月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

ファンタジー小説-四季は大地を駆け巡る

四季は大地を駆け巡る #127 傭兵王に俺はなる、つもりはない

マーセナリー王国の混乱は収まる気配を見せていない。傭兵王はなんとか全土の支配権を取り戻そうとしているが、それは思うようには行っていない。まったく進んでいないわけではない。支配地域は少しずつ広げられている。だが、混乱をもたらしていた元臣下、…

四季は大地を駆け巡る #126 託された想い

レンベルク帝国の皇城で開かれた戦勝の宴。パルス王国で行われている宴と同じように、華やかな衣装をまとった淑女たちが宴の席を彩り、楽団が奏でる軽やかな音楽に乗って人々がダンスを楽しんでいる、というものではなかった。レンベルク皇帝が説明した通り…

四季は大地を駆け巡る #125 戦いを終えて

東方完全制覇、そして大陸全土の覇権を手に入れる為の次のステップとしてレンベルク帝国征服を試みた傭兵王。だがその目論見は完全にはずれ、国境付近での戦いで敗北を喫しただけでなく、多くの臣下の離反を招くことになった。元傭兵たちの多くが、従う兵士…

四季は大地を駆け巡る #124 傭兵王の誤算

レンベルク帝国南西部の戦場がレンベル帝国軍の勝利で終わったとほぼ同じころ。その東ではまさに戦いが始まろうとしていた。傭兵王率いるマーセナリー王国軍二万に対するはゼムとアスヘイユそれぞれが三千を率いるレンベルク帝国軍六千。 三倍以上の敵軍を前…

四季は大地を駆け巡る #123 傭兵王との戦い

城門に向かって殺到してくる敵兵に向かって、無数の矢が飛んでいく。決して少なくない矢が宙にあるうちに火系魔法によって焼き払われたが、千を超える数である。かなりの数が敵兵まで届いている。ただ届いたといってもそのほとんどは、敵兵のもつ盾に阻まれ…

四季は大地を駆け巡る #122 閑話その一

ヴラドがイーストエンド侯領に戻った後、ヒューガはヴラドが残していった美理愛からの手紙を読み始めた。 「へえ、綺麗な字だな」 手紙を開いて最初にヒューガは書かれている字の美しさに感心した。楷書体で丁寧に書かれた文字は、文字の間隔もきれいに整っ…

四季は大地を駆け巡る #121 密談

マンセル王国の王都。パルス王国の王都に比べれば規模は小さいが、その賑わいは決して劣るものではない。ここ最近は優っていると言えるくらいだ。その理由はミネルバ王国を併合したことにある。ただ領土が広くなったということではなく、マンセル王国は戦い…

四季は大地を駆け巡る #120 強さの秘密

息を切らして周囲を駆けまわっている人々。一方で剣を打ち鳴らして立ち合いを行っている人々もいる。千人規模でそれが行われていると、まるでそこは戦場のようだ。 ドュンケルハイト大森林とレンベルク帝国との国境に近い平原地帯。今日もまた、いつもの声が…

四季は大地を駆け巡る #119 女の戦い……?

パルス王国南東部。旧ミネルバ王国との国境地帯にある深い森。今となっては魔族の支配地域となっているその森の中に深い洞窟がある。自然に出来たものではない。住処とするために人工的に作られた洞窟だ。 その洞窟の奥にある一際広い空間で、ライアンはいら…

四季は大地を駆け巡る #118 運命の巡り合わせ

目の前に広がる平原。そこに数千の兵が陣取っている。それを高台にある本営から眺めているレンベルク皇帝は、自然と自分の気持ちが高揚していくのを感じていた。いくつもの部族を押さえ、帝国として一つにまとめ上げたのは皇帝自身の武である。武人である皇…

四季は大地を駆け巡る #117 レンベルク帝国

大陸西部のユーロン双王国で万の軍勢が集まっての戦いが行われてから数ヶ月後。その反対側である大陸の東部で、他国に知られることのない小さな戦闘が始まろうとしていた。 東側に陣を構えているのは、レンベルク帝国八方将の一人であるゼムが率いる三千を先…

四季は大地を駆け巡る #116 大国を覆う影

ユーロン双王国に遠征していたパルス王国軍は大混乱に陥った。 いよいよ決戦の日。そう思って陣を整えて、開戦を待っていたのだが、いつまで経っても戦いが始まらない。次兄王の元に開戦を促す使者を送っても、何の返答もないどころか送った使者も戻ってこな…

四季は大地を駆け巡る #114 混乱は続く

アイントラハト王国王城内の執務室で、机の上に山と積まれている書類を処理し続けていたヒューガ。その手が止まり、視線が前を向く。 このところ毎日のようにヒューガの執務室を訪れて、その場に居座り続けている女性。勝手に正面に椅子を置き、それに座って…

四季は大地を駆け巡る #113 謀略の後始末

一万の軍勢に囲まれたユーロン双王国の末弟王ネロの館。館の主であったネロはすでにこの世の人ではなくなっているが、次兄王はそれで終わりにはしなかった。 館の周囲を取り囲んだ軍勢から放たれた火矢。あちこちで炎が立ち上り、黒煙が空を曇らせる。火事か…

四季は大地を駆け巡る #112 儚い野心

パルス王国に新王が即位して半年以上が経った。その間、パルス王国は特に大きな問題もなく落ち着いている。親王派という新たな派閥の登場は人々を驚かせたが、それによりパルス王国の政治に乱れが生じるようなことはなかった。 そもそも新たな派閥の領主とな…

