いよいよリオンとエアリエルが王都を発つ日がやってきた。だからといって特別な行事があるわけではない。一男爵家夫妻が領地に向かうことに誰も興味なんてない、はずだった。 まだ陽が昇ったばかりの早朝。人気の少ない王都の大通りを、エアリエルを抱きかか…
この場所に閉じ込められて既に何日が経過したのか。もうエアリエルには分からなくなっている。そもそも初めの数日間の記憶が全くないのだ。 全く身に覚えのないことで糾弾を受け、それでも監察部の目的が親しい平民の生徒たちにあるのだと分かり、彼らを庇う…
城内にある謁見室の中でもこの場所は、あまり形式張る必要のない非公式な場面で使われる場所だ。ここに国王と王妃が居るのはおかしなことではない。相手が近衛騎士団長だけでなければ。 近衛騎士団長との打ち合わせに謁見室など使う必要はない。執務室で普通…
その日、王都は何とも言えない複雑な雰囲気に包まれていた。 既に二週間前から告知されていたウィンヒール侯家のヴィンセント・ウッドヴィルの公開処刑。それが今日行われるのだ。 公開処刑をただ見世物として楽しみにしている者、逆に人の死を見世物にする…
エアリエルが監察部に拘束された後。アーノルド王太子たちは、まさかの事態に青ざめた顔で茫然と立ち尽くしていた。 そんな中で唯一状況を理解していない者が居る。マリアだ。 「良かった。これで一件落着だわ」 こんな場違いな発言をしてしまう程に。周囲の…
学院全体が、不穏な空気に覆われるようになった。 アーノルド王太子が宮内局に手を回して、リオンを強引に罷免させたという事実が、あっという間に噂として生徒たちの間に広まってしまったのだ。 平民、そしてリオンたちと接点のあった下級貴族の生徒たちは…