重臣会議が終わると健太郎は、そのまま王都にある自分の居館に戻った。子爵位を授けられた時に下賜された屋敷だ。
屋敷に入って真っ直ぐに目的の部屋に向かう。そこで待っていたのは、結衣と金髪碧眼のかなり美形の男の二人だった。
「あれ? フローレンスは?」
「買い物だって。いいご身分よね。仕事もしないでさ」
不満そうにアンナの行き先を告げる結衣。一時期はアンナの境遇に同情もしていた結衣だが、今はそんな気持ちは消え失せている。
健太郎の寵愛を良いことに贅沢をしているアンナを軽蔑しているのだ。
「そんな言い方するなよ。フローレンスは侍女じゃない。仕事なんてないさ」
「侍女じゃなければ何よ?」
アンナは侍女として雇われている。それを侍女ではないという健太郎の気持ちを結衣は確かめようとした。
「うるさいな。そんなことどうだって良いだろ」
健太郎の口から出たのはこれ。恋人と認めることもしないで、答えを誤魔化している。
「どうでもね」
それでもう結衣には健太郎の本音が分かった気がした。それは結衣が軽蔑するようなものだ。
「それよりも面白い話を聞いてきた」
「何それ?」
結衣の気持ちなど気にすることなく健太郎は会議について話そうとする。
今回の会議はランカスター宰相にとっては失態と言えるものだが、健太郎にとっては、それはどうでも良いことだった。それよりも、新事実が明らかになったことの方が健太郎にとっては重要だ。
「グレンって僕の前に召喚された勇者の息子なんだって」
「はあっ!?」
結衣は健太郎が期待した通りの反応をみせた。
「驚くよな。僕も驚いた」
結衣の反応を見て、健太郎も嬉しそうだ。
「本当なの?」
「本当。レスリーは知ってた?」
「私は兄から聞いていました。しかし、公表したのですね」
レスリーと呼ばれた男は、ランカスター宰相の弟。ランカスター家の三男だ、
健太郎たちはそのレスリーと親しい仲になっていた。きっかけは元勇者親衛隊の騎士であるマーカス・コンラッドの段取りによるものだ。
「知ってたのか。酷いな。教えてくれれば良かったのに」
「いくら勇者であるケンに対してでも、機密を漏らすわけにはいきませんからね」
「そうだけどさ。僕とレスリーの仲じゃないか」
健太郎には公私の区別をつけようという意識が薄い。元々の資質もあるが、大将軍となった今も周囲が親しい者ばかりで固まっているという環境も影響していた。
「事は国政に関わる内容ですから。何の役職にも就いていない私が話して良いことではありません」
「そう。でもさ、レスリーはランカスター家の人間だから、望めば役職なんて貰えるよね?」
「私は三男です。ランカスター家というだけで、役職を幾つも得るわけにはいきませんよ」
これは嘘だ。ランカスター家であれば三男に要職を与えるなど難しいことではない。レスリーはあえて役職を持たない自由の身になっているのだ。
「でもレスリーは頭も性格も良い。国政に関わらないのは勿体ないよな」
「そういう習わしですから。それにランカスター家は貴族の中でも筆頭という位置にありますからね。専横を疑われるようなことはしないほうが良いから」
それらしいことをレスリーは言っているが、兄であるランカスター宰相はとっくに専横と言われるような、やり方をしている。健太郎が気付いていないだけだ。
「それでも勿体無い。身分が低くても高くても優秀な人間が埋もれてしまう。こういうのって駄目だよね」
「……そういうことはあまり口に出さないように。それこそ、前勇者と同じ目に会いますよ」
「えっ?」
前勇者と同じ目に会うと、レスリーに言われた健太郎は驚いている。同じ目というのが、追放であることを健太郎は知っているのだ。
「何故、前勇者がこの国を離れたか聞きませんでしたか?」
「何て言ってたかな? ああ、そう。国政批判だって」
「そうです。それで前勇者は国に睨まれて、居たたまれなくなって、この国を離れたのです」
