街を訪れる行商人が増えた。宿屋や酒場などの施設は賑わいを見せているが、それだけで終わらせるのは勿体無い。それに接客サービスは、いつか必ず真似する者が出てくる。それだけでは、今の状況を維持する事は難しいのは分かっていた。
そこで新たに設けたのが交易所だ。カマークの街で、商人同士がお互いの商品の売買をしてもらおうという考えだ。特に新しい考えではない。国境に近い街で取引を行う事が出来れば、運搬に掛かる日数や費用が削減出来る。これまでカマークに無かったことのほうがおかしい。
実際にはあった。あったが、商人が集まらない為に自然消滅しただけだ。
その交易所が復活した。交易所で取引が行われれば、国境関税がカマークの街に落ち、税収が膨れ上がる事になるのだが、リオンはその関税を商人が驚く程の低い税率にした。
国境関税は国で定められているので、災害時の特別減税という名目で。もちろん王国に報告して、許可は得ている。魔物の出現によって、カマークに商人が増えた。そのような国の大事で、領地が潤うのは忍びないという理由を付けて。この理由を知らされて、減税は駄目などと言える者はいない。
本当の理由は、商人をカマークの街に引き寄せる為の撒き餌だ。関税を徴収しても、その多くは国のものとなり、領地に残る分はそれほどでもない。そこで国境関税に更に追加で領地税を設けるのが普通なのだが、リオンは逆に減税してみせた。
これでは他の国境で取引をするのが馬鹿らしくなる。商人はまず間違いなくカマークを選ぶ事になる。接客を真似されても、客が他の街に流れるのを防ぐ事が出来る。あとは集まった商人が、儲けた分でカマークの娯楽を楽しんでくれれば、結局カマークの街は潤うことになるのだ。
もちろん、いつかは税率を上げなくてならない。だがその時は、リオンは領主ではいない予定だ。それにその時までに関税に頼らなくて済むようにすれば良い。リオンはあくまでも最後は、領民が自分たちの力できちんと生活をし、その税収によって領政が営まれるようにならなくてはならないと思っている。商人が落とす税金などは、それまでの繋ぎのつもりだ。
「牛豚の仕入れは目標数に到達した。あとは自分たちで増やす段階、本格的な畜産の始まりだ」
その将来の為の施策の一つを、ジャンが説明している。
「人手は足りているのか?」
「今のところは。それに見習いという形で、何人か仕事に従事させる。畜産がうまくいって数が増えたら、技術を身につけた者を独立させる計画だ」
「ああ。それが良いな。あとは?」
「ようやく耕作地が収穫時期を迎えた。悪くない報告が届いている」
「そうか」
「共同管理というやり方が、結果としてうまく行ったようだ」
「共同管理?」
リオンは指示した覚えはない。ジャンの発想か、自主的にやった事だと思ったリオンだったが。
「もしかして、分かってなかったのか?」
「……何の事か全然」
「罪人を農作業に当たらせた。それが結果として共同管理になっている」
「その共同管理ってどういう事?」
「耕作地全体を集団で管理するという事だ。元々は自分の家の田や畑を家族で見ていた。だが、それでは家庭によって収穫に差が出る。知識や経験はそれぞれ違うからな」
「……ああ、そういう事か」
優れた知識や経験の共有。作業も分担し合う事で効率化出来る。それぞれが自分の得意を活かすことで、良い結果が生まれたという事だ。もちろん個々の能力によって、役に立つ立たないが出てきてしまうのだが、今はそれが問題になる事なく回っている。
「この先が悩ましいところだ。学生時代に食堂で話していた事を思い出した」
「そうか……」
その場にはヴィンセントも居たはずだ。懐かしくあり、寂しくもある話題だ。
「領民全てを貧富の差なく平等にといった奴に対して、俺は努力の価値を認めないのはおかしいと意見した。この先の結果で、どちらが正しかったか分かるな」
「実験じゃないから。どちらにも利と害がある。それをうまく調整するのが、管理する者の役目だ」
