月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

黒き狼たちの戦記 第76話 貧民街の秘密

異世界ファンタジー 黒き狼たちの戦記

 愚者の任務は終了した。まだシュバルツたちは帰還途中で、今どこにいるのか本部では把握出来ていないが、報告は届いている。帰還後の任務完了報告を行うつもりがないのではないかと思うくらいに、詳細な報告が。
 その報告内容についてディアークたちは話し合いを行っている。公式に任務完了とする前に、今回の成果をどう評価すべきかを幹部だけで相談しているのだ。ただ幹部たちといっても、今現在、王都にいるのはディアークとアーテルハイド、そしてトゥナの三人だけ。途中からシュバルツたちと行動を共にしているルイーサの意見を聞かなくては最終判断は出来ない。つまり、報告内容について、気心の知れた三人で好き勝手に話をしたいだけだ。彼らがそうしたくなるような報告内容なのだ。

「……シュタインフルス王国で反乱を扇動していたはずが、グローセンハング王国に移動してシュタインフルス王国に向かっていたベルクムント王国軍を襲撃。撤退に追い込んだと……とんでもないな」

 ディアークを驚かせたのはこの報告だ。愚者だけで、協力者がいるのは分かっているが、ベルクムント王国軍一万を襲撃した。しかも成功して、ベルクムント王国軍を撤退に追い込んだ。にわかに信じられるものではない。だがシュバルツが嘘の報告を行う理由もない。

「火薬兵器を使ったということです。夜営地で大量の火薬兵器が爆発を起こせば、被害は甚大でしょう」

「その火薬兵器はどこで手に入れたのだ?」

「シュタインフルス王国のようです。中央諸国連合加盟国と隣接するシュタインフルス王国には一定量の火薬兵器が渡されていたようで、それを手に入れたと」

「どうやって?」

 シュタインフルス王国に火薬兵器があるのはこの報告を聞かなくても、そうであろうと考えていた。だがそれをどうやって反乱側にいたシュバルツたちが手に入れたのか。ディアークは気になる。

「……書いてありません。詳細に書かれているようで、いくつかの情報は隠されているものと思われます」

「あり得るな」

「恐らく報告はクローヴィスが書いたものと思われます。愚者から教えられていない可能性もあります」

 詳細に思える報告内容。ここまで細かくまとめられるのはクローヴィスとフィデリオの二人くらいしか考えられない。シュバルツは手を抜くだろうし、ルイーサがこの手の仕事を苦手としていることは、この場にいる三人は良く知っている。

「それについては戻ってきてから聞けば良い。とにかくなんらかの手段で火薬兵器を入手し、それを使ってベルクムント王国軍を襲撃した。次の疑問は何故、グローセンハング王国でそれを行ったかだな」

「油断しているだろう場所を選んだと報告には記されておりました。逆にそれだけしか書かれていないとも言えます」

「拠点があるのかもしれないな」

 シュバルツが隠そうとすることの一番は黒狼団がらみのこと。グローセンハング王国を選んだ理由に黒狼団が関わっているとすれば、拠点の存在が思い浮かぶ。

「おそらくは。黒狼団というのはどれほどの力を持っているのでしょうか? 今回の件から、私の想像を遥かに超えているのは間違いありません」

「ベルクムント王国の王都であれば貧民街の規模も大きいのかもしれない。だが、そうだとしてもな」

 孤児たちだけで他国にまで拠点を持つことが出来るのか。可能とはディアークには思えない。

「黒狼団以外の力も借りている可能性が、別のところで報告されています。反乱軍にどこかの国の裏社会の男たちを組み入れたとありますので、グローセンハング王国でも同じような者たちを利用したのかもしれません」

「なるほど……そうだとしても考えていた以上の力を持っているのは間違いない」

 若くても決して侮れない実力の持ち主が集まった集団。黒狼団に対する認識はこういうものだった。だが質だけではなく、数を揃える力もあることが今回分かったのだ。やや過大評価ではある。黒狼団は戦場を定めて、そこに戦力を集中させただけのことだ。

