城門に向かって殺到してくる敵兵に向かって、無数の矢が飛んでいく。決して少なくない矢が宙にあるうちに火系魔法によって焼き払われたが、千を超える数である。かなりの数が敵兵まで届いている。ただ届いたといってもそのほとんどは、敵兵のもつ盾に阻まれていて、敵に被害と言えるほどのダメージは与えられていない。
それでも足止めとしては充分。一時的に先頭の前進が止まり、距離が詰まった敵の集団に向けて、城壁から色とりどりの魔法が放たれていく。敵の塊に向かって放たれた魔法は何人もの敵兵を倒していった。
場所はレンベルク帝国の南西の国境から少し奥に入った所にある城。そこにマーセナリー王国とマリ王国の連合軍が押し寄せてきていた。
「きりがないな」
「仕方がない。相手の数が多すぎるのだ」
「読んでいたつもりが、裏をかかれたな」
マーセナリー王国とマリ王国の連合軍が攻めてくるのはレンベルク帝国も掴んでいた。問題は敵の数が六万という自軍の倍に近い数であるということ。国境付近の城や砦に自軍を分散していては各個撃破されると考えたレンベルク帝国側は、敵の侵攻ルートを予想し、兵を集中させることにした。
予測した侵攻ルートはレンベルク帝国の都への最短ルートとなる旧ダクセン国境からの侵攻。傭兵王の戦い方がいきなり中枢を狙う事が多い点から考えられたものだ。
実際にそのルートで連合軍は攻め込んできたのだが、その数は四万。二万足りなかった。その二万はマーセナリー王国側。それももっとも王都への道のりが遠いルートでレンベルク帝国に侵入していた。しかも、数は少ないが、その二万こそ傭兵王が率いる本隊だった。
その情報を掴んだ時には、レンベルク帝国側は四万の敵軍に一万八千の軍を向い合せた後だった。城に九千。後詰として野外に九千。そのレンベルク帝国軍に向かって、連合軍は積極的な攻勢はかけてこない。時折、攻めかけては引いていく。それを繰り返すだけだ。
敵の思惑が自軍をこの場所に釘づけする事であるのは明白なのだが、それを打開する術がレンベルク帝国側にはない。兵数の差がそれを困難にしていた。
「帝都からの指示は?」
「まだない」
「それはどっちだ? 指示が送られていないのか? それとも……」
指示を伝える使者が到達することが出来ないのか。その可能性は充分にある。
「それも分からん。王都との間に傭兵どもがうろうろしているのは確かだがな」
レンベルク帝国内で働いていた傭兵たち。それがマーセナリー王国の味方をしている。中立が絶対である傭兵ギルドとしてはあってはならないことなのだが、これはマーセナリー王国のいつもの手。ギルドに文句を言っても何の解決にもならない。
「どうする? 攻めに移るか、このままか」
「……攻めに出れば、勝てたとしても犠牲が大きい」
「しかし、万一の事があればどうする?」
心配しているのはこの戦場での勝敗ではない。マーセナリー王国の本軍二万の動向だ。
「陛下の軍が出陣すれば一万六千。敵の二万と互角以上に戦えるはずだ」
「それはそうだが。陛下もお年だ。かつての様に戦えるのだろうか?」
「おい。不敬だぞ」
「分かっている」
分かってはいても心配しないではいられない。皇帝が率いる軍勢が万一敗れれば、マーセナリー王国軍は帝都に向けて一気に突き進むのは間違いない。帝都が落ちれば、それで戦いを終えるつもりはないが、かなり厳しい状況になる。
「とにかく指示を待つしかない。兵糧や備蓄は大丈夫なのだろうな?」
「余裕だ。籠城があと半年続いても問題ない」
「それ程か」
「それだけの準備はしてきた。同盟がなかったらと思うと、ぞっとするがな」
半年分の備蓄を用意出来たのはアイントラハト王国との同盟があったから。物資の多くはアイントラハト王国との交易によって得たものなのだ。
「初めに聞いた時は陛下も何を考えておられるのだと思ったが、こうなるとな」
「ああ。大森林を経由して運ばれてきた物資の量は想像以上だった」