「ああ、そうだった。もう学生ではなく、実務者だったな」
バンドゥの領政のほとんどは、学院を卒業して、すぐにこの地に来た人たちが担っている。知識はあっても経験はない人ばかりだ。それでここまで来られたのは奇跡的なことかもしれないと、今更ながら、リオンは思う。
「領民の様子には目を配ろう。物事がうまく行き始めると、今まではなかった、不満も出てくる。人というのは欲深いものだ」
「年寄りみたいな台詞だな。だが、その通りだ。これからが正念場だな」
バンドゥの地の復興は、驚くほど順調に進んでいる。それが却って、リオンを不安にさせる。順調に事が進んでいると思っていたのが大きな思い違いであり、結局はヴィンセントを守れなかった経験が、リオンの心から安心という言葉を奪っていた。
次の失敗は自分の死。死を恐れるリオンではないが、事を果たせずに死んでしまう事にはなりたくなかった。
◆◆◆
リオンは政務だけに力を入れているわけではない。軍務にも注力していた。
ただこちらの方は、政務以上に探り探りだ。軍を率いる事になるなど考えてもいなかったリオンは、軍事について勉強はあまりして来なかったのだ。経験だけでなく、知識もないに等しい。
さらに問題がある。軍事については、バンドゥ党の面々の方が、はるかに詳しい。政務はともかく、軍事に関しては、素人であるリオンの言う事など聞きやしないのだ。
そうだから好きなようにやらせるとか、全てを任せるという考えはリオンにはない。バンドゥ党の者たちから学ぶ姿勢は崩さないが、疑問に思う点については、自分でどうすれば良いかを考えて実践する事にした。なにごとも自分で工夫を考えるのがリオンの楽しみなのだ。
その実践の相手は、バンドゥ党の者たちではない。新たに徴兵した者、という名目で鍛錬をさせている王都貧民街から送られてきた者たちだ。
彼らは王都に続く街道沿いの街の裏社会の制圧に動く事になる。交渉や金だけでは裏の人間は従わない。力を見せつける必要があるのだ。
リオンはそれを徹底しようとしている。中途半端な力ではなく、抵抗など考えられなくなるくらいに、圧倒的な力を示そうと考えていた。一番はリオンが自ら動く事なのだが、領主の身でそれは出来ない。そうであるなら代わりの者を鍛えるしかない。その為に送り込まれたのが彼らだった。
ただ騎馬は完全にリオンの趣味、というより意地だ。バンドゥ党に一泡吹かせたい、なんとかその鼻っ柱を折ってやりたいという思いから始めていた。
その結果が遂に今日、示される事になる。
カマークの城壁の外。国境方面に広がる平原に騎馬が集まっている。南北にそれぞれ二十騎ずつ。南に位置するのはマーキュリー率いる青の党の若者たち。北に位置するのはリオンが率いるフレイ一家の部下たちだ。
これから始まるのは騎馬による対戦。鍛錬の成果を確かめる為、バンドゥ党の鼻っ柱をへし折るために、リオンが企画したものだ。
「では、対戦を始める」
審判役にはキールがなっている。他に成り手がいないからだが、キールとしては望むところだ。リオンの剣の師匠となっているキールは、フレイ一家の者たちも鍛えている。それだけでなく、リオンが彼らと、どんな調練をしているかも知っている。
勝敗の結果が実に気になるところだ。
「……始め!」
キールの合図で、青の党の騎馬が一斉に駈け出した。それに対するリオンたちは並足というところだ。二つの騎馬隊の動きは全く違う。一塊になって、もの凄い勢いで突き進むのが青の党。一方のリオンの騎馬隊は急ぐ事はなく、二列縦隊を保って進んでいる。
両隊の距離が見る見るうちに近づいていく。リオンの騎馬隊も徐々に足を速めていた。
遂に両隊が激突するというところで、リオンの隊が左右に分かれた。それを追って青の党の騎馬隊も散る。リオンの隊の数騎が、青の党の騎馬に追いすがられて馬から落ちた。
