月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

異伝 ブルーメンリッター戦記 #4 モブキャラの工作

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 物語のハッピーエンドはリーゼロッテにとってのバッドエンド。そんな運命を背負った敵役キャラに協力するのは酔狂だと思う。それでも何故か、以前と比べて少し気持ちが沸き立っている自分がいるのをジグルスは感じている。
 モブキャラとしてただ物語に流されるのではなく、自分の意思で敵役を演じようとしている。ジグルスはそれが嬉しいのだ。
 そうはいっても何をするべきか。それが難しい。主人公の仲間集めの邪魔をするわけにはいかないのだ。ジグルスはリーゼロッテに協力すると言っておきながら、その点においては彼女を裏切っている。それについては少し後ろめたい。
 最終的に何を実現するべきかジグルスには分かっている。テーリング公爵家の滅亡を回避することだ。学院生活だけがリーゼロッテの人生ではない。その先の彼女の人生を少しでも幸あるものに出来れば。そう考えている。
 問題は実現手段。何をどうすれば良いのかがジグルスには分からない。
 ジグルスはゲームの記憶を何度も何度も繰り返し思い出してみた。だがテーリング公爵家がどのような罪で潰されることになるのかが、どうしても思い出せない。
 他国へ通じた。これだったような気がしている。だが確信は持てない。
それだけではない。何故、それが発覚することになったのか。それも思い出せない。そもそもこれらについてゲーム内で説明があったのかも怪しいのだ。
 分かっているのは時期だけ。それも卒業以後だったという大雑把なものだ。
 考えた結果、ジグルスはそれについて考えることは後回しにした。卒業まで時間はある、とまでは思っていないが、この先、ヒントとなるような出来事が発生するに違いない。今はとにかく現状把握から始めるしかないと判断したのだ。
 ただそれについても大きな問題がある。ストーリーがジグルスの知らないルートで進んでいる気配が強いのだ。
 ジグルスの記憶では最初の攻略対象はレオポルドのはずだった。攻略といっても恋愛関係になるわけではなく男女間での友情だ。レオポルドは子爵家の嫡子であるが気さくな性格で、平民にも分け隔てなく接する人物という設定だった。
 そんな彼が中途入学で勝手が分からず、戸惑っている主人公を、ちょっとしたきっかけで助けることから始まる。「そういえば主人公を盛んに口説こうとするくだりがあったな」なんてことまでジグルスは思い出した。
 だがそこで口説かれてしまってはベストルートには進めない、というのはあくまでもジグルスの認識だが、少なくともエカードの攻略は出来ないはず。レオポルドはあくまでも貴族との交流関係を築くための踏み台なのだ。
 レオポルドの口説きに対して、主人公は純情一辺倒の反応を返す、そんなことを続けているうちに二人の距離は縮まり、それによってレオポルドの親友であるエカードとの繋がりが出来る。
 エカードは冷たい性格、というか他人に容易に心を許さない面がある。レオポルドという親友の紹介があってはじめて接点を持てるようになるのだ。
 しかも、知り合ってからも攻略までは長い。友人関係を続けていく中で、徐々にお互いの理解が深まり、そしてエカードの持つ貴族としての義務感が薄れていく。公爵家の人間として実家の為にしかるべき貴族家から妻を娶らなければならない。その気持と主人公への募る思いの狭間で揺れ動くはずなのだ。
 だが現実はそうではない。そんな垣根はあっという間に消え去っている。
 そうなると次に主人公が攻略に向かうのは誰なのか。
 エカードがゲームと同じキーパーソンであるなら向かう先は二つ。一人は一学年下のカロリーネ王女。王女の身でありながら学院に通っている奇特な人物だ。一応、貴族や平民との交流を深めるという理由はあるが、それは建前。実際はエカードに一目惚れし、親しくなる機会を作る為に入学した、が真実だ。
 主人公はカロリーネ王女にとって憎きライバルなのだが、張り合いながらも同じ時間を過ごしていくうちに、主人公の人柄やエカードへの真摯な思いを知って、親友と呼べる関係になるという設定だ。
 このルートがジグルスの知る中では最強。剣において圧倒的な実力を持つ剣士エカード、剣と魔法の双方で優れた才能を持つ魔法剣士レオポルド、そして、この世界でも希有な光属性魔法、回復魔法を含む支援系魔法の使い手であるカロリーネ王女。これに、あらゆる方面で飛び抜けた力を持つ主人公が加わるのだ。バランス的には最適。
 さらに、特に攻略ルートの選択には関係なくフリーで仲間になる二人を加える。おすすめは純情一途な力持ち。主人公の気持ちがエカードにあることを知りながら、彼女への一途な思いを抱いて仲間になるウッドストック。そして魔法に優れた才能を持つマリアンネ。
 ジグルスが考える最強パーティーだ。

