月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

逢魔が時に龍が舞う #19 尋問ゲーム

異世界ファンタジー小説 逢魔が時に龍が舞う

 本部の会議室。緊張した面持ちで座っているのは葛城陸将補と立花遊撃隊指揮官、そして二人の向かい側に座る天宮だ。その天宮の隣に座る尊は、いつもの様にぼんやりした雰囲気をまとっている。これから問い詰められるのは、尊だというのに。
 ショッピングセンターで尊が為したこと。それは尊に甘い、というより彼が抱える秘密への深入りを避けてきた葛城陸将補も、さすがに見て見ぬ振りを出来るものではなかった。尊は鬼を触れるだけで倒してしまったのだ。何をしたのか事情を聞かないわけにはいかない。

「聞きたいことはいくつかあるのだが……まずはどうして鬼の存在に気付けたのかな?」

 このような場を設けたからには聞きたいことは全て聞く。葛城陸将補はそう考えている。

「どうして……分かったから」

 首を傾げて考える仕草を見せた尊だが、口から出てきたのはこれだけだ。

「どうして分かるのだろうな? 君は何によって鬼が近くにいると判断したのかな?」

 尊の最初の答えは予想の範囲内。葛城陸将補はさらに詳しいことを尋ねようとした。

「何によって……感じるから」

「感じるとは何を?」

「……貴方たちの言う精霊力?」

 わずかに笑みを浮かべて尊は答えを返した。尊がわざと惚けていた証だ。

「やはり、そうか。君は精霊力を感じ取ることが出来る。それもかなり広い範囲で」

 これも予想されていた答え。これまでの尊の行動を少し考えれば分かることだ。

「広いのかな?」

「広いのではないか? 前回の任務では数百メートル、いやもっと距離があったはずだ」

 前回の任務でも尊は鬼の存在を探知していた。それもかなり離れた位置から、しかも恐らくは正確な場所まで。

「……広いのか」

 葛城陸将補の話を聞いて、あまり納得していない様子の尊。この尊の反応の意味も葛城陸将補には気になるところだ。尊が、何者かと自分を比べている可能性を、葛城陸将補を考えている。

「他にも同じことが出来る人はいるのかな?」

「いる」

「それは『YOMI』のメンバーだね?」

「……やろうと思えば出来るかも」

 少し考えて、尊はこの答えを返した。一つの一つの答えが微妙なもので、それの意味を考えるのは実に疲れる。葛城陸将補は軽く息を吐いて、気持ちを落ち着けてから、また口を開いた。

