彼の実家は名家だ。父はノルトシュッツヘル北方辺境伯。王国の東西南北の四境のうち、北の守りを任されている。他の三辺境伯家と王国中央の防衛の要であるミッテシュテンゲル侯爵家を加え、守護五家と呼ばれている王国建国以来の貴族家だ。ただし、王家にと…
空には赤く光る満月が浮かんでいる。常の月よりも遥かに大きく見える赤い月。この世界では三百年に一度起こる奇跡の瞬間とされている。 だが彼がこの月を見るのは十五年ぶりだ。その前はそれからさらに十五年前。その前もまた十五年前。その前も。もう何度、…
モンタナ王国の内戦は三つ巴の戦い。そう見られているが、実際には国王軍だけが王弟派とクリスティーナ王女派の両方を相手に戦っている状況。数では両派に勝るモンタナ王国軍ではあるが、さすがにこの状況は厳しい。主戦場と定めている中央街道の東街道側に…
特別士官学校での時間の多くはティファニー王女を鍛える為に費やされている。サーベラスとクリフォードが交代で鍛錬の相手を努め、彼女の相手をしていない時間で自分の鍛錬を行うというやり方だ。当然、サーベラスとクリフォードはそれでは満足しない。ティ…
サーベラスは特別士官学校の寮に入ることになった。本人の希望だ。正式に騎士団に配属された身でもないのに、そもそも騎士団に配属されたとしても城内で、それも奥で暮らすことなど許されるものではない。サーベラスの申し出は、あっさりと受け入れられた。 …
ティファニー王女が行っている鍛錬は、周りで見ている者たちにとっては、実に退屈なもの。ただただ同じ動きを繰り返しているだけのように見える。実際に細かい動きは異なっているが、そう見えても仕方がないものだ。ただし、見る側ではなく、実際にそれを行…