月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

逢魔が時に龍が舞う #9 指揮官の憂鬱

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 夜空に響くプロペラの音。陸軍配備の汎用型ヘリBH-60JAを改造して様々な電子機器を組み込み、第七七四特務部隊の指揮車両と同等の機能を持たせた特殊ヘリだ。そのヘリに乗って遊撃分隊は目的地に向かっている。本来は非番であった彼らに緊急出動命令が出たのだ。呼び出されてすぐに訳も分からないままヘリに押し込まれた尊だったが、ヘリの中に流れている緊迫した無線のやりとりを聞いているうちにほぼ状況が分かってきた。 

「一応、状況の説明をしておこう」

 そうであるのだが指揮官としての役目を果たそうと思っているのか、立花分隊指揮官が状況の説明を始めた。

「確認されている鬼の数は二体。ランクは初期確認時点でCだ。そこそこ強い相手ではあるが、それよりも問題は現場の探知システムが機能していないこと。詳細原因は調査中だがエネルギーラインの不具合のようだ」

 探知システムが必要とするエネルギーは電力だけではない。精霊力も使われているのだ。その精霊力の供給が止まれば探知システムは鬼を、正確には鬼力を探知出来なくなる。

「探知システムだけですか?」

 立花分隊指揮官に天宮が質問をした。無線を聞いていればそれだけでないのは分かる。

「通常の電力供給も止まっている。これも原因不明だが、人為的な事故か事件ではないかと想定されている」

 電力は複数系統から引き込まれている。一カ所で何かあっても止まることはない。同時に複数系統の電力供給が止まるなどという事態は人為的な何かがないとまずあり得ないのだ。

「つまり暗闇の中で探知システムもなく鬼と戦えと?」

 電力供給が止まれば監視モニタが使えないだけでなく当然、灯りも消える。普段とはかなり違う状況だ。

「その為のヘリだ。このヘリには赤外線映像システムなどの暗視装置が装備されている。それを使って空中から敵を捕捉する」

「……逃げられませんか? それに敵は二体と聞きました」
 
 ヘリで敵を探知したとしても実際の戦闘は地上で行われる。暗闇の中、逃げられたらまた空中からの捜索を始めなくてはならなくなる。それだけではない。敵は二体だ。一体を捕捉していても、もう一体に不意を打たれる可能性もある。

「全ての灯りが消えているわけじゃない。いくつかのビルでは自家発電装置が作動している。さらに地上の指揮車両も索敵に動いている。地上と空両方から追い続ける。逃がすことはない」

「分かりました」

 指揮車両にも暗視装置はある。近づくことが出来れば暗闇であっても捕捉は可能だ。実際には天宮たちにも暗視ゴーグルが用意されているのだが、そういう戦いをしたことがない天宮はそれを当てにしていない。
 これで一旦、状況の説明は終わり。到着を待つことになる。といってもヘリであれば現場まではすぐ。実際に夜であっても煌々と輝く都会の景色の中、一部分だけ黒い影となっている場所が見えている。

「装備を確かめろ」

 到着を目前にして立花分隊指揮官から指示が出た。
 天宮と尊が身に着けているのは特務部隊の正式戦闘服である黒を基調としたリキッドアーマー。それに普段は装備しない暗視ゴーグルが用意されている。
 尊にとってはゴーグルどころか戦闘服を着るのも初めてのこと。慣れない服装に落ち着かない様子だ。

『こちらウィンディーネ。目的地到着。これより鬼の探索に入る』

 ヘリの操縦士が現地到着を告げる。

「こちら遊撃分隊。現在の状況を教えてください」

 続いて立花分隊指揮官が先着してすでに戦闘行動に入っているはずの他の分隊の状況を本部に確認した。

『現在は交戦状況にありません。第一、第三分隊は捕捉した鬼一体を追跡中。第二分隊も同様に追撃。北側から前方に回り込もうとしています。第四から第五分隊は敵のもう一体を捜索中』

 第七七四特務部隊の全分隊が出動している。敵は二体。さらに経験のない状況での戦闘であることで慎重を期した形だ。

「我々への指示はありますか?」

『捜索を行っている第五分隊の支援を行うようにとの指示です』

「了解」

 監視システムが作動していなくても隊員の所在はGPS装置で分かる。ヘリに設置されているモニターには地図とその上を移動している光点が映っている。立花分隊指揮官はそのモニターを見て、自分たちが向かうべき第五分隊の所在を確認している。