半年間、一万八千の軍勢が戦えるだけの物資。実際はそれ以上のものをアイントラハト王国から得ている。それは、国と自称しているだけの寄せ集め集団なんて評価が吹き飛ぶだけの量だった。
「それだけ豊かな国なのだろう」
「いや、物資は大森林のものではないそうだ」
「ではどこから?」
「普通に他国で仕入れてきていると聞いている」
「そうなのか?」
「俺は物資の量とその話を聞いて、認識を変えている。アイントラハト王国は大森林に追いやられた者たちが寄り添って生きているだけの国ではない」
アイントラハト王国への評価を改めさせたのは物資の量だけではない。
「どうしてそう思う?」
「おい、お前も少しは事務仕事に興味を持て。兵を率いるだけが将の仕事ではないのだぞ?」
「何故、そのような話になるのだ?」
「いいか。ここ最近、大陸ではずっと戦争が続いていたのだぞ? 兵糧などの物資はどこの国も欲していたはずだ。その物資が大量に我が国に届いた。その意味を考えてみろ」
物資が不足しているのはマーセナリー王国に物流を塞がれたレンベルク帝国だけではないはず。戦争が起きた国、その周辺国はどこも需要のほうが上回っているはずなのだ。
「特別なルートがある?」
「そうだ。そして他国に先んじてそれを手に入れる力もあるのだ。それに俺はもうひとう疑問に思っている。商人との繋がりだけで、そんな事が出来るのかと」
「意味がわからん」
「ちょっと関係が深いだけの商人が、何故そこまでアイントラハトに便宜を図る? 下手すれば他国の機嫌を損ねることになるのだぞ」
大森林内の、他国に国として認識されていないアイントラハト王国の為に商人が特別な便宜を図ることなど異常なこと。利、以外の何かがあるとしか考えられない。
「……よっぽど強い関係があるのか」
「アイントラハトそのものの可能性もある。我が国とアイントラハトとの交易の条件は、陛下とアイントラハトの王が会ったその場で決められたと聞いた。我が国にとってかなり良い条件でな。仲介をするだけのアイントラハトの王に何故それが決められる?」
「……分からん」
「もういい。とにかく、アイトラハトは我らが思っている以上に力を持っている。それを忘れるな」
「それだけの力があるなら、この戦も手伝って欲しいものだな」
「お前、それ間違っても陛下の前で言うなよ? アイントラハトとの関係は対等。従属国のような考えをした者は決して許さないとはっきりと仰られたのを忘れたのか」
「この場合は助けてくれだ。立場としてはこっちが下だろう」
「もっと悪いわ! 大体な……」
「ちょっと待て!」
そんな二人の耳に、城壁の階段を駆けてきている兵の鎧の音が聞こえた。目的は二人であることはまず間違いない。しかも急な城壁の階段をわざわざ走ってくるというのは、余程の用事に違いない。二人に間に緊張が走る。
「ふう……こちらにいましたか」
余程急いで上がってきたのであろう。息を切らせた様子で伝令の兵が現れた。
「何かあったのか?」
「アイントラハト王国の使者を名乗る方が面会を求めております」
「……おい」
兵の言葉を聞いて顔を見合わせる二人。今まで噂していた国からの使者。その意味を考えれば思いつくのは一つしかない。
「すぐに会う! 使者はどこだ?」
「はっ! 広間にいらっしゃいます」
その返事を聞いて、城壁を降りよとしていた二人の足が止まった。
「……いつ通したのだ? 城門を開ける許可など出してないぞ」
「それが……知らないうちに城の中にいらっしゃいました」
「……それで何故、騒ぎにならない?」
「堂々と名乗られましたから。実はそれでこちらは侵入に気が付いた次第でして」
「……説教は後だ。まずは使者に会う」
二人が大広間に辿り着くと、そこに一人の男が待っていた。
「アイントラハトの使者というのはそちらか?」
「急に現れて申し訳ござらん。まさか敵の前を堂々と進むわけにもいきませんので」
「それはそうだが……」
味方の拠点に気付かれないように忍び込むのはどうなのか。そんな思いが頭に浮かぶ。