それに構うことなく、リオンは半分を率いて先に進む。それを青の党の騎馬のこれも半分程が追っている。その追っ手の最後尾が、馬から落ちた。
リオンの騎馬隊の残り半分が、後ろから攻めているのだ。だが、その更に後ろには、青の党の騎馬が居る。不利なのはリオンの方、とキールが思った瞬間に、リオンが更に隊を二手に分けた。
いきなりの事で、どちらを追うか迷ったようで、青の党の騎馬の反応が明らかに遅れた。その隙を利用して、先行するリオンの騎馬隊は反転。一番後ろを駆けている青の党の集団に左右から襲いかかった。
「これは……まさか本当に勝ってしまうとは」
まだ決着はついていないが状況は一気にリオン側が有利になっている。今、一番前を走っているのは青の党の集団だが、その集団は、それをすぐ後ろから追うリオンの隊の半分によって数を減らされている。その後ろについていた青の党の半分も、リオンの直率の隊に完全に分断されて勢いを落とし、これも又、数を減らしていた。
「終わり! 終了だ!」
これ以上はただ怪我人を増やすだけと判断して、キールは対戦の終わりを告げる。それを聞いて、両隊は戦いを止めて、馬から落ちた者たちや、その者が乗っていた馬の回収を終えると、キールの元に集まってきた。
「良い時に終わらせてくれた」
リオンの第一声がこれだった。
「……もしかして、止める時を間違えましたか?」
「そのもしかして。最後まで続けていたら、こっちの負けだったな」
「しかし、状況は完全にリオン様の隊が有利でした」
「状況は。ただ、こっちはマーキュリーたちを馬から落とす技量がない。だから、捨て身でやらせた」
「捨て身?」
どれほど頑張っても、乗馬の技量でマーキュリーたちに追いつくには、何年も掛かる。一対一で戦っては、十のうち十、フレイ一家の者たちは負けてしまうのだ。そこでリオンが考えたのだ、一を捨てて、二か三を取るという方法。
一騎が捨て身で前方に飛び込んで、青の党の騎馬の足を止め、そこを他の者で攻めるというやり方だ。だが、事はそう簡単ではなく、リオン側の脱落者は思いの外、多かった。あくまでも模擬戦であって、実際に剣や槍を振るう訳ではないが、馬上から相手を突き落とすだけでも、フレイ一家の者たちには容易ではなかった。
マーキュリーがそれに気が付いて、それ以前に真っ向から遣り合うことを避けて、馬の駆け足の早さ勝負に移ったら、リオンたちの勝ち目は消えていただろう。
キールはその前に対戦を止めてしまったのだ。
「そうであっても、勝ちは勝ち。俺のやり方が正しい事が証明出来た」
自分の工夫が成果をあげて、リオンは満足そうだ。この満足感を味わう為に、リオンは様々な事に頭を巡らしていると言える。学者気質というか、職人気質というか、自分の思った結果になると、それでリオンは満足なのだ。
だが、今回の件は、それで終わらなかった。
「……自分たちの未熟さを知る事が出来ました。これからは我らの指導もお願いします」
「へっ?」
マーキュリーだけではない。他の者たちも、リオンに向かって、頭を下げている。
「騎馬の集団運用という所ですか。確かに、一騎がけの武者が活躍する時代は、王国との戦いに負けた時に終わっていますね」
マーキュリーたちの願いの意味を、キールが説明してきた。バンドゥ六党は、ずっと力を隠してきた。だが、その力は、王国に負けた時から、何の変化も進歩もしていないものだ。マーキュリーたちのような若者たちは、リオンを知って、それに不安を覚えるようになっていた。
そこに、この対戦結果だ。時代に合わせて、戦いを変える時が来た。そして、それが出来るのはリオンだと彼らは信じている。
「……指導と言っても、俺が教えられる事なんて、ほとんどない」
「しかし」
「だから、一緒に考えていこう。皆で知恵を絞れば、もっと良いやり方が思いつくはずだ」
「あっ……」
リオンが初めて、自分たちに向かって、自ら手を差し伸べた。そんな風にマーキュリーは感じた。
