ファンタジー小説-黒き狼たちの戦記
屋敷を得たあと、色々と変化のあった生活もようやく落ち着いてきた。一日の予定がほぼ固まったのだ。午前中は以前と同じく傭兵団の屋外鍛錬場に行って、体力づくり。走り込みなどは屋敷では出来ないというのが理由だ。昼はエマが作った食事を、というヴォル…
中庭でヴォルフリックたちが鍛錬を行っている様子を眺めているフィデリオ。彼自身の鍛錬もあるのだが、どうにも気が散って集中出来ないでいた。上の空のような状態で鍛錬を行っても効果はない。それどころか怪我をしてしまう危険もあると考えて、こうして中…
ロートが営む食堂。フロアの隅にあるテーブルでヴォルフリックたちは食事をとっている。クローヴィスもセーレンも、ボリスも一緒だ。彼らを黒狼団の拠点である食堂に連れてきたのには訳がある。もちろん、食堂が黒狼団の拠点だと正直に話すことではない。そ…
ノートメアシュトラーセ王国軍部の重臣たちを集めた会議。その場は重苦しい雰囲気に包まれている。また新たな軍事上の難題が沸き上がってきたのだ。ベルクムント王国との戦いを勝利で終わらせた中央諸国連合。だがそれで本当の終わりとはならなかった。さら…
パラストブルク王国のゴードン将軍は近頃、ご機嫌だ。ベルクムント王国との戦いでパラストブルク王国軍は、他国を圧倒する活躍を見せたノートメアシュトラーセ王国以外では唯一、論功行賞において上位の評価を得ている。ゴードン将軍にとっても想像を遥かに…
ベルクムント王国との戦争における論功行賞で、育ての親であるギルベアトが使っていた屋敷を手に入れたヴォルフリック。それは行動の自由を手に入れたのと同じだ。当たり前だが、ギルベアトの屋敷はアルカナ傭兵団施設の外にある。自動的にヴォルフリックは…
戦勝会が終わるとすぐにディアークは執務室に引きこもった。そこに次々と姿を現す傭兵団の幹部たち。示し合わせたものではない。戦勝会での出来事を受けて、それぞれがディアークの様子を知りたいと考えて、集まってきたのだ。 そのディアークは深々とソファ…
カルンフィッセフルスの戦いは決戦と呼ぶにふさわしい様相になっている。中軍が合流して、一万を超える軍勢となった中央諸国連合軍。それに対するベルクムント王国とその従属国連合軍はおよそ二万八千。当初侵攻してきた二万に、フルーリンタクベルク砦攻め…
中央諸国連合軍の中軍と共にアイシェカープを発し、ガルンフィッセフルスに向かっている愚者とパラストブルク王国軍。その移動中も鍛錬をかかしていない。中軍六千が隊列を組んで整然と街道を進んでいる間、愚者とパラストブルク王国軍は走り込み。ヴォルフ…
周囲にひしめく味方。もっと速く先に進み、見晴らしの良い場所に出たいのだが、前が詰まっていてそれは出来ない。この地は一万六千もの大軍が展開するには狭すぎる場所なのだ。だがこの状況も少し先に進めば変わる。敵の砦に向かっていくにつれて、平地は扇…
攻めるベルクムント王国とその従属国の連合軍は総勢一万六千。それに対するはフルーリンタクベルク砦に籠る中央諸国連合軍三百だ。砦を守る壁はあっても、そんなものはわずかな時間稼ぎにしかならない。ベルクムント王国にとっては勝利が確定している戦い、…
山越えを終えたベルクムント王国軍は、すぐにフルーリンタクベルク砦に攻め寄せてきた。といってもその数は千ほど。残りは山を下りてすぐの場所で野営の準備を始めている。火薬を使って山道を切り開いたといっても、それは道を塞ぐ大岩があるなど、人力では…
最前線となるガルンフィッセフルスでは、すでに先軍が戦っている。戦場に響き渡る爆発音。ベルクムント王国軍は新兵器を惜しむことなく、戦場に投入してきた。想定されていたことだ。だが初めてそれを見、それを聞くノイエラグーネ王国の兵士たちは、すっか…
戦争に向けて準備を行っているのはアルカナ傭兵団だけではない。人知れず動いている組織がある。黒狼団だ。ベルクムント王国との戦いが始まると聞いたロートは、情報集めに動いた。太い情報源は今はまだいない。それでも食堂の、エマのかもしれないが、評判…
自分が特別であることに気が付いたのはいつのことだったか。記憶を探っても見つからない。特別であることが苦痛になった日のことは覚えている。何年何月なんて記憶はないが、その時の感情は今も胸にはっきりと刻まれている。 父親は商人だった。大商家といえ…
