月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

黒き狼たちの戦記 第93話 逃げるが勝ち、とも言うけど

異世界ファンタジー 黒き狼たちの戦記

 アルカナ傭兵団の将来に暗い影が落ちていることをディアークは知っていた。トゥナの未来視がそれを教えてくれていた。そうでありながら、この様な事態を招いてしまったのは、ディアークの迂闊さのせい。確かにそうかもしれない。だが、誰がそれを責めるのか。責められるのか。この状況になることを止められなかったのはディアークだけではないのだ。
 ディアークも何もしようとしなかったわけではない。彼は彼なりにアルカナ傭兵団の将来を明るいものにしようとしていた。悪いところがあるのであれば、それを改め、傭兵団を未来に繋げようとしていた。その先に明るい光を見ていた。その光が、近づく影を払ってくれると信じていたのだ。

「うおぉおおおおっ!」

 アーテルハイドの体を貫いた近衛騎士の剣。まさかの事態に素早く反応したのは、すぐ近くにいたテレルだった。アーテルハイドの背後にいる近衛騎士に向けて叩きつけられた拳。大きく吹き飛んだ近衛騎士は、何度か床を弾んだ後、動かなくなった。
 だが、敵はその近衛騎士一人ではない。扉を開けて部屋になだれ込んできた完全武装の近衛騎士たち。躊躇うことなく彼らはディアークたちに剣を向けて来た。

「貴様等! ふざけた真似をしおって!」

 近衛騎士団の反乱。そう理解したディアークはすぐに反撃に転じた。進み出てくる近衛騎士たちに向かって、放たれた衝撃波。それを受けて前列にいる近衛騎士の数人が一度に吹き飛ぶ、はずだったのだが。
 衝撃波は鈍い音と共に宙に霧散した。それを防いだであろう土の塊と共に。

「……セバスティアン?」

 ディアークの衝撃波を防いだのは土の壁。城の中にそんなものが自然に出来るはずがない。上級騎士、正義=ディー・ゲレヒティヒカイトの称号を持つセバスティアンの特殊能力『操土』によるものだ。

「申し訳ございません、陛下」

「理由は聞かせてもらえるのか?」

 セバスティアンも反乱側に与している。オトフリートもそうであるのは間違いないので、特別驚くことではない。だが、アルカナ傭兵団の上級騎士であるセバスティアンが反乱を決意する理由について、ディアークには思い当たるものがなかった。

「色々ですが、ゆっくり語っている時間はありません。俺ではなく陛下の側に」

 反乱側のセバスティアンはグラスに毒が仕込まれていることを知っていた。それをディアークが飲んだところも、はっきりと見ている。

「俺は構わない」

「……時は自分に味方すると考えているのですか。ですが、その期待は叶えられますか? 叶えられないと知った時、陛下はどう思いますか?」

 この場にはおらず、絶対に反乱に与していない存在がいる。ルイーサとトゥナ、そしてシュバルツだ。トゥナについては戦闘力という点で頼りにはならないが、ルイーサとシュバルツが味方に加われば、それも部屋の外から支援すれば、状況はかなり変わる。このディアークの考えをセバスティアンは読んだ。

「どうも思わない。その時はその時で、対処するだけだ」

「そのように考えられる者ばかりではありません。それが陛下には分からない。我々の不安を陛下は理解できない」

「なるほど。それが理由か」

 いつ終わるか分からない戦い。勝利という結果が見えない戦い。アルカナ傭兵団はずっとそれを続けている。それに耐えられなくなった結果としての反乱。ディアークはこう理解した。

「理由の一つです」

「その一つだけで十分だ。戦う意思を失った者にアルカナ傭兵団にいる資格はない」

「戦う意思を失ったのではありません。意味のある戦いを求めているだけです。それを与えていくれる人物を求めているだけです」

 ディアークは意味のある戦いを与えてくれない。ディアークが団長として存在していてはアルカナ傭兵団は変わらない。そう考えてセバスティアンは反乱に与することを決めた。ただこれは、セバスティアンはそうだというだけで、反乱に加わった全員が同じではない。