実際は国、というより貴族側が荒っぽい手段に出たのだが、それをレスリーは話そうとしない。あくまでも前勇者、グレンの父であるジンが自分の意思で出て行ったような言い方をした。
「……何を言ったのかな?」
「私も詳しくは知りません。聞いているのは優秀な人間が正しくそれを評価され、登用されないのはおかしい。国の制度を改めるべきだ、みたいなことを言ったそうですね」
「嘘……」
レスリーの言っていることは、健太郎が頻繁に口にしていることと同じだ。
「ケンがたまに言うことと同じです。だから気を付けて」
レスリーも何度も聞いている。だからこそ、この話を持ち出してきたのだ。
「ああ。でも、間違ってはいないよね?」
「本音を言えば私もそう思います。でも、それを受け入れると大変なことになるから」
「大変なこと?」
「これはここだけの話。二度としないですから」
「ああ」
真剣な表情のレスリーをみて、健太郎の気持ちも引き締まる。よほどのことを話すのだと分かったからだ。
「それを認めた場合、国王が優秀でない時はどうすれば?」
「……そういうことか」
国王を替える。クーデターか簒奪か、とにかくそういうことになる、ということを健太郎の頭の中に刷り込むのがレスリーの目的だ。
独裁的な国王であればそうかもしれないが、現国王くらいに極端な怠け者であった場合、臣下が優秀であれば国政は問題ない。優秀さを問われるのは臣下の方になる。
「突き詰めればそういう話になる。だから、私は前勇者にはわずかに同情しています」
「同情?」
「間違ってはいない。でも、真っ向からそれを言ってはね。物事は一気に変えることは出来ないですから、少しずつ変えて行かないと。前勇者にはそれを教えてくれる人がいなかったのですね」
「そっか」
自分にはいると健太郎は考えている。元親衛隊の面々、目の前のレスリーなどだ。だが、それらの人々は自分の欲の為に健太郎に近づいただけ。
実は、本当に健太郎に役立つことを教えていたのは、側にいるのを嫌がっていたグレンくらいだと分かっていない。
「ただ同情するのはそれだけです。その後の行動は同情の余地もないですね」
「ウェヌス王国に敵対したって聞いた」
「そうです。でも敵対したというよりは、世の中にいたずらに混乱をもたらしたと言った方が良いです。それで苦しむのは巻き込まれた民。認める気にはなりませんね」
「……そうだな」
グレンの父親はやはり悪人。健太郎としては少しホッとしている。グレンが悪役でなかった場合、果たして自分は何なのか。
さすがの健太郎も、口には出さないが、自分が何者なのかに不安を感じ始めていた。
「それを兄が公表したと言うことは、ゼクソンと再戦ですね」
「あっ、それはない」
「えっ?」
健太郎の答えを聞いたレスリーが驚きの声をあげた。兄であるランカスター宰相が会議をどう進めるつもりだったか、レスリーは知っていた。それと異なる結論が出ていたこに驚いたのだ。
「ゼクソンとは条約を結ぶ交渉に入ることになった」
「どうしてですか? ゼクソンの国王代行になったグレンは前勇者の息子で、この国に害を及ぼす存在です。討伐するのが妥当では?」
「ゼクソンはしばらく戦うことをしないでおこうって言ってきたらしい」
「しばらくとは?」
「五年だったかな。交易も始めたいってさ」
「ゼクソン王国から……」
レスリーは眉をしかめて、考え事を始めてしまう。ランカスター宰相と同じで、グレンの意図が掴めなくて悩んでいるのだ。
「おかしいのかな? 悪い条件ではないみたいだけど」
「……そうですね。我が国にとっては悪い条件ではないですね」
それをゼクソン王国側から提示してきたことがおかしいのだ。
「そこ教えて。何が良いのか、正直良く分からなくて」
「グレン国王代行のことは置いておいて、ゼクソンと不戦条約を結べるのは我が国にとっても良いことです。大国ウェヌスにとっても、やはり敗戦の痛手は大きい。戦費をかなり消費しましたし、兵の損耗も馬鹿になりません」