出陣の準備にアルカナ傭兵団施設は賑わっている。実際の準備は軍政局の仕事で、傭兵団の団員が行うことはそれほどないのだが、大国との戦争を前に気持ちが高ぶっていて、何をするにも騒がしくなってしまうのだ。 鍛錬場も多くの団員で賑わっている。残りわず…
ベルクムント王国の宮殿では宴が催されている。感謝祭が終わってから半月と少し。ようやく世間に日常が戻ったばかりのこの時期に開かれた宴。定例のものではない。中央諸国連合への侵攻が発表され、公式なものとなったことで壮行会が開かれているのだ。 停戦…
感謝祭明け四日目くらいになると、実家で過ごしているだけでは退屈になった人々が、新しい年の始まりに神への祈りを捧げる為に教会に行く、という名目で外出するようになる。そうなると食堂や商店はそういった人々目当てに普通に営業を始めることになる。傭…
感謝祭当日の昼。ヴォルフリックはアルカナ傭兵団施設の外にいた。特別に外出許可が出たのだ。許された理由は食堂が休みだから。感謝祭当日から先、二週間は食堂の職員も実家に戻ることになる。その間の食事は自分でなんとかするしかないのだが、街の食堂や…
傭兵団施設の食堂。今日のその場所はいつもとは違う騒がしさ。多くの騎士や従士が興奮した様子で大声で語り合っている。感謝祭を間近に控えて皆が浮かれているから、ではない。彼らの興奮は喜びから生まれたものではなく、その逆。初めて見た武器に恐れを抱…
ノートメアシュトラーセ王国は小国。その小国の二十人にも満たないアルカナ傭兵団の上級騎士たちが、大陸の東西二大国ベルクムント王国とオストハウプトシュタット王国を相手にして堂々と渡り合っている。そのアルカナ傭兵団の上級騎士たちはクローヴィスに…
三団対抗戦の第二戦、近衛騎士団と王国騎士団の対戦は近衛騎士団の三戦全勝という結果に終わった。王国騎士団としては、アルカナ傭兵団との対戦を含めて一勝も出来なかったという惨敗であるが、それなりに意地を見せた結果だ。近衛騎士団との対戦は捨て試合…
三団対抗戦当日。会場となる王国騎士団の屋外鍛錬場の倉庫でボリスは、大きな体を丸めて、何やら作業をしている。流れる幾筋もの大粒の汗。それはすでにボリスの服を、びっしょりと濡らしていた。 拳を握り、手に持った剣に打ち付ける。その度に金属音が響き…
ベルクムント王国の都ラングトアは感謝祭を間近に控えて、大いに賑わっている。街は華やかに彩られ、大通りには普段は見られない露店が数多く並んでいる。感謝祭当日以降は自宅で家族との団らんの時を楽しむというのが一般的な慣習。商店や露店にとってはそ…
王国騎士団の鍛錬場。そこに三団対抗戦の参加者が一同に会している。とはいえ、まだ本番は先。今日は公開練習日だ。これもアルカナ傭兵団を有利にしない為に必要なこととして、今年初めて行われた。 今年のアルカナ傭兵団から選抜された上級騎士は全員が初参…
ノートメアシュトラーセ王国に戻ったヴォルフリックたちは鍛錬ばかりの毎日を過ごしている。新たな任務が与えられる気配はない。それは他の部隊も同じだ。 あとひと月もすれば感謝祭。ノートメアシュトラーセ王国だけでなく、大陸全土が休暇に入る。それは戦…
パラストブルク王国の王都。東門から城に伸びる大通りの両側には住人たちが並んでいる。反乱鎮圧を終えて王都に帰還する討伐軍を迎える為だ。だがその表情は決して明るいものではない。国に命じられて駆り出されてきたものの、心から反乱鎮圧の成功を喜んで…
討伐軍の陣地。そこから王都がある方角、西に少し戻ったところで街道を逸れると青々と木々が生い茂った森がある。その森の中。小さな灯りを囲んで、ヴォルフリックは報告を聞いていた。 報告しているのはビトー。彼は王都での必要な情報収集を終えて、ヴォル…
ゴードン将軍が軍を率いて進発する前に、ヴォルフリックたちはナイトハルト男爵領に向かっている。ニコラオスにこれまでの戦いについての詳細を聞きたいというのが、先発した理由だが、それは口実に過ぎない。ゴードン将軍と長く一緒にいたくないというのが…
アルカナ傭兵団が最後の交渉として城を訪れてから、すでに二週間。検討の余地があることを感じさせたはずの相手からは、何の連絡もない。ローデリカの側もすでに提示された条件から相手が譲ることがなかった場合に備えて、色々と検討しなければならないのだ…