危険な目に遭ったことはない、と言えば嘘になる。よそ者には怪しげな人ばかりと思えるだろうが、ずっとこの場所で育った彼女にとっては、皆、ご近所さん。赤ん坊の頃から自分を知っている人たちだ。変な人に絡まれそうになっても周りの人たちが助けてくれる…
桜太夫の行列と共に花街を歩くことになったナラズモ侯爵。道中の好奇の目は心に痛かった。花街の人々は、行列がいつもの太夫道中とは違うことを知っている。ナラズモ侯爵が花街を訪れた理由を知っているのだ。事情を知らない客を除いて、事の成り行きがどう…
彼はまた王家主催のパーティーに参加することになった。開催を聞かされた時、迷うことなく欠席を決めたはずのパーティーだ。だが彼は今こうしてパーティーの場にいる。実家に強制されたからではない。第一王子から参加するように頼まれたからだ。では何故、…
いつものように郊外の開墾地に行き、鍛錬を始めるはずだった彼。だが、そうはならなかった。その場では彼女とリキが先に到着して、彼が現れるのを待っていた。二人だけではない。彼の知らない、同い年か少し上くらいの男の子たちも集まっていたのだ。 「……俺…
朝早く出た彼が屋敷に戻るのは日が暮れてから。そんな生活が長くなっている。彼にとっては本当の家よりも、彼女の家のほうが遥かに居心地が良い。彼女と魔法や勉強についての談義をしたり、彼女の父親と喧嘩の稽古をしたりと自分の家では出来ないことがある…
王家への挨拶が終わった後は、彼は父親とも別れて、いつものように会場の隅で一人でいる。王家と王都在住の守護五家の関係者が一同に会している場だが、彼にそれらの人たちと親交を深めようなんて気持ちはない。そんなことは弟に任せておけば良い。どうせ北…