「同じことだ。俺がアルカナ傭兵団だ。俺に従えない者は団員ではない」

「結構。名などなんでも良い。いや、アルカナ傭兵団などという名は消し去ってしまいましょう」

「出来るものならな!」

 再びディアークの体から放たれた衝撃波。その衝撃波が向かう先は部屋の壁。誰もいない方向だった。直撃を受けた壁が大きく揺らぐ。さらにその壁にテレルが体当たりをかました。
 ディアークの衝撃波とテレルの体当たりを受けて、崩れる壁。その空いた穴にアーテルハイドを抱えたディアーク、そしてオティリエを支えながらジギワルドが飛び込んでいく。難しい戦いを避け、一旦この場は逃げようと考えたのだ。

「……読まれていたか」

「どうやらそのようです」

 だが、壁を抜けた先の部屋にもすでに敵がいた。行動を読まれていたのだ。

「追い込まれたのではありませんか?」

 ベルントも続いて隣の部屋に逃げてきた。

「ベルント……お前は味方か?」

「テレル殿、ひどいな。まあ、慎重になるべきなのはわかる。味方であることを証明する為に、目の前の敵を倒すしかありませんか」

「冗談だ」

 ベルントの人柄をテレルは良く知っている。信じられる相手だ。ただ、味方と思うのはそれだけではない。剣によるものと思われる怪我と、それ以上に体を汚している返り血を見てのことだ。

「どちらにしてもあれを突破するか、元jの部屋に戻るかを選ばなければなりません。こちらに逃げる俺を追おうとしなかったのは罠の存在を示しています」

「罠……自分が住んでいた城で罠をはられるか」

 ディアークに気づかれずに反乱の準備は進められていた。警護を担当している近衛騎士団が反乱側ということであれば、気づけないのも仕方がないのかもしれない。だが、ディアークは、やはりそれを情けなく思ってしまう。

「体調はいかがですか? テレル殿も」

 テレルも酒を、ほぼ一気飲みで飲んでいる。飲んだ量であれば、一番多いはずだ。

「……良くはないな」

「俺もですな。ただ敵の策が時間稼ぎであるとすれば、行動するしかない」

 時間が経ち、毒が回ってしまえばそのまま死んでしまう可能性が高い。そうであれば動ける間に行動に移すしかない。生き残れる人を生き残らせる為に。

「……わ、私も、まだ戦えます」

 アーテルハイドが自分も戦うと言ってきた。

「……そうか。では戦ってくれ」

 それを受け入れるディアーク。何もしなければ死ぬ。仮に生きて捕らえられることになっても、それは助かったことにならない。アーテルハイドが反乱を起こした者たちに従うはずがない。結局は処刑されるか、死ぬまで幽閉といったところだ。

「ジギワルド。酒は?」

「私は飲んでいません」

 ジギワルドはグラスの中身を飲んでいなかった。酒は好きではないので、礼儀としてグラスに口をつけるだけにしていたのだ。

「それは良かった。では、オティリエを頼む」

「私も父上と共に戦います」

 母を任されたのは、自分が頼りにされていないから。ジギワルドはそう受け取ってしまう。

「もちろん戦ってもらう。だがすぐ隣で戦うわけではない。それは皆同じだ」

「どういうことですか?」

「包囲を突破したら、バラバラに逃げる。それが傭兵団のやり方だ」

「……分かりました」

 まとまって逃げていては敵もまた攻撃を集中させてくる。包囲を突破したあとは、目立たないようにバラバラで、それぞれ自分の裁量で逃げる。そのほうが生き延びられる可能性は高くなる。全滅しないで済むという言い方のほうが正確だ。誰が犠牲になるかは運次第。そういう考えなのだ。
 ただ今回の場合、敵は間違いなくディアークに攻撃を集中させてくる。そうなるようにディアークも振る舞うつもりだ。ディアークと一緒にいないことで逃げられる可能性が高まるのだ。この事実にジギワルドは気が付いていない。