「やっぱりそうだよな」
さすがに健太郎も戦争続きでは国力が疲弊することは分かる。歴史でも小説の中にもそういう展開はよくある話だ。
「五年あれば充分に回復出来ます。それに同じ五年でも我が国とゼクソンでは回復力が違います。五年後に再戦となれば、国力の差は敗戦前よりも開いているでしょうね」
「そうか」
「それと東方を対アシュラム王国に絞れる点も大きいですね。ゼクソンとアシュラム、同時に二国を相手にするから策が必要になるのです。一国相手であれば、正面切って、戦っても勝てますね」
「まあ」
それをあえてしなかったのは、ランカスター家が裏で糸を引いていたからだが、当然、レスリーがそれを口にすることはない。
「そしてアシュラムを領土に組み込めば、ゼクソンを侵略することは簡単です。アシュラムとゼクソンの国境には軍を進められる場所が複数あります。複数個所の同時侵攻となればゼクソン軍がどれ程強くても、絶対的な数が足りません」
「……良いこと尽くめだね」
ウェヌス王国にとっては。ウェヌス王国の東方制覇を目的にするのであれば、レスリーが話した内容で問題ない。だが、アシュラム相手では占領後に臣下が属国の王になる正当な理由が作れない。
「それをゼクソンから言い出す理由が分かりません。どうしても策を疑ってしまいます」
「例えばどんな?」
「表立っては戦わなくても、裏で戦うことは出来ます。前勇者が行ったようなことです」
「でも、グレンが出ればすぐに分かる」
「そうなのです。代行とはいえ、実質は国王。目立つことは出来ないはずですが。それとも代わりを任せられる者がいるのか……」
そのままレスリーはまた考え込んでしまった。グレンの簒奪を口実に何としてもゼクソン王国を手に入れる。それがランカスター侯爵家の方針だった。レスリーの立場としては、ここで何とかグレンの謀略を暴いて、健太郎の気持ちを侵攻に向けさせたいところだ。
だが、その思考を国政になどまったく興味のない結衣が邪魔してくる。
「そんなの考えるだけ無駄じゃない? あのグレンが考えることよ。ちょっとやそっとじゃ分からないわよ」
「……そうかもしれませんが」
それで諦めては政争や戦争に勝てない。
「それよりもグレンって国王になったの? 私はその方が気になる」
「正式には国王代行です」
「代行って?」
「ゼクソンの国王は前国王ヴィクトリアとグレン国王代行の間に出来た子供であるヴィクトルです」
「嘘!? グレンって子供いるの!?」
レスリーの説明を聞いて驚く結衣。健太郎はそれを話すのを忘れていたことに気付いて渋い顔をしている。
「国王といってもまだ赤子。そこで国王代行という立場で実際の王権はグレンが行使する形になります」
「……何それ? 国王って、そんな簡単に成れるの? ていうか、前国王とグレンってできてたの?」
「……まあ」
結衣や健太郎が時々使うこういう直截的な言い方はレスリーには中々慣れることが出来ない。
「驚きね。実はグレンは勇者の息子で、それが他国の女王と恋仲になって国王? これじゃあ、グレンが主人公みたいね」
「主人公?」
「それはこっちの話。でも凄くない? 随分、差を付けられた感じ」
結衣の意味ありげな視線が健太郎に向く。
「差ってなんだよ?」
口を尖らせて文句をいう健太郎。
グレンが主人公であれば自分は。このところずっと気にしていることに、無神経に触れられて健太郎は苛立ちを隠せないでいる。
「分かってるくせに。健太郎は大将軍。グレンは国王。どっちが上かは明らかよね」
「国王って代行だろ。それに簒奪みたいなものだ。そんなことしてまで王に成るなんて、僕は正直グレンを見損なったな」
「ヤキモチね」
「ヤキモチなんて焼くか! 良いか、グレンは王の座を奪った悪者だ。主人公どころか悪役だろ?」
「……あっ、そういうことね。健太郎の倒すべき敵がいよいよ明らかになったのね」
「そうだよ。グレンが僕の敵だ」