「つまり『YOMI』のメンバー以外にもいるのだね?」

「いる」

「それは誰かな?」

「桜」

「そうか……妹さんか……」

 あり得る話だ。尊と桜の兄妹は普通ではない。異能者とされる特務部隊員と比べても、普通ではないのだ。それは何故なのか。それを葛城陸将補は知りたい。

「何故、君たちにはそれが出来るのだろう?」

「出来るから」

「……具体的な方法を教えてもらえないかな?」

 波打つ心をなんとか静め、葛城陸将補は根気よく問いを続ける。

「方法と言われても……出来るからとしか言えない」

「それでは分からない! 目で見える距離ではない! 耳で聞こえる距離でもない! では何だ!? どうやって君は鬼の存在を知るのだ!?」

 とうとう葛城陸将補にも我慢の限界がきた。要領を得ない尊の答え、そして恐らくはわざとであろうそれに我慢が出来なくなってしまう。

「匂いは目に見える? 耳に聞こえる?」

「何?」

「熱は目で見える? 耳に聞こえる? 鼻でかげるかな?」

「それは……」

「貴方はどうやって熱の存在が分かるのですか? 具体的な方法を教えて」

「…………」

 肌が熱を感じる仕組みはあるはずだ。だがそれを葛城陸将補は説明出来ない。それと同じだと尊は言っている。それに対して、葛城陸将補は返す言葉がなかった。

「古志乃くん。自分からも良いかな?」

 ここで立花分隊指揮官が話に入ってきた。

「……どうぞ」

 わずかに眉をしかめながら、尊は質問を許した。

「君と妹さんは生まれた時からそれが出来たのかな?」

「……出来ない」

「そう。じゃあ、いつ、どこで、どうやってそれを身につけたのかな?」

「……僕の負け」

 尊の顔がしかめ面から笑顔に変わった。

「えっ?」

 その変化と「負け」の意味が立花分隊指揮官には分からない。

「答えは秘密」

「……えっ? どういうこと?」

 さらに続く言葉の意味も分からない。ただ、これは言葉通りの意味だ。

「世の中には知らないほうが良いことがある。だから秘密」

 尊には立花分隊指揮官の問いに答えるつもりはないのだ。

「……負けっていうのは?」

「正直者でいられなかったから僕の負け」

「もしかして遊びのつもりだった?」

 葛城陸将補が怒り出さないかヒヤヒヤしながら、立花分隊指揮官は自分の考えを問いにした。真面目な尋問の席で、尊はどこまで嘘をつかないでいられるかという遊びをしていたのではないかと、立花分隊指揮官は考えたのだ。

「正直なのはいいこと」

「そうだけど……仕事の時間に遊ぶのは悪いことだね」

「……そうだね。じゃあ、もうしない」

「では鬼を探知する方法をどうやって身につけたか教えてくれるかな?」

「それは秘密と言った」

 遊びが終わっても全てを話すわけでないことは同じだ。駆け引きをしないので話は早い。違いはそれだけ。

「……では鬼を元に戻す方法は?」

「ショッピングセンターで僕は鬼を元に戻したわけじゃない」

「ああ、鬼になりそうだった人をそうならないようにしただね。その方法も秘密かな?」

「……精霊力を扱えれば出来る」

「それはどうやって出来る!?」

 話してくれないだろうと思っていた問いに尊は答えてきた。それに驚きながら、立花分隊指揮官はさらに詳しい情報を求めた。

「どうやって……お願いする?」

「……それってもしかしてスピリット弾を扱うのと同じってこと?」

 精霊科学研究所でスピリット弾を自由に操る方法を聞かれた時の答えと同じ。精霊科学研究所に同行していなかった立花分隊指揮官だが、詳しい情報は教えられていた。

「そう。力を引き離せば、一緒に穢れも離れる。それで鬼にはならない」

「精霊力を引き離すことなんて出来るんだ……」

「定着していなければ。この人は無理」

 指で隣の天宮を差す尊。「この人」呼ばわりされた天宮は不満そうだ。だがここは不満に感じるのではなく、安心するところ。もし今の天宮でも出来るとなれば、それは特務部隊員を無力化出来るということになるのだから。

「……精霊宿しになったばかりであればってことだね?」

 尊の能力が与える脅威を理解している立花分隊指揮官と葛城陸将補はホッとした顔をしている。

「そう」

「穢れだけを払うことは出来ないのか?」

 葛城陸将補がまた会話に戻ってきた。

「……穢れたばかりなら」

 その問いに対して尊は笑みを浮かべながら答えた。聞かれたくない内容を聞かれてしまった。そんな思いが笑みになっているのだ。

「『YOMI』のメンバーの穢れを払ったのは君なのだな?」

「全員じゃない」

「同じことが出来る人がいるというのか?」

「僕は言った。精霊力を扱えれば出来るって」

 つまり『YOMI』のメンバーは尊の言う、精霊力を扱うことが出来る。だが葛城陸将補はそれには驚かない。『YOMI』のメンバーの強さを考えれば、それくらい出来て当然だ。驚いたのは別のこと。

「……まさか、穢れも精霊の一種だというのか?」

「違う」

 だがその勘違いは、尊に一言で否定された。

 

