月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

黒と白の動乱記 第4話 初仕事も大変でした

異世界ファンタジー 黒と白の動乱記

 第十特務部隊は任務の為に帝都を発った。白夜にとっては初任務。入隊して一週間での出動だ。怪しまれる何かがあったわけではない。新入隊員も同行させるように、という命令が発せられた結果だ。白夜の知ったことではないが。
 任務地へは船で川を下って海に出て、そこから船を乗り換え、沿岸を東に移動した。船を降りたあとは陸路を北上。一山超えたところにある小さな盆地が目的地だった。山地の多い鳳凰国ではどこにでもある地形。そういう場所に村があるのも珍しいことではない。

「あれが盗賊のアジトですか?」

「情報ではそうなっている」

 実際は違う。盗賊稼業も行っていたかもしれないが、化物の里だ。化物は、一定以上の力がある化物に限ってのことだが、自分の里を持っている。自分に従う化物を育てる為の場所だ。銀子の師であった銀狐のように。
 元々は全国で四つほどであった化物の集団は、その集団を構成していた化物が独立して里を持つようになったことで、爆発的に数を増やした。結果、統制を失い、治安を乱し、討伐対象とされることになったのだ。

「……人が暮らしているようには見えません」

 村に人影はまったくない。声も聞こえない。昼近い時刻だが建物の煙突からは煙があがっていない。人が暮らしている気配がまったく感じられなかった。

「黙っていろ、敵に気付かれる」

「…………」

 先輩兵士に怒られて、無言でうなづく白夜。その時にはすでに他の隊員たちが動き出していた。四方から村に近づいていく隊員たち。その動きが一気に慌ただしくなった。

「逃げたぞ! 追え!」

 接近に気付いた敵が逃げ出したのだ。

「三番! そっちだ!」

「えっ? こっちってこと?」

 三番は白夜がいるチームの番号。特に意味はない。部隊を四つに分けて村を包囲していたので、一番から四番で呼んでいるだけだ。

「来るぞ! 迎え撃て!」

「えっ? えっ?」

 敵が近づいてくる。それに戸惑っている様子の白夜だが、これは演技だ。きょろきょろと視線を動かしながらも敵の動きはきっちりと把握している。駆けてきたのは一人の男。化物の場合、見た目だけでは判断出来ないが、年老いて見える男だ。
 すでに白夜以外の隊員はその男に襲い掛かろうとしている。素早く周囲を囲んで、一斉に斬りかかる隊員たち。

「うわあっ!」「なんだ!?」

 だが彼らの行く手を遮るものが現れた。地面jから吹き上がる風が砂を舞い上げ、彼らの視線を塞いでしまったのだ。

(……ああ、確か……砂嵐か……)

 白夜はその術を知っていた。砂を自在に操る術。術としてはかなり高度なものだ。誰でも使えるものではない。高く飛び上がって、囲もうとしていた隊員の背後に出た男。そのまま白夜の横を駆け抜けていく。

「逃がすな! 新人! 突っ立っていないで追え!」

「あっ、はい!」

 そのあとを慌てて追いかける白夜。頭の中ではこれからのことを考えている。この任務をどういう形で終わらせるか。その手段を。

 

 

◆◆◆

 逃げた男は盆地を駆け抜け、山の中に入った。その後を追う白夜、そして他の隊員たちもだ。ただ移動はゆっくりと。男の姿は見えない。どこかで隠れ潜んで反撃の機会を狙っている可能性もある。視界の悪い山の中では化物が有利。一対一での話で、数で圧倒する第十特務部隊は殺害を断念するつもりはない。とにかく相手の居場所を把握すれば良いのだ。あとは見失うことなく、数を集めて討ち取れば良い。

「……あっ!」

 胸に強い衝撃を受けて、白夜は後ろに吹っ飛ぶことになった。勢いそのままに木に激突。地面に崩れ落ちていく。その時には近くで潜んでいた隊員二人が少し離れた草むらに飛び込んでいた。
 周囲に響いた金属音。

「若造は囮か。味方を囮にするなど、さすがは狩人。血も涙もないな」

 草むらから飛び出してきた男が特務部隊のやり方を非難する。攻撃させる為に他の二人はわざと白夜を孤立させた。男はまんまとその罠にはまったのだ。

「畜生に言われたくない」

「……こんな糞みたいな奴らとの闘いで死ぬか……最悪だな」

 男は傷を負っていた。最初の攻撃で、一人の剣は自らの剣で受けたものの、もう一人の攻撃を避けられなかったのだ。これも同じやり方だ。一人を犠牲にしても、もう一人で敵を討つ。今回は運良く二人とも助かった。