「取り込めればと思うのですが……」

 黒狼団の持つ力をアルカナ傭兵団に取り込めれば。アーテルハイドはこれを思わないではいられない。

「その為にはまず、愚者を取り込むことだ。それがまだ出来ていない」

「はい……」

 ではどうすればシュバルツをアルカナ傭兵団に取り込むことが出来るのか。ディアークの考えはアーテルハイドには分かっている。自分の息子であることを知らしめ、跡継ぎとする。そういうことだと。アーテルハイドには、無条件では賛成できない考えだ。

「ベルクムント王国軍の戦力を削った。これについては大きな成果だと思うが……」

 シュバルツをどう扱うかについて、ディアークはこの場で議論するつもりはない。アーテルハイドが大きく事を動かすことを望んでいないのは分かっている。なにより強硬に反対するであろうルイーサがいない場で話し合っても意味がない。

「あまりに大きすぎます。この事態を受けてベルクムント王国がどう動くか。場合によっては、避けたかった全面衝突になる可能性があります」

 ベルクムント王国との直接的な再戦は避ける。これがアルカナ傭兵団の方針で、その為に愚者に任せたのだ。だが、大きな被害を出し、それがアルカナ傭兵団の仕業であると分かっていて、ベルクムント王国が動かないでいるか。報復に動く可能性のほうが高い。

「そうなった場合、シュタインフルス王国はどう出る?」

「ベルクムント王国への従属を続けるという方針ですが、それを信じてもらえるか。私は難しいと思います」

 シュタインフルス王国で起きた反乱はベルクムント王国軍を誘う罠。反乱の結果、権力を握ったトリスタン王子はアルカナ傭兵団と通じている。こんな風に思われてもおかしくない。

「シュタインフルス王国が戦場になる可能性もあるか……知らん顔は出来んな」

 ベルクムント王国が裏切った可能性のあるシュタインフルス王国に真っ先に侵攻する可能性もある。仮にそうなって、シュタインフルス王国が中央諸国連合に救援を求めるような状況になれば、軍を出さざるを得ないとディアークは考えている。
 見捨てるような真似をすれば他国の信用を失ってしまう。先々の戦いが苦しくなる。だが問題は勝てるのかということ。完全勝利とはいかなくてもシュタインフルス王国を守り切ることが出来るか。それが出来なければ、やはり信用を失うことになる。

「性急な出兵はないと思いますので、準備の時間は十分にあると思います」

「その代わり、ベルクムント王国側も万全な準備を整えてくる。さて、さらなる新兵器がなければ良いな」

 ベルクムント王国にもう負けは許されない。次にまた大敗するようなことになれば、信用を失うのはベルクムント王国の側になる。多くの従属国を持つ宗主国としての立場が揺らぐことになるだろう。中央諸国連合としては、そこまで行けば本当の意味で勝利だ。西方の脅威は薄れることになる。

「その結果次第ですか……」

 愚者の行動が正しかったのかどうか。それは次の戦いの結果次第。ベルクムント王国の西方支配を揺るがすことが出来れば、大成功。これまでのアルカナ傭兵団の活動の中で最高評価を与えられるほどの功となる。

「いつ始まり、いつ終わるか分からない戦い待ちか? それでは愚者のメンバーが納得しないだろう?」

「どうでしょう? 少なくとも彼は任務への評価を気にするとは思えません」

「……確かに」

 シュバルツはアルカナ傭兵団における評価など気にしない。序列などどうでも良いと考えているはずだ。

「ただ報酬は求めるでしょう。その多寡はきちんと決める必要があります。それと彼が評価を気にしなくても周りは気にするはずです。彼がどうかではなく、周りが評価をどう受け取るかを考えるべきかと」

「色々な意味で?」

「まあ……」

 周りが気にするのは評価の妥当性だけではない。シュバルツが大きく評価されることを良く思わない者もいる。妥当性など関係なく、過大評価だと決めつける者も恐らくはいる。その逆もそろそろ出てくるかもしれない。ノートメアシュトラーセ王国の国王の座は世襲だとしても、アルカナ傭兵団の団長の地位までそうである必要はない。実力者がその地位に就くべきだと考える団員は一定数いる。そういう団員の中から、オトフリートでもジギワルドでもなく、シュバルツを次期団長にという考えが生まれてもおかしくないのだ。ディアークが健在な今はまだ大きくならない声だとしても。

