月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

黒き狼たちの戦記 第78話 相性ってやっぱり大事だと思う

異世界ファンタジー 黒き狼たちの戦記

 ヘルツに会って話を聞き、事実関係をある程度確かめることが出来たカーロは、シュバルツに情報を届けてもらう手筈を整えた上で、城近くにある屋敷に向かった。ズィークフリート王子が謹慎期間中に過ごす場所として用意された屋敷だ。謹慎中だとしても、城から追い出す必要などない。この処置に対しても疑問の声が多くあがっているが、これに関してはズィークフリート王子自身に不満はない。城の奥で謹慎していてはカーロや他の近臣たちと会うことが出来なくなる。城外の屋敷にいるほうが都合が良いのだ。

「そうかといって多くの人間が出入りしては、それはそれで父上を怒らすことになる。周囲に迷惑はかけたくないからね」

 謹慎中のズィークフリート王子に頻繁に会いに来ていると、国王から忠誠を疑われることにもなりかねない。不満を持っている者たちをあぶり出す為の処置である可能性もあるのだ。

「簡単に切り捨てられる私であれば問題ありません」

「そんなつもりはないよ?」

「分かっております。伯爵の考えを述べたまでです」

 次期国王との繋がりを弱めるのはもったいない。かといって、近づきすぎて現国王の怒りを買うわけにはいかない。ヴァルツァー伯爵にとってカーロが養子であることは好都合なのだ。

「まあ、そうだろうね」

 カロリーネ王女との関係が深いと見るや、すぐにカーロを養子にしたヴァルツァー伯爵。だがそういった打算的なところが、ズィークフリート王子に不快感を与えていることには気づいていないようだ。

「それにこれからお話することは他の人には聞かれたくありません。二人だけなのは好都合です」

「そう……では話を聞かせてもらおうか」

 近臣を外して、二人だけで話を出来る場は滅多にない。カロリーネ王女も一緒ということであれば、相手が勝手に忖度してくれて、同席を強く求めないでいてくれるが、そうでない場では二人だけにしてもらえないのだ。新参で、近臣たちにとっては得体の知れないカーロとズィークフリート王子の距離が近づくのを良く思うはずがない。

「陛下の愛人だと言われている女性と会って来ました」

「……それはつまり、知り合いだったということかな?」

 会いたいと思っても、簡単に会えるものではない。女性の側が受け入れてくれなくては無理だ。今はもう、そうなっていることをズィークフリート王子は知っている。

「はい。知り合いです。ただ、彼女の行動は他の仲間たちとは関係ありません。シュバルツも知らないことだと彼女は認めました」

 裏で糸を引いているのはヘルツであることをズィークフリート王子に正直に話すカーロ。黒狼団とは関係のない、ヘルツ個人の問題であることをズィークフリート王子に知ってもらいたいのだ。
 ベルクムント王国とアルカナ傭兵団は敵対関係にある。だがズィークフリート王子とシュバルツ個人の決定的な対立は、カーロとしては避けたいのだ。

「……では彼女の目的は何かな?」

 信じられる話なのか。こういう思いがズィークフリート王子にはある。だが、カーロの言葉を疑ってしまっては、先に進まない。カーロが真実を述べているという前提で話し合いを続けるしかないのだ。

「正直、分かりません。我々がこの国の権力を握る為のように言っていましたが、そんなことまでは誰も求めていません。上手く行くとも思えません」

「……権勢欲というものは人を狂わせるからね。そういった立場になる者は、欲に飲み込まれない心の強さが必要だ」

「心の強さですか……」

「そう習った。自分自身がその心の強さを持っているかは、今の私には分からない」

 次期国王であるズィークフリート王子は、国王になる為の心構えのようなものを幼いころから教えられている。その一つを語ったのだ。実際にどうかは、国王になってみなければ分からない。玉座に座った途端に人が変わってしまった王は過去に何人もいる。自分がその一人ではないと言い切れるだけの自信は、ズィークフリート王子にはない。

