月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

ファンタジー小説-四季は大地を駆け巡る

四季は大地を駆け巡る #95 将来の為に

今日は週一回行われている全体会議の日。大会議室には各部署の責任者たちが集まっている。新たに加わった三人も参加だ。その三人が増えただけで会議の様子はかなり違うものになっている。色々な物事が動き出し、もともと取り組んでいた問題もその解決の勢い…

四季は大地を駆け巡る #94 想いを抱えた人たち

広い執務室。そこに置かれた大臣でも使いそうな大きな机。座り心地の良い椅子。働く環境としては申し分ない。マリ王国では下級役人であったユリウスにとっては、かなり恵まれた職場環境だ。グランと二人だけでなければ。 目の前に山と積まれた書類。その全て…

四季は大地を駆け巡る #93 試される人たち

カール将軍はヒューガとの謁見を終えて、部下たちが待っている場所に向かった。 そして辿り着いたのは、王都から離れた場所にある東の拠点。そう聞かされているだけで、実際に移動したカール将軍に離れた場所に移動したという実感はない。扉を一つくぐっただ…

四季は大地を駆け巡る #92 招聘された人たち

ドュンケルハイト大森林の奥深くにそれはあった。彼が知る王都、王城とはかなり趣は異なるが、ここは間違いなくこの国の王が住まう場所。彼はエルフの王国にやってきたのだ。 もっとも正面の玉座に座っている人物はエルフ族とは思えない。かろうじてエルフか…

四季は大地を駆け巡る #91 大森林で生きるということ

冬樹が目覚めた。夏に三日遅れての復活だ。これは予想していたよりも早い。剣術一辺倒であった冬樹は魔力量はもっと少ないと思われていたのだ。実際は間違っていない。冬樹の魔力の絶対量は夏に比べるとかなり少ない。そうであるのに復活が予想より早かった…

四季は大地を駆け巡る #90 変わらないもの、変わったもの

気が付いた時、夏は見知らぬ部屋のベッドで寝かされていた。シルフと結んだ途端に、魔力切れで気を失った。あらかじめ知らされてはいたが、あれは不意打ちと同じ。気絶する前に頭に浮かんだ文句をすぐに言いに行こうと、夏は部屋を出て、ヒューガに会いに向…

四季は大地を駆け巡る #89 王として臣下としての心構え

ヒューガは結論の出ない思考の渦に巻き込まれたような気がしてきた。一人になってからずっと考えていた。自分は何をやりたいのか、と。王になった。多くのエルフたちを助けた。国の整備を頑張って行っている。仲間が多くなった。さらに新たな仲間を増やすこ…

四季は大地を駆け巡る #88 踏み出された一歩

ヒューガはタムに言われたことへの気持ちの整理がつかないままに、セレネに会うことになった。タムが語った「外に目を向けるべき」の外は、ドュンケルハイト大森林の外のこと。セレネたち西の拠点に住む人たちのことではないのだが、仲間を増やすという点で…

四季は大地を駆け巡る #87 見えていない国の未来

早朝の鍛錬を終えて、ヒューガはいつもの会議室に向かう。会議の参加者はエアルとカルポとグラン、それにギゼンとタムも参加することになっている。 急いで向かったつもりだったのだが、ヒューガが会議室に着いた時には、すでに全員が揃っていた。今日から新…

四季は大地を駆け巡る #86 叶えられた約束

ヒューガは気を失った夏と冬樹の二人が用意していた部屋に運ばれたのを確認した後、バーバが待っている部屋に向かった。 待っていたのはバーバとギゼン、ともうひとりはタム。顔を知っているだけでヒューガは話したことがない。バーバが必要だと考えて同席さ…

四季は大地を駆け巡る #85 合流

パルス王国の王城よりも一層古めかしい雰囲気のこの場所は、かつてエルフの国の城だった。今その城の主はエルフではなく、異世界からやってきた人間。 初めて見るドュンケルハイト大森林はとても美しかった。とてもこの世界で最も危険な場所と言われていると…

四季は大地を駆け巡る #84 過小評価、過大評価

会議室にイーストエンド侯爵家の主だった者たちが集まっている。定期的に開催されている全体会議の為であるが、今日の主要議題はいつもとは違う。 同時に現れた盗賊手段のこと、そして忽然と消えてしまったヒューガの仲間たちに関する調査報告がメインだ。 …

四季は大地を駆け巡る #83 広がる溝

クラウディアは仲間たちと共に森の奥に向かって進んでいる。全体で五十人のパーティ。当初予想していたよりも少ない数だ。パーティの中にはイーストエンド侯爵の配下の人も多くいる。それを考えると予定の三分の二程度しか集まらなかったことになる。 それで…

四季は大地を駆け巡る #82 裏の顔

夏たちと別れて城に向かうクラウディア。その足取りは重い。ジュンに言われたことに胸を痛めているのだ。 自分はヒューガと別れてから何も変わっていない。クラウディアにはその自覚があった。だが、変わる為に何もしていないと他人から言われると、ここまで…

四季は大地を駆け巡る #81 期待

夏が生活費を節約する為に自炊することにして、随分と経つ。宿の主人が調理場を自由に使って良いと言って貰えたのは夏にとって大助かりだった。ギルドで聞いた通り、無愛想な主人であるが、他にも何かと便宜を図ってくる。良い宿を見つけることが出来たと夏…