健太郎は正義の味方。そしてグレンはその敵役。健太郎にとってはそうでなくてはならない。実際にはどちらにも正義などない。正義か悪かは、見る方向によっていくらでも変わってくるものだ。
「グレンがね。確かに強敵って感じで、相応しいといえば相応しいかな」
結衣もグレンが敵役であることには納得している。
「まあな」
「じゃあ、やっぱり、グレンを倒しにゼクソンに行くの?」
「それは……交渉するってことに決まったから」
会議の結果はそうだった。それに少しホッとしている自分を健太郎は認めていない。
「でも、グレンの悪政でゼクソンの人たちは苦しむことになるのよ? それで良いの?」
「ん?」
結衣の言葉に健太郎は反応をみせる。悪政で苦しむ民を解放する。実にありがちな状況だ。
「悪役ってそういうことでしょ? 民を苦しめて……何か想像つかないわね?」
「いや、でもそういうことだ。そうか、ゼクソンの人たちのことを考えなかったな。何とかしてやりたいけど……」
「ケンがそう思っているのであれば、兄が上手くやりますよ。上手くゼクソン側をあしらって、交渉を破棄させるくらいは兄であれば――」
「でも、交渉は別の人がやるみたいだ」
「何ですって?」
会議の結果はレスリーが驚くことばかり。事前に聞いていたランカスター宰相の思惑から完全に外れた結果で終わったのだから、そうなってしまう。
「ジョシュア様がそんな話をしていた。出来ればもっと友好関係を深めたいとも言っていた」
「……交渉の方向に持っていたのは王太子殿下なのですか?」
「そうだよ」
「ケンは?」
「僕と宰相はグレンを討つことで意見が合ってた。でもジョシュア様がそれは駄目だって」
「そうだったのですか」
これもレスリーにとって想定外のこと。レスリーはてっきり健太郎がグレンと戦うことを良しとしなかったのだと思っていた。ランカスター侯爵家は健太郎の実力を怪しみ始めているのだ。
「王太子であるジョシュア様の決定だからね。さすがに無視は出来ないよ」
レスリーの考えは全くの間違いではない。だが、健太郎が多くの人の前で弱みを見せることなどまずない。
「しかし、ジョシュア様が何故?」
「何故って。そのほうが良いと思ったんじゃないかな?」
「しかし、あの方が兄の意見に反して、話を進めるなんて……」
ジョシュア王太子はランカスター宰相の言いなり。ずっとそうであるはずだった。
「それは意外だったね。でも、国王らしかったよ。さすがにここに来て自覚が出てきたのかな?」
何も知らない健太郎は、会議を仕切った形のジョシュア王太子を褒めている。こう思うだけの雰囲気をジョシュア王太子は見せていたのだ。
「そうだと良いのですが」
「何?」
「ああいうご自分に自信のない方は、甘言に耳を傾けてしまいがちです。変な者の言葉に騙されているということも考えられます」
ジョシュア王太子を褒める健太郎に、すかさずレスリーは釘を刺した。ジョシュア王太子は愚物でなければならないのだ。
「そうだね。ジョシュア様にはそういうところがあるかな」
自分自身のことをまるっきり棚に上げて、健太郎はレスリーの話に同意した。
「困ったものです。今はウェヌス王国にとって大事な時。そのような時に佞臣の言葉に惑わされるようでは、我が国の先行きに不安を感じてしまいます」
「そうは言ってもさ、他にいないわけだからね」
「はい。ただ一方でゼクソンは。グレンという男はその思惑が何にあるかは分かりませんが優秀であることは確かです。それを王に戴いたゼクソンはどのような国になるのか」
健太郎に、ジョシュア王太子がウェヌス王国の王位につくことに不安を感じるように、グレンを持ちあげるレスリー。
「……滅茶苦茶になるに決まってるさ。簒奪の王に民が従うわけがない」
「優秀であるが強権を振るう王と優柔不断ではあるが優しい王。国を強くするのは、どちらでしょう?」
「それって……」
「あっ、口が過ぎました。ウェヌスの将来を考えると、つい不安になってしまって」