 もうひとつのルートはエカードのライバル、本心ではお互いに認め合っていても、それを表に出せないで敵対してばかりのタバート・アスカンだ。彼はラヴェンデル公爵家の次男だ。共に実家が公爵家であることが、二人が内心の思いを隠して、反発し続けていた理由だ。
 主人公は敵対するその二人の間を何度も行き来して仲を取り持ち、それにより二人の関係は変わっていく。タバートはそのことで主人公に深く感謝して、仲間に加わることになる。
 エカードとほぼ同等の力を持つタバートの加入によって、パーティーの攻撃力はズバ抜けたものになるが、支援役がいないのが欠点。
 それであればエカードを諦めて、別ルートに進んだほうが良いとジグルスは考えている。レオポルドとの付き合いはほどほどにして貴族の友人を増やし、タバートを直接攻略するルートだ。
 タバートの攻略は実は接点さえ出来てしまえば難しくない。何度かある対戦の機会で全て勝つだけだ。力への信奉が強いタバートは、実力を認めさせればあとは簡単。勝手に惚れてくれる。
 カロリーネ王女との関係は深まらないが、エカードが間にいない分、差し障りのない対応をしておけば、王族としての義務感から仲間になってくれる。あとはフリーの仲間を増やすだけだ。
 ただこのルートはそれぞれの攻略対象の関係性が乏しい為、ゲームとしては面白みに欠ける。

 こうであるはずなのだが現実はジグルスの知らないルートを進んでいる。まずもっとも苦労するはずのエカード攻略が完了している。その上で、リーゼロッテが聞いたというマリアンネの言葉が真実であるという前提だが、主人公はレオポルドとも関係を深めている。完全な二股だ。
 相思相愛の関係は一人だけだと思い込んでいたジグルスの知識のはるか上を行く攻略方法。隠しルートで、主人公ビッチルートなんてものがあったのだろかとジグルスは思う。主人公萌えでゲームをやっていたジグルスにとっては、あって欲しくないルートだ。

 完全にジグルスの思考は脱線している。攻略ルートなどどうでも良いのだ。それに気付いたジグルスは思考を本来の方向へ戻す。
 当面やるべきこと、取りかかれることはリーゼロッテの立場をこれ以上悪くしないことだ。その為には出来るだけ、リーゼロッテが絡むイベントを発生させないようにしなくてはならない。それも主人公の攻略を邪魔しない範囲で。
 やはり次に向かうのはどこかが気になる。カロリーネ王女へ向かうと当面は、主人公という共通の敵を前に、彼女ととリーゼロッテは共闘することになる。だがリーゼロッテのあまりに卑劣なやり口に王女は反発を覚え、それに健気に耐えている主人公に共感していくのだ。
 これは避けたい。王族の反感を買うことは、かなりの確率で公爵家の問題に悪影響を及ぼすと考えられるからだ。だがこれを避けた場合、王女の気持ちが主人公へ向く機会を潰すことになる。
 どうするか――ジグルスは自分が泥を被ることを考えた。やり口は全て自分が考えたことにするのだ。
 リーゼロッテに独断で物事を進めないように頼まなければならないが、これは難しくない。彼女は意外に周りの話を聞く。実は素直な性格なのだ。上に立つ者として下の話にきちんと耳を傾けるべきとの義務感もあってのことだ。

 あとはタバートルートへの対応。これもリーゼロッテがきっかけとなる。
 リーゼロッテが主人公を実力で叩きのめそうと決闘を申し込む。その決闘でリーゼロッテを完膚なきまでに叩きのめしたことでタバートは、主人公に興味を持つのだ。リーゼロッテの魔法の実力はタバートも認めるところ。それを倒した主人公が気になったという流れだ。
 そして次は自分が挑むことを決め、実際に対戦を申し込むのだが、魔法での対戦のつもりが得意の剣で主人公に負けてしまう。その一件から主人公の言葉に耳を傾けるようになり、エカードとの距離を近づけていく。