「彼女は欲に飲み込まれた可能性があるわけですか……」

「その場合、君たちはどうするのかな?」

「裏切りだと判断されればやることは決まっています。ただ、そうでない場合にどうするかは私には分かりません」

 裏切り者は許さない。刺客が送られることになる。だが裏切りとまで思われなかった場合にどうなるのかはカーロには分からない。可能性が高いのは放置。だがその可能性を今、ズィークフリート王子に話す気にはなれなかった。

「それを決めるのは彼なのかな?」

「彼の他にも何人か、話し合いに加わることになります。意見を言い合って、その中のどれかを選ぶことになるでしょう」

「なるほど。そういうリーダーか」

 黒狼団の頂点にいるのはシュバルツ。だがシュバルツは絶対的な権力を持っているわけではないのだとズィークフリート王子は判断した。持っているとしても、仲間の意見に耳を傾けようという気持ちがあるのだと。

「殿下の謹慎が解けるように働きかけることを頼んでおきました。彼女も自分が危険な立場にあることは分かっていると思いますので、きちんと考えてくれるはずですが」

「そうなると良いけどね」

 権力に取りつかれた人間が、はたして簡単にそれを手放すことが出来るか。ズィークフリート王子は楽観的にはなれない。

「もしかして……すでに動かれていますか?」

「心配はいらない。今の時点で大きな動きは出来ないよ。陛下がどんな反応を見せるか分からないからね。我々としてもその彼女が大人しく引いてくれることが一番だ」

 ズィークフリート王子は父親でもある現国王を、かなり危ぶんでいる。愛人を排除するだけで、はたして問題は解決するのか。近臣たちがヘルツと刺し違えるような結果にはしたくないのだ。

「……シュバルツにこの事実を伝えるように仲間に頼んできました。かなり時間はかかるとは思いますが」

 その結果が出るまで何もしないで待っていて欲しいとは、カーロも口に出来ない。今現在、一番厳しい立場にあるのはズィークフリート王子なのだ。

「なるほど。ラングトアにもまだいるのか。まあ、この件については告げ口するつもりはないけど、シュヴェアヴェルは隠しきれないよ?」

 襲撃にはシュヴェアヴェルの裏社会の人間か関わっている。この事実は隠しようがない。もうすでにグローセンハング王国は関係者を捕らえる為に動いているはず。自国の潔白を証明する為に必死で。
 ラングトアにいる黒狼団については、この件で協力をしてくれる可能性があるので、見て見ぬふりをするつもりのズィークフリート王子だが、シュヴェアヴェルについてはどうにも出来ない。
 
「シュヴェアヴェルからは、とっくに撤退しているはずです。問題ありません」

 事を起こした当日のうちにシュヴェアヴェルからは撤退している。ベルクムント王国が血眼になって探しても、誰も見つけることは出来ないはずだ。少なくとも黒狼団のメンバーは。

「我が軍の犠牲と引き換えか……割りにあっているのかどうかは私には分からないね」

「黒狼団としては損です」

 せっかく手に入れた縄張りを手放すことになった。黒狼団としてはただの損だ。だがシュヴェアヴェルの裏社会そのものが消滅しない限り、名を変え、人を変えて、再進出すれば良いだけ。その時の為の準備はすでに進んでいる。それが済めば、あとはベルクムント王国が諦めるのを待つだけだ。

「ひとつ聞いても良いかな?」

「私が答えられることであれば」

 全てを話すとズィークフリート王子に約束した。だが自分に関わること以外で、何から何まで全てを教えるつもりはカーロにはない。それでは仲間を裏切ることになってしまう。

「君たちがベルクムント王国に仕えてくれる可能性はあるのかな?」

 シュバルツは復讐を果たす為にアルカナ傭兵団にいるのだと聞いた。アルカナ傭兵団を敵として見ているのであれば、ベルクムント王国に仕えることに抵抗はないはず。ズィークフリート王子はこう考えた。
 簡単なことではない。仮に黒狼団が受け入れても、ベルクムント王国側で強い反発が生まれる可能性は高い。だが、ズィークフリート王子は実現可能性を確かめたい。黒狼団を敵の側に置いていてはいけないという思いが強いのだ、

