月の文庫ブログ

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黒き狼たちの戦記 第18話 頑張ったら被告人になりました

異世界ファンタジー 黒き狼たちの戦記

 ノートメアシュトラーセ王国の都シャインフォハンに戻ったヴォルフリックたちを待っていたのは軍法会議。傭兵団に命じられた任務の遂行を放棄して、勝手な行動を取ったということで、吊し人のリーヴェスから告発されたのだ。
 行動の結果としてヴォルフリックたちがあげた成果を考えて、そこまでのことが必要かという意見も一部にはあったが、正式な手続きを経た告発である以上は軍法会議を開かないわけにはいかない。彼らが戻るとすぐに場が設定された。
 軍法会議を仕切るのはヨハネス。審判の称号を持つ上級騎士で、その称号から軍法会議を仕切るにはピッタリの人物だ。
 会議室には国王であるディアーク、それにアーテルハード、ルイーサ、トゥナといった都に残っている幹部クラスの上級騎士たちが臨席。さらにオトフリート、ジギワルドもこれはただの見学者という立場で参加していた。

「では軍法会議を始める。被告人、前へ」

 ヨハネスが開会を宣言する。被告人として呼ばれたのはヴォルフリックひとり。チームの行動は上級騎士であるヴォルフリックの責任ということで、彼だけが被告とされているのだ。
 仏頂面で立ち上がり、前方中央にある被告人席に進み出るヴォルフリック。

「告発内容について説明する。被告人は命じられた盗賊団討伐の任務を放棄し、本来の任地を離れて、勝手な行動をとった。その際、別任務に就いていた吊し人のチームの行動を阻害。任務遂行の妨げになった。内容は以上だ。相違ないか?」

「……それ本気で言っているのか?」

「なんだと?」

「任務を放棄したつもりはない。任務を終わらせる為に必要な行動をとっただけだ。それと他チームの邪魔もしていない。邪魔されたのは、こっちのほうだな」

「……それが被告の主張か。なるほど、争点があるというのだな」

 ヴォルフリックの声を聞き、表情を見て、ヨハネスは彼が本気でこう思っているのだと判断した。これがヨハネスの特殊能力である【読心】。読心といっても考えていることを読み取れるのではなく、嘘発見器のような能力だ。

「そうてん?」

「争う点という意味だ。さて、そうなると告発者が不在なのは……」

 ヨハネスの視線がディアークに向く。告発者であるリーヴェスは戻ってきていない。双方の言い分を聞くことが出来ないのだ。この状態で会議を続けて良いのか。ヨハネスの視線はそれを問うている。

「この為に任務を中断させて呼び戻すわけにはいかない。この場では聞くべきことを聞くのではどうだ?」

「承知しました。では被告人の主張について確認することと致します。まずは……任務を終わらせる為の行動だと言ったが、それはどういう意味か?」

 ディアークに言われた通り、ヨハネスはこの会議はヴォルフリックの主張を聞く場にすることにした。

「……その説明必要か?」

 ヴォルフリックの行動の意味を傭兵団は分かっているはず。それをいちいち説明する必要があるのかと考えたヴォルフリックだが。

「自分の主張は自分の口で語るものだ」

 ヨハネスには通じなかった。

「……枝葉をいくら払っても幹が残っていれば、また生えてくる。終わらせるには幹を切り倒すしかないと思った」

「それでノイエラグーネ王国に向かった。何故、ノイエラグーネ王国だったのだ?」

「勘。間違っていたら、また別の国に行った」

「理由があったはずだ。それを話せ」

 勘は嘘。それを見抜いたヨハネスは詳しい説明をヴォルフリックに求めた。見学者たちも知りたい情報だ。

「……ノイエラグーネ王国の盗賊団は他と違っていた。一番最初に現れ、傭兵団が出る前に討伐完了。その後、ノイエラグーネ王国に盗賊団は現れていない」

「他は違うと?」

「受け取った情報だと二巡目に入ったはずだ。だが二巡目の一番はノイエラグーネ王国じゃない。隣接するベルクフォルム王国だったはずだ」

 二箇所の盗賊団の討伐を終えたヴォルフリックたちに伝えられたのは、ベルクフォルム王国に新たな盗賊団が現れたというもの。オトフリート率いる月が討伐を終えて間もない国だった。

