月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

勇者の影で生まれた英雄 #161 揺れるモンタナ王国

異世界ファンタジー 勇者の影で生まれた英雄

 クリスティーナ王女を旗頭にした第三勢力。それに脅威を覚えているのは王弟よりもモンタナ国王だ。国王にとってはまさかの事態。謀略の道具として使い捨てるはずが、クリスティーナ王女はそれを利用して、まだ小さいとはいえ、自勢力を作り上げてしまった。自分の味方を削る形で。彼女のどこにそんな力があったのか。幼い頃から彼女を知っている国王であるが、彼女の能力にまったく気が付いていなかった。それはそうだろう。第三勢力を作り上げたのは、ほとんどグレンの力。国王はその存在を知らないだけなのだ。

「さっさと潰してしまえ! 何故、それが出来んのだ!?」

 会議の場で怒鳴っている国王。クリスティーナ王女の脅威はさらに拡大している。王都防衛上の要地が奪われた。すぐに王都に危機が迫るほどの重要拠点ではないが、それはクリスティーナ王女が国王と戦う意思を明確にしたことを意味する。さらに王都に近づいてくる可能性があるのだ。

「こちらから積極的に攻め込むには、それなりの数が必要になります」

 国王の前に跪き、その要求に否定的な言葉を返しているのはモンタナ王国軍のグレイグ・オズボーン将軍。国王を除けば、王国軍の頂点に立つ人物だ。

「では、それなりの数を送れば良い」

「南の前線が手薄になりますが?」

 モンタナ王国軍は中央東街道沿いに防衛線を展開している。北東に多くの軍勢を回せば、それだけ王弟派との戦いの最前線が手薄になってしまう。それが分かっているから義勇軍、クリスティーナ王女軍は積極的な攻勢に出られるのだ。
 あくまでもモンタナ王国軍にとって最大の脅威は王弟派とウェヌス王国軍。この状況を大きく変えないように、じわじわと支配圏を拡大していくという作戦だ。

「……だからといって放置しておくことは出来ないだろう?」

「守りに徹することで対処に必要な数を減らすことは出来ます。もしくは南の前線を縮小するという策もあります」

「ジェームズに領土を渡すことになる」

 南の前線を縮小すれば、その分、王弟が前に出てくることになるのは深く考えなくても分かる。国王はさらに追い詰められることになる。

「……王女殿下と和解の道を探るわけにはまいりませんか?」

「クリスティーナに頭を下げろと言うのか!?」

「そうは申しておりません。誤解があるのであればそれを解き、問題があるのであればそれを解決することを試みるのはいかがかと申しております」

 現状のモンタナ王国軍は二方面作戦を強いられている状況だ。王弟派とウェヌス王国の連合軍だけでも厳しい状況であるのに、さらにもう一つの敵勢力が生まれている状況は、なんとかして解消したいというのがオズボーン将軍の思いだ。

「……クリスティーナがばらまいている愚書は見たのか?」

「拝見しました」

「あのようなふざけた考えを持つ者と和解など出来るか!?」

 クリスティーナ王女の名で国中に配布している檄文では、かなり国王を酷評している。国王の評判を落とすことで相対的にクリスティーナ王女を高めるという意図もあるが、客観的に評価しても愚王と評されるような人物なのだ。

「妥協の余地はございませんか?」

「ない」

「……承知しました。ただ北東部への軍の派遣につきましては、しばらくのご猶予を。まずは王弟の野心をくじくことこそ大事と思われます」

「……分かった。その代わり、これ以上は譲るでない! 今の場所から一歩も出られないように閉じ込めておけ! 失敗は許さんからな!」

 結局、最後までオズボーン将軍を怒鳴りつけるだけで、国王は会議の場から出ていった。モンタナ王国軍の状況は何も変わらない。良くならない。

「将軍閣下……」

 床から立ち上がったオズボーン将軍に部下が声をかけてきた。だがそれだけだ。それ以上、語る言葉を部下は持たない。

「……クリスティーナ王女の軍について、新たに分かったことはあったのか?」

 これについては国王に説明することなく終わってしまった。問題は感じていない。説明しても不機嫌になるだけで終わるのは分かっている。

「ニュールンに現れた目的が住民を避難させることにあったというのは間違いないようです。残っていた住民から当日の様子を細かく聞いた結果です。間違いありません」

 当日、クリスティーナ王女が何を語ったか。その詳細を、実際にそれを聞いていた住民に尋ねて、得た結果だ。間違いのない事実だ。

「そうか。だが結果として我らと王弟派は本格的な戦いに突入することになった。そのせいでクリスティーナ王女への対処が充分に出来ない。王女殿下は勢力拡大の機会を得たことになる」

「意図したものだとお思いですか?」

「分からん。だが……騎馬隊の正体については? 何か分かったか?」

「いえ。およそ千騎。それもかなり鍛えられた部隊です。こういってはあれですが、我が軍にそのような部隊がありましたでしょうか?」

 ニュールンの戦いに参戦してきた騎馬隊。クリスティーナ王女の軍であることは明らかだが、元の所属が分からない。かなりの精鋭部隊であったことは分かっている。正規軍であると考えられるのだが、モンタナ王国軍を抜けてクリスティーナ王女に合流した者たちで明らかになっているのは、見習い騎士くらいしかいないのだ。

「我が軍でなければ他からか」

「クリスティーナ王女が傭兵を雇ったという話は聞いています。百人ほどという話だったのですが、数を増やしたのでしょうか?」

「傭兵か……そういえば妙な話を耳にしたな。王弟は銀鷹傭兵団を名乗る者たちに唆されて、内乱を起こしたという話だ。しかもその傭兵団はウェヌス王国に関わりがあるらしい」

 銀鷹傭兵団の噂は王都にいるオズボーン将軍の耳にも届いている。噂は南部とほぼ同時に広げられたので、当然だ。

「ではその傭兵団が……王弟と王女殿下は通じているということですか?」

 クリスティーナ王女に味方しているのが銀鷹傭兵団だとすれば、王弟とクリスティーナ王女の関わりを疑うべきだ。間違いではあるのだが、こう考えてしまうのは仕方がない。

「可能性は否定出来ない」

「ですが、建国宣言は自分も読みましたが、その中で王女殿下は王弟も厳しく非難しています。売国奴なんて書かれていましたけど?」

「……建国宣言?」

 部下が発した言葉がオズボーン将軍は引っ掛かった。国王が愚書と評した檄文を、部下は建国宣言と呼んでいる。なんとなく、その差が気になったのだ。

「そう呼ばれています。モンタナ王国をもう一度作り直す。クリスティーナ王女はそう宣言したということで」

「建国か……あの方がな……」

 オズボーン将軍が持つクリスティーナ王女の印象は、正義感には溢れているが芯のない弱々しい女性。とても建国なんて言葉とは結び付かない。

「……これは……将軍閣下からお叱りを受けるかもしれませんが」

「かまわん。言ってみろ」

 部下の言葉には真摯に耳を傾ける。オズボーン将軍はこう心掛けている。それが部下たちも分かっていて、様々な意見を口に出来るのだ。

「王女殿下とは戦うべきではないと自分は考えます」

「何故だ?」

「王女殿下が話に聞くほどの強い軍勢を率いているとして、もしその軍勢に何度か敗北を喫するような事態になったら……王国軍を維持出来るでしょうか?」

 モンタナ王国軍はぎりぎりの状態で規律を保っている。騎士たちはまだ良い。だが末端の兵士たちの中には、国王に不満を持っている人も多い。それでも軍に残っているのは、国をウェヌス王国に売り渡すような王弟には従えないという思い。
 だがもし、王国軍以外にモンタナ王国を守れる勢力があると知ったら。彼らがどういう判断を下すか、部下は不安なのだ。

「……大胆な意見だな」

「申し訳ございません」

「いや……不安は理解出来る。他言無用だが、兵たちの気持ちも理解出来なくもない」

「閣下……」

 このままでは負ける。決して口にすることはないが、オズボーン将軍にはこの思いがある。王弟が勝ってそれでモンタナ王国が良い国になるのであれば、まだ良い。だが国を憂いて、いち早く王弟に従った人たちのような期待を、オズボーン将軍は王弟に対して持てないのだ。

「ウェヌス王国軍が全面に出てくれば、我らは全力で防がなければならない。そうなると王女殿下への対処は不可能になる」

「まさか王都を?」

 前線を強化すれば後方は手薄になる。その手薄になったところを狙って、クリスティーナ王女の軍が王都奪取をもくろむ可能性を部下は考えた。

「可能性はあるが、そんな単純な策ではないかもしれない。王女殿下は王都を必要としているのか疑問だ」

「……建国ですか」

 モンタナ王国を新たに作り直す。そうであれば王都も新たな場所に置く可能性がある。そうであれば、無理に今の王都を落とす必要はない。

「最悪の状況を回避する為には、王弟派に東部を渡すことも考えなければならない。我が軍だけが二方面作戦を強いられていては、勝ち目は生まれないのだ」

「三つ巴の戦いにする為にあえて捨てるのですか……陛下はそれを許さないでしょう」

「そうだろうな」

 それでも必要となれば、それを行わなければならない。国王はその責任を追及するだろう。オズボーン将軍は失脚する可能性がある。戦時であるからなんて理由で、処分を保留するような国王ではないのだ。
 自分がいなくなったあとも戦略、戦術を大きく変えてはいけない。それを行っては前線が混乱し、敵に隙を見せることになる。だからオズボーン将軍はこうして部下と話すのだ。自分の考えをしっかりと伝えておく為に。

 

◆◆◆

 モンタナ王国北部にある村コットス。海に側にある小さな村だ。産業は漁業。北の海は豊かであるが、だからといってその全てがコットスの村の物ではない。海岸線に位置する全ての村や町の共有物ということで人口に応じて漁獲量が決められているのだ。例外はある。漁獲量に制限があるのは沿岸部に近い位置で行われる漁業のみ。それよりも遥かに遠洋。モンタナ王国の海とは言えないような遠洋に出れば、そんな制限は受けなくなる。命がけの危険な漁。だがそんなハイリスクの漁も誰もが出来るわけではない。遠洋に出られるだけの大きな船が必要なのだ。
 コットスの村にそんな船はない。猟師たちは一人乗りの小さな船で海に出て、漁を行う。制限など受けなくても採れる量はたかが知れている。食べる物には困らないが村民は皆、貧しい。そんな村を治める領主も当然貧しい。
 ディーク・ラルクスタン男爵もそんな小領主、名ばかりの貴族の一人だ。

「……なるほどね。これをこうして、こうなったのか」

 館、なんて呼ぶにはみすぼらしい建物の軒先で大きな紙を広げて、ぶつぶつと呟いているラルクスタン男爵。

「何か面白いことがありましたか?」

 その男爵に声をかけたのは彼の妻だ。整った顔立ちの美しい女性。ただ日焼けした肌は、王都にいる貴族の女性とはかなり違っている。貴族らしくないというだけで、美しさは劣るものではない。王都で暮らしていれば、評判の美人として片手で数えられる中に入るだろう。

「そうだね。久しぶりに面白いことを知ったかな?」

「まあ、驚き。貴方が面白いと言うなんて、よっぽどね? 気になるわ」

 ラルクスタン男爵は一言で言うと変わり者だ。優秀ではある。だがその優秀さは人を苛立たせるもの。正しくは彼が苛立ち、攻撃的になって人を怒らせるのだ。北のはずれの小さな村に送られたのも、それが理由だ。

「王女殿下が面白いことを始めた」

「……戦争でしょ?」

 内乱の噂はこの村にも届いている。地理的に近いこともあり、クリスティーナ王女の動向も。海産物は内陸の村や町にとっては貴重品。わずかな量でもかき集めればということで、沿岸部の漁村を巡る商人は少なくない。その彼らが様々な話を伝えていくのだ。

「そうだけど、まさかの展開になっているみたいだ」

「どういうこと?」

「これを見て」

 ラルクスタン男爵が妻に示したのはずっと眺めていた紙。そこには、雑ではあるが、モンタナ王国の地図が描かれている。

「こんなの見ても分からないわ」

「大きなバツ印が書かれているのが戦場になった場所。一番大きなのは中央東街道の東端だね。多分まだ続いている。北東部にある小さなバツ印はもう終わった場所。王女殿下の軍が勝った」

 ここまでの情報は商人たちも伝えていかない。商人に頼らずに内陸の情報を得る手段が、ラルクスタン男爵にはあるのだ。
 
「……二回も勝ったの?」

「そう。王国軍の二敗。まあ規模は小さかっただろうけどね。でも面白いのは勝敗じゃない。この三点を結んだ場所が王女殿下の支配地域。そしてざっくりだけど北東部を除く北部、西部から東部まで連なる地域が国王。南部全体が王弟」

「まだまだ王様が優勢ね?」

「いや。この三地域の線を見ると良い。もっとも他の勢力と接している線が長いのは国王だ。つまり、国王の軍は一番戦線が長い。それだけ多くの軍勢が必要になる。実際、戦いもすでに三か所で起きている」

 もっとも状況的に厳しいのは国王。ラルクスタン男爵はそれを妻に説明した。

「もともと王弟の勝ちで決まりだったのでしょ?」

 妻はこの内乱は王弟の勝ちで終わると夫から聞いていた。国王が不利だと聞いても驚くことはない。

「そうなのだけどね……そうだね。まだ足りないね。さすがにウェヌス王国軍が味方している王弟には勝てない」

 ラルクスタン男爵の表情が一気に暗くなる。今さっきの楽し気な様子がまったく消えてしまった。

「……貴方なら逆転出来る? もしそうなら」

「いや、無理だ。僕にはそんな力はない」

 それが出来るなら今ここにはいない。モンタナ王国を変えられたなら、内乱など起こっていない。もう手遅れなのだ。

「……あのぉ?」

「えっ? お客様? 商人じゃないわよね?」

 遠慮がちに声を掛けてきた男は商人には見えない。旅装束ではあるが、どう見ても騎士だ。

「こちらはラルクスタン男爵様の御屋敷で間違いないですか?」

「お屋敷……まあ、そうね」

 お屋敷なんて呼べるような建物ではない。だが貴族の家を表現するならそうなる。

「ラルクスタン男爵様は?」

「彼よ。私は彼の妻」

「あっ、失礼いたしました!」

 慌てて姿勢を正す男。男爵夫人と思っていなかったのだ。

「それで貴方は?」

「はい。自分はクリスティーナ王女に仕える騎士マインズと申します」

「えっ?」「嘘?」

 丁度話題にしていたクリスティーナ王女の騎士。それがいきなり現れたことにラルクスタン男爵と妻は驚いた。

「クリスティーナ王女からの書状をお持ちしました。ご確認ください」

「……どうして、ここに? 私のことを知っているのかな?」

 クリスティーナ王女の使いが何故、こんな小さな漁村に現れたのか。自分がいると知ってのこととしか考えられない。

「大変失礼ながら私は王都にいた時は騎士見習いの身。貴族の方々について詳しく存じ上げません」

「私のことを知っているわけではないのに、ここに?」

「はい。書状を読んで頂ければお分かりになって頂けますが、王女殿下はモンタナ王国を作り直そうと考えておられます。それを実現するには多くの人材が必要。我々は勧誘の為に各地を回っているのです」

 言葉を飾ることなく偽ることなく、正直に話すマインズ。自分には駆け引きなど出来ない。相手に見せられるのは熱意と誠意。こう考えているのだ。他の騎士の多くも同じ考えで各地を回っている。

「王国を作り直す……それはどんな国なのかな?」

「自分には詳しいことは説明出来ません。ただ民の為の政治。それを実現出来る国を目指しています」

「ちょっと曖昧だね。民の為というお題目だけでは」

 民の為の政治。言葉にするだけであれば誰でも出来る。私欲を満たす為の政治を行っている者たちも表では民の為と言っているのだ。

「……ゼクソン王国のような国だとお分かりになりますか?」

「ゼクソン王国か……悪いね。私も気にはなっていたけど、詳しい情報が手に入らなくて」

 ゼクソン王国は大きく変わった。それだけは伝え聞いているが、その実態は明らかではない。ルート三国以外に情報が漏れることを嫌って、情報統制をかけているからだ。

「そうですか……」

「ただ強国であることは分かる。それを支える国力もあることも。でも志だけでは国は作れないよ」

「分かっております。だから人材を集めているのです」

「人材を集めるのは良い。でもそれを活かすことが出来るのかい? 国というのは人だけで成立するものではないよ。土地もいる。その土地を、そこに住む人を守る力もいる。王女殿下にその力があるのかい? 王女殿下はどうやってそれを実現しようとしているのかな?」

「それは……」

 ラルクスタン男爵に畳みかけるように問いを重ねられてマインズは口ごもってしまう。彼にはラルクスタン男爵の疑問の全てに答えられるだけの知識はないのだ。

「あなた……」

「ああ、ごめん。つい……気にしないでくれ。僕の悪い癖なんだ」

 こんな形で人を問い詰めてしまう。答えられないとそれに苛立って、さらに攻撃的になってしまう。ラルクスタン男爵の悪い気質だ。誰にでも同じというわけではない。いい加減な答えを返そうとする人にはより攻撃的になってしまう。そしていい加減な答えで終わらせようと考える人のほうが権力を持っていたりするのだ。

「いえ。答えを持たない自分が悪いのです」

「……もし分かるなら教えてもらえるかな? この状況は意図して作ったものかな?」

 ラルクスタン男爵は地図を指差してこれを尋ねた。

「……ああ、よく今の状況をご存じで。はい。国王と王弟を衝突させることで我々は勢力を伸ばす為の時を作ろうと考えています。最新の状況は自分も分かりませんが、上手く行っているはずです」

「この先は? 次はどうするつもりなのかな?」

「それは……ちょっとご説明は」

 まだ味方になると決まったわけではないラルクスタン男爵に戦略の類を話すわけにはいかない。

「それもそうか。しかしな……それが分からないと……いや、そうなると……」

 ラルクスタン男爵も多くを知らないと決断出来ない。クリスティーナ王女には興味を持つようになった。だが人物の全てを知ったわけでも、勝算が見えたわけでもない。情でも理屈でも決められないのだ。

「必ず勝ちます! 我々には軍神がついていますので!」

 ラルクスタン男爵は逡巡していると見て、マインズは咄嗟に勝利を宣言した。熱意を伝えているつもりだ。

「……はい?」

「あっ、駄目ですか? 表現が難しくて。軍神はさすがにどうかと自分でも思うのですけど……」

 まさかグレンが付いているとは言えない。英雄でも分かってしまう可能性が高い。そう考えてマインズは軍神と表現したのだ。グレンがこれを知れば、呆れるか怒るか。良い顔をしないのは間違いない。

「ちょっと待てよ」

 だがマインズはラルクスタン男爵にヒントを与えることになった。クリスティーナ王女には軍神と表現出来るような何者かが付いている。実在の人物が。それが分かったのだ。
 恐らくは今の状況を作ったのもその人物。ラルクスタン男爵は改めて地図を眺めながら考えてみた。国王はともかくとして王弟にはウェヌス王国軍がついている。それでも勝てるとマインズが言い切る人物を。難しい答えではない。

「もうひとつだけ聞いて良いかな?」

「自分が答えられることであれば何でも」

「クリスティーナ王女は背後は気にしないのかな?」

 はっきりと聞いてもマインズは否定するかもしれない。それが分かっているラルクスタン男爵は、遠まわしの問いを向けてみることにした。

「背後ですか?」

「国王と王弟へは、すばやく要地を押さえて備えている。でも背後はがら空きだ。内乱に乗じてアシュラム王国が攻めてくる可能性を、クリスティーナ王女は考えていないのかな?」

「それは、その……自分には分かりません」

 マインズは答えを返さなかった。だが反応だけでラルクスタン男爵には充分だ。

「分かった。私にも勝算が見えてきたよ。ただ今の段階では味方すると確約出来ない。クリスティーナ王女にお会いした上で判断させてもらうことで良いかな?」

「もちろんです! 会っていただければ必ず分かって頂けます!」

 ラルクスタン男爵の返事を聞いて、大喜びのマインズ。確約を得たわけではない。それでも彼には大喜びする資格がある。マインズ本人は分かっていないが、彼は大物を釣り上げたのだ。あまりに癖が強いので上手く調理できるかはクリスティーナ王女、もしくはグイン次第ではあるが。