 こう考えるとリーゼロッテの立場は悲惨だ。とにかく彼女が立場を失くすことで、主人公の攻略は進んでいく。仲間集めの邪魔をしないとなると、最低でもあと一回のイベントは避けてはならない。リーゼロッテには申し訳ないと思いながらも、ジグルスはそれを覚悟した。
 それさえ済めばあとは何をしても大きな影響は出ないはず。主人公の動向を注視して、対応を考えていけば良いと考えたのだ。
 だが、ジグルスのそんな考えは理不尽な現実に潰されていった。

 

◇◇◇

 ジグルスの知らないところで、ゲームストーリー通りの展開になってしまったのだ。リーゼロッテの企てに悪質さを感じたカロリーネ王女は、彼女への嫌悪感を口にしている。こんな噂がジグルスの耳に届いたのだ。

「リーゼロッテ様! どうしてですか? あれ程、勝手に行動しないで下さいとお願いしましたよね?」

 それを聞いたジグルスは、普段の上下関係など忘れて、厳しくリーゼロッテを問い詰めている。

「わ、私は知らないわ」

 ジグルスの詰問に対してリーゼロッテは、自分は関係ないと訴えている。

「知らない? 知らないはずがないでしょう? 王女殿下は明らかにリーゼロッテ様に不信感を覚えていらっしゃいます」

「だから本当に知らないのよ。私は何も、誰にも指示なんてしていないわ」

「……本当に?」

「ジークとの約束を違えることなど致しませんわ」

 ジグルスの目をまっすぐに見てリーゼロッテは断言した。それを見て、彼女は嘘をついていないとジグルスも判断した。
 もともと一度口にした約束を破るようなリーゼロッテではない。上に立つ者としての責任感が半端なく強く、下の者の信頼を裏切るような真似は出来ないのだ。

「……そうですね。リーゼロッテ様の言葉を信じます」

 では誰の仕業か。ジグルスは冷静になって考えることにした。
 今回起きた主人公への嫌がらせの中身。主人公とレオポルドが深夜に密会していたという怪文書が学院に出回っている。
 それが事実であれば良い。さすがに現場を押さえるまでには至っていないが、ジグルスが調べた結果でも二人の関係には怪しさがあるのだ。
 だが、怪文書に書いてあった日付には、二人にアリバイがあった。それぞれに一緒にいたと証言する生徒がいたのだ。
 よりにもよって何故、その日を選んで怪文書など回したのか。何処の誰かは知らないが、その人物の迂闊さをジグルスは恨んでしまう。

(あれ……日付?)

 そこでジグルスは、ふと疑問に思った。何故、怪文書にわざわざ日付を書いたのかと。
 具体的な日時など必要ない。必要ないどころか書かないほうが相手は否定に困り、内容は事実なのだと周囲に思わせることが出来る。
 ただの馬鹿か。そうではなく、わざと書いたのだとすれば……そんな真似をする人は限られている。この怪文書によって利益を得た人物。主人公かレオポルド、もしくは二人の共謀だ。
 二人の関係はこちらが何もしなくても、どこからか噂になっていた。あの二人は出来ているのではないかと。エカードを気にして、その声は小さなものだった。それでもいつかはエカードの耳に入ったかもしれない。今は大人しくしていても、学院の人気者と常に行動を共にしている主人公を苦々しく思っている生徒は、まだ大勢いるのだ。
 今回の怪文書のおかげで、逆に二人の関係についての噂は否定されることになる。二人には好都合だ。
 それだけであればジグルスも勝手にやってくれ、というところだが、問題は怪文書をばらまいたのがリーゼロッテの仕業になっていること。明らかにリーゼロッテへの悪意ある風評だが、多くの生徒は、これまでの行動からそれもあるだろうと信じている。
 この推測が正しいとすれば、主人公はとんでもない曲者だ。
 ジグルスはこれまで起きたイベントについてもう一度考え直してみる。エカードとの関係に決定的な亀裂が入ったイベント。あれは攻略には何の効果もない。すでに攻略を終えたあとのことなのだ。
 それ以外のイベントは――いずれも同じ。ただリーゼロッテの評判を落とすだけの意味しかない。それを意識して主人公が行っているのだとすれば。そして、そんなことが出来るとすれば。一つの仮説がジグルスの頭の中に浮かんだ。

「……リーゼロッテ様、今は一切動かないで下さい。しばらくはお辛いでしょうが何卒、ご辛抱を」

「ジーク、私は……」

 無実の罪で糾弾されることには耐えられない。自分が行ったことを隠すような真似はしない。リーゼロッテの思いはジグルスには分かる。

「分かっております。リーゼロッテ様は俺との約束を守ってくれています。今、俺が何もしないで下さいとお願いしたのは、この状況を改善する為に時間を頂きたいという意味です」