「……遊びは止めてもらえないか?」

「遊んでない。事実を言っているだけ」

「その事実をもう少し分かりやすく話して欲しいのだ」

「…………病気をしても人は人。これはちょっと違うか」

 考えた結果の答え。だが尊自身がその答えに納得していない。

「病気……穢れは精霊が病気になったということなのか?」

「……やっぱり、秘密」

「おい……」

 少しは核心に近づいてきたのかと思ったところで、尊は口を閉ざそうとする。隠し事のある尊にとっては当たり前の対応だが、葛城陸将補はそれでは困ってしまう。

「また聞いて良いかな?」

 ここでまた立花分隊指揮官が質問のあることを告げてきた。

「何?」

「君は誰の為に秘密を守っているのかな?」

「……大勢の人」

「じゃあ、自分たちがそれを知ると、どうなってしまうのだろう?」

「驚く」

「いや、そうじゃなくて……」

 質問の仕方を間違えた。そう思った立花分隊指揮官は、どう聞けば良いかを考えている。

「……間違ったことをしている」

 だが立花分隊指揮官が質問を思い付く前に、尊が言葉を発してきた。

「それは自分の質問、じゃないね。何のことかな?」

「精霊力なんて忘れたほうがいい」

「……それは忠告?」

「はっきりと言葉にしないと、こんなことも分からないみたいだから。でも僕がこれを言っても、きっと何も変わらない」

 尊の思っている通り、精霊エネルギー研究が止まることはない。精霊エネルギー研究は国家プロジェクトなのだ。

「変わらないとどうなるのかな?」

「それはそうなった時に分かること。僕は預言者じゃないから、それを語る資格はない」

「……そうか。君は自分の意思で話さないのではなく、誰かに口止めされているのだね?」

「…………」

 沈黙が答えであるなら、その意味は肯定のはず。では誰が口止めをしているのかとなるが、それを尊が話すとは思えない。

「他に話せることはあるかな?」

「……斑尾所長には気をつけたほうがいい」

 ここで出てきたのが精霊科学研究所の斑尾所長。これが意味するところは立花分隊指揮官には分からない。立花分隊指揮官は、自分よりもずっと斑尾所長と接点があるはずの葛城陸将補に視線を向けた。

「気をつけているつもりだが、そういうことではないのだろうな?」

「そうだね。あの人は……知らない方が良いのかな?」

「いや、教えてもらおう。斑尾所長は私も全く信用していない。問題があるなら知っておくべきだと思う」

「……あの人は、いや、止めておく。どこに耳があるか分からないから」

 尊は第七七四特務部隊そのものを信用していない。葛城陸将補には分かっていたことだが、ここまではっきりと口にしたのは初めてだ。
 尊が何をそんなに警戒しているのか。自分が思っていた以上に、尊の秘密は大きいのだと葛城陸将補は思った。

「じゃあ、僕はこれで」

「……そうか。時間を取らせて悪かったな」

「いえ」

 席を立って会議室を出て行く尊。それを見る天宮の表情は、不安と不満が入り交じった複雑なものだ。

「何だか|大事《おおごと》になってきた気がします」

「そうだな。彼が抱えている秘密は個人的なものではないのかもしれん。いや、彼ら兄妹の存在そのものが大事なのか」

「行方不明になっている間に何があったかですが……それは分からないのですね?」

「分からない」

 それが分かるのであれば、今このように悩んでいない。行方不明中の何かが、兄妹を特別な存在にしたのは間違いないのだ。

「どうして彼にもっと厳しく聞こうとしないのですか?」

 天宮の不満はこれ。今回こそはきつく問い詰めるのだと思っていたが、結果はこの通り。尊は秘密を守ったまま、会議室を出て行ってしまった。

「拷問でもしろと?」

「い、いえ。そういうことでは。でも彼が隠している秘密が重大なものであるなら、何としても聞き出すべきです」

「……聞いて良いのかな? 世の中には知らなくて良いことがある。これは真実だろうからな」

 真実を隠しても、嘘はつかない。尊はそういう話し方をしている。「知らなくて良いことがある」は言い訳ではなく真実だとすれば、それを知るとどうなってしまうのか。

「知らなければ何も出来ません」

 だが天宮はそれでは納得しない。真実を知って、その上で出来ることを行う。そう考えている。

「……精霊を扱えれば、天宮くんも鬼を探知出来る様になるそうだ。鍛えてみたらどうかな?」

 葛城陸将補は、この件で天宮を深入りさせるつもりはない。特別な力を持っているといっても、彼女はまだ子供で、軍の組織上も陸士に過ぎない。恐らくは超機密扱いになるだろう尊の秘密を知る立場にはないのだ。

「……出来るようになってみせます」

「そうか。では鍛錬に励むのだな。それが君の仕事だ」

「……分かりました」

 葛城陸将補の言いたいことを正確に理解して、天宮は会議室を出て行く。

「……自分の手にも負えないと思うのですが?」

 立花分隊指揮官は真実を知りたくない。この件に深入りすれば、面倒ごとに巻き込まれるのが見えている。精霊科学研究所の斑尾所長が絡むようなことになれば、それは政治だ。一防衛技官が関わって良いことではない。

「彼からここまでのことを聞き出したのは君だ。これからも頼む」

「……はい」

 だがそれは葛城陸将補が許さなかった。葛城陸将補も一人だけで背負うのは嫌なのだ。