「……あの灯りはわざとですか?」

 だが尊はそのモニターではなくヘリの外を見ていた。

「えっ? 何のことだ?」

「ビルの屋上で何かが燃えています」

「……本当だ」

 尊の言うとおり、いくつかのビルの屋上で炎が上がっている。それが何かといえば。

「本部! ビルの屋上の非常用発電装置が燃えています! これは意図したものですか!?」

『いえ。そのような指示は出ていません。そちらで詳しい状況が確認出来ますか?』

「……分かりました。確認してみます。ヘリを近づけてください!」

 立花分隊指揮官の指示を受けて操縦士がヘリを屋上が燃えているビルの一つに近づけていく。

「あまり近づかないほうが良いと思いますけど」

「何故だ?」

「こちらがやったことじゃなければ敵の仕業。その敵がいるのではないですか?」

「……ちょっと待った。つまり……鬼とはそんな知的な存在なのか?」

 鬼は鬼力に精神を支配された人間。人としての理性はないと立花分隊指揮官は教わっている。間違いではない。だが理性と知性は別物だ。それに教わったことが鬼の全てというわけでもない。

「現実はどうかだと思いますけど」

「……そうだな。現実に自家発電装置は破壊されている。それは我々を不利な状況に導くものだ」

 敵が行ったことで間違いはない。その敵が何者かとなれば鬼しかいない。

『どうしますか? 高度を落としますか?』

 尊と立花分隊指揮官の会話を聞いていた操縦士は、警戒してビルのかなり上にヘリを飛ばしていた。だが、その位置からでは屋上の様子はよく見えない。

「……どうするか」

 悩む立花分隊指揮官。だがその結論が出る前に天宮が動いていた。

「行きます!」

「えっ?」

 立花分隊指揮官が驚きの声を上げた時には天宮は扉を開けて、空に飛び出していた。パラシュートなど身に着けてはいない。重力に従って天宮の体はビルの屋上に向かって落ちていく。

「嘘だろ……?」

 そのまま屋上に激突するかに見えた天宮だが、急に落下の勢いが衰えたかと思うと、見事に空中で回転して足から降り立って見せた。
 呆然と空の上からそれを見つめている立花分隊指揮官。その間に天宮はビルの屋上に敵がいないと見て、さらにビルの屋上から下へ飛び降りてしまう。

「……僕はどうすればいいですか?」

「えっ、あっ、そうだな。君も前線に出るのか」

 適合率ゼロパーセントであり、軍隊経験もない尊を前線に出す。どうしてそういうことになるのか立花分隊指揮官には理解出来ないのだが、上からの指示である以上はそれに従うしかない。

「後を追うべきですか?」

「そうだな。天宮の後を追ってくれ」

「分かりました」

 立花分隊指揮官の指示を受けて準備を始める尊。ヘリの壁に備え付けられている武器を手に取り身に着けていく。

「操縦士に屋上に近づくように指示を出す。ロープ降下の経験などないだろうが、ゆっくり降ろすから」

「大丈夫です。彼女のを見ていましたから。じゃあ、行きます」

 こう言うと尊もまた天宮と同じように空に飛び出していった。

「えっ、ええっ!?」

 天宮の時以上の驚きの声が立花分隊指揮官の口から飛び出した。慌てて下をのぞき込む立花分隊指揮官の目に映ったのは、落下しながらも器用にバランスをとって銃を下に構えている尊。その銃から何発も続けてスピリット弾が放たれている。

「……そういうことか。しかし、彼は何者なんだ?」

 天宮と尊は精霊力を使うことで落下の勢いを殺したのだ。天宮が具体的にどのようにしたかは立花分隊指揮官には分からない。だが尊の方法は明らか。風属性のスピリット弾を屋上に向かって何発も撃ち込むことで風を反射させ、それに乗って落下の勢いを殺したのだ。理屈は分かる。だが、それを戦闘に出るのも初めての尊がどうして出来るのか。それ以前に死を恐れることなく空中に飛び出せたことが驚きだった。

「あの二人の指揮を俺が……無理じゃないかな?」

 とんでもない問題児たちを預けられた。初めての出動からわずか数十分で立花分隊指揮官はそれが分かった。