月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

ファンタジー小説-竜血の玉座

竜血の玉座 第38話 聖仁教会

ナーゲリング王国最大都市、王都ドラッケングラブ。王が住まうお膝元のその街で、暗部とされている場所がある。貧民窟、今日の暮らしにも困るような貧しい人々が集まっている場所だ。 犯罪者の巣窟でもあったその場所だが、近年はかなり様子が変わってきてい…

竜血の玉座 第37話 戻れない過去

ハインミューラー家のヴィクトール公子がツェンタルヒルシュ公国を訪れたのは、以前から計画していたからではない。王都に滞在している間にいくつか疑問が生まれ、その疑問を解くにはツェンタルヒルシュ公国の公主であるクレーメンスに話を聞くのが良いかも…

竜血の玉座 第36話 天秤

見上げる空には青空が広がっている。真っ青な空に浮かぶ白い雲。のどかと表現できる光景だ。それを眺めて、ソルは体の中を流れる血を落ち着かせていた。 空の下、訓練場には「のどか」とは真逆な雰囲気が漂っている。強弱はあるが人々から放たれている殺気が…

竜血の玉座 第35話 実力試し

反乱勢力として捕らえられた人たち以外にも裁かれる者がいる。ソルだ。戦場で、上官の命令がないというのに、勝手に行動を起こしたということで、軍令違反を問われることになったのだ。その結果、敵首謀者を討ち取ったとしても、罪がなかったことにはならな…

竜血の玉座 第34話 行きつく先は

任務を終えて、近衛特務兵団は王都に戻った。全体の三割を失うという、ルシェル王女にとっては、衝撃的な結果となっての帰還だ。王国軍全体で考えても、間違っても少ないとはいえない犠牲者の数となった作戦の是非は今後、軍内部で検証が行われることになる…

竜血の玉座 第33話 無意味な戦い

王国軍と反乱勢力の再戦は三日後に開始された。敵戦力を把握し、それに対応して戦うための準備にその期間が必要だったのだ。準備は特別難しいものではない。運んできた攻城兵器を組み上げ、少し耐火対策などの補強を加えるだけ。それで戦えるとルッツ司令官…

竜血の玉座 第32話 敗戦

初戦はナーゲリング王国軍の負け。それも大敗という結果だ。先軍二千の死傷者は六百から七百。三割以上の被害をだしたことになる。特に近衛特務兵団の被害は大きく、死傷者は百五十を超えた。五割の喪失という、負け戦でも滅多にあることではない壊滅的な犠…

竜血の玉座 第31話 異能

近衛特務兵団の次の任務は、前回と同じ。フルモアザ王国の残党、反ナーゲリング王国勢力の討伐だ。ただし、単独任務ではない。ナーゲリング王国正規軍との合同任務となる。王国第二軍、大隊名で言うと第二〇二大隊、第二〇六大隊から第二〇九大隊までの五大…

竜血の玉座 第30話 ある日の午後

開け放たれた窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、それによって作りだされた隙間から、雲一つない青空に浮かぶ太陽の光が差し込んでいる。 心地良い午後。だが、その窓の近くに置かれている天蓋付きな大きなベッドの上にいる二人に、その心地良さを感じてい…

竜血の玉座 第29話 和解?

ルシェル王女とヴィクトール公子の会食は城内で行われることになった。王国側が、しかもルシェル王女の手配となれば、必然的にそうなる。王女の身で王都の酒場を会食に使う、なんてことはない。本人がそうしたくても周りが許さない。 会食に使われるのは、城…

竜血の玉座 第28話 異なる思い

早朝の訓練場で自主鍛錬を行っている騎士や兵士は、以前とくらべると、かなり増えた。近衛特務兵団の準騎士だけでなく兵士も多くいる。兵士のほうが多くなった、がより正確な表現だ。その理由は、元ティグルフローチェ党の人たちの入団。加わった二百の中に…

竜血の玉座 第27話 駆け引きと本気

雑兵風情が思いつきで口にした戯言。本当はこう考えて切り捨てたいのだが、ユーリウス王はそれが出来なかった。ソルの言葉はいくつかのことをユーリウス王に気付かせてくれた。そう思うとまた忌々しい気持ちが湧いてくるのだが、それは否定しようのない事実…

竜血の玉座 第26話 交差する視線

用は済んだ、と勝手に判断して玉座の間を出ようとしたソルを呼び止めたのはリベルト外務卿。バルナバスからそう教えられてもソルは戸惑うばかりだ。初対面の、同じ部屋にいただけで対面したとも言えない状態の、王国の重臣が自分に何の用があるのか、すぐに…

竜血の玉座 第25話 ハインミューラー家

玉座の間には緊張感が広がっている。これから来賓を迎えるにあたって両脇に並んでいる重臣たち、ところどころに配置されている騎士たち、そして誰よりも玉座に座るユーリウス王が一番、強張った顔を見せている。もう間もなくその来賓が姿を現すのだ。オステ…

竜血の玉座 第24話 混沌

王都を囲む防壁はすぐそこ。東門に通じる街道にソルは立っている。いつもであれば多くの人が行き来しているこの場所だが、今は人影はまばら。皆、足早にソルが立っている場所を通り過ぎていく。 その理由はソルが見ている高札のすぐ横に並べられた首から上だ…