「それで良いか?」
「はっ! リオン様の仰せのままに!」
この日、バンドゥの近衛兵団は、本当の意味でリオンの近衛となった。
やがて、青の党の若者たちの気持ちは、同じ思いを抱いていた他の党の若者たちにも広がる事になる。
◆◆◆
カマークに意外な人物が現れた。フレイ一家におけるリオンの右腕であるアインだ。王都を離れてアインがカマークに現れたのには、当然、訳がある。ただリオンに会いたかったからではない。
いよいよ他の街への侵攻を開始する時。その指揮をする為だった。
「まさか、お前が自ら来るとはな」
アインの来訪にはリオンも驚いている。
「最初の一手ですからね。失敗は出来ません。万全を期すには、俺が来るのが良いかと」
「そうだな。出足で躓いたら、全てが狂うからな。それで? アインが指揮を取るのは良いとして、作戦の方は万全なのか?」
「それを聞いてもらいたくて。良いですか?」
「もちろん」
きちんと計画を練り、準備を進めてきたつもりだが、いざとなると不安が消えない。アインがカマークまで来たのは、計画へのリオンの保証が欲しかったからだ。
リオンが大丈夫だと言えば、それでアインは悩む事なく、進むことが出来る。
「攻めるのは、ここから三つ先の街です」
「ん? 結構、大きい街じゃなかったか?」
リオンは街道沿いの街については 全て頭に入っている。バンドゥに来る時に自分で全ての街を調べてもいるし、その後の王都への往復でも、一つ一つの街に寄って、潜入している者たちの話を聞いていた。
「はい。最初の計画では、小さな街から落としてと考えていましたが、それを見直しました」
最初の策は、他の街に侵攻しようという話が出た時に、リオンが示した方法だ。それをアインは見直したと言ってきた。
「……理由は?」
「二箇所も落とせば、他の組織に俺たちの動きは知れるでしょう。そうなると、逆に攻めてくる奴等が出てくる可能性があります」
「そうか。王都に近ければまだ人を出せるが、そうでない場所ではな。少人数で分散していると防ぎようがない」
「はい。そう考えました。そうであれば、一か所に集中させて大きな街を獲り、そこから小さな街を落とすほうが楽ではないかと」
「間違ってはいないと思う」
「そうですか」
アインの顔にホッとした表情が浮かぶ。だが、リオンがこれで終わらせるはずがない。それはアインも分かっている。
「だが落とせるのか? それも、なんとか落としたでは駄目だ。力を消耗させたら、分散したのと同じになる」
「はい。それについても手は考えました」
「どんな?」
「まずは、敵の中に内通者を作っています」
「何人だ?」
「三人」
「その三人はお互いの事を?」
「知らせてはいません」
「そうか。まあ、良いだろう」
内通者などリオンは信じていない。内通する振りをして裏切るなどは、十分にあり得る話だ。アインにしたリオンの質問は、その危険を確かめる為。
複数の内通者を作っておいて、他にも居る事は知らせない。それによって、内通者の動きを、他の内通者に監視させる。裏切っているかどうかは、別の内通者がもたらす情報によって推測出来る。アインの対応はリオンを満足させるものだった。
「その内通者に、ある者の裏切りの情報を広めさせました」
「デマだな?」
「はい。最も敵の親分の信頼が厚く、手強いと思う奴です」
「敵の親分は信用したか? それと反応は?」
「上々の反応を見せたので、動く事を決めました。バラバラに三人から広めさせたのが、うまく行きました」
裏切りの情報をいきなり信じるはずはない。それでも放置は出来ないので、裏を取ろうとする。それをして見たら、確かに裏切っているという情報が上がってきてしまった。そんなはずはないと、別の者に確かめさせる。ところが、又、別の筋から同じ裏切りの情報が届いた。
こうなると、相手をどんなに信用していても、疑いの気持ちは生まれてしまう。信用しているという事は、相手にそれだけの力があるからだ。見方を変えれば、自分に成り代われる力があるという事になる。
