月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第73話 重荷を背負うということ

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 父上は、王国は何を考えているのか。言葉には出来ない苛立ちがずっと心の中に留まっている。また彼らと行動を共にすることになった。かつては親しい友と思えていた二人だが、すでにその気持ちは消えてなくなっている。彼らは私の大切な人を傷つけてばかり。暗殺を企てたことさえ、私は疑っている。
 どうして父上にはこの思いが伝わらないのだろう。「王子としての責務を果たせ」などと言うだろうことは分かっているが、だからといってこんな状況を作るのは馬鹿げている。
 彼女は聖女に認定された。何をもって聖女と認定するに相応しいとなったのか、私には分からない。彼女の加護が最高神である≪聖光神≫によって与えられたものだから。不信心と見られることを恐れずに言わせてもらえば、「それが何だ?」となる。
 ≪聖光神≫から加護を与えられた者は聖女と古から決まっているわけではないことを私は知っている。過去の記録にも残っていない。聖女についての記録は、城内の書庫でもわずかしか見つからなかったが、そこに≪聖光神≫の記述はなかった。
 百歩譲って彼女は聖女だとする。私の加護≪勇者の器≫が勇者であることを証明するものであれば、共に戦うことは受け入れる。だがそれだけのことだ。彼女とは魔王を倒す為に協力する。それ以上のことは必要ない。

 

「王子殿下と聖女様を揃ってお迎えする機会を頂き、光栄でございます」

 

 すでに何度も似たような台詞を聞いている。今は騎士養成学校の野外授業の最中であるはず。だが行っていることは、各地で歓待を受けること。これで強くなれるはずがない。

 

「今の私は騎士養成学校の学生としての立場で活動している。過度なもてなしは無用だ」

 

「承知しております。ささやかな宴で恐縮ではありますが、お楽しみいただけると幸いでございます」

 

 実際はまったく理解していない。これまで会った皆がそうだった。王子である私を迎えるのに「何もするな」というのは無理な要求であることは分かっている。私が本気で「無用」と言っているとは思わないのだろう。私がそう思っていると分かっていても、父上や王国の意向を優先して、宴が開かれるのだ。
 私には理解出来ない。勇者と聖女が揃った。それだけのことで、どうして魔王国の脅威を退けられると思えるのだろう。

 

「悪魔の噂は聞かないのか?」

 

 勇者の存在を知らしめる為だけの巡行で終わりたくない。何の実績もない肩書だけの勇者であることは、その状態でこうして各地で歓迎させるのは屈辱でしかない。
 人々が求めるのは勇者と王子。私ではない。こんなことは考えてはならない。それに不満を持ってはならない。これもまた王家の人間として必要なこと。分かっていても、納得は出来ない。

 

「殿下。この辺りはすでに掃討を済ませております」

 

 護衛として同行しているマントルが答えを返してきた。彼は王国騎士団七星将の一人。その中でも第三位に位置づけられている実力者だ。先に行われた悪魔掃討作戦に参加したのだろう。

 

「……掃討が終わっていない場所はないのか? 我らはそこに向かうべきだ」

 

「作戦は徹底して行われました。我がことながら漏れのない完璧な結果を得たと自負しております」

 

 王国騎士団のかなりの人員を投入して行われた作戦だ。成功と言える結果を残したのだろう。だが、だからといって王国内から一人の悪魔もいなくなったわけではない。「漏れのない完璧」という言葉には引っかかりを覚える。
 マントルは別に手柄を誇張しているわけではない。そうであるのに苛立ちが心に湧く。八つ当たりというものだ。

 

「王国騎士団のおかげで領民は安心して暮らせております。もちろん、当家の騎士団も活動を行っているわけではございません。悪魔が戻ってきていないか、日々巡回して見張っております」

 

「……そうか。それはご苦労なことだな。騎士たちに労いの言葉をかけてやりたい。許されるだろうか?」

 

 自家の頑張りをアピールすることも忘れていない。それを無視することは、私の立場では出来ない。魔王国と戦争になった場合、共に戦うことになるかもしれない者たちだ。彼らの気持ちを、少しでも、とらえておかなければならない。それが父上と王国の思惑通りの行動だとしても。

 

「もちろんでございます。すぐに皆を集めることに致します」

 

「頼む」

 

 宴の席で愛想を笑いをしているよりは、騎士たちと話をしているほうがマシだ。宴がなくなるわけではなく、先送りにしただけだが。

 

「……将軍。退魔兵団が今、どういう活動をしている知っているか?」

 

 退魔兵団について聞いてみた。今頃、カイトは、クリスティーナたちは何をしているのかと、ふと思ったのだ。きっと私とは違い実力を伸ばすに役立つ経験を得ているに違いない。こんなことを思ったのだが、「カイトは何をしているのか?」などと聞いても答えを得られるはずがない。聞きづらくもあった。