竜血の玉座 第23話 裏事情

ソルとミストは砦の人間を一人連れて、部隊が待機している場所に戻った。それを見たルシェル王女は、まずは二人が無事に戻って来たことを喜び、交渉がどのような結果になったのかが気になった。降伏勧告を行うことを受け入れ、ソルとミストを送り出したルシ…

竜血の玉座 第22話 ティグルフローチェ党

王国直轄領の東部。深い森のそのまた奥の山中にその砦はある。軍事拠点としての価値はほぼない。それがティグルフローチェ党を積極的に討伐しなかった理由のひとつでもある。公式記録ではフルモアザ王国の残党、反乱勢力となっているが王国としての実害はそ…

竜血の玉座 第21話 隠れている事実

近衛特務兵団。ルシェル王女が率いる部隊の名称だ。名称の「近衛」はルシェル王女が指揮官であるから。「特務」は、他の王国軍の部隊と一線を画す意味を持つ。組織としては王国軍の一部隊ではあるが、色々な意味で別物。人によって良い意味か悪い意味かの受…

竜血の玉座 第20話 不信

勝敗が決したあとは講評。といっても今回の対抗戦ではリーバルト軍務卿と、わざわざ対抗戦の様子を観戦しにきたユーリウス王子に結果を報告するだけで終わりとなる予定だ。王国騎士の頂点に立つディートハルトの戦いぶりを批評出来る者は王国軍にはいない。…

竜血の玉座 第19話 番狂わせ

王国軍による模擬戦が始まろうとしている。すでに両軍勢は初期配置から、広々とした丘陵地帯への展開が完了している。ルシェル王女は部隊を四つに分け、自身がいる本陣に五十。右翼にも五十、中央と左翼に百ずつを配置している。ディートハルト率いる第一〇…

竜血の玉座 第18話 敵を知り己を知れば

対抗戦に向けて、部隊のメンバーもそれなりに気合いが入っている。負ければ失業だというのだから、理不尽さに憤りを覚えながらも、気合いを入れて頑張るしかない。とはいえ、特別なことを行っているわけではない。訓練の内容は、ほぼこれまでと同じ。走り込…

竜血の玉座 第17話 露呈

城の奥にあるバラウル王家の人々が暮らす居住区域。城に来てからは、そこがソルの生活空間の、ほぼ全てだった。外出は許されず、城の中でも居住区を出ることは、ほとんどなかった。居住区以外でソルの記憶にはっきりと残っているのは、建国記念日などの王国…

竜血の玉座 第16話 生まれた齟齬

ユーリウス王子が即位する日が決まった。少し、ユーリウス王子にとってはだが、時間がかかったのは招待客をどうするかを決めるのに時間が必要だったから。王都から使者を送り、相手が招待されたことを知ってから準備を整えて王都までやってくるのに必要な期…

竜血の玉座 第15話 勉強中

ハイン家への処置は速やかに進んだ。王国は王都への召喚命令を伝える使者を送ると同時に、軍勢も送り出した。ユーリウス王子が王都に到着している今、小領主を制圧するに必要な軍勢の数は揃っている。出し惜しみする理由もない。ハイン家は一切抵抗すること…

竜血の玉座 第14話 黒幕の存在

フーバー家軍との戦いに見事勝利して、それで一件落着、とはいかない。いかないことが分かった。まずは戦場から逃げ出したフーバー家の者たちの捕縛。捕縛対象はそれだけにとどまらない。戦場にはいなかったフーバー家の人間、家臣たち、一族郎党全てが捕縛…

竜血の玉座 第13話 片鱗

いくつもの丘の間を縫うようにして、それは近づいてくる。意識してのことかナーゲリング王国側には分からないが、丘が邪魔をしていて、その全容は見えない。見えないが、自分たちが思っていた以上の難敵であることは分かる。近づいてくる敵の速さ、地面をな…

竜血の玉座 第12話 初陣

緩やかな起伏が広がる丘陵地帯。それがフーバー家が戦場として選んだ場所だ。占拠していた用水路近くからこの地に移動してきたフーバー家の軍勢は、辺りで最も高いと思われる丘に陣取っている。対するバルナバス率いるナーゲリング王国軍は丘の下。高所を取…

竜血の玉座 第11話 新王来着

王都を発ったバルナバスが率いる軍勢は、目的地に向かって街道を西に進んでいる。総勢五百四十八名。新兵五百二名にバルナバスを筆頭に十名の騎士とその従士たちが加わって、その数だ。荷駄を運ぶ為だけの人数はいない。兵士たちが自らの物と騎士、部隊全体…

竜血の玉座 第10話 無茶振り

今日も会議の間では、重臣たちが集まって会議が開かれている。四卿会議ではない。四卿以外に情報局長フリッツ、軍政局長のローマン、さらに騎士のバルナバスまで出席している会議だ。その出席者の面子で、軍事的な話し合いが行われているのが、分かる人には…

竜血の玉座 第9話 疑念

三か月の訓練期間を終えて、兵士候補たちは候補が取れて兵士になった。 だからといって日常は変わらない。訓練の日々が続き、その内容もほぼこれまでと同じだ。候補が取れたからといってそれで一人前となったわけではない。末端とはいえ職業軍人である彼らは…