「……何とかなるのですか?」

「分かりません。でも、出来るだけのことはしてみたいと思います。俺に任せて頂けますか?」

「任せます。私はジークを信頼しています」

「……ありがとうございます」

 リーゼロッテの言葉にジグルスの心を大いに揺れた。他人から信頼を向けられることが、これほど嬉しいことだと初めて知った。自分はこの信頼に応えられるのか。出来ることは全て行うしかないとジグルスは決断した。

 

◇◇◇

 リーゼロッテの下を離れ、ジグルスは早速行動を起こした。

「貴方は確か?」

「はい。ジグルスと申します。マリアンネ様ときちんとお話をするのは初めてですね?」

 ジグルスが最初に向かったのはマリアンネのところ。これはちょっとした賭けだが、勝ち目は十分にあるとジグルスは判断している。

「そうね。それで何の用かしら?」

「学院に出回っている怪文書についてはご存知ですね?」

「ええ。もちろん知っているわ」

 マリアンネの眉がしかめられる。怪文書に関してはマリアンネも頭にきている。レオポルドが浮気をしていることは知っている。だがそれを公にすることはない。結果、婚約者であるマリアンネも恥を掻くのだ。

「単刀直入にお聞きします。あれはマリアンネ様が行われたことですか?」

「はあ? 貴方、何を言っているの? あれはリーゼロッテがやったことでしょ?」

 マリアンネの反応にジグルスはホッと胸を撫で下ろす。自分を落とし入れた犯人が、友人だと思っていたマリアンネでは、あまりにリーゼロッテが不憫だと考えていたのだ。だがその心配は無用だった。

