月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #122 閑話その一

異世界ファンタジー 四季は大地を駆け巡る

 ヴラドがイーストエンド侯領に戻った後、ヒューガはヴラドが残していった美理愛からの手紙を読み始めた。

「へえ、綺麗な字だな」

 手紙を開いて最初にヒューガは書かれている字の美しさに感心した。楷書体で丁寧に書かれた文字は、文字の間隔もきれいに整っていて、とても読みやすいものだ。

「わざわざ手紙って何の用だろう?」

 そう思って読み始めたヒューガだったが、途中まで読んでも美理愛が何を伝えたいのか、さっぱり分からなかった。時候の挨拶から始まった美理愛の手紙。自身がいるであろう場所の周りの風景が書かれているかと思えば、それはやがて美理愛自身が経験したちょっとした日常の報告に変わっていく。兎を見た、この世界にも兎がいるのね、だとか、食事に出てくる肉は臭みが強いがそれにも大分慣れただとか。分かったのは、どうやら美理愛は深い森の中にいるようだということだけ。
 最後は、ヒューガに体を労わるように告げて、またいつか会いたいで手紙は終わっていた。

「暑中見舞いみたいなものかな?」

 ヒューガの結論はこれだった。こんな手紙になったのは、戦争の準備をしているなどと生々しい事を美理愛が書くことを避けた為。それに手紙で告白なんて一方的過ぎて恥ずかしいと美理愛が考えたからだ。

「さて、どうするか」

 どうするかと言いながらも、ヒューガの前には白紙の便箋が置いてある。手紙を受け取ったら、それに返信するのは礼儀。ヒューガは礼儀を重んじるタイプなのだ。
 悩んでいるのは、一体何を書けば良いのかということ。とりあえず書いてみよう。そう思ってヒューガはペンを取ってすらすらと書きだした。
 手紙を受け取った。突然の事で驚いた。先生と知り合いだったことにも驚いた。俺は元気。そっちも元気か。また会えるといいな。

「終わっちゃった」

 敬語だけでなく、日本語の文章も苦手なヒューガであった。

「……うん。返事を書くことに意味があるんだ。中身は問題ではない」

 最後に英字でサインを書いて、折りたたんで封筒に入れた。

「……しまった。先生帰ったな。どうやって送ればいいんだ?」

 悩んだ末にヒューガは、忍びの者に頼んでヴラドにそれを届けてもらった。もっとも受け取ったヴラドも困る。美理愛の居場所は魔族のものであれば分かるはず。そう伝えて手紙を返してきた。
 それを受け取ったヒューガはリリス族に相談してみた。もとは同族である淫魔族も美理愛、というよりライアンの下にいる。同種族での繋がりが幸いし、美理愛の居場所はやがて知れ、リリス族の一人がそれを届ける事になった。たった二行の手紙が美理愛の手元に届くまで忍びや魔族の手を使っても一か月の時がかかった。

「えっと……?」

「返信を預かってきました」

 そして事はそれで終わらない。美理愛からの返信がヒューガの手元に届けられた。

「そう……」

 さすがに今度の手紙は短い。慌てて書いたのであろう。文字にもやや乱れがあった。だが、内容は初めのものとは全然違う。かなり生々しいものだった。魔族がパルスを攻めるということ。パルス内で反乱の準備が進んでいること。それはきっと大規模なものになるであろうこと。そして最後に……また会いたい。

「これは……何でこんなものを?」

「さあ?」

 魔族がパルス王国を攻めようとしていることはヒューガには分かっている。魔族と結びついているのは意外だったが、パルス王国の貴族に怪しい動きがあることもアイントラハト王国の忍びが掴んできていた。美理愛が伝えてきた内容は既知のことだ。

「まあ、良いか。ありがとう」

「……あの」

「何?」

「返事を」

「返事がいるの?」

 これで終わり。そう思っていたヒューガは返事が必要と言われて、戸惑っている。

「すみません。頼まれてしまいまして。あまりにも熱心だったので、つい約束を」

「約束したんだ?」

「はい……」

 魔族が約束をしてしまったのであれば、ヒューガは無視するわけにはいかない。仕方なくまた返事を書く事にした。

「…………」

 全く書くことが思いつかない。とりあえずこれで最後にしようと考えて書いたのは「こういう情報はいらない」という一文。たださすがにこれでは冷たいかと思い、その後に{プリンセスを間者のようにするつもりはない}と付け足してみた。それを書いた後、美理愛がやったことは情報漏えいだと思い、「こんな真似をするとプリンセスの立場が悪くなる。これで最後にしてくれ」と更に付け足した。
 そして最後に「自分の身を大切にしろ」と注意をしておく。

「よし、出来た。じゃあ、悪いけど、これ届けてくれ」

「はい」

 

