グランフラム王国とグレートアレクサンドロス帝国の戦いは、当事者たちの予想を大きく覆して、グランフラム王国優勢に進んでいる。
不思議の国傭兵団によるバンドゥ南部の制圧は、とっくに完了。占領地の実効支配を進めるとともに、その他の街へ、民衆の叛乱を広げている。
それを押さえる帝国側勢力はないに等しい。行政府軍は、拠点に篭ったまま身動きが出来ず、中央に参集しろという命令にも従う事が出来ない状況だ。拠点を出れば、オクス、ハシウ両国の軍に叩かれる事が分かっているのだ。
メリカ王国との国境に配置されている守備軍も、同様の状況だ。国境の砦を完全に放棄する訳にはいかないと、ある程度の戦力を残して中央に向かった部隊は、散々に打ち破られて逃げ帰る事になった。
このままではやがて、南部全体が制圧されるのは間違いない。
一方で北部に関しては、少し様相が異なる。グランフラム王国側の貴族家軍は、決して無理をしようとしなかった。敵のいない場所を探りながら、少し前線を進めては、周囲の慰撫に務めるというやり方を繰り返していた。
だが、この消極的なやり方が、結果的に功を奏する事になる。グランフラム王国側の侵攻の遅さによって時間を得たグレートアレクサンドロス帝国側の貴族が、去就を悩み始めたのだ。
貴族たちは戦況をかなり気にして情報収集に努めている。判断を誤れば、自家の滅亡に繋がるのだから必死だ。その貴族たちが必死で集めた情報が、北部に混乱を招くことになった。
グレートアレクサンドロス帝国が、圧倒的に有利であったはずの戦況が、時間が経つにつれて、おかしな事になりはじめたのだ。貴族たちを混乱させている理由は、戦況の詳細がよく分からないという事。何となくグランフラム王国が優勢だという情報しか入ってこないのだ。
これは意図的に情報を制限された為だが、この時点では、そんな事は誰にも分からない。北部は、情勢を見極める為の諜報活動が活発化する一方で、戦いらしい戦いが起こらないでいる。
そして西部は、北部とは正反対に副帝都キヨスの襲撃以降、激しい戦いが繰り広げられていた。中央に向かおうとする行政府軍に、不思議の国傭兵団が攻撃を仕掛けたのだ。しかも陣地を組めば離れ、進軍を始めれば攻め寄せてくるという、帝国側にしてみれば、実に嫌な方法で。
西方の三行政府軍が、同時に進軍しているというのに、不思議の国傭兵団の攻撃は、正に神出鬼没。三行政府軍は、その戦力を確実に削られていった。
この優勢な状況を受けて、グランフラム王国が、どのような行動を起こしたかというと、ただ、陣地構築と鍛錬の毎日を過ごすだけだった。自勢力が、ここまで優勢だという情報を、グランフラム王国本軍は知らないのだ。
「結局のところ、何がどうなっているのだ?」
アーノルドの前だというのに、マーカス騎士兵団長は苛立ちを押さえられないでいる。訳も分からずに、ただ陣地の構築と鍛錬を続ける毎日に、飽いているのだ。
「南部の情勢は、かなり分かってきております」
報告しているのは、グランフラム王国の諜報部門を束ねるケント・ガジル。この時に、諜報部門の責任者である彼は、どれだけ不運なのか。
「では、説明してもらおう」
「不思議の国傭兵団は、当初計画通り、バンドゥより南の制圧に向かい、それを果たしております」
「……何?」
「バンドゥの南部領境からミクリ川まで。不思議の国傭兵団に報酬として約束した一帯では、もう戦闘は起こっておりません」
「……何故、この報告が、今までなかったのですかな?」
マーカス騎士兵団長の視線は、澄ました顔で座っているエアリエルに向いている。アーノルドに進軍を止めて、この場に留まるように進言したのはエアリエルだった。
「……もしかして、私に聞いているのかしら? そうだとしても、私は不思議の国傭兵団じゃないから、報告の義務はないわ」
実に白々しい惚け方だ。
「その不思議の国傭兵団の部隊を率いているのではないですかな?」
エアリエルは一千の歩兵部隊と共に、この場所にやってきている。マーカス騎士兵団長は、その歩兵部隊は、不思議の国傭兵団だと睨んでいた。
「私が率いてきた部隊は、ソルが率いる近衛部隊だわ。不思議の国傭兵団とは違うわね」
「そんなはずはない。では一千もの兵士は、どこに隠れていたのですか?」
マーカス騎士兵団長もカマークにいたのだ。ソルの下に、一千の部隊など居なかった事は知っている。
「きっと最近、雇ったのね。戦争、戦争で仕事を失った人は多いもの。千くらい、すぐに集まるのではなくって?」
エアリエルはあくまでも白を切るつもりだ。
「……そんな金がどこに?」
「あら? 私の父を誰だと思っているの? 私は貴方が思っているよりも、ずっとお金持ちよ?」
この言い訳は否定出来ない。セドリックが、ウィンヒール侯家を離れる時に、どれだけの財産を持ち出してきたかなど、マーカス騎士兵団長に分かるはずがない。
「……南部の説明を続けてくれ」