国の為であれば王位を奪うことも仕方がない。レスリーは健太郎にそう思わせようと盛んに不安を口にしている。
「まあ気持ちは分かるけどさ。でもやっぱり正統な王が最後は勝つと僕は思うな」
「正統ですか……」
レスリーの狙いと正反対に健太郎は王位に正統性を求めてきた。そんなことを求められてはランカスター侯爵家の野心は成就出来ない。
「何? 何かあるの?」
「何を持って正統というかですね。この大陸の国々の王は言ってみれば、全て簒奪の結果、王になった者ばかりです」
「えっ、そうなの?」
「この大陸はかつて一つの国でした。エイトフォリウム帝国という国です。その国の統治力が衰え、臣下が力を持って、次々と独立していった。そして、その中で生き残った国が、今の大陸の国々です」
ウェヌス王家の正統性を否定する為に、レスリーはエイトフォリウム帝国の話を持ち出してきた。
「……そうだったのか」
それに納得顔の健太郎。
「まあ、昔の話です。長い歴史の中ではそういうこともあります」
健太郎を納得させたところで、レスリーはこの話を終わらせようとしたのだが。
「つまり、グレンが王になろうが、それを責めることはウェヌスには出来ないって話ね」
そこに割り込んできたのは結衣だ。レスリーの思惑とは違う意味で結衣は受け取っていた。
「いや、それは……」
「グレンは世界征服でも狙っているのかもね。その皇帝って奴」
「えっ?」「なっ?」
結衣の言葉に驚く健太郎とレスリー。受け取り方は違うが二人ともグレンが野心を持っているという、考えていなかった可能性に驚いていた。
「そんなに驚かなくても。悪役ってそういうものでしょ?」
「そうだけど。そうだとしたら僕はやはりグレンと」
グレンと戦うことになる。何度もこれを健太郎は口にしている。あえて口にすることで、不安を隠していることに結衣もレスリーも気付いていない。
「まだ戦うのは早いわね。もっとグレンが力を持ってから。決戦はその後ね」
「そうか……そうかもしれないな」
もっと自分が強くなってから最後の決戦を行う。健太郎も望むあり方だ。
「ちょっと待って下さい! どうしてそうなるのですか!? そのような野心があるなら、まだ小さなうちに芽を摘むべきです!」
健太郎と結衣のまさかの会話を聞いたレスリーは、焦った様子で問い質してきた。どうして話がそうなるのか、レスリーには全く理解出来ない。
「だって、ここで健太郎がグレンを倒したとして、世界は良くなるのかな? 世界を変えるのはもっと何か大きな変革がないと。少なくとも私は健太郎も王になるべきだと思うな」
「僕が?」
自分も王になるという可能性を健太郎は考えていなかった。
「物語ってそうよね? 勝った後になるのもありかもだけど、今グレンに勝って、健太郎は王になれる?」
「……そうか」
悪を倒して、世界統一を成し遂げる。それで全ての人々を幸福にするのだ。
「どうしてそれで納得されるのですか?」
「いや、そういうものかなって。僕が王ね。でも、どうやって?」
「それはやっぱり悪政で苦しむはずのゼクソンじゃない? 民を解放して、解放王として称えられる。何かありそうなストーリーよね?」
「……そうだな」
グレンとの戦いは避けられそうにない。結衣の話を聞いて、健太郎はこう思った。
「王を目指されますか?」
ここでレスリーはかなり過激なことを口にした。
二人の会話の意味がレスリーには分からない。だが、健太郎に王になるという野心を持たせるのは悪くない。
健太郎が王になれるのであれば、ランカスター侯爵家の自分が王になってもおかしくない。
「そうだね。それがこの世界の人たちの為になるなら」
「……そうですか。では私は、それがこの世界の人々の為になるのであれば、立場を越えて、ケンに協力させて頂きます」
「レスリー、ありがとう」
「世界の為です」
ランカスター家は黒幕であることを止め、謀略の表舞台に自ら乗り出してきた。その野心は変わらず隠したままではあるが。