四季は大地を駆け巡る #111 歪んだプライド

パルス王国とミネルバ王国との国境付近にある森林地帯。そこにある岩山に空いた小さな穴。人が二人で通れるかどうか程度の穴ではあるが、その穴の奥には驚くほど広い空間が広がっている。 先に進むにつれて幾つにも分岐する横穴。一度奥まで入ってしまうと二…

四季は大地を駆け巡る #110 決裂

婚姻の儀に続いて、新王即位の儀が行われて数日後。一般の人々の生活が普段のものとなったと同じように、王城に勤める人たちも宴の気分を振り払い、日々の仕事に勤しんでいる。そしてそれは国政を担う重臣達も同じ。 今日も定例の閣僚会議が始まった。玉座に…

四季は大地を駆け巡る #109 評価は一方的に行われるものではない

ぎりぎりで釣れたイーストエンド侯爵にヒューガが案内されたのは、披露の儀が行われている大広間のすぐ近くにある部屋。今回のように宴が行われる時の来客者の控室として使われる部屋の一つだ。 来客者に割り当てないで余らしている部屋なので、それほど豪奢…

四季は大地を駆け巡る #108 これも外交といえるのだろうか?

婚約披露の儀はローズマリー王女とアレックスの登場で一気に盛り上がった……という事にはならなかった。特に国内の貴族たちはパルス王国の国政の実権が再び四エンド家に戻った事を知っている。それに対して新たな王になるはずのアレックスはどうでるか。自分…

四季は大地を駆け巡る #106 駆け引き

先王の一年の喪が明けたと同時に取り払われた弔旗に代わって、王都のあちこちにパルス王国旗が掲げられている。金糸で縁取られた赤の布地に王冠をかぶった金色の獅子の姿。戦いの場で常に建国王の側にいたと言う金色の獅子の伝承に基づいて作成された図柄だ…

四季は大地を駆け巡る #105 時代は変わる

戦後処理が終わってアレックスは報告書に追われることはなくなった。近衛第一大長の職もすでに退いており、現在のアレックスは近衛大隊付という形での実質、無職。あとはただ婚姻の儀、その後に控える即位の儀を待つだけの身だ。 だがアレックスの毎日は忙し…

四季は大地を駆け巡る #104 恋は錯覚と紙一重

パルス王国が行方を捜している魔王軍残党は、パルス王国の予想を覆して、ノースエンド伯爵領の東にある森林地帯にいた。 魔族は森の奥をいくつもの小集団に分散して森林地帯を進んでいる。目的地はイーストエンド侯爵領の南方。東方同盟との国境にある森林地…

四季は大地を駆け巡る #103 勝って兜の緒を締めよ

国王の死から半年以上も経つと国民感情も以前と変わらないものになる。街には相変わらず多くの弔旗が掲げられているが、住民の多くはそれに慣れており、特に気にすることなく日常生活を営むようになっている。表面上、王都は元の賑わいを取り戻していた。 だ…

四季は大地を駆け巡る #102 お節介は時に煩わしく、時にありがたい

ローズマリー王女の婚約者、次代の王位を継ぐ者となっても正式の婚儀を終え、王への即位の儀を終わらせるまでは、アレックスは近衛第一大隊長のままだ。特にやる事は変わらない。変わった事といえば、総大将としての戦後処理で山ほどの報告書に目を通し、そ…

四季は大地を駆け巡る #101 政争の勝者

王都はひっそりと静まり返っている。建物には黒い弔旗が掲げられていて、それがなお一層、王都の雰囲気を暗いものにしている。その王都の大通りをゆっくりと進む軍。魔族領侵攻軍だ。 盛大な凱旋式典など当然行われない。一旦、王都の外で野営地を組んだ軍は…

四季は大地を駆け巡る #100 揺れるパルス王国

この数か月、パルス王国は激動の時を迎えている。時に悲痛が、時に歓喜がパルス王国に住む人々の間を駆け巡った。 最初に届いたのは訃報。ノースエンド伯が魔族との戦いで戦死したというものだ。事情を知っている者にとってそれはにわかには信じがたいものだ…

四季は大地を駆け巡る #99 揺れる心

魔王城の奥深くにある寝室には対照的な男女が向かい合って座っている。興奮冷めやらぬ、といった様子で盛んに話しかけている男とその話を沈痛な面持ちで聞いている女。 自らを魔王と呼ぶようになった優斗と魔族であるライアンの所有物となった美理愛の二人だ…

四季は大地を駆け巡る #98 新魔王誕生

美理愛が優斗に付き従って辿り着いたのは魔王城の奥にある一室。そこは魔王を抱えた魔将が出てきた部屋だ。 廊下には二体の死体が折り重なったまま、置き去りにされていた。それを気にすることなく、優斗は横を通り過ぎ奥の部屋に入っていく。 部屋の真ん中…

四季は大地を駆け巡る #97 愚者の愚策

目の前にそびえるのは真っ黒に染まる城。魔王城と呼ぶには優美な雰囲気を醸し出す城。そう考えた美理愛は自分の思い込みを反省することになる。ヒューガは言った。「魔族の魔は悪魔の魔ではない。魔力の強い一種族の呼び名に過ぎない」と。頭では理解してい…

四季は大地を駆け巡る #96 まさかの可能性

テーブルの上に置かれていたティーカップを手に取り、口に運ぶ。すっかり冷めてしまい香りも抜けた紅茶など美味しくはないのだが、今はただ乾いた口を潤せればそれで良い。 セレネから送られてきた連絡文。久しぶりに送られてきたのでよほどのことだと覚悟し…