「まずは、こちらを。拙者が使者である証でござる」
渡された書状には、確かに使者であるとの内容が、レンベルク皇帝の署名入りで書かれていた。
「確かに。それで用件は?」
「戦いのお手伝いにまいりました」
「お手伝い?」
お手伝いという表現は期待していたものと少しずれている気がする。なんとなく感じた、その疑問を素直に言葉にした。
「はい。そちらの陛下はなかなかに頑固な御方でして、マーセナリー王国との戦いに巻き込むわけにはいかないと、こちらの参戦の申し出を拒否されたでござる」
「であろうな。陛下とはそういう御方だ。それで?」
「我が主も頑固さでは負けておりませぬ。陛下を説得して協力の約束を取り付けました」
「……よく陛下が受け入れたな」
お手伝いという表現には違和感を感じたが、共闘であることは間違いなさそう。それに安堵したが、拒否していた皇帝が受け入れたことには少し驚いた。
「主の言い分はこうです。両国が結んだのは同盟だ。通商条約や不可侵条約のようにある目的に限定されたものではない。いわば国と国との友達関係のようなものだと」
「友達関係……」
これも表現としては違和感を感じないでもないが、それを深堀することに意味はない。
「皇帝陛下は友人が困っているのを助けようとしたときに友人が断ったからといって何もしないで手を引くのかと」
「それはまた……」
友達関係という表現はこの理屈を受け入れさせるためのもの。心に浮かんだ違和感は深堀するまでもなく消え去った。
「といっても完全な参戦はやはりレンベルク皇帝が認めなかったので折衷案としてお手伝いとになりました」
お手伝いという表現には一応は意味があった。主体はあくまでもレンベルク帝国軍。アイントラハト王国軍は少し支援するだけという建前だ。
「……そのお手伝いは何をしてくれるのだ?」
「ちょっとした作戦の説明とそのきっかけをこちらで作ります」
「ほう」
これは予想とは少し違っていた。アイントラハト王国の立てた作戦でレンベルク帝国軍が戦うことになる。どちらが主体なのか微妙なところだ。
「早速、説明に移ります。まず城の東側にいる貴国の軍に敵本隊の側面を突いてもらいます」
「たった三千で二万に向えと? しかも正面には敵の六千がいる」
「その六千はこちらで崩します。その後、敵本隊にも乱れを作りますので、その混乱を突いてください」
「……簡単に言う」
失敗すれば、作戦を信じて敵に突撃した自国軍三千にかなりの被害が出る。分かりましたと安易に言えるものではない。
「簡単ではありませんが、なんとかなると踏んでいます。こちらの作戦に不安があるのであれば敵の混乱状況で突入の判断をされるのですな。ただ……それで機会を逃すような失敗はなさらないように」
作戦継続の判断はレンベルク帝国軍に委ねる。それは仕方がないことだとしてハンゾウは受け入れた。ただその判断の誤りで機会を逸することのないように釘をさすことは忘れない。
「……分かった」
「あとは城の九千とで敵本隊を敗走させてください」
「残りの一万二千は?」
「放っておいても逃げます。今回の目的は敵を退けることであって討つことではありません。敵兵が二万残ろうが、三万残ろうが戦う気を失くしてしまえばこちらの勝ちです」
特にマリ王国軍の士気は劣勢となればすぐに落ちると考えている。マリ王国軍にとってもこの戦争は、領土という褒賞が与えられるとしても、お手伝いなのだ。
「確かにそうだ」
「よろしいですかな? よろしければ、他将への文を用意していただけますか? それを持って、残りの方にも説明に参りますので」
「分かった。作戦の開始予定は?」
「一刻後。合図は空に見えます。まず大丈夫かと思いますがお見逃しなく」
「ああ」
レンベルク帝国左翼とその正面に陣取る連合軍の間。そこに立つ木の上に二人の男女が登ってマーセナリー王国=マリ王国連合軍の陣を眺めている。カール・マック元ダクセン王国将軍とエイプリルの二人だ。