「ベルクムント王国軍に与えた損害だけを考えれば、かなりの成果だな」

「大戦が起きる可能性を高めました。ただ、これがなくてもベルクムント王国の再侵攻はあったはずだと思います」

 ベルクムント王国との再戦はいずれ起きた。中央諸国連合の意向に関係なく、ベルクムント王国は負けたままではいられないはずだ。中央諸国連合はいずれ起きる再戦を想定して、ベルクムント王国の傷が癒えないうちに、さらなるダメージを与えるという理由で、自分たちの側からの侵攻を求めてきた。愚者は、中央諸国連合加盟国が求めていた成果を挙げたことになる。この点はアーテルハイドも認めている。

「さらに今回の件で、再戦の時期が先延ばしになれば満点以上か。さて、ルイーサは何に文句をつけてくるかな?」

「今回はやり方が滅茶苦茶なことくらいではないですか? 自分も参加しているので独断は責められませんから」

「確かに。まあ、これで低評価は無理がある。それでも文句を言ってくる者がいれば、その者のほうが問題だな……トゥナ。何かあるか?」

 まったく会話に加わってこないトゥナ。普段から必要な時以外は絡んでこないトゥナであるが、さすがに静かすぎるとディアークは感じていた。

「……愚者の任務は大成功。良いことがあったあとは、悪いことがついてくるもの。気を付けたほうが良いわ」

「それは……未来視か?」

「ううん。良く言われていることを言っただけ。好事魔多し。勝って兜のなんとかってのもあったわね。そういうことよ」

「そうか……そうだな。西が良くても東がどうなるかは分からない。オストハウプトシュタット王国が静かなのは不気味といえば不気味だ」

 西のベルクムント王国と並ぶ東の大国オストハウプトシュタット王国。アルカナ傭兵団、中欧諸国連合にとって大敵だ。西にばかり気を取られているわけにはいかない。トゥナの言いたいのはこういうことだとディアークは理解した。正しい理解だ。だが、満点ではない。

 

 

◆◆◆

 グローセンハング王国を離れ、シュタインフルス王国に戻ったシュバルツたち。あとは山を越え、中央諸国連合加盟国であるノイエラグーネ王国に入れば人目を気にする必要もなくなる。堂々と最速ルートを進んで自国に帰れば、それで任務は終わり、なのだが、なんだかんだと理由をつけてシュタインフルス王国にとどまっている。任務とは別に、まだやらなければならないことがあるのだ。

「子供たちを預かるのはまったく問題ないよ。なにも山の拠点にこもらなくても、屋敷を用意するからそこに住めばいい」

 シュバルツの頼みをコンラートは即受け入れた。孤児を預かるくらいはなんでもない、と思うのはまだ話の途中だからだ。

「ただの孤児を預かってほしいと頼むと思う?」

「訳ありなのは分かっている。どういう訳なのかな?」

 シュバルツに恩を売りたいコンラートとしては、問題があっても引き受けるつもりだ。だが、どういう事情かは知っておきたい。

「……教会に追われているかもしれない」

「なるほど。それは面倒だ。何故、追われているのかも聞けるのかな?」

 絶頂期とは比べものにならないが、教会は大きな組織であり、それなりの影響力を持っている。山の中で隠れ住もうとするのは理解出来た。

「教会に捕らえられていたのを助けてきた。かなり強引な手段で。正体は知られていないと思うけど、絶対とは言えない」

「……教会に捕らえられていた理由は?」

 子供たちはグローセンハング王国の王都で暮らしていた孤児だと最初に聞いた。ただの孤児を教会が捕らえるはずがない。想像していた以上の訳ありのようだとコンラートは考えた。

「はっきりとは分かっていない。仲間に話を聞くと俺たちが住んでいたところでも、同じようなことがあったらしい」

「らしい? 君は知らなかったのかい?」

「俺が暮らし始めた頃にはなくなったそうだ。当然これも仲間から聞いた話」

「そう……この国ではどうかは分からないけど、少なくとも私はそういう話を聞いたことがないね」

 シュバルツが暮らし始めたことと教会が孤児を捕らえることを止めたことには何か関係あるのかとコンラートは思ったが、話しぶりからシュバルツが答えを知っているとは思えない。まずは話を先に進めることにした。