 

「退魔兵団ですか……連携して戦っているわけではございませんので、詳しいことは何も」

 

 マントル将軍の顔がわずかに歪んだ。私が退魔兵団について尋ねたことが気に入らないのだろう。王国騎士団と退魔兵団の関係性がこれで窺える。良い状態ではないと思う。
 カイトの実力の一端は知っている。あくまでも一端だ。勝手な想像だが、彼はまだ実力の全てを見せていないに違いない。さらに彼の仲間たちの実力はまったくの未知数。知る機会を得られなかった。分かっているのは、マコウ男爵領を襲った強大な魔物の群れを彼らが払いのけたこと。マコウ男爵が壊滅を覚悟した状況を彼らだけで覆したということだ。

 

「手合わせをしたこともないのか?」

 

「ございません。あの者たちは対悪魔戦に特化した戦い方を致します。手合わせをしてもお互いに何も得るものはないと考えます」

 

 退魔兵団の兵士の実力もマントル将軍は知らない。知りたいとも思っていないようだ。何も得るものはない。本当にそうだろうか。悪魔、魔族と戦争になるかもしれないという状況において、マントルが言う対悪魔戦に特化した戦い方を知ることに、どうして意味を見出せないのか。これは彼だけの考えなのか、それとも王国騎士団全体がこのような考えにとらわれているのか。
 これまでとは違う苛立ちと、不安が心に広がった。

 

「失礼ですけど、その考えは間違っていると思います」

 

「えっ?」「なんだと?」

 

「悪魔ともっとも効率的に戦える方法をその退魔兵団が知っているのであれば、そのノウハウは共有すべきです」

 

 意外なことにエミリーがマントル将軍の考えを否定してきた。

 

「……そのノウなんとかというのは?」

 

 私も分からなかった。ただ、その言葉が分からなくても言いたいことは分かる。マントル将軍は話を逸らしているだけだろう。

 

「えっ……あっ、方法。方法のことです。すみません、地元の方言を使ってしまって……」

 

「……共有はされているだろう。ただ、どこまでの情報が伝えられているか。退魔兵団はその実力を隠そうとする。成果と言ってきているものも、はたしてどこまでが本当か怪しいものだ」

 

 退魔兵団が実力を隠そうとするのは事実だろう。敵に情報が漏れてしまえば、勝てる戦いも勝てなくなる。当然の配慮だ。ただ退魔兵団の上の者たちはマントル将軍が言う通りである可能性がある。カイトの仲間たちがクソ呼ばわりしていたことを私は知っているのだ。

 

「……次はその退魔兵団がいる場所に行ってみるのはどうかしら?」

 

「それは無理だ」

 

 私でもこう答える。退魔兵団の拠点に行くのは無理だ。個人的にはエミリーの意見に同調したいところだが、許可されると思えない。

 

「どうして?」

 

「退魔兵団の拠点は魔王国との国境近くにある。万一向かうにしても一度王都に帰還し、誰にも知られないようにした上で向かう必要がある」

 

「……危険だから?」

 

「そうだ。国境近くであれば、かなりの人数を揃えてくる可能性がある。あまりに数が多ければ、そのまま戦争に突入だ」

 

 行くことが許されないのは我らが身を案じてだけではない。大人数同士のぶつかり合い、退魔兵団全体が動かなければならない事態になれば、それはもう開戦。戦争のきっかけを作ってしまうことになる。

 

「いつかは戦うのではないのですか?」

 

「そうだ。だが、まだその時期ではない。我々の準備は出来ていても他国との交渉が終わっていない」

 

「他国との交渉……どういう交渉が必要なのですか?」

 

「聖女であるのに何も分かっていないのだな?」

 

「……すみません」

 

 これについてはエミリーに同情する。聖女に認定するだけしておいて、情勢について彼女に何も伝えていない王国が悪いのだ。

 

「外交成果の最善は同盟。共に魔王国と戦うという約束を得ることだ。そして最低の成果は不可侵を約束させること。魔王国と戦っている時に背後から襲われてはたまらんからな」

 

「そんな……」

 

「そうさせない為に我が国の力を他国に知らしめねばならんのだ。王子殿下が勇者であること、そして君が聖女として立ったことを、こうして国内に広めているのもその為だ」

 

 魔王国の力を過少に評価していると、過大に評価していても、間違った動きをされる可能性がある。協力して戦えば確実に勝てる。ミネルヴァ王国を見捨てるような真似をすると後が怖い。他国にはこう思わせて、条約を結ばせなければならない。難しい交渉になるのだろう。
 その難しい交渉を助ける為に、今の我々の活動がある。分かっている。そうであるのに苛立ちを覚えるのは何故なのか。焦り、不安。思いつく理由はいくらでもあるのだ。