ついにマーカス騎士兵団長は、エアリエルへの追求を諦めた。時間の無駄だと悟ったのだ。
「はい。ただ民衆の叛乱は収束していません。不思議の国傭兵団の占領地以外の街では、相変わらず争乱が続いています」
「……何故、まだ叛乱が続いているのだ?」
「何故と言われても、彼らの目的は旧態勢の復活。つまり、我が国の復活ですので、それまでは終わらないのではないですか?」
「南部の民衆が、我が国の為に?」
ケントは当たり前のように話しているが、マーカス騎士兵団長にとっては、初めて聞く驚きの情報だった。
「……報告されておりませんでしたか?」
マーカス騎士兵団長の様子で、ケイトも自分の勘違いに気が付いた。
「少なくとも、自分は初めて聞いた」
マーカス騎士兵団長は、視線を周囲に向けるが、誰もが頷いて同意を示している。ちなみにエアリエルも、わざとらしく頷いている。
「そうでしたか。では、簡単に報告を。ファティラース王国崩壊後に、南部で民衆を扇動する者が現れました」
「何者か分かっているのか?」
「はい。かなり噂は広まっておりますので。何人かいるのですが、首謀者の名はデニス。平民ですが、元学院の生徒で、ヴィンセント・ウッドヴィルの師だったと言われております」
「何だと!?」
「えっ? あっ……」
マーカス騎士兵団長の反応でケイトは、アーノルドとヴィンセントの因縁を思い出した。その顔から見る見る血の気が失われていく。ただこの反応は、少々アーノルドに失礼だ。
「……過去の過ちに向き合えないほど、俺は愚かではないつもりだ。気にしないで報告を続けろ」
「は、はい」
アーノルドの言葉を受けて、ケイトも一安心。続けて、デニスたちの主張、そして、それがヴィンセント論と呼ばれている事。更にデニスが捕まって処刑されるところを、リオンとエアリエルが助けに入った事。それによってヴィンセント党が一気に知名度を増して、その勢力が拡大した事を語った。
「……エアリエル殿?」
又、マーカス騎士兵団長は、エアリエルに向けて問いかける。
「何かしら?」
「デニスとやらを救出したと?」
「ええ。デニス殿は、お兄様の師よ。見殺しには出来ないわ」
デニスの救出に関して、エアリエルは堂々とその事実を認めた。知られて困る事ではないのだ。
「……何故、その報告がないのですか?」
「何故、報告しなければならないの? 彼の救出は、ヴィンセントお兄様の妹としての私事よ。報告するような事柄ではないわ」
「しかし」
「では報告を受けたとして、何が変わるのかしら?」
「何がと言われても……」
何も変わらない。グランフラム王国本軍に南部に手を伸ばす力はない。ヴィンセント党と協調も出来ない。アーノルドはヴィンセントを死に追いやった張本人。ヴィンセント党が受け入れるはずがない。
「マーカス、もう良い。報告を先に進めろ」
アーノルドは、それが分からないほど馬鹿ではない。これ以上は無用だと、報告を先に進めるように指示した。
「……はっ。続けてくれ」
「後は、オクス王国とハシウ王国の軍が、南部で活動している形跡があります」
「何?」
両国の動きも、グランフラム王国は掴んでいなかった。ただ、さすがに、これは迂闊過ぎる。
「音沙汰がないと思ったら、そういう事か」
アーノルドも苦笑するしかない。両国には当然、援軍を要請している。それで両国の動きを掴んでいないのは、グランフラム王国の怠慢でしかない。
「活動とは、具体的に何をしているのだ?」
「アレクサンドロスの行政府軍と戦ったようです。ただ、詳細は掴めておりません」
「……そうか。他には?」
「南部は以上です。続いて北部ですが、貴族家軍の状況は変わりません。但し、アレクサンドロス行政府軍に動きが見えました。中央、恐らくは、王都に向かっているものと思われます」
「どの程度の数だ?」
ただでさえ、グレートアレクサンドロス帝国側の方が兵数は多い。そこに増援となると、グランフラム王国にとって、更に厳しい状況になる。
「五千の軍が二つ。北部と北東部の行政軍ではないかと」
「全軍を?」
行政府軍の定数は五千。この程度の情報は、グランフラム王国も持っている。
「恐らくは。二行政府だけであれば良いのですが、全行政府の軍を集結させられると、三万五千の増援になります」
これだけで、グランフラム王国軍と互角以上の数だ。あくまでも、全行政府軍が集まればの話ではあるが。
「南からは来ないわ」
悪報に軍議の場が暗くなる中、エアリエルが南部の情報を告げてきた。
「……そういう事か」
オクス、ハシウの両国が何故、南部にいるのか。その理由が、アーノルドには分かった気がした。
「直ぐに王都に向けて、進軍を開始するべきではないですか?」
マーカス騎士兵団長が、王都への進軍を訴えてきた。
「そうだな。しかし……」
増援が到着しない間にというマーカス騎士兵団長の考えは、アーノルドにも分かる。だが、増援がいつ到着するか分