「捕まっていた奴らの話では、特殊能力保有者とそうでない奴では扱いが異なるそうだ。さっきも言った通り、はっきりと分かっているわけではないけど、先に捕まっていた特殊能力保有者は多分殺されている」

「異能者狩りか……それなら聞いたことがある。昔の話としてだけどね」

 教会は特殊能力者を殺戮していた。過去の歴史にその事実は刻まれている。だがシュバルツの話が事実だとすれば、過去の話ではなく、今も続けられているということだ。あり得るとコンラートは思う。教会にとって特殊能力は昔以上に脅威。アルカナ傭兵団は特殊能力者の集まりなのだ。

「でも、そうでない奴も捕らえられたままだ。待遇は違っていて、かなり良いほうだって話だけど」

「……捕らえられている間は何かさせられていたのかな?」

 異能者狩りを行っていることを隠す為。まず思いついたのはこれだ。だが、その為にずっと捕らえたままでいるだろうかという疑問もある。コンラートは今の教会を信用していない。いくらでも非情な真似を行うと考えているのだ。

「退屈な話を聞かされる以外は特に。あとは仲間と雑談しているか、飯食っているか、寝ているか。そんな生活だと聞いている」

「退屈な話……教会の教えってことかな?」

「そんな感じ。俺は聞いたことがないから分からないし、実際に聞かされていた奴らも良く分かっていなかったけど」

 教会で何が語られているかなどシュバルツは知らない。教会の建物に入ったこともない。これは捕らえられていた孤児たちも同じ。教会の人間がなんだか難しい話をしているくらいにしか受け取っていなかった。

「まず思いついたのは、教会に従順になるようにして異能者、いや、特殊能力保有者殺しについて口止めしようとしていたってことかな? あとは、見どころがある子を見つけて、教会で働かせようとしているとか?」

「……多分、後のやつかな? ラングトアでは能力のありなしに関係なく、誰も戻ってこなかったらしいから」

 教会に連れていかれた孤児は誰も戻ってこなかった。ブランドだけでなく、他の仲間に聞いても同じ答えが返ってきた。

「全員を? いや、見どころのある子どもだけ生かされた可能性もあるね。しかし……そこまでして隠すようなことか」

 教会で言う異能者狩り。これを教会が隠す必要があるのか、コンラートは疑問に思う。逆にそうしていることを喧伝してもおかしくない。異能者狩りは教会にとっては、正義の行為であるはずなのだ。

「……教会騎士ってどうやってなれるか知っている?」

「えっ? 教会騎士? 確か……総本山、エーデルハウプトシュタット教国で募集しているはず。強い信仰心を持つ者しかなることは許されないからね」

「そうか……」

 コンラートの話を聞いて、何か考え始めた様子のシュバルツ。

「教会騎士が何か?」

「グローセンハング王国で会った。意外と強かったから、どこで鍛えているのかと思って」

「教会騎士団は教国にあるはずだけど……強いのか……」

 シュバルツが強いというからには、かなりの実力者なのだとコンラートは考えた。実際に強くはある。だが、強いという表現は別のことを隠す為のもの。シュバルツが教会騎士を気にしているのは内気功の使い手であったからだ。

「事情はこんなもの、あと、教会以外にも隠れなければならない相手がいる」

「それは……ああ、アルカナ傭兵団だね?」

 逃げて来た子供たちの中には特殊能力保有者がいる。アルカナ傭兵団がそれを知れば、入団させようとするはずだ。シュバルツはそうさせないようにアルカナ傭兵団から存在を隠そうとしているのだとコンラートは分かった。

「そう。彼らの存在を知っているのは今のところ黒狼団の仲間だけ……って言っても分からないか。残っていた奴らとルイーサさんは知らない」

「ルイーサって人は確か」

 シュバルツに同行してグローセンハング王国に行っていたはず。それで知らないというのがコンラートは不思議だった。

「ここまでは別行動。俺とブランドだけがルイーサさんと一緒に来た。当たり前だけど奴らを助けた時もいない」

「なるほど。でも、どうして隠すのかな? アルカナ傭兵団に入れば安全だ」

「安全とは言えない。傭兵団に入れば戦わなければならなくなる。それでも良いって奴はあとから追いかけてくれば良い。嫌なやつが強制的に入団させられるのを避けたいだけだ」