「では、陛下の一撃のあと、俺が突入します」

「いや、私が行く、急襲なら私のほうが適任。ベルント殿にはその次を頼みます」

 最初に突撃をかけるというベルントを制して、アーテルハイドは前に出た。腹に深い傷を負っているとは思えない、しっかりとした足取りで。

「……分かりました」

 アーテルハイドが無理をしているのはベルントも分かっている。だが待ち構えている敵に対して突撃をかけるとなれば、動けるのであればアーテルハイドのほうが適任であることは事実。

「アーテルハイド。無理をするな」

「団長。ここで無理をしないで、いつするのですか?」

「そうではない。お前には任せたい仕事がある。だから、この場では死ぬなと言っているのだ」

「……ここでも、他の場所でも死にません。ここにいる誰も死なせません」

 ディアークは死を覚悟している。そう感じたアーテルハイドは、自分こそ命を捨てて戦おうと決意した。もともと大怪我で生き残れる自信などなかったが、簡単には死なないと決めたのだ。

「俺だってそのつもりだ。だがここは一旦引かなければならない。いつ戻ってこられるか分からない。そうなると、あいつに伝えておきたいことがある。それを頼みたいだけだ」

「……シュバルツですか」

 逃げることが出来たとしても、それで終わりではない。状況を把握するまで身を隠す必要がある。敵味方を見極め、アルカナ傭兵団を、国を取り戻すことが出来ると分かり、実際にそれを実現するまで、この場所には戻ってこられない。その間、シュバルツはどうなっているのか。殺されているか、捕まっているか。無事に逃げられていてもディアークとは二度と会うことはないかもしれない。

「伝言を頼みたい。任せてよいか?」

「もちろんです。お任せください」

 ディアークの言葉を伝えられるのは自分しかいないとアーテルハイドは考えている。父としてのディアークの言葉を伝えられるのは、他にはいないのだ。

「さて、まずはあれらを蹴散らすことか。その後は出たとこ勝負だな。行くぞ」

「はい」

 入口に固まって迎撃態勢を整えている近衛騎士たちに向かって、ディアークの衝撃波が飛ぶ。それとほぼ同時に、「神速」を使って集団に飛び込むアーテルハイド。瞬きする間に近衛騎士たちの間合いに入ったアーテルハイドは、その場で剣を振り回す。だが、床に倒れた近衛騎士は一人。残りの者たちは、アーテルハイドの攻撃を避けてみせた。

「……内気功か」

 ディアークの衝撃波を受けきり、完全とは言えないが、自分の攻撃も避けてみせた。その驚くべき近衛騎士たちの実力は、内気功によるものだと、すぐにアーテルハイドは理解した。
 ギルベアトは何故、他の近衛騎士に内気功を教えなかったのか。シュバルツの疑念をクローヴィスから聞かされて、アーテルハイドも気になっていた。教えなかったわけではない。近衛騎士団がその力を隠していたのだ。この真実をアーテルハイドは、この場で知ることになった。

「アーテルハイド! どけ!」

 他の人たちの反応も速い。アーテルハイドが有効なダメージを与えきれていないとみるや、すぐにテレルが突撃をしかけてきた。力任せに近衛騎士たちを押し込むテレル。だがテレルの「剛力」も近衛騎士たちは、数人がかりではあるが、受け止めてみせる。

「参る!」

 だが攻撃はそれで終わりではない。テレルの突進により、動きを止めた近衛騎士たちに向かって、ベルントの剣がうなりをあげて襲い掛かった。

「ふむ。固い……が、斬れないわけではない」

 ベルントの「豪剣」を身に受けて床に崩れ落ちてく最前列にいた近衛騎士たち。さらにその空いた隙間にディアークが飛び込んでいく。近距離からの衝撃波の攻撃を受け止めきれずに後ろに吹き飛ぶ近衛騎士たち。その彼らに向かってベルントの、アーテルハイドの剣が襲い掛かる。
 乱れた陣形をこじ開けていくディアークたち。真っ先に廊下に出たのは、扉を吹き飛ばしたテレルだった。

