月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

逢魔が時に龍が舞う #8 初仕事

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 現場に向かう指揮車両。第七七四特務部隊遊撃分隊の指揮車両だ。今日が遊撃分隊にとっての初仕事とあって、車両の中には緊張した雰囲気が漂っている。

 その雰囲気は、もっぱら立花分隊指揮官が醸し出しているもの。防衛技官である立花分隊指揮官は本来、本部で仕事をする身。それが戦闘に参加することはないとはいえ、現場に出ることになったのだ。緊張もする。

 一方で天宮は、遊撃分隊としては初仕事であっても個人としてはそうではない。そして立花分隊指揮官と同じで、個人としても初仕事であるはずの尊も。

 「これ、どうしても着なければ駄目ですか?」

  特務部隊の正式戦闘服であるリキッドアーマーを持ち上げて、のんびりとした口調で、立花分隊指揮官に着る必要があるのかと尋ねている。緊張の欠片もみられない様子だ。

 「それは、制服みたいなものだからね」

 「……動きにくそうです」

  それはそうだ。動きやすいように様々な工夫が為されているとはいえ、身を守る為の装備。普通の服と全く同じというわけにはいかない。

 「自分の体を守る為だから」

 「……ちなみにこれで敵の攻撃は防げるのですか?」

 「…………」

  優れた防弾機能等を備えていても、鬼の攻撃は別。様々な攻撃形態を持つ鬼には対応しきれない。

 「い~らないっと」

  手に持っていた戦闘服を放り投げる尊。

 「いやいや、駄目だよ。戦闘服の着用は義務だから」

 「でも天宮さんも着ていません」

  天宮も戦闘服を着ていない。さすがに前回のように学校の制服ではないが、普通に市販されているトレーニングウエアだ。

 「彼女は、戦闘体勢になれば大丈夫だから」

  戦闘体勢に入ると、精霊力が身を守ってくれる。弾丸など寄せ付けないくらいに。

 鬼もそうであるから質が悪いのだ。通常兵器では倒すことが出来ず、常に特務部隊が対応しなければならなくなる。

 「……でも、相手も同じくらいに強いのでは?」

 「……それを言われると」

  戦う相手も通常兵器を使うわけではない。特務部隊員にもダメージを与える力を持っている。そのダメージを少しでも減らそうと考えれば、戦闘服を着たほうが良い。

 「はい。じゃあ、着て下さい」

  天宮の戦闘服もないわけではない。指揮車両の中に備え付けてある。尊はそれを取り出して、天宮に差し出した。

 「……僕は良い」

 「どうして?」

 「いらないから」

  迷惑そうな表情の天宮。実際に尊の行為を迷惑に思っている。

 「……もしかして見た目を気にしています? 女の子だから」

 「別に」

  尊に女の子と言われて、迷惑そうな顔が不機嫌そうな顔に変わる。

 「じゃあ、赤いのを用意してもらいますか。女の子が好きな赤。それともピンク?」

 「女の子って言わないで!」

  とうとう大声をあげる天宮。その様子を見ている立花分隊指揮官は、頭を抱えている。この二人はやはり相性が悪い。そう思ったのだ。

 「女の子を女の子と言うのは普通です」

 「男とか女とか関係ないって意味。僕たちは戦う為に、特務部隊で働いているの」

 「……仕事と性別に何の関係が? それに拘る意味が分かりません」

 「…………」

  尊の言うとおり、性別に拘っているのは天宮のほうだ。それは本人も自覚している。

 「あのさ、もうその辺で。もうすぐ現場だから」

  これ以上、喧嘩を続けさせてはいけないと考えて、立花分隊指揮官が間に入ってきた。現場は目の前。戦いの準備に入らなければならない。

 『……第二分隊、到着』

  先行していた第二分隊から、現場に到着したとの無線が入った。遊撃分隊の初仕事は支援任務。第二分隊のサポートだ。初任務とあって、危険の少ないであろう任務が選ばれたのだ。

 「遊撃分隊。間もなく予定地点に到着します」

 『了解。予定通り、作戦を開始します』

  第二分隊は先に行動を開始した。まずは敵を捕捉すること。その為に前線に分隊員が向かっているはずだ。

 「本部。状況はいかがですか?」

 『敵レベルに変化はなし。Bクラスのままです。現在地は第二分隊指揮車から北東に三百メートル。そちらからは……東北東に二百。そちらのほうが近いです。気をつけて』

  立花分隊指揮官の問いに答えてきたのは第二分隊補佐官の友野(ともの)美南(みな)。遊撃分隊には決まった本部のオペレーターがいないので、作戦行動を共にする第二分隊の補佐官が応対をしている。