ここが戦場でなければ仲の良い親子が木に登って遊んでいる、という雰囲気なのだが。
「見えるか?」
「見える、見える。それでどれ?」
「まずは、あれだな。陣の左側の前に他と変わった兜をかぶっているのがいるだろう?」
連合国軍の陣を指差すカール。その先には他とは異なる兜をかぶった兵士がいる。部隊の指揮官と思われる兵士だ。
「いた。あれね」
「次は……後方にもいるな。分かり易いな。同じような兜を付けている」
「……了解」
カールが示す相手に強く意識を向けるエイプリル。
「次は、中央の前方と後方。なるほど。千人にひとりか……追加しても大丈夫か?」
兜は千人の部隊を率いる千人将の証。カールはそう判断した。
「千人にひとりだと六人でしょ? 平気。でも二十までにしてね。この距離だとそれが限界だと思う」
「分かった。二十だと百人将全員は無理だな。前から崩すか……分かり易すぎるな。将に別の鎧を付けさせるは今後もなしだな。エイプリル。陣の前方に赤い房付の兜をかぶった者がいるだろう。あれを前の方からロックしてもらえるか」
「了解。ちょっと待ってね……はい、ロックオン完了!」
「終わった!?」
エイプリルの完了の声を聞いて、木の下からジュンが声を掛けてきた。
「終わった! そっちは?」
「エイプリル待ちよ!」
「じゃあ、すぐ行く!」
エイプリルはスルスルと木を降りてきて、ジュンの横に並ぶ。
「平気?」
「……うん、大丈夫。捉えたままだよ」
「じゃあ、行くわよ。投影開始……目標補足……セット……」
エイプリルとの繋がりを強めながら、意識を集中させるジュン。
「よし! いっけぇー!」
ジュンの体から白い光の玉が空に舞い上がる。その光の玉はある高度まで上がると一気に弾けて、幾つもの光の槍となって連合国軍の陣に向かっていく。ジュンとエイプリルの合体魔法。魔力誘導型追尾ミサイル改。ちなみに命名はヒューガだ。
何かをなぞるように光の槍は目標に向かっていく。
「第一波攻撃用意!」
それを見て、夏が部隊に指示を出す。
「……全弾着弾!」
ジュンの声が響く。光の槍に貫かれて、敵陣の何人かが地に倒れていった。
「今だ! 撃てー!」
夏の号令とともに一斉に夏の軍の五百人の兵から魔法が発せられる。色とりどりの魔法の玉が敵陣に向かって飛んでいく。
「敵魔法の反撃に備えろ!」
夏が叫んだとほぼ同時に連合国軍の陣からもいくつもの魔法が飛んできた。
「迎撃!」
夏の軍から放たれた魔法が向かってくる魔法に向かっていき、正面からぶつかり合う。はじけた魔法は宙に消えていった。
「よし。ここね」
部隊への指示を止めて、夏も自身の魔法に集中する。
「よし! いけ! ……はじけろ!」
夏から放たれた特大の火の玉。敵の陣に到達するかどうかの所で一気に爆裂した。爆発の衝撃とともに熱風が敵兵を襲う。
「今だ! 突撃!」
夏の号令で、夏の軍の兵士が陣形をずたずたにされた敵軍に向かって走っていく。それにやや遅れて、右手からレンベルク帝国軍の兵も現れた。
「後ろを向いた兵にはかまうな! 前を向いている兵を狙え!」
レンベルク帝国軍の将の号令が聞こえてくる。
「ふう。こんなものかな」
あとはレンベルク帝国軍の仕事。お手伝いはこれで一旦、終了だ。
「……凄まじいな」
夏の軍の魔法攻撃の凄まじさに、味方であるカールも驚いていた。不意打ちとはいえ、六千の敵軍が反撃する余裕もなく、一方的に魔法攻撃を受けて、大混乱に陥っているのだ。驚きもする。
「戦争らしかったでしょ?」
「戦争? もしかしてナツ殿たちの世界の戦争もこんななのか?」
「もっとひどいわ。敵の姿なんて見る必要もない。遠く離れた場所からボタンひとつ押すだけで相手は死ぬわ。一発で何百人もね。ひどいものは万単位か」
「万の人が……それだけの数が一度の戦いで命を落とすなど想像出来ん」
カールには想像もつかない戦争の形。
「でしょうね。それに比べればこの世界はましよ。人を殺しているという実感があるもの」