「……それは私には分かりません。可能性が低いことだけは間違いありません」

「どうしてかな?」

「自分たちが自由に暮らせる場所を求めて活動していたのです。国に仕えるなんて堅苦しいことを皆が望むとは思えません」

 仲間たちに城勤めなんて無理。難しい話ではなく、それだけのことだ。

「でもカーロは出来ている」

「出来ているとは思っていません。必要だと思っているから、なんとか体裁を繕おうとしているだけです。そして他の仲間がその必要性を感じるかというと……」

 言葉遣いひとつでも面倒に思う仲間がいる。仲間たちの問題もあるが、それを王国は受け入れられないだろうともカーロは考えている。

「強制ではなく自主的に。ただ、仕えたいと思う魅力が我が国にはないか」

 カーロの言葉からズィークフリート王子は本当の理由を読み取った。ベルクムント王国は彼らにとって仕えるに値しない国なのだという理由を。

「そう思う者もいるということです」

 全員ではない。これは事実かもしれないが、だからといってどうかなることではない。黒狼団の柱はシュバルツ、もしくはエマであり、それを支えるロートやブランドたち実力者たちは他の誰かを選ぶことなどない。
 ベルクムント王国に仕える者が出たとしても、それは黒狼団とは別だ。

「……きちんと話をする機会を求めるべきだったかな?」

 シュバルツとまともに話す機会を得られなかったことを、今になってズィークフリート王子は後悔した。もっと繋がりを持っておくべきだったと。

「あの状況では難しいと思います」

 だがそれは今だから思えること。自分を殺すかもしれない、そうでなくても捕虜として連れていかれてしまうかもしれない相手と普通に語り合うことなど出来なかった。

「そうだね……次の機会があれば良いけど……難しいかな?」

 シュバルツはベルクムント王国において、アルカナ傭兵団の愚者として悪い意味で有名だ。普通に考えればラングトアに近づこうとするはずがない。仮に訪れることがあるとしても身を隠してのことで、ズィークフリート王子には分からないはずだ。頼りはそれを知ることが出来るかもしれないカーロなのだが。

「さすがに……シュヴェアヴェルでの殿下と同じだと思います」

 殺そうとするかもしれない相手の前にのこのこと現れるほどシュバルツは間抜けではない。自分が頼んでも難しいとカーロは思う。

「そうだよね」

 二度と得られないかもしれない機会を、自分は無駄にしてしまった。シュバルツと話をする機会を持たなかったことを、さらに強くズィークフリート王子は後悔することになった。
 どれだけ後悔しても意味はない。運命がその時を与えなかったのだから。逆に与えたと言えるのかもしれないのだから。それは今この時では分からないことだ。

 

 

◆◆◆

 山を越えてノイエラグーネ王国に入ったシュバルツたち。特に寄り道することはしない。ルイーサが一緒なので黒狼団の拠点に寄りたくても寄れない。そうであれば無駄な時間を少しでも短くする為に、急いでノートメアシュトラーセ王国に帰るだけ。ガルンフィッセフルスに駐在しているセーレンの父、力のテレルともう一人の上級騎士、正義のセバスティアンと彼らの従士たちへの挨拶を済ませたあとは、移動は一気に加速した。

「ち、ちょっと!? いつまでこれ続けるのよ!?」

 息を切らせてながらも大声で文句を言ってくるルイーサ。シュバルツたちの「帰還を急ぐ」は普通ではない。移動中はほとんど駆け足。走り続けているのだ。

「ルイーサは幹部のくせに体力がないな。ないならなおさら頑張って走ったほうが良い」

 そんなルイーサを刺激したのはキーラだ。

「キーラは走っていないでしょ!?」

「私はシュバルツの体力作りに協力している」

「どこがよ!?」

 キーラは大きな狼にまたがっているだけ。自分の体力づくりになっていない上に、シュバルツへの協力など行っていない、とルイーサは思ったのだが。

「私を乗せて走ったほうがシュバルツは大変だ」

 キーラの言うシュバルツは狼シュバルツのことだ。

「紛らわしいわね」

「ルイーサは困らないだろ? お前はシュバルツをヴォルフリックと呼んでいる。弟シュバルツはシュバルツ。兄シュバルツはヴォルフリックで間違えることがない」

 普段から、シュバルツをシュバルツと呼んでいるのはキーラだけ。ブランドもアルカナ傭兵団の団員という立場に戻ればヴォルフリックと呼んでいる。もっとも今はそれもかなり曖昧になっている。今回の任務中、シュバルツはずっとシュバルツで通していた。皆、それを今も引きずっているのだ。