「……それだけでノイエラグーネ王国が怪しいと考えたのか?」

「優先度をつけるには十分だ。さっきも言った通り、間違っていたら他を当たるだけのこと」

「……暴れる盗賊団を放置してそれを行うつもりだった?」

「放置しておいても、たいして暴れないだろ? 盗賊団のアジトは討伐に来る俺たちを殺す為の罠に変わっている。大人しく待っていてくれたはずだ」

 実際はただ待つだけでは済まない。アルカナ傭兵団が現れなければ、現れざるをえないように、ある程度暴れるはずだ。ヴォルフリックもそれは分かっているが、盗賊団討伐を行う部隊は他にもいる。任せておけば良いと考えていた。

「歓楽街に行ったのは?」

「まさかと思うけど、遊びに行ったなんて考えているのか?」

「話を聞く前に可能性は否定しない。そうではないと言うのなら、理由を説明するのだな」

「……悪党を集めるのなら、悪党が多くいる場所を選ぶ。それがどこかとなると歓楽街、もしくは貧民街だってことだ」

「盗賊団はすべてノイエラグーネ王国で集められたと考えているのか?」

 ヴォルフリックの考えがヨハネスはよく分からなかった。嘘はついていないと分かっているが、言葉の意味が一つではなかったのだ。

「それはない。一箇所であんな数を集めれば、すぐに噂になるはずだ」

 探っていたのは黒幕が拠点としている場所。盗賊の募集はあちこちで行われているものだとヴォルフリックは考えている。

「他の国であっても結果は同じだったのか?」

 他国にも盗賊を勧誘している者がいるのであれば、結局、ヴォルフリックはそれを見つけ出すことが出来たことになる。

「……他の場所で勧誘を行っている奴が、すべてを知っているとは限らない。俺なら一人だけ勧誘して、あとはそいつに金を渡して、人を集めさせる」

「なるほど……吊し人の邪魔をした件は?」

 思わず納得の言葉を吐いてしまったことに内心で焦ったヨハネスは、もうひとつの争点に話を移した。

「邪魔をしたのは向こうだ。黒幕に繋がる奴を見つけられたのに、捕まえて白状させることが出来なかった」

「相手はノイエラグーネ王国の騎士団長だ」

「だから何だ? 敵であることに違いはない」

「ノイエラグーネ王国は中央諸国連合の加盟国だ」

「じゃあ、裏切り者と言い方を変える」

 ヴォルフリックにとって相手が誰であるかなど関係ない。盗賊団を操っている黒幕、本当の黒幕はベルクムント王国だとしても、それに協力しているのであれば、殺すべき相手。殺すのはすべてを白状させた上でのことだが。

「お前は何も分かっていない。国と国との問題はそんな簡単なものではないのだ」

「……まさかと思うが、このまま見逃すつもりか?」

 簡単なものでなければどうなるのか。ヨハネスの言い方は、何もなかったことにする可能性も感じさせるものだ。

「それは……」

 ヨハネスの視線がまたディアークに向く。最終的にどうするのかを決める立場にヨハネスはない。方針を聞かされてもいない。

「今、王国騎士団長の独断によるものか、国も絡んでいるのかを調べている。独断であればノイエラグーネ王国に事実を伝え、しかるべき処置を行ってもらうことになるだろう」

 ヨハネスの視線に応えたのはアーテルハード。まだ最終決定が下されていない段階で、ディアークに語らせたくないのだ。

「国が絡んでいた場合は?」

 アーテルハードが話さなかったもうひとつの場合。ヴォルフリックが知りたいのはこちらのほうだ。

「なんらかの手段を使って、事実を突き止めたことを知らせる。その上で相手がどう出るかで対応は変わる」

「バレたことにビビって、大人しくなれば何もしないと?」

 ヴォルフリックの視線が厳しさを増している。予想していた答え。だからといって、それを受け入れる気にはなれない。

「そういう選択もあり得る。中央諸国連合内での争いは出来るだけ避けたいからな」

「……結局それか。常に手を汚すのは、その代償を払わされるのも裏の人間。本当の悪党である表の奴らは一切傷つくことなく、何もなかったことにしてしまう。そんな理不尽な終わらせかたを選ぶのだな」