 ――そして更に半月後。

「何? プリンセスと文通してるんだって?」

 ヒューガの執務室にやってきた夏がうれしそうに話しかけてきた。

「……文通なんてしてない。何回か手紙のやりとりをしただけだ」

「それを文通っていうのよ。ああ、これね」

 丁度、ヒューガが返事を書こうとしていて机の上に置いていた手紙を、夏は手に取って読み始めた。

「勝手に読むな。人の手紙を読むなんて失礼だろ?」

「いいじゃん。どれどれ……私のことを心配してくれてありがとう。とても嬉しかった……何、良い感じじゃない? いつの間にこんな関係になったの?」

「はあ? どうしてそうなる? 俺はプリンセスが自分たちの大事な情報を手紙に書いてきたから止めろと返事しただけだ」

「……それの返事がこれ?」

「そう」

「続きは……言われた通り、仕事の話はもう止めます。仕事……まあ、いいか。何を書こうか悩んだけど、私は日向くんの事を良く知らない事に気付きました。日向くんだってさ」

「年上なんだから普通だろ?」

「日向くんはどんな女性が好みですか。おっ、いきなり核心だね。赤い髪、金髪、黒髪。どういう女性がタイプですか? ……えっと、三人の顔がはっきりと思い浮かぶんだけど?」

「……偶然だろ? プリンセスがエアルの事を知ってるはずがない」

「でも赤い髪だよ?」

「……偶然」

「ふーん。それで日向くんは、どれが好みなのかな?」

「髪の色なんて関係ないだろ。髪に好みはないって書いた」

 ヒューガは書いている途中の手紙を夏に見せる。書かれているのは言葉通り、髪に好みはない。

「全然駄目。書き直し」

「何がだよ?」

「髪に好みはない。みじかっ! 手紙でしょ? もうちょっと文章を膨らましなさいよ」

「苦手なんだよ」

「もう、例えばこうよ。僕は髪の色で女性を好きになる事はない。まずはこんな感じね」

「僕? 俺もう僕なんて言ってないけど?」

「自分の言葉に直せばいいでしょ!」

「ああ、そういう事ね。はいはい」

「続きは……でもプリンセスの黒髪はとても良く似合ってると思うよ」

「……馬鹿みたいじゃないか?」

「いいから。手紙っていうのはそういうものなのよ。あえて普段の自分と違う面を見せるのが大事なの」

「そういうものなのか」

「次は。ねえ、日向くんは年上の女性ってどう思う? ……なんかイメージ違うんだけど。プリンセスってこんなデレキャラなの? あたしのイメージだと、もっと高慢な……もしかしてツンデレなのか? プリンセスはツンデレ」

「いいから先に進めよ。これでいいのか?」

「どれどれ、年上に興味はない……あんた馬鹿?」

「何がだよ?」

「年上の女に年上に興味はない、なんて普通書く? 大体、それ嘘でしょ? あんたの周りの女は子供から年増まで幅広いじゃない」

「年増なんていないだろ? エアルはエルフ族だけど年令は見た目と同じだぞ。セレネみたいに百年以上生きてる訳じゃない」

「エアルじゃあないんだけどな……まあ、いい。それでもエアルも年上、プリンセスと変わらないでしょ?」

「そうだな。じゃあ、訂正。年上は好きだ」

「好きって……あんたから真っ直ぐにその言葉がでるとこっちが照れるんだけど」

「どういう意味だよ? エアルを好きなのは事実だ」

「はいはい。ツンデレはヒューガだったね。普段はそっけないくせにエアルにはデレデレ」

「別にデレデレはしてない。デレデレしてるのは、どちらかと言えばエアルのほうだ。エアルは……」

「ストーップ! のろけを聞く気はない。次に移りまぁーす!」

「……どうぞ」

「私は年下の男の子も素敵だと思います……ヒューガ、素敵だってさ」

「年下の男の子はだろ?」

「ヒューガくんは年下と付き合う女性ってどう思いますか。おかしくないですよね……なんか段々とイライラしてきたわ。もう貴方が好きですって書けばいいじゃないね?」

「好きじゃないから書かないんだろ?」

「うわ、鈍感主人公キャラね? そうやって女を次々と虜にしていくのよ」

「虜になんてしてないだろ!」

「だって。金髪、パッチリ目の可愛らしいディアちゃん、雰囲気はボーイッシュだけど、すっごく美形なエアル、まさに魔性の女、妖艶なエリザベート、そして美人で優等生タイプのプリンセス。……こう考えると、あんた周りの男にいつ殺されてもおかしくないね?」

「エリザベートさんとプリンセスは関係ないから」

「いいから。あと足りないキャラは何だろ? 眼鏡っ娘はこの世界じゃ無理か。猫耳もいないみたいだし……清楚系かな。おしとやかで着物が似合いそうな女性……サキさん? あら、もう関係持ってるね?」

「おい!?」

「じゃあ、エリザベートとはまた違うお色気キャラね。健康的なムチムチボディ。これはいないな。よし、次の目標はこれだぞ。頑張れよ。ヒューガ」

「頑張らないから……」

 結局、夏に言われるがままに手紙を書いたヒューガ。それをまた美理愛に送る。今度はライアンへの手紙も添えて。
 ライアンへの手紙には成り行きで手紙のやり取りをしているが他意はない。そちらの情報をパルス王国に漏らすつもりはないと告げてあった。それを受け取ったライアンは、ヒューガの律儀さに感心し、手紙のやり取りを認める事にした。
 もっともライアンがそれを認めたのはヒューガの手紙によるものだけではない。ライアンは新たな楽しみを見つけたのだ。美理愛に好きな男へ宛てて書いた手紙を声に出させて読ませるという楽しみを。ライアンはSである。