ファンタジー小説-逢魔が時に龍が舞う
『YOMI』の襲撃を受けた翌日。第七七四特務部隊の本部で天宮は葛城陸将補を問い詰めていた。よく一晩待っていられたなと思うくらいの勢いで。 隣で話を聞いている立花分隊指揮官は、その勢いにハラハラしている。 「彼は『YOMI』と繋がりがあります…
尊たちは精霊科学研究所を出て、帰路についた。すっかり日は暮れている。樹海の間を縫うように走る暗い夜道を尊たちが乗った装甲車は進んでいた。 車内の雰囲気は複雑だ。尊は珍しく顔に笑みを浮かべている。妹の桜に会えた嬉しさがまだ残っているのだ。 そ…
精霊科学研究所は富士山のふもとに広がる樹海の中にある。樹海の中を走る道路から少し奥に入ったところ。高い木々に囲まれた五階建ての雑居ビルのような建物だ。もちろんそれは偽装で本当の精霊研究所はその建物の地下深くにある。 建物の中に入って、どこに…
第七七四特務部隊の本部には陸士たちの机もある。ほとんど使われることのないその机だが、今はそこに尊が座っていた。教科書を開いて熱心に勉強をしている尊。だが熱心さと勉強の進みは必ずしも比例するわけではないようだ。腕を組んで「うんうん」唸ってい…
湾岸地区は国から見捨てられた場所。こんな風に言われるくらい、震災後の復旧が進んでいない。被害が甚大であった湾岸地区を復旧するには、ただ元に戻すだけでなく、津波も含めた地震対策を施すことも必要で、それには莫大な費用がかかる。それよりも新都心…
第七七四特務部隊の臨時会議。定例会議では見ない顔まで揃っている。前回任務の内容はこれまでの考えを大きく変えてしまうもの。その異常事態に関係部署の責任者が全て集められているのだ。今、報告に立っているのは公安調査局。 「鬼が組織を形成していると…
天宮の登場は絶望的な状況であった第五分隊にとっては救いの神。そして敵にとっては。 倒れた仲間を一瞥しただけで、それ以上の興味は全くないという様子で、残りの鬼が天宮に近づいてくる。別におかしなことではない。鬼には人としての感情などない。ただ殺…
灯りの消えた都会のビルの森を進む天宮。所々にある非常灯の明かりのおかげで、闇に視界を完全に閉ざされるまでには至っていないのは救いだ。部隊に用意してもらった暗視ゴーグルではあるが、このような状況の戦闘などは想定しておらず装着しての訓練など行…
夜空に響くプロペラの音。陸軍配備の汎用型ヘリBH-60JAを改造して様々な電子機器を組み込み、第七七四特務部隊の指揮車両と同等の機能を持たせた特殊ヘリだ。そのヘリに乗って遊撃分隊は目的地に向かっている。本来は非番であった彼らに緊急出動命令が出たの…
現場に向かう指揮車両。第七七四特務部隊遊撃分隊の指揮車両だ。今日が遊撃分隊にとっての初仕事とあって、車両の中には緊張した雰囲気が漂っている。 その雰囲気は、もっぱら立花分隊指揮官が醸し出しているもの。防衛技官である立花分隊指揮官は本来、本部…
天宮の戦闘訓練の相手をすることになった尊。剣を持っての立ち会いだ。以前、尊が見た天宮の戦い方は精霊力を剣と盾に変えての近接戦闘。光の剣はかなり自由に形を変えられるようなので近接戦闘だけというわけではなさそうだが、得手であることは間違いない…
桜木学園の体育館。体育館と呼ばれているが実態を考えれば武道館と呼ぶほうが相応しい場所だ。建物の窓という窓は全て閉め切られ、その上には黒い暗幕が張られている。外から中の様子が窺えないように施された体育館の中で行われているのは、特務隊員や候補…
第七七四特務部隊の定例会議の日。後方支援要員を入れても二百人にも満たない小さな組織の会議だが、その参加者はそうそうたるメンバーだ。 国防軍のトップである国防省長官、情報機関からは国防軍情報部長および公安調査局長。政府からも国家安全保障担当大…
古志乃(こしの)尊(たける)に対する正式な辞令は「国防軍・中央機動運用集団・特殊作戦群・第七七四特務部隊所属補佐官に任ずる」というものだ。国防軍=日本国軍の中央機動運用集団=首都圏担当の機動部隊内の特殊作戦群=特殊任務を専門に行うグループ…
道路を挟んで北側に剣人と風花、南側に渡と前線に到着した宗方分隊指揮官。ビルの影に隠れて敵が現れるのを待ち構えている。 すでに戦闘態勢に入っている四人。その体からは光が立ち昇っている。光は彼らの戦闘力の源である精霊力だ。剣人のそれは薄黄色。黄…
すっかり夜も更けた時間だというのに周囲は昼間のような明るさだ。環状六号線沿いに並ぶ街灯。その両側に建つ建物の明かりがそうさせていた。 『鬼』という存在が現れるようになってからもう十年以上の時が経つ。夜の闇の中で活動する鬼と戦う為に、旧都心の…
黄昏時。空を染めていた夕日の色も今は東から伸びた藍色によってかなり西に押しやられている。人の心を惹きつけた空を彩る橙と藍の二色の美しいグラデーション。それももうすぐ終わりの時間だ。間もなく夜の闇が空を完全に覆うことになる。 その光景を最後の…