 裏社会の人間が行っている汚い仕事のうち、表社会の人間からの依頼であるものはかなりある。決して表沙汰になることのない、万一犯罪がバレて捕まることになっても、罪に問われることのない安全な場所で依頼している者たちがいる。それをヴォルフリックは知っている。

「……今回は仕方ない」

「仕方がない? お前たちは裏の人間のことなんてまったく気にしていない。最初からノイエラグーネ王国を疑っていたくせに、盗賊団の討伐を俺たちに命じた。金に釣られて騙されただけの奴らを殺せと命じた」

 ヴォルフリックの怒りがアルカナ傭兵団に向く。傭兵団は盗賊たちの命を、黒幕を引き出す為の餌として使った。それを知っているのだ。

「証拠を掴む為に必要だった」

「盗賊たちを殺さなくても証拠は掴めた。百歩譲って、犠牲が必要だったとしても、百人を超える数は必要だったのか?」

「…………」

 ヴォルフリックの問いへの答えをアーテルハードはすぐに思いつけなかった。もしヴォルフリックに、ノイエラグーネ王国がベルクムント王国と通じている可能性があることをもっと早く伝え、調査を命じていればどうだったか。その可能性は限りなく低いと分かっていても、それを思わざるを得なかった。

「この世の中は理不尽に満ちている。だがいつまでもこのままにはしない。今の世の中を変える。これが我々、アルカナ傭兵団の使命なのだ」

 アーテルハードに代わって、口を開いたのはディアークだった。ヴォルフリックの気持ちはディアークにも、黙ってしまったアーテルハードにも分かっている。彼らがまだ力ない存在だった時、その理不尽さに憤り、この世界を変えると誓って今があるのだ。

「……無理だな」

「なんだと?」

 だがその思いをヴォルフリックは一言で否定した。

「今の世の中の仕組みに染まっているお前たちに、この世界を壊すことなんて出来るはずがない」

「染まっている……お前にはそう見えるのか?」

 世の中を変える為には表社会で力を持たなくてはならない。アルカナ傭兵団はそれを手に入れた。理想を実現するにはまだ足りないかもしれないが、世界への影響力というものを持ったとディアークは考えている。

「争いを恐れて、裏切りに目を瞑ろうとしている。そうしても安全な場所にお前たちはいるのだろ? お前たちは表の人間だ。裏の人間が知る理不尽さなど他人事なんだ」

「……表の世界を変えるには表で力を得なければならない」

「結果、変わった世の中に裏の人間の意思はない。少しだけ形を変えた、それでも結局は表の人間に都合の良い世の中が出来るだけだ。別にお前が何を目指そうと勝手だ。だがな、俺はお前が作る世の中なんて決して認めない。すぐにぶち壊してやる」

「ヴォルフリック!」

 ヴォルフリックの発言を止めようと声をあげたアーテルハード。だがこれは少し遅かった。この場は公式な軍法会議の場。発言をなかったことになど出来ない。

「こやつを拘束しろ! 告発内容などどうでも良い! 陛下への侮辱罪で独房送りだ! さっさと連れて行け!」

 ヨハネスがディアークの許可を得ることなく、ヴォルフリックの独房送りを宣言する。軍法会議の仕切り役はヨアヒムであるが、彼は全権を持った裁判官ではない。罰を決める権限は本来ないのだ。
 だがそれに対してディアークは、アーテルハードも何も言わない。期間ははっきりしていないが、数日間の独房送りで済めば、それはヴォルフリックにとって幸いだ。それをヨアヒムが独断で決めたことに二人は驚いていた。
 結果、ヴォルフリックの軍法会議は、独房送りという罰が決定されて終わることになる。