後は、内部分裂のきっかけを作るだけ。それもどうとでもなる。親分には大事にならないうちに処分をと告げ、疑われている方には、このままでは身が危険だと忠告する。そうやって両方の不安を煽るだけだ。
「介入のタイミングが難しいな。早すぎては、又、敵はまとまってしまう。遅すぎると今度は、勝った方が組織を掌握する時間を与えてしまう」
「はい。そこでもう一手打ちました」
「えっ?」
「裏切りの情報を流した相手と、接触しています。いざとなれば力になると」
「……思い切ったな」
接触が失敗すれば、裏切りの情報を流したのは自分たちだと知られる事になりかねない。そうなると、それまでに打った手が全て無になってしまう。
「確実に落とす為です。それに協力する事で、敵組織の力を徹底的に削る事が出来ます。そいつは勝っても、うちに逆らう力は残りません。そもまま傘下に組み込むだけ、嫌というなら消すだけです」
「失敗したらどうするつもりだった?」
この答えはもうリオンには分かっているが、一応は尋ねる事にした。
「手を引きます。他の街を落として、力を増やしてから、又、考えれば良いと考えました。相手の方は王都まで手を伸ばせませんし」
フレイ一家の仕業だと分かっても、敵組織には反撃など出来ない。仮に反撃してきても、舞台が王都であれば負ける気はない。却って、敵の力を削ぐのに良い機会になるだけだ。
「そうか……分かった。もう聞くことはない」
「では?」
「俺にはこれ以上の策は思いつかない。良く出来ていると思う」
「……あ、ありがとうございます」
ずっとリオンの命じるままに動いてきた。今回の件は初めて、リオンの指示から外れて、自分たちで考えた事だ。それが、ここまでの褒め言葉をもらえて、アインは感激に震えてしまっている。
そして、それはリオンも同じだ。
「正直に言うと王都の事が不安だった。自分が居なくなった後も、ちゃんとやれるかなんて、偉そうな心配をしてた」
「それは当然です。大将が居たから貧民街は変われたのですから」
「でも、もう平気だ。俺がジタバタと動かなくても、お前たちが、貧民街の住人のような貧しい人たちの生活を変えてくれる」
「そんな言い方をしないで下さい。俺たちの大将は、フレイ様しかいません」
「……ああ。それは約束しているからな。ただ……」
今にも泣き出しそうな気持ちになっていたリオンだったが、その気持ちを吹き飛ばす、気になる事が出来た。
「何ですか?」
「今、思ったけど、フレイ一家は不味いな」
「えっ?」
「俺、フレイ男爵。フレイ一家なんて名乗って、それもカマークの近くの街で名乗られたら、俺の一家だと思われるよな?」
「まあ、実際にそうですし。でも、さすがに貴族様が、裏社会の親分だと知れるのは不味いですね?」
「不味い」
「どうしましょう?」
「名を変えるしかないだろ?」
「何て? 大将の一家なのだから、大将が決めて下さい」
「俺が? そうだな……」
リオンは真剣に一家の名を考え始めた。いざ考えるとこれがなかなか思いつかない。一家が駄目なら組。それでは同じだと、変な思考が頭の中で回っている。それが裏社会だからという変な拘りのせいだと思って、発想を大きく変える。
その瞬間に、リオンの指が口元に落ちた。
「決まりましたか?」
「レジスト」
「はっ?」
アインには理解出来ない、この世界にはない言葉だった。
「抗う、という意味だな」
「へえ。なんだか格好良いですね?」
「だろ? どうせなら何か格好良い名にしようと考えた。アインが良いなら、レジストで決まりだ」
「はい。分かりました。組織全体に伝えておきます」
フレイ一家は名を改めて、レジストになった。リオンは口にしなかったが、リオンの心の中にある世界に抗う意思から、思い付いた名だ。
だがいずれ、この名は違う意味を持つことになる。それはまだずっと先の話だ。