっては深刻な状況であることも。
「そうだ」
「逃げれば良い。殺されるよりはマシだろ?」
魔王の為のスパイ活動を止めて逃げれば良い。というか退去命令は出ていないのだろか。掃討作戦がどのような状況かは知らないけど、悪魔にとって本当に深刻な状況であれば撤退させるのが普通だ。戦力を無駄に失うことはない。
「逃げる場所がない」
「……魔王国は?」
「俺たちは魔王国を追放された立場だ。戻れば殺される」
本当に深刻みたいだ。魔王国を追放されたのに魔王国の為に働いているというのは良く分からないけど。
「他の国に逃げれば?」
「それも任務放棄として殺される理由になる」
「あのさ、どうしてそんな酷い国の為に働いている? 脅されて働かされているにしても、本気で逃げようと思えばなんとかなるだろ?」
「それは……姫の為だ」
なんだか分からない単語が出てきた。どうしてここで「姫」なんて言葉が飛び出すのか。姫って誰だ、は考える必要がない。目の前にいる、こいつだ。
「この子が姫?」
「そうだ」
「幼い。それとも子供の振りをしているだけか?」
魔人族の外見はあてにならない。アレクなんて黒猫に化ける。この子供に見える彼の連れも、実際は何百年も生きている御婆さんかもしれない。
「妾はまだ子供なの」
「あれ? 可愛い」
鬼の姫、鬼人族の姫というから、もっときつい感じだと思っていたら、自分を見上げる顔はとても可愛らしい。綺麗に切り揃えられてはいるが長めの前髪に隠れていた瞳。綺麗系の切れ長の瞳という予想に反して、大きな瞳がキラキラと光っている。
実年齢は分からないけど、可愛いければOK。何がOKかは自分でも分からない。
「あ、ありがとう」
褒められて照れる様子も可愛い。家に持って帰りたい。というか、かなり幼い。
「お前さ、ここは王都。どうして大切なお姫様をここに連れてきた?」
魔人族にとって王都は危険な場所だ。見つかれば殺される。殺されない自信があるのかもしれないけど、それこそ王都であれば七星将の誰かがいてもおかしくない。その七星将様に勝てる自信がこいつにはあるのか。
自信があるのであれば、自分に頼るなと言いたい。
「一度、会って欲しかった。俺たちは姫をかつての地位に戻す為に働いている、魔王国の貴族だ」
「ふ~ん。どうでも良いけど、お前さ、退魔兵団で匿えるなんて思っていないだろうな? それは自ら処刑台に昇るのと同じだ」
「それは分かっている。ただ、他に頼れる相手がいない」
「無理」
勝手に頼るな。自分はこいつに頼られる立場じゃない。友達でもない。ただの知り合い。何かをしてあげようなんて気持ちはない。
「……そこをなんとか」
「いやいや、お前、俺を何だと思っている? 俺は退魔兵団の兵士。ただの兵士に何が出来る? それに命令されれば躊躇うことなく、俺はお前を殺す」
「…………」
ようやく分かったみたいだ。どうして元の世界の奴らは他人の迷惑というものを考えないのだろうか。悪魔と普通に話をしている退魔兵団の兵士。これって問題だ。誰かに見られたら、俺が酷い目に遭うことになる。
「セナを殺さないで。妾はどうなっても良いから」
「うん、可愛い。さてはお前、お姫様の可愛さを利用しようとしているな? この卑怯者め」
本当に卑怯な奴だ。こんな可愛い子に、こんなことを言わせるなんて卑怯以外の何者でもない。こいつを殺して、姫をお持ち帰りしようか。寮で一緒に暮らすのは、無理か。
「カイト……頼む」
「……報酬は?」
「えっ?」
「俺には無償でお前の為に何かしてやる義理はない。前回、助けてやった分をまず請求したいくらいだ」
まずこの話が先だろうと思う。元の世界で同級生だった。たったそれだけのことで何かしてもらえると思う図々しさには腹が立つ。どいつもこいつも図々しい。元の世界の教育はどうなっているのだ。
「報酬を払えば、なんとかしてくれるのか?」
「隠れ住む場所を教えてやる。ミネラウヴァ王国内なので任務を放棄したことにはならない。ただし、そこで本当に暮らせるかは分からない。王国騎士団に襲われるということじゃなくて、割と強めな魔物がいる」
「……俺でも勝てる魔物か?」
「分からない。俺はお前がどれくらい強いか知らないからな」
おそらくは、大群に襲われない限りは、大丈夫。こいつは前回、加護を与えられた。強くなったはずだ。
「その場所は?」
「報酬を貰う前に教えるわけないだろ?」
「報酬と言われても……」
まさか、何も持っていないなんてことがあるのか。魔王国を追放されたと言っていたから、自分たち退魔兵団と似たようなものではした金で働かされているのか。そうであれば、この話はなしだ。無報酬で助ける理由はない。
「……ああ。じゃあ、どうやって王都に侵入した? 知られていない進入路があるのか? それとも手引きする者がいる?」
この情報には価値がある。悪魔が王都に潜り込んでくる方法が分かれば、俺の仕事も楽になるかもしれない。そうでなくても、きちんと結果を残したことになる。クズ団長共は評価しないだろうが。
「それは……無理だ。俺たちが殺される」
「じゃあ、この話はなしで」
予想出来ていた答えだ。何らかの方法があるとして、それを利用しているのはこいつらだけではないはず。他の悪魔も使っているとなれば、情報を漏らすのは重大な裏切り行為になる。
それでも、秘密にしなければならない何かがあるのは分かった。
「では妾の夫になるのが良いの。王の座は渡せない。でも王の夫に選ばれるのは名誉」
「えっ、まじで!? なる! なるなる! なんて言うと思う? そもそも本当に子供なのか? 今、何歳?」
「百歳くらい?」
「詐欺だ! 百歳でどうして、この外見!? おかしいだろ!?」
やはり外見は当てにならなかった。百歳のお婆さんがこんな姿のはずがない。俺を騙す為に子供に化けていたのだ。
「姫はこの姿のままだ。身を守る為、動物の子供が可愛いのと同じだ」
「いや、違うだろ……もう少し大人になったら美人になるかな?」
今の外見は可愛い。元の世界であれば、まず間違いなく芸能事務所にスカウトされるだろうくらい可愛い。角がある女の子がスカウトされるかは分からないけど。このまま成長したらどうなるのか。可愛いままか、美人になるのか、まったく別物になるのか。リスクはある。般若の面を美人とは思えないからな。
「お前は、どんな外道だ?」
「婚約者の外見を気にして、何が悪い? なんて冗談はもう良いとして、現地視察くらいはさせてやるか」
「本当か? それはいつ?」
「今すぐ」
「はっ?」
こいつの為にまた時間を作るなんてことはしたくない。ここで別れたら、出来れば二度と会いたくない相手だ。それでも約束、となることを何もしてもらっていないけど、を守る姿勢はみせてやることにした。
「行くぞ」
転移魔法陣を展開する。帰りは数日かかることになるけど、これは仕方がない。「悪魔を追っていた」で誤魔化せるだろう。
どこかで試験しておく必要があった。成功すれば、移動の自由度が格段にあがる。あらかじめ魔法陣を見つからないように設置しておく手間はあるとしても、それは急ぐことじゃない。今の仕事が終われば、また各地を転々とすることになる。その時にやれば良いのだ。
真面目に仕事していないな。この仕事の話を聞いた時は「クソ上司ども、ふざけるな」と思っていたけど、意外とご褒美任務なのかもしれない。