 

◆◆◆

 軍法会議が終わったあと、ディアークとアーテルハード、それにルイーサとトゥナの四人は、いつものようにディアークの私室の隣の執務室に集まった。軍法会議の結果について話す為だ。

「ヨハネスから話は聞けたのか?」

 ディアークが尋ねたのは何故、ヨハネスが独断でヴォルフリックの独房送りを決めたのかということ。

「聞き取りはしましたが、団長に対する無礼に怒りを抑えきれずに、つい口走ってしまったと本人は言っております」

 怒りの結果が軽いほうの罰である独房送り。それは違うとアーテルハードも思っている。だが彼にはヨハネスのように嘘かどうかを見抜く力はないのだ。

「……なんとも軽い怒りだな」

 それを聞いたディアークの考えも同じ。ヨハネスは嘘をついていると判断した。ただ何故、嘘をつくのかが分からない。

「彼の怒りに比べればということですよ」

 その答えのヒントを教えてくれたのはトゥナだった。

「……ヴォルフリックの怒りにヨハネスは感化されたというのか?」

「彼の怒りはかつて私たちが持っていた怒り。ヨハネスは彼の感情をまともに受け、心の奥に眠っていた何かを思い出したのかもしれません」

 アルカナ傭兵団の上級騎士のほとんどは辛い人生を歩んでいた人たち。捨てるものを何も持たないから、持っていても捨ててしまいたいと思うようなものであるから、リスクの高い傭兵団に身を投じる気になったのだ。ヨハネスもその一人だ。

「……我々は忘れてしまっていたか?」

「そうかも。ただ慰めを言わせてもらえば、彼のあれは若さ。現実を知らない若さが許す発言ですよ」

「それ、慰めになるか? 自分がすごく年寄りになった気分だ」

「……それを認める時期に来ているのかもしれません。あっ、これはただの考え。何かを視て、口にした言葉ではありませんから」

 ディアークたちは皆、四十を超えた。すでに子供たちが傭兵として働くようになっている。生きるために何でもやっていた十代、傭兵団を結成して、ただガムシャラに理想を追っていた二十代とは違う。トゥナはそれを認める時だと考えた。この先、どうあるべきかを考える時期だと。

「あのさ、貴女が言葉にすると未来視でなくても重く感じるでしょ?」

 ルイーサが口を挟んできた。彼女はトゥナの考えを受け入れるつもりはないのだ。

「重い問題であるのは事実ね」

 この先、どうあるべきか。もし自分たちの意思を次代に託すということになれば、それは自分たちの手で夢を実現することを諦めること。簡単には結論の出ない重い決断になる。

「あと二枚じゃない! Der Turm=塔とDie Welt=世界のカードを手に入れれば、全てが揃うのよ!」

「それらのカードに認められる人物もね。それに……」

 神意のタロッカのすべてを集め、そのカードに認められる人物が全員揃えば夢が叶う。大陸の覇権を手に入れられる。だが本当にそうなのか。あと二枚まできていても、未だに北のはずれの小国ノートメアシュトラーセ王国を手に入れただけ。覇者の座など遥か遠くだ。
 さすがにこれはトゥナも口に出来ない。それは自分たちのこれまでの人生を否定するも同じだから。

「どんなに困難であっても私たちが自分たちの手で実現するしかない。他の誰にも出来ることじゃないのよ」

 言葉にしなくてもルイーサには分かっている。これまで一度も同じ思いを胸に抱いたことがないわけではないのだ。だが諦めることはない。覇者に相応しいのはディアーク。それ以外の人物は考えられない。

「そうね」

 その思いはトゥナも同じ。ディアークの手に世界を。その夢を実現する為に彼女たちは集ったのだ。