「リーゼロッテ様ではございません。それは側にいる俺が命を賭けてでも断言出来ます」

「そうなの? では一体誰があんなものを?」

「それが分からないから、無礼を承知でこうしてお聞きしているのです」

 今の段階では犯人を特定する材料をジグルスは持っていない。証拠もなしに名前をあげては、怪文書と同じになってしまう。

「私ではないわ。私にはレオポルドを貶めることは出来ないもの」

 マリアンネはまだレオポルドへの想いを捨て切れていない。今も婚約者であることに変わりはないのだ。仮に婚約が解消されていたとしても、すぐに忘れられるものではない。

「では他に心当たりはございませんか?」

「……あるといえばあるけど……彼女に、ここまで大胆な真似が出来るかしら?」

「お願いがあります。その心当たりに聞いてみて頂けませんか?」

「私が聞くの? 聞いても素直に白状するとは思えないわ」

「そうかもしれませんが、せめて反応だけでも。それに恐らくその人たちは無実です。犯人の目星はついています。俺はその裏付けが欲しいだけなのです」

 ジグルスが犯人だと思っている人物は、マリアンネの頭に浮かんだ人とは違う。違うことを証明したいのだ。

「それは誰なの?」

「憶測では名は告げられません。事実が分かっても誰にもお教えできないかもしれません」

「……じゃあ、どうして調べるの?」

「この後の動きを考えるためです。お願いします。ご協力を頂けませんか?」

 ジグルスはマリアンネに向かって深く頭を下げる。それを見たマリアンネが目を見開いて驚いているが、それは下を向いているジグルスには見えない。

「……分かったわ。聞いてみる」

「ありがとうございます。では俺は次がありますから」

 マリアンネへの依頼を終えて、ジグルスが次に向かったのは知識にある敵役キャラのところ。彼女とは面識はないが、今はそんなことで躊躇していられない。

「少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」

 俺はいつスカウトになった、なんて下らないことを考えながら廊下を歩く彼女に声をかけた。
 
「何? というか貴方、誰?」

「俺はリーゼロッテ様のお手伝いをしているジグルスと言います」

「リーゼロッテ様の? どういった御用かしら?」

 リーゼロッテの名を出した途端に、彼女の言葉遣いが丁寧になった。ジグルスにとって良い傾向だ。

「お聞きしたいことがあります。正直にお答え下さい」

「ええ。良いわよ」

「学院に出回っている怪文書はご存知ですか?」

「ああ、あれね。いい気味だと思っていたけど、失敗だったようね?」

 彼女も怪文書はリーゼロッテがばらまいたものだと思っている。それはつまり犯人は彼女ではないということだ。ただこれだけではジグルスは目的を果たしたことにならない。

「あれはリーゼロッテ様の指示ではありません」

「えっ? そうなの?」

 リーゼロッテの仕業ではないと聞いて驚く女子生徒。その反応をジグルスは見つめている。演技ではないか見極めようとしているのだ。

「貴方ではないのですか?」

「ち、ちょっと、何を言い出すのよ? あれは私じゃないわよ」

 今度は焦った様子。犯人だと見破られたと思っての動揺とは違うとジグルスは判断した。

「本当に?」

「本当よ」

「それであれば良いのですが……誰か他に心当たりはありませんか。このような真似をする方に」

「うーん。いないわけじゃないけど」

 彼女にも心当たりがあった。マリアンネの考えた人物と同じである可能性はあるが、そうでなければ主人公を酷く嫌っている人がそれだけいるということ。

「では、その方に確認して頂けないでしょうか?」

「どうして私が?」

「いえ、俺が直接聞くとちょっと問題がありまして」

 マリアンネに対するのとは異なるやり方で、ジグルスは彼女に確認を頼もうとしている。

「何よ、問題って?」

「俺は事実を有りのままにリーゼロッテ様にお伝えしなくてはなりません。リーゼロッテ様は今回の件でかなりお怒りで……」

「そうなの?」

「ええ。他人に罪をかぶせる卑怯者は許せないと」

 これはまったくの嘘ではない。気持ちが落ち着けばリーゼロッテは必ずこれについて怒り出すとジグルスは考えているのだ。

「でも、あの……リーゼロッテ様は……」

 リーゼロッテはこれまで主人公に対して、いくつもの嫌がらせを行っている。それで今更何を起こるのか、はリーゼロッテが恐くて言葉には出来ない。

「確かにリーゼロッテ様も彼女に対して、数々のことをしてきました。でも考えてみて下さい。リーゼロッテ様は事を成した後に必ず自分がやったと相手に知らしめています。これに懲りたら態度を改めなさい。決まり文句はこれですね」

 これは事実。リーゼロッテは人にこそこそと嫌がらせの作業をさせておいて、必ず主人公のところに赴いて自分がやらせたと明かしてしまう。何故そのような真似をするのかとジグルスは長らく不思議に思っていたが、どうやら自分たちにやらせている嫌がらせはリーゼロッテにとって、警告の警告に過ぎないのだと分かってきた。この程度で済ませている間に、考えを改めろということだ。
 貴族家が本気になれば、もっとエグいことになる。主人公は、数人の有力家の子弟を味方につけたと言っても、所詮は平民に過ぎない。リーゼロッテの実家ほどの大貴族でなくても、どうとでも潰すことは出来る。
 リーゼロッテの嫌がらせも最初は、貴族の常識を知らない主人公への親切心からだったのではないかと思い始めたくらいだ。

「……確かにそうね」

「まあ、そんな次第ですので、真犯人が分かった時にどんな行動にでるのかと思うと……」

「そ、そうね」

「ですから俺が直接聞かないほうが良いのです。少し経てば、リーゼロッテ様も少し落ち着かれるでしょう。その頃に情報を教えて下さい」

「分かったわ。任せて」

 ――その後もジグルスは顔見知りも含めて何人かの女子生徒の所に行って、同じ話をする。それで一段落だ。
 彼女たちへのヒアリング結果など実はどうでも良い。マリアンネが言った通り、ここまでの大事を仕掛けられる度胸のある女子生徒など、リーゼロッテとマリアンネ以外では一人しか思いつかない。その人については聞くまでもなく白だ。
 ジグルスが彼女たちに期待しているのは噂を噂で塗り替えてくれること。怪文書の犯人はリーゼロッテ。その噂の上に「濡れ衣をかけた卑怯者にリーゼロッテはひどく怒っていて真犯人を探している」という噂をかぶせる。うまく行くかどうかは結果を見ないと分からないが、自信はある。
 主人公側の噂の出処は男子生徒だとジグルスは思っている。主人公の周りには、まだ主人公を信頼仕切っている女子生徒はいないはずなのだ。
 男子生徒と女子生徒。噂の伝達力でどちらが優れているかなど考えるまでもない。それに、まだまだ女子生徒の間では主人公は嫌われており、リーゼロッテは恐れられている。好かれているではないのは残念だが。とにかく女子生徒への影響力はまだリーゼロッテのほうが上のはずなのだ。
 さすがに主人公はやり過ぎだ。仲間集めに対する邪魔は出来るだけ避けたいと思っているジグルスではあるが、ただリーゼロッテを貶めるためだけの行動を許すつもりはない。それに対しては断固として対抗する。そう彼は決めたのだ。