「……何言っているか分からない。もう良いわ。休憩するわよ!」

 シュバルツたちの了承を得ることなく、勝手に走るのを止めてしまうルイーサ。それを見て、シュバルツたちも走るのを止めた。だからといって休憩するわけではないが。
 向かい合ってゆっくりと剣を打ち合うクローヴィスたち。ひとつひとつの動きを確かめながらの型の稽古だ。その間に乱れた息を整え、そこから動きを速めていく。本来は息を整えたところで意識を集中させて、内気功の鍛錬に移るのだが、今はシュバルツから禁止されている。ルイーサに隠す為。実力を隠すというより、面倒くさいからだ。

「……貴方は何をしているの?」

 そんな中、シュバルツは一人、立ったまま動かないでいる。それが気になって問いかけてくるルイーサ。シュバルツが面倒くさいと思うのは、こういうところだ。相手が鍛錬してようと他の何かをしていようとお構いなしに邪魔してくる。それが嫌なのだ。

「……特殊能力の訓練」

「それのどこが訓練なの?」

 ルイーサにはただ立っているだけに見える。訓練だと言われても納得いかない。

「だから、炎をもう少し上手く操れないかと思って練習している」

 ルイーサが納得しようがしなかろうがシュバルツにはどうでも良いことだ。ただ説明は嘘ではない。特殊能力の扱いについてシュバルツはローデリカに大きく劣る。仲間たちと同じ鍛錬を繰り返してきたシュバルツ。特殊能力を持っていることが不公平にならないようにと考えてのことだが、ローデリカの巧みさを知ってからは自分も、もっと鍛えるべきだと考えたのだ。

「なんでそんなことを考えたのよ?」

 まだルイーサの質問は続く。

「パラストブルク王国での任務の時に苦戦したから」

「そんな前? それを今更?」

「任務が終わって鍛錬に時間をとれるようになったから始めただけだ。戻ったらすぐにまた仕事を振られたら訓練できなくなるからな」

 これは半分嘘で、残りの半分は嫌味のつもり。訓練を始めたのはローデリカと再会して、鍛錬の仕方を聞いたから。特殊能力の性質に違いはあっても同じ攻撃系。根底は同じはずだと考えて教わった方法を試しているのだ。

「……しばらくは休めるでしょ?」

「しばらくってどれくらい? 俺が今回の任務にどれだけかけたか知っているだろ? 同じくらいの休みはもらえるのか?」

「それは……私には分からないわ」

 おそらくは無理だろうとルイーサは思っている。だがその考えを口にすることは避けた。アルカナ傭兵団はシュバルツたちに頼っている。そう思われるのが嫌なのだ。だがこれこそシュバルツにとってどうでも良いこと。ルイーサの質問の勢いが弱まり、訓練の邪魔をされなくなれば良いのだ。

(……やっぱり、炎よりも扱いやすいな。早く強くなろうと思えば、上手く出来そうなほうを先に鍛えるべきか)

 特殊能力の訓練に関して、シュバルツは少し苦戦している。炎に限っての話だ、シュバルツの手に透明な玉のように見えるものが浮かび上がる。それを凝縮。元に戻して、いくつもに分裂させる。こちらのほうはかなり上手く出来るようになっている。もっと早く、意識の集中を必要とせずに楽に出来るようになることがこの先の課題だ。
 ルイーサがただ立っているだけのように思ったのは、手元で扱っている特殊能力が見えづらいから。頭では気づいていても心では認めていないシュバルツのもう一つの能力のほうだからだ。

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