「人を殺している実感があることをマシと言うのか?」
戦争とはいえ人殺しに罪悪感を覚えないわけではない。さすがに歴戦のカールは戦いの最中に動揺することなどなくなったが、それでも嫌悪感がまったくないわけではないのだ。
「それがあるから人は戦いを嫌うの。それを失ったら、それはもう人ではない」
「……なるほど。そういう考えか」
「さて、仕上げはレンベルクに任せて私たちは引き上げね」
「本隊を見届けなくて良いのか?」
「それはカルポの役目。軍としては秋の軍のほうがよっぽど成熟している。上手くやるわよ」
「…………」
城壁の上で夏たちの戦いの様子を見ていたレンベルクの将二人は完全に言葉を失っていた。ほんの数回の、と言ってもその威力はとてつもないものだったが、魔法のやりとりで六千の敵軍は崩壊。逃げ惑う敵兵は後ろに陣取っていた本隊に向かっている
「敵本隊、右翼崩れています!」
三千ほどの混乱した兵が紛れ込んだお蔭で本隊の兵にもそれが広がり、その陣形は大きく乱れている。
「見とれている場合ではないな。城門を開けろ! 敵陣に向かって、突撃!」
「「「「おぉぉぉおー!」」」」
開かれた城門から次々と外に飛び出していく兵たち。まだ陣形が整わないその兵に向かって敵陣から魔法が放たれた。
「敵魔法に備えろ! ……いや、かまわん! 突っ込め!」
向かってくる魔法は次々と真横から飛んでくる魔法で迎撃されている。それが収まると今度は、敵に向かって大量の魔法が降り注ぐ。
「……まだいたのか?」
「違う部隊のようだな」
さきほど魔法攻撃を見せたアイントラハト王国軍とは別部隊。それが二人には分かった。
「なるほど。装備が全然違う。だが魔法の威力は変わらんな」
「魔法主体なのだな?」
「あの装備でか? あれはどう見ても接近戦の部隊だぞ」
カルポの部隊の装備は鎧兜で身を固めた重装備。遠くから魔法で攻撃するだけの部隊に必要な装備ではない。
「接近戦も出来る。そういうことだろう」
「どの程度なのだろうな?」
「恐らくはゼムの部隊、千五百を完全に止めたと聞いた部隊だな。最低でもそのくらいの強さだ」
「数は?」
同じ八方将であるゼムの、レンベルク帝国軍の中でもかなり攻撃的な部隊を完全に受け止めた。今は味方であっても、その話に動揺しないではいられない。
「五百と聞いている。今見える数と同じだ」
「強いな……お前いつだ?」
「何の話だ?」
「訓練。大森林で訓練を行うのはいつの予定だ?」
アイントラハト王国軍との合同訓練。二人の部隊はまだそれを経験していない。
「次の次だから、半年はないな。まあこの戦争に決着がつけばの話だが……半年もあれば充分か」
「そうか。俺なんて最後だ」
「ご愁傷様」
「おい、何とかならないのか? 一時とはいえ、下手したら俺の軍が最弱になるではないか?」
軍の質において明らかにアイントラハト王国軍は自国軍よりも上。そのアイントラハト王国軍との合同訓練を行う時期が遅ければ、それだけ自部隊の強化が遅れることになる。
「なるな。間違いなくなる。可哀そうに。それまでの間はせめて指示された鍛錬を真面目にこなすんだな。俺はそうする」
「もっと早く始めておけば良かった。あれ内容が地味すぎて不評なんだ……しかし、どうやら東は大丈夫だな?」
「ああ、東にいるのはゼムとアステイユだ。あの二部隊は大森林での訓練を終えている。その後も教えられたことを真面目にこなしているみたいだな。それに、恐らくアイントラハトの残りの二部隊が加わる。攻撃であれば四軍の中で最強を争う二部隊と聞いている部隊だ」
「目の前のあれより強いのか……」
「頑張らねばならん。尚武の国。これをアイントラハトに譲渡すことになるぞ」
すでに二人はこの戦場での勝利を、それどころかこの戦争そのものの勝利を確信している。慎重さに欠けると非難されかねない思いであるが、そうなってしまうほど目の前で見せられた戦いは衝撃だったのだ。