 「了解」

  立花分隊指揮官の顔にまた緊張の色が浮かんできた。

 「出ます」

  敵が近いと聞いて、出動しようとする天宮。

 「ちょっと待って。今回は支援。第二分隊の動きをフォローしないと」

  その天宮を立花分隊指揮官は止めた。遊撃分隊の任務は敵を倒すことではない。第二分隊の支援だ。勝手な行動を許されない。

 「……分かりました」

  素直に立花分隊指揮官の指示に従う天宮。第五分隊では独走することが多かった天宮だが、さすがに他の分隊の邪魔をする気はない。独走は手柄を立てたいからでなく、味方を危険な目に遭わせない為だったのだ。

 「こちら遊撃分隊。予定地点に到着。指示あるまで待機します」

 『了解』

  無線で第二分隊に到着を伝え、しばらくは待機の予定だ。このまま出動がない可能性もある。第二分隊は、天宮がいた第五分隊に比べて経験豊富。個人の能力でも、天宮を除いて、上だ。支援がなくても鬼を倒す可能性は高い。

 「……位置を確認しなくて良いのですか?」

  不意に尊が立花分隊指揮官に話しかけてきた。

 「えっ? さっき聞いたばかりだけど?」

 「そうですけど、さっきで二百メートル。今はもっと近いかもしれません」

 「意外と心配性なんだね? 大丈夫。近づけば本部から連絡が来るよ」

  本部は常に敵の位置をモニタリングしている。危険が迫るような距離になっていれば、必ず連絡が入るはずだ。

 『敵と接触します』

  無線連絡が入った。だが、これは第二分隊が敵の目前に迫ったというもの。遊撃分隊には関係ない。

 『流星。前回の第五分隊のようなこともある。油断するなよ』

  第二分隊員の流星、風祭(かざまつり)流生(りゅうせい)の無線に応えたのは、第二分隊指揮官の堂島(どうじま)陸曹だ。第五分隊が遭遇した鬼を例に出して、油断を戒めているが、逆に今のレベルの鬼であれば倒せるという自信の表れでもある。

 『分かってます。行きます!』

  いよいよ第二分隊と鬼の戦いが始まる。

 『守人(もりと)、陸(りく)。左右から接近しろ。詩音(しおん)、支援を頼む』

  分隊員に指示する流星の声。ここから先の無線は垂れ流し。戦闘状況を共有する為だ。

 『アタック!』

  第二分隊の攻撃が開始された。

 『現在のところ、敵は接近攻撃のみ』

  無線の声が女性のものに変わる。後方支援担当の陽(よう)詩音(しおん)の声だ。それを聞いた尊が「へえ」という声を漏らした。第五分隊に比べて、きちんと役割分担が出来ていると思って、感心した声だ。

 『敵属性は……土。支援部隊、準備をお願いします』

  さらに鬼の属性を見極めて、支援部隊に伝える。土属性の反属性である風属性の弾丸に変更してもらう為だ。

 これにも尊は感心の声を漏らす。研修で、四属性を順番に撃って属性を見極めろと教わったが、それに疑問を持っていたのだ。

 『俺がとどめを刺す! 一気に行くぞ!』

  風属性の能力を持つ流星が、自分が鬼を倒すと宣言した。考えとしては正しい。だが尊の口から今度は、感心の声ではなくため息がもれた。

 『緊急事態! 新規反応! 右よ! 気をつけて!』

  本部からの緊急連絡。それは新たな鬼の反応を告げるものだった。

 『きゃあああああっ!』

  それに続く女性の叫び声。

 『詩音!』

  その叫び声が第二分隊の詩音のものであることを、流星の声が伝えてくれた。

 『詩音が鬼に攫われた! どうすれば良い!?』

 『まずは目の前の敵に集中しろ! 支援部隊! 詩音の救出に迎え!』

  動揺している流星に、堂島分隊指揮官の指示が飛ぶ。さらに堂島分隊指揮官は支援部隊に詩音の救助を要請した。

 「……指揮官、僕たち、忘れられてますよ」

 「えっ? あっ、そうだった」

  尊の声で、まさかの事態に呆然としていた立花分隊指揮官は我に返った。

 「こちら遊撃分隊。指示願います」

 『あっ、遊撃分隊。詩音隊員を拉致した鬼を頼む』

  本当に堂島分隊指揮官は、遊撃分隊の存在を忘れていたようだ。第二分隊から正式な依頼がきたところで、遊撃分隊は動き出す。

 実施にはその前に、天宮は指揮車を飛び出しているが。そして尊も。

 「えっ? 古志乃くんまで出撃したの? そんな……」

  それに気が付いた立花分隊指揮官は、また呆然とすることになる。

 