「もう一度言う。お前ら畜生に俺たちを侮辱する資格はない」

 これを告げながらもう一人に目で合図を送る。攻撃の合図ではない。倒れている白夜の様子を確かめろという合図だ。一撃で死んでいるのであれば仕方がない。だが助けられるものであれば助けたい。そんな思いがあるのだ。
 それを受けたもう一人が後ろに下がったところで、また攻撃を開始。傷を負わせたとはいえ油断は出来ない。逃がすわけにもいかない。無理をしない程度に攻撃を続け、味方が集まるのを待つつもりだ。部隊は捜索の為に散開しているが、ここに来るのにそれほど時間はかからないはずだ。

「無駄だ」

 行く手を風に舞う砂が遮る。だが手の平で払うようにして、あっさりとそれを消し去った。最初は不意打ちに動揺して隙を作ったが、一度見てしまえばたいした脅威ではない。魔鎧で増幅された魔力で吹き飛ばすことが出来た。
 そのまま間合いを詰めて剣をふるう。相手も反撃に出るが、傷のせいか動きはわずかに鈍い。

「道具に頼るしかない無能が!」

「なめるな! 自分たちは魔鎧を纏うに相応しくあろうと日々鍛えている!」

 これは事実だ。魔鎧だけで化物との力量差を埋められるものではない。素の状態でも戦えるだけの力を身につけ、その上で魔力増幅で化物を上回るのだ。すべての狩人が同じだけの努力をしているとは言えないが、第十特務部隊の隊員は皆そうだ。狩人の中でも最精鋭。これが唯一残された彼らの誇りなのだ。

「飼い犬に野生の獣が勝てるものか!」

「負け惜しみを! 死ね!」

 とどめの一撃。そのつもりだった。だが振りかぶった剣が振り下ろされることはなかった。その前に背中に受けた衝撃で、剣を落としてしまったのだ。まったく予期していなかった攻撃だ。

「……な、何故?」

「おっ? さすがに一撃では死なないか。魔鎧って、ほんと面倒」

「き、貴様……」

 背後から攻撃してきたのは白夜。化物の攻撃で気を失っていたはずの白夜だった。彼の様子を見に行ったもう一人の隊員のほうが地面に倒れている。気を失っているのではない。すでに死んでいるのだ。

「次は先輩の番」

「なっ、ぐっあ……」

 白夜は地面に落ちていた剣を拾うと、その剣を隊員の腹に突き刺した。突き刺しただけでなく、ひねるように傷口を広げる。ゆっくりと地面に崩れて落ちていく隊員。その死を確かめることなく、白夜は呆然としている化物の男に近づいた。

「ちょっと、それ貸して」

「お前……何者だ?」

 助けられた化物は状況を把握出来ないでいる。それはそうだ。いきなり同士討ちが始まったのだから。

「狩人……ではないのはバレバレか。何者でも良いでしょ?」

 男から剣を奪い取った白夜は、今度は離れたところに倒れている死体に向かい、手に持った剣で首を切り裂き、体に突き立てる。真っ赤な血が流れ落ちるが、すでに死んでいる隊員は、当たり前だが、無反応だ。

「さてと……今回はこれで終わりだな」

「……お前、化物だな?」

 白夜が何をしようとしているのか男には分かった。自分が二人の狩人を殺したように見せかけようとしているのだと。狩人の味方を装って狩人を殺す。そんな真似をしようとするのは化物。天敵の中に潜入しようというのだから、実際にそれを行う勇気のある者がいるとは思っていなかったが。

「だから何でも良いでしょ? 無駄話していると他の人たちが来るよ?」

 他の隊員たちはすでにここに移動してきている。殺した隊員が合図を送ったことを白夜は知っている。まだ気配は感じないが、すぐに姿を現すはずだ。

「……俺と戦え」

「はい? 馬鹿なの? 逃がしてやると言っているのに、なんで死のうとするの?」

「ここで逃げてもどうせ死ぬ。同じ死ぬなら戦って死ぬ」

「はあ……これだから年寄りは。残り少ない命だからこそ、大切にするべきなのに」

 戦場で死にたい。老いた武人が口にする言葉だ。なぜか化物もこれを望む。何人かの年配の化物に会ってきた白夜はそれを知っている。呆れた様子を見せているが、まったく気持ちが分からないわけでもない。化物は居場所を、生きる権利を奪われようとしている。長い年月をかけて得た力を否定されている。それを無抵抗で受け入れたくないのだ。
 この男もそうだ。逃げようと思えば逃げられたはず。そうであるのに、この男は戦いを選んだ。

「問答無用」

 凄まじい風が男の周囲で巻き起こる。それによって宙に舞い上がる土砂。徐々に密度があがる土砂は砂嵐というより、宙を流れる小さな土砂崩れのよう。さきほど見た術とは別物だ。