四季は大地を駆け巡る #80 建国の苦労

グランはドュンケルハイト大森林に入ってすぐにエルフの集団に捕まった。ゆっくりと大森林の景色を眺める時間もない。あっという間の拘束だった。 ただそれはグランにとって悪いことではない。少なくとも、魔獣に襲われて死ぬという結末は免れた。あくまでも…

四季は大地を駆け巡る #79 帰還

眼前には青々とした草原が広がっている。その向こうには遙か先まで連なる密集した木々。他の地域にある大森林とは似て非なる場所。それが精霊の地ドュンケルハイト大森林だ。 帰ってきた。その光景を見た瞬間、ヒューガはそう感じた。ここが自分の戻る場所。…

四季は大地を駆け巡る #78 悪魔の所業

目の前で燃え盛る炎。魔法を使っての、懸命の消火活動が続いているが、その勢いが衰える様子はない。燃え盛る炎の中には大勢の味方がいる。早く火を消して、彼等を助けなければならない。美理愛も、そんな焦る気持ちをどうにか落ち着かせて、魔法を唱える。 …

四季は大地を駆け巡る #77 大国のジレンマ

パルス王国と魔族の戦いが本格化しようとしている。戦況は逐一、ノースエンド伯爵を通じて、領地に戻っているイーストエンド侯爵にも届けられているが、その中身はパルス王国にとって決して良いものではない。 届けられた報告を聞いて執務室に戻ってきたイー…

四季は大地を駆け巡る #76 戦いが始まる

ヒューガから詳しい事情を聞かされた美理愛は、頼み事を聞くことにした。奴隷にされていたエルフを助ける為、しかもそれがかなり命懸けの行動だと知ってしまっては、美理愛が断れるはずがない。それが分かっているからヒューガは美理愛にお願いしたのだ。 美…

四季は大地を駆け巡る #75 息抜き

パルス王国のノースエンド伯爵領から北に進んだ、魔族の領土にかなり近づいている場所。平時であれば人気のないその平原に今は数え切れないほど多くの天幕が立てられている。その間を動き回っているのは武装した人たち。パルス王国の魔族領侵攻軍の陣地だ。 …

四季は大地を駆け巡る #74 新生活の始まり

城に続く大通りを馬車の行列が進んでいる。もうすぐ領主であるイーストエンド侯爵の到着。それを迎える為に城門の前には多くの騎士が並んでいる。クラウディアもその迎えの列に加わって、チャールズの隣に立っている。ただ彼女の気持ちは、イーストエンド侯…

四季は大地を駆け巡る #73 見えない未来

イーストエンド侯爵一行は領地へ続く街道を東に向かって急いでいる。本来はこれほど急ぐ道程ではなかったのだが、今は事情が出来た。先行する集団に追いつこうとしているのだ。 それも最初はここまでとは思っていなかった。追いかけている集団には子供もいる…

四季は大地を駆け巡る #72 うねり

イーストエンド侯爵家の領主館。その執務室で今日も、チャールズとクラウディアは各地から届けられる報告書や決裁書に目を通している。 クラウディアはこういった仕事が得意だ。王家に生まれた彼女。王女であっても、きちんとした帝王教育を受けている。パル…

四季は大地を駆け巡る #71 分かり合えない人たち

「話って、どこでするの?」 武器屋を出て少し歩いた所で、夏が美理愛に話しかけてきた。一秒でも速く、美理愛と離れたい夏。話をしたいのは美理愛であるのに、何も言ってこないことに焦れた結果だ。 「あっ、そうね。じゃあ、お城に戻りましょうか」 「冗談…

四季は大地を駆け巡る #70 転機

真夜中の貧民区。夜の闇に覆われているはずの貧民区は今、赤々とした光に照らされている。自然の光ではない。何者かが火をつけたのだ。 その何者かたちの姿は今も貧民区にある。いかにもという感じの黒装束の男たちが、あちこちで駆け回っている。顔は見えな…

四季は大地を駆け巡る #69 王国を守る盾

勇者が帰還し、いよいよ魔族領侵攻作戦の開始が間近に迫っている。そんな状況であるのに、アレックスはエリザベートの下へ日参する羽目に陥っている。 大事な時期だ。疑いを持たれるような行動は取りたくないのだが、それがエリザベートには通じない。毎日、…

四季は大地を駆け巡る #68 残酷な運命

ネロは地下室へ続く長い階段を降りている。彼一人ではない。彼と淫魔の間に出来た子供たちも一緒だ。 子供たちを母親に会わせてやろうなんて優しさから連れてきたわけではない。そんなことが出来るはずがない。子供たちの母親は鎖に繋がれているのだ。そんな…

四季は大地を駆け巡る #67 種まき

都市連盟の南の外れにある街。そこにある商業ギルドは閑散としている。商業ギルドの職員は忙しい毎日を過ごしているのが一般的であるのだが、この場所は例外だ。 ドワーフの国であるアイオン共和国との国境であるというだけで商業ギルドの支店が設けてあるの…

四季は大地を駆け巡る #66 策士、策に溺れる

魔族討伐を終えての久しぶりの王都への帰還。王都の住民たちは熱狂的に勇者の凱旋を迎えた。大通りの沿道を埋め尽くす人々。その人たちの歓声に、にこやかな笑みを浮かべながら手を振って応える優斗。その姿はここを出て行った頃の優斗と変わらない。 素直に…