◇◇◇

 遊撃分隊の指揮車を飛び出して、全力で駆けている天宮。無線で目的位置を確認するまでもない。先のほうから戦いの喧噪が聞こえてきている。第二分隊の詩音をさらった鬼と、支援部隊が戦闘を行っている音だ。

 状況はかなり不利。支援部隊の隊員の叫び声からそれが分かる。急がなければならない。そう思う天宮だが、気持ちだけで進む足は速くはならない。

「……ひどい」

 さらに、天宮の足を止めてしまう状況が目の前に広がっていた。

 地面に転がる腕、足、そして頭。バラバラに引き裂かれた支援部隊の人たちの死体だ。嘔吐をもよおすその悲惨な光景に、思わず天宮は足を止めてしまったのだ。

「先を急がなくて良いのですか?」

「えっ?」

 まさかの声に、慌てて後ろを振り向く天宮。思った通り、すぐ後ろに尊が立っていた。

「どうして君が……まさか、戦うつもりなの?」

「そんな言い方される覚えはありません。それが僕の仕事ですから」

「鬼が相手なのよ!」

 尊はまったく状況が分かっていない。そう思って怒鳴り声をあげる天宮。

「……行く気かないなら、僕が先に行きます」

 わざとらしく耳を指で塞ぎながら、尊は前に駆けだしていく。

「ちょっと待って」

 それを慌てて追いかける天宮。だが、その距離はなかなか縮まらない。それに焦る天宮だが、やはりそれで足が速くなるわけではない。

 転々と地面に落ちている人の体の一部。わざとこのような殺し方をしているのではないかと天宮が思うような、不気味な光景だ。

 そんなことを思いながら駆け続けていると、ようやく尊の背中が近づいて来た。天宮の足が速くなったのではない。尊が止まっているのだ。何故、尊が立ち止まっているかというと。

 「えっ?」

  次々と放たれるスピリット弾。天宮の知る勢いではない。ほぼ同時に五つも六つも、もしかするともっと多くのスピリット弾が放たれ、それが尊の少し先に立つ鬼に降り注いでいく。

 巻き起こる突風。それに吹き飛ばされそうになるのを堪えて、天宮は前に出る。ようやく尊の隣に並んだ天宮。その目に映ったのは、ちぎれた腕に握られた銃の引き金を引いている尊。全部撃ち終わるとまた地面に落ちている銃を拾って撃ち続ける。腕がついていても尊に気にする様子はまったくない。

 尊の両手の銃から放たれたスピリット弾は全て、今となっては天宮には土煙が凄すぎて良く見えないが、鬼に吸い込まれるように命中していく。

 「どうぞ」

 「えっ?」

 「とどめをささないのですか?」

 「……そうね」

  尊に言いたいことは山ほどあるが、まずは鬼を倒すことが先。天宮は光の剣を握って、鬼に近づいていく。

 「う……あ、ああ……」

  苦しそうなうめき声をあげている鬼に。かなり弱っている様子の鬼。そう思う気持ちが油断に繋がらないように気を引き締めて、天宮は近づいていく。

 精霊力を高めて、伸ばした剣を一閃。鬼の首が宙を舞う。ゆっくりと倒れていく鬼の体。その影から、ぼろぼろの服を纏った詩音の姿が見えた。

 「大丈夫ですか!?」

  その詩音に慌てて駆け寄る天宮。

 「……死ぬかと思ったわ」

  こんな台詞を口にするが、詩音は元気そうだ。尊があれだけの攻撃していた鬼のすぐ後ろにいたというのに、無傷とは言わないが、大怪我をしている様子はない。

 「良かった」

 「今の攻撃は何? 噂には聞いていたけど、凄いわね」

 「えっ、あっ、あれは……」

  自分の攻撃ではない、と言おうと思うのだが、尊の攻撃の異常さを天宮は説明出来ない。どう話すべきかと悩んでいる間に。

 「良いわ。切り札なら隠したくもなるわね。とにかく助けてくれてありがとう」

  詩音に御礼を言われてしまった。御礼を言われる立場ではないのに。その恥ずかしさが、尊への不満に変わる。

 その尊に文句を言おうと振り向いた天宮。だが、尊の姿はどこにもなかった。

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