 彼らには自分の将来を選択する権利がある。教会だけでなく、アルカナ傭兵団も強制することは許さない。シュバルツの考えはこうだ。

「そうか。人数は何人くらいなのかな?」

「とりあえず五人。あとからどれくらい来るかは今は分からない」

「分からないってどういうこと?」

 到着するタイミングがずれるのは、人目を避けて移動しているだろうから分かる。だが人数が分からない理由は、コンラートには思いつかなかった。

「教会に捕まっていない奴も連れてくる。放っておいたら殺されるかもしれないからな」

「……いない可能性もある?」

 おそらくはこの可能性はないとコンラートは考えている。シュバルツの言い方は特殊能力保有者が他にもいることを確信しているように聞こえた。

「まず間違いなくいると思う。ラングトアの貧民街ほどではないけど、大勢の人がいたからな。全員がすでに殺されているなんてことはないと思う」

「逃げている可能性は?」

「親がいれば逃げていると思う」

「なるほど……君は何を知っているのかな?」

 シュバルツの話は具体的だ。貧民街と特殊能力保有者について、自分が知らない何かを知っているのだとコンラートは考えた。

「……教会も知っているみたいだから隠す必要はないか。貧民街の孤児には特殊能力保有者が結構な割合でいる。少なくともラングトアではそうだった。きっとシュヴェアヴェルでも同じだと思う」

「何故?」

「これは俺たちの想像だけど、貧民街に住もうなんて考える人は皆、訳ありだ。ただ貧しいだけじゃなくて、誰かに追われている人が多い。世の中から隠れるには一番だと思えるからな」

 貧民街で暮らせば食が与えられるわけではない。仕事も危険であったり、罪になるようなものばかり。一攫千金なんて夢もない。貧しさから抜け出すことだけが目的であれば、他の場所で暮らしたほうが良い。それでも貧民街で暮らそうとする人は別の事情があるから。ギルベアトがアルカナ傭兵団からシュバルツを隠す為に住処として選んだように。

「……迫害を受けている特殊能力保有者が隠れ住むには最適な場所で、その子供たちもまた特殊能力保有者になる確率が高い。教会はそれを知って、もしくはわざと貧民街に追い込んで、特殊能力保有者を殺戮している」

「俺たちもそう考えた」

「でもそれを続けていれば、特殊能力保有者は貧民街で暮らそうなんて思わなくなるはずだよ?」

「情報が伝われば。知らなければ簡単に罠にかかる。実際にコンラートさんは教会が特殊能力保有者を殺しているのは過去のことだと思っていた」

 どの街でも行われていることではない。今分かっているのはラングトアとシュヴェアヴェル。どちらも大きな街で、貧民街の規模も大きい。人が多くいるから隠れるには最適と思ってしまうような場所だ。他の土地で暮らせなくなった特殊能力保有者が移り住んで来るのはあり得るとシュバルツたちは考えている。

「アルカナ傭兵団はこの事実に気づいていないのだね?」

「そう。だから奴らは信用ならない。特殊能力保有者はすべて仲間とは俺も思えないけど、それでも他の土地でどんな目に遭っているかくらいは気にするべきだ」

「他の街では暮らせないからアルカナ傭兵団がある……このほうが非情だね?」

 アルカナ傭兵団は知っていて、自分たちのところに特殊能力保有者を引き寄せる為に放置している可能性をコンラートは考えた。だがそれは命の危険にさらされている特殊能力保有者を見捨てているということ。知らないほうがまだマシだ。

「俺たちは知ってしまった。だからといってすべてを解決できるわけじゃないけど、せめてシュヴェアヴェルにいる人たちは何とかしたい」

「まったく問題ない。一人でも多く連れてくれば良い。私も出来るだけのことはしよう」

 全面的に協力するのは同情だけが理由ではない。これは黒狼団の活動。それに協力することは黒狼団の一員として行動すること。コンラートにとって願ってもない機会だ。

「ありがとう」

「ちなみに……黒狼団には何人いるのかな?」

 この問いに対してシュバルツは笑みを浮かべるだけ。まだまだ信用が足りないようだとコンラートは思った。実際にこれからだ。これからの働きが仲間たちの信頼を生み出していくのだ。

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