「……奥の手は残していたのか」

「そうだ。これが我の奥義。土竜(どりゅう)だ」

 術名のごとく、土の塊は竜のようにうねりながら宙を駆け、白夜に襲い掛かってくる。

 先端が白夜の頭部に直撃、とはならなかった。土砂の塊は白夜に触れる前にはじけ飛んだ。

「その技……お、お前……白夜か?」

「あっ、気付かれた」

「その顔……いや、俺も老いぼれたな。化物の見た目は常に変わるものだ」

 二人は以前、会ったことがある。その時の白夜は今とは違う顔だった。そちらが素顔だ。白夜の場合は、銀子もそうだが、常に見た目を変えているわけではない。今は素顔では活動出来ないので、変えているだけだ。

「本当に逃げないのか?」

「逃げる気になっていたとしても、もう遅いだろ?」

「まあ」

 すでに第十特務部隊の隊員がすぐ近くに来ている。はっきりと気配を感じられるほどの距離だ。

「それに……もう限界だ」

 後ろ向きに倒れていく男。奥義は出し惜しみしていたわけではない。大量の魔力を消費する術を使えば、それ以降、思うように動けなくなる。大怪我をしていれば、それは致命的なダメージになる。魔力で抑えていた傷の痛みはぶり返し、出血も止められない。今、男はそういう状態だ。

「……死ぬのは勝手だけど、あれはどうするつもりだ?」

「……好きにしろ……いや、好きにさせてやってくれ……頼む」

 この言葉を最後に男は黙り込んでしまった。話したくても話せないのであろうことは白夜にも分かる。「頼まれても困る」という言葉は口に出さなかった。、

「……これは? 何があった?」

 タイミングを見計らった、わけではないが、部隊長が姿を現した。立っているのは白夜一人。この状況が理解出来ないでいる。

「自分も気絶していたので、すべてを見ていたわけではないのですが」

「気絶?」

「えっと……いきなり攻撃されて、恥ずかしいのですが、一撃で……」

「……そうか。それで?」

 白夜は怪我を負っている。気絶したという言葉を否定できないくらいの怪我であることは、傷の大きさと出血の度合いから一目見て分かった。

「気が付いた時には一人やられていて……でも敵も瀕死の状態に見えたのですけど……それで……その……」

「どうした? 先を続けろ」

「……それが……多分、自分のせいです。自分が気が付いて、声を掛けたら振り向いて、その隙に敵が後ろから抱きついてきて、剣で腹を」

 半泣きの様子で状況を説明する白夜。この状況であれば、こんな態度を見せるだろうというものを演じているのだ。

「そうか……」

 その演技を見抜く力は部隊長にはなかった。遅れてやってきた他の隊員たちにも。彼らは化物との戦闘のプロであって騙し合いでは素人。それはまた別の組織の役目なのだ。疑いが完全に消えたわけではないが、白夜の説明を嘘と断定することは出来なかった。

「すみません」

「……いや、謝罪はいらない。危険な任務だ。こういうこともある。お前にとっては死者が出る任務など予定外かもしれないが」

 部隊長にとっても想定外の結果だ。化物の里を襲う任務といっても今回、敵は一人だった。比較的、簡単な任務だと考えていた。そうであるから白夜を同行させ、それでいて殺す必要はないという指示が来たのだと勝手に考えていた。死に役だとしても、すぐに殺すつもりはないのだと。
 実際に白夜は死ななかった。だが、部隊の中でも手練れが二人も亡くなった。あり得ない結果だ。

「あの……」

「なんだ? まだ何か話すことがあるのか?」

「まだこの爺さん、生きているのですけど、殺して良いですか?」

「なんだと?」

 化物はまだ生きていた。それは真っ先に伝えるべきことだ。

「放っておいても、すぐに死ぬと思いますけど、その前に殺したら自分の成績になったりして?」

「…………」

 さらに白夜は部隊長を驚かせることを言ってきた。

「あれ? 違う? まあ、良いです。じゃあ、殺します」

 持っていた剣を倒れていた男の胸に斜め下から突き立てる。そこからゆっくりと剣に体重をかけていく白夜。剣先が心臓に到達する手前で力を強めて、一気に突き刺す。それで男は、苦しむ様子も見せずに、絶命した。

「……お前……人を殺したことがあるのか?」

 そうだとしても白夜のようではない。人を殺すことに躊躇いを覚えず、稀にいる殺すことへの喜びを感じるのとも違う、無感情に見える様子で殺す兵士を、部隊長は見たことがない。

「もちろんあります。新兵訓練の最後がそれでした。それに……これ、人ですか? 僕の親を殺した奴と同じ匂いがします」

「そうか……そういうことか」

 部隊長の頭に浮かんだ疑念は、また白夜の嘘で薄まることになる。白夜は化物に対して特殊な感情を抱いている。化物に目の前で両親を殺された恨みが、異常な形で表に出てきたのだと考えたのだ。強い憎しみの想いから殺すことに喜びを感じる隊員を部隊長は知っている。それとはまた違う感情の変化なのだろうと、勝手に納得してしまった。
  化物と戦っていても化物を理解しているわけではない。まして白夜は特別だ。理解できるはずがない。

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