「……近衛騎士団にはあんな若い奴らもいたのか?」

 廊下に出たテレルが見たのは、シュバルツたち愚者のメンバーと同世代くらいの者たち。王国騎士団であれば若い騎士もいるが、実力と礼儀が求められる正規の近衛騎士はある程度、年齢がいった者しかいない。それくらいはテレルも知っている。

「見習い従士、という雰囲気ではありませんね。そもそも近衛騎士には見えない」

 若い者たちがいるとすれば見習い。だが実戦を前にしても怯えた様子がまったくない目の前の彼ら。ふてぶてしささえ感じさせる彼らが近衛騎士団の関係者とはベルントは思えない。

「なんであれ、この場に出てくるからには油断のならない相手と考えるべきか……」

 追い込まれたと思われる部屋を出た先で待ち構えているのが、ろくに経験も実力もない敵。その程度の策であれば、勝利が見えるというものだ。テレルは事態をそのように甘く考える性格ではなかった。

「まさか、黒狼団ではないですよね?」

「あれが、団長を毒殺して満足すると思うか? それで済むなら、とっくの昔にやっているはずだ」

 毒殺の機会なら何度もあったはず。エマの食堂でも実行出来たのだ。わざわざ、こんな大がかりな真似をする必要はないとテレルは考えている。

「そうだと良いのですが……」

 ベルントはそこまでシュバルツを信用出来ない。勝つためには手段を選ばない。そういう考えだと思っているのだ。

「真実を知りたければ生き残れば良い。生き残って、何が、何故起きたのかを知れ」

「……分かりました」

 自分の代わりに。テレルの声にならなかった言葉をベルントは聞いた気がした。グラスに仕込まれていた毒が致死量のものであるのなら、それを全て飲み干したテレルは生き残れない。それを分かっての言葉だと受け取った。生き残らなければならない。だが生き残れるのか。誰が敵で誰が味方か分からない、この状況で。
 心に湧き上がる不安を頭を振ることで振り払おうとするベルント。完全に振り払うことは出来ないが、それでも一歩、足を踏み込む覚悟は出来た。群がる敵に向かって、ベルントは剣を振り払った。

 

 

◆◆◆

 反乱が引き起こしている喧噪は徐々に城内を広がっていく。具体的なことは分からなくても、只ならぬことであることははっきりしている。武装した騎士たちが城内を駆け回っているのだ。それを不安に感じない人などいるはずがない。
 だがそれを受けて、行動を起こした人たちはそれほど多くない。国王であるディアークからは何の指示も伝わってこない。それを伝える立場である近衛騎士も何も言わない。事情が分かっている文官もいない。何をどうすれば良いのか、多くの人々は分からないのだ。
 この状況で動けたのは指示を必要としない人たち。ルイーサとトゥナもそうだ。

「トゥナ! 急いで!」

「急いでって……何が起きているか分かっているの!?」

 何かが起きているのは間違いない。だが、トゥナはルイーサのように「とにかく現場に向かえば良い」という風には考えられなかった。戦場で生き残る術を持たないトゥナは、ルイーサよりも慎重になってしまうのだ。

「戦いが起きているのは間違いないでしょ!? 城内で戦闘なんて、敵が襲ってきたに決まっている!」

「そうだけど、ちゃんと状況を確認しないと!」

「どうやって!? 確認する方法を考えている時間があれば、現場に行った方が早いわ!」

 その結果、自分たちもどうにもならない状況になったらどうするのか。トゥナの考えはルイーサには通じない。

「ルイーサ様! トゥナ様!」

 そんな二人の名を呼ぶ声。正面から近衛騎士が二人に向かって駆けて来ていた。

「奥で何が起きたの!?」

「王国騎士団と近衛騎士団の一部が反乱を起こしました!」

「な、なんですって!?」

 近衛騎士の反乱、これはルイーサの想像の外にあった。敵は城外から侵入してきたものだと考えていたのだ。

「不意打ちを受けて、何人かが怪我をした模様です」

「団長は!? 団長は無事なの!?」

 反乱を起こした者たちが真っ先に狙うのは国王であるディアーク。それとは関係なく、ルイーサが一番心配する相手はディアークであるが。

「戦っておられるようです。ただ奥の戦いの様子は我々にも詳細が分からず……なんとか敵の陣を突破しようとしているのですが」

「分かった。私が何とかするわ」

「お願いします! 敵はこの先の廊下に陣を! 陛下はそのさらに奥で戦っているはずです!」

 ディアークたちへの加勢を拒む敵の陣。それがいると言われた場所に駆け出そうとするルイーサ。

「ルイーサ! 危ない!」

「えっ!?」

 そのルイーサにトゥナが警告を発した。それに反応して振り返ったルイーサの目に映ったのは、自分に向かって剣を振り下ろそうとしていた近衛騎士の姿。その騎士が床に崩れ落ちていく様子だ。

「……どういうこと?」

 何故、近衛騎士が自分を斬ろうとしたのか。何故、それが出来ずに床に倒れたのか。ルイーサは何が何だか分からなくなった。

「反乱を起こしたのは近衛の一部ではなく、ほぼ全て。つまり、その騎士も敵です」

「ルーカス!?」

 何が起きたか教えてくれたのは、突然姿を現したルーカスだった。

「全容は掴めておりませんが、近衛騎士団はほぼ全てが反乱側です。それ以外にオトフリート、セバスティアン、はっきりとはしませんが、エアカードも怪しいかと」

「セバスティアンとエアカードが……」

 オトフリート以外にも傭兵団員が反乱に加わっている。これはルイーサにとって衝撃だった。傭兵団員はディアークを裏切ることなど、ルイーサにとっては、あり得ないことなのだ。

「それ以外にも正体不明の者たちが反乱に加わっています」

 近衛騎士団以外の戦闘集団の存在。それをルーカスは見極めていた。正体不明、つまり王国騎士団でもアルカナ傭兵団でもないということだ。

「団長たちは無事なの?」

「それは……分かりません。飲み物に毒が仕込まれていました。団長たちがそれを飲んだか、飲んでいないかは分かりません。それとアーテルハイド殿は背後から刺されて大怪我を負っています」

「毒……それにアーテルハイドが……分かったわ!」

 状況はかなり悪い。少しでも早く現場に駆け付けなければならない。ルイーサはそう考えたのだが。

「逃げるべきです!」

「なんですって……?」

 ルーカスは逃げることを進言してきた。これもまた、ルイーサにとってあり得ないことだ。

「状況はかなり切迫しています。いまさら、ルイーサ殿が向かっても、なんとかなるとは思えません。そうであるなら逃げられるうちに逃げるべきです」

「団長を見捨てろというの!?」

「そうではありません! 陛下たちもそれぞれ脱出を図っているはずです! それが傭兵のやり方ではないですか!?」

 諜報担当であるルーカスであるが、考え方は傭兵と同じ。逃げられる者は逃げるべきと考えている。間者としてであれば、尚更、そういう考えになる。一人でも生き延びて任務を果たす、大事な情報を届ける。そういう仕事をルーカスは続けてきたのだ。

「……私は団長を見捨てない!」

 だがルイーサは傭兵として行動していない。大切な人を守る。それだけを考えて行動しようとしているのだ。それが分かっているルーカスも、強く引き止めることはしない。説得しても無駄だと分かっているのだ。

「トゥナ殿」

「……分かった。逃げるわ。助けてもらえるかしら?」

「もちろんです」

 その為にルーカスは敵の包囲網をかいくぐって、ここまで逃げて来たのだ。一人で逃げたほうが、遥かに危険が少ないと分かっているのに。

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