月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

勇者の影で生まれた英雄 #61 銀狼兵団

グレンはローズたちを連れてゼクソンの王都に辿り着いた。 同行したのは三十名。信頼出来る者だけを厳選した結果だ。グレンとローズを入れて総勢三十二名の一行は、王都に入るとすぐに丸々借り上げられた宿屋に案内された。 それだけの人数で戻ってきたこと…

異伝ブルーメンリッター戦記 #75 真実は残酷だ。だから人は隠したいと思うのだ

総指揮官がジグルスに討ち取られたことで魔人軍は撤退。形としてはそういうことで、総大将を討ち取ることで逆転勝利を得るという展開は過去の戦いにおいて何度もあったことだ。そうであるのだがジグルスはなんだか腑に落ちなかった。魔人軍が撤退していく様…

勇者の影で生まれた英雄 #60 接近

裏町を出た健太郎と結衣は、予定通り買い物をする為に表通りの店に入った。あらかじめ決めていた店だ。 人の行き来の多い大通りに面している店であるのだが、他に客の姿はない。店の方で気を使って人払いをしたのか、そもそも普段からこのようなのか分からな…

異伝ブルーメンリッター戦記 #74 モブキャラが覚醒したら何と呼ぶべきだろう

ブラオリーリエにこもるリリエンベルク公国軍との交渉は決裂に終わった。交渉の使者とされたフレイには初めから分かっていたことだ。リリエンベルク公国の中心都市シュバルツリーリエに残った人たちは皆、死を覚悟していた。それをブラオリーリエにいる人々…

勇者の影で生まれた英雄 #59 代役

ここ最近ずっと健太郎のイライラは止まらない。自慢気に異世界の知識をひけらかしてみても、そのほとんどを金が掛かるという理由で否定されてしまう。大将軍という地位に就き、軍の頂点に立ったと聞かされているのに、結局は自分の思ったようには物事が進ま…

異伝ブルーメンリッター戦記 #73 新たな物語は新たな登場人物を必要とする

キルシュバオム公国での戦いはローゼンガルテン王国軍の優勢で進んでいる。ただあくまでも現時点で考えた場合の優勢だ。魔人軍の侵攻を許し、いくつかの拠点を奪われているという事実は変わらない。 魔人軍はラヴェンデル公国軍での戦いとは異なり、拠点確保…

勇者の影で生まれた英雄 #58 勇者のつまずき

――グレンたちが王都を発って数日後。 ウェヌス国軍の兵舎の会議室では、いくつもの会議が行われていた。今は三一○一○中隊が会議中だ。会議といってもその内容は第三軍の実質的な解散の通達だった。 「第三軍は丸々、勇者の直轄軍になることに決まった。所属…

異伝ブルーメンリッター戦記 #72 老戦士はただ去るだけでは終われない

街道を力ない足取りで南下する人々の列。その最後尾には、前を歩く人々とは異なり、きちんと隊列を整えて歩く軍人たちの姿がある。リリエンベルク公国の中心都市シュバルツリーリエから逃れてきた人々だ。 今のところ魔人軍の襲来はない。だからといって、そ…

勇者の影で生まれた英雄 #57 グレンの秘密

――ローズの正体はソフィア・ローズ・セントフォーリア。大陸を統べていたエイトフォリウム帝国の皇族。 執事の衝撃の告白からグレンが立ち直るには、長い時間を要した。ようやく口を開いて出来てきたのは。 「嘘ですよね?」 否定の言葉だった。執事が嘘をつ…

異伝ブルーメンリッター戦記 #71 主人公が多くの人の心を捉えるのに手段は問われない

キルシュバオム公国南西部。エカードたち花の騎士団が向かった戦場では激しい戦いが行われていた。キルシュバオム公国に侵攻した魔人軍はおよそ五万。それに対してローゼンガルテン王国とキルシュバオム公国の連合軍は三万。数の上で劣勢だ。さらに質の上で…

勇者の影で生まれた英雄 #56 ローズの秘密

幾本もの木々が整然と立ち並ぶ緑豊かなその場所はウェヌス王都の墓地。木々の間には白い墓石が、これもまた整然と並んでいる。 人気のないその場所に一人佇む男の姿があった。漆黒の髪、どこにでもいそうな商人の様な姿をしたその男は、グレンだ。 墓石にフ…

異伝ブルーメンリッター戦記 #70 何故物語は悲劇を求めるのか

リリエンベルク公国領に侵攻した魔人軍は三万。その第一報を聞いたリリエンベルク公爵が懸念した通り、その軍はほぼ魔人だけで編成された精鋭と呼べる軍だった。 その魔人軍に対してリリエンベルク公国軍は善戦した。兵を鍛えるだけでなく、防衛線と定めた地…

勇者の影で生まれた英雄 #55 ちぎれた鎖

翌日、何の先触れもないままにゼクソン国王は採掘場にやってきた。 それなりに豪奢な馬車を囲む騎馬がわずかに十騎。一国の王としては身軽な移動だろう。それを確認しながらも、グレンはいつまでも視線をそれに向けることなく、自分の仕事に取り掛かった。 …

異伝ブルーメンリッター戦記 #69 今もまだ世界は定められたストーリーで動いている

花の騎士団の行軍はかなりその様相を変えている。隊列を整えて進むのではなく。バラバラに走っているのだ。移動中も兵士を鍛えようというクラーラの提案を、エカードはこういう形で実現していた。 これにより行軍速度は大いに速まった、とはならない。永遠に…

勇者の影で生まれた英雄 #54 虜囚の身

一本の木も生えていない赤茶けた岩肌を晒している荒涼とした山の麓。 そこでは多くの人間がボロ衣を纏って忙しく働いていた。山壁に大きく開けられた洞窟。そこから次々と運び出された岩は何か所かに積まれていき、それをまた大金槌を持った者たちが細かく砕…

異伝ブルーメンリッター戦記 #68 主人公の能力の活かし方

エカードが率いる六千の軍勢、花の騎士団=ブルーメンリッターは最短経路を選んでキルシュバオム公国に向かっている。ローゼンガルテン王国の西端近くから魔人軍が現れたというキルシュバオム公国、ローゼンガルテン王国領としても南西部にまっすぐ進む道を…

勇者の影で生まれた英雄 #53 上に立つ者の重み

城内の食事室。今日も健太郎たちは打ち合わせを行っていた。 今日は、いつもよりも健太郎は飛ばしていた。少しでも早く自分の軍を、こんな思いがあらぬ方向に進んでいるのだ。 「駐屯地の名前はトキオが良いと思う」 「はっ?」 「僕の軍の駐屯地だから僕の…

異伝ブルーメンリッター戦記 #67 なるようになるは諦めではない

空に伸びる木々はその高さを増し、密度もこれまでとは明らかに違っている。人が踏み入った気配のまったくない森の奥。そこを一人、ジグルスは歩いている。 心に浮かぶのはわずかな後悔。もっと偵察を重ねてからのほうが良かったかという思いだ。だがその考え…

勇者の影で生まれた英雄 #52 悲劇

フローラとメアリー王女のことを知っても健太郎と結衣の心情は大きくは変わっていない。二人のそれが変わる時は、このまま来ないのかもしれない。二人のどちらかがこの世界で命を落とすまでは。 夕食の後、そのまま食事室に留まって打ち合わせをしている二人…

異伝ブルーメンリッター戦記 #66 交わった物語がまた分かれていく

一軍六千を率いてキルシュバオム公国に転戦することになったエカードたち。だからといってすぐに移動出来るわけではない。軍の再編についてこの戦場に残るラードルフ総指揮官との調整が必要だ。 兵士についての調整は簡単だ。エカードたちが所属していた軍の…

勇者の影で生まれた英雄 #51 違い

城内の食事室。かつてはメアリー王女と健太郎たち、そしてグレンが集っていたその場所は、今は面子を代えた話し合いの場になっていた。 集まっている面子は健太郎と結衣、そしてジョシュア王太子と勇者親衛隊の副官であるマークの四人だ。 ウェヌス王国にと…

異伝ブルーメンリッター戦記 #65 裏表

リリエンベルク公国軍に割り当てられた陣営はそれほど広くはない。もっとも人数が少ない部隊なのだから当然ではある。ただその狭さはあくまでもここまでが陣営と線を引いた、実際には線ではなく壕で区切られている範囲内でのこと。その壕の外に出れば、訓練…

勇者の影で生まれた英雄 #50 愚行

敗戦の第一報が入った時点では、動揺はしても戦争である以上はそういうこともあると冷静に受け止めていた軍上層部も、続報が入るにつれて大混乱に陥っていった。 王都とエステスト城塞の間を多くの軍使が行き来し、情報のやり取りが行われた結果、決められた…

異伝ブルーメンリッター戦記 #64 物語が加速する

ようやく魔人軍に動きがあった。膠着気味であった戦況もこれで動くはずだ。ローゼンガルテン王国軍にとって待ちに待った、なんていえる状況ではない。一日でも早い戦争の終結は強く望んでいるが、 激しさを増すことまで求めているわけではない。だが今回の動…

勇者の影で生まれた英雄 #49 退却戦

アシュラム国境から少しゼクソン側に街道を戻った場所。 アシュラム国境から少しゼクソン側に街道を戻った場所。 そこには迫り来るアシュラム軍を懸命に防いでいるウェヌス国軍の姿があった。どの兵士も満身創痍と言って良い状態だ。 崩壊寸前の部隊を支えて…

異伝ブルーメンリッター戦記 #63 主人公しか知らない物語

戦いの頻度が少なくなっている。魔人軍からの攻撃が減っているのだ。いよいよ撤退したのか、と喜んだローゼンガルテン王国軍であったが、さすがにそれは甘い考えだった。偵察で飛ばした飛竜は魔人軍の存在を、それも依然として大軍であることを確認して帰っ…

勇者の影で生まれた英雄 #48 勇者の野心

いよいよ先軍が国境を越える日となった。 予定からは二日遅れているが、その理由は公表されていない。知っているのは、一部の将だけだ。前日に総大将であるハドスン将軍の名によって密やかに通達された内容は、ゼクソンが裏切る可能性がある、いざという事態…

異伝ブルーメンリッター戦記 #62 まさかの接近

戦況は一変した。道の拡張と砦の建設工事。その場はローゼンガルテン王国軍にとっては奇襲に怯える場所ではなく、敵を罠にかける場所に変わっているのだ。奇襲を狙って森に潜んでいる魔人軍に対して、ジグルス率いるリリエンベルク公国軍は片端から襲撃を行…

勇者の影で生まれた英雄 #47 裏切りの気配

ゼクソンとの国境にある城塞は、両国を結ぶ街道のすぐ脇、街道南側の丘陵突端に築かれており、常時二千程のウェヌス国軍東方辺境師団が駐屯している。 街道をそのまま東に進むと、少し先に両側から山がせり出している地点があり、そこを抜けるともうそこはゼ…

異伝ブルーメンリッター戦記 #61 主人公の思い

多くの木々が空に向かって伸びている。その先は雲ひとつない晴天。青々とした空に太陽が浮かんでいる。だが陽の光は生い茂る葉に遮られて、ほとんど地上に届かない。届く必要もない。陽の暖かさを、青空の美しさを喜ぶ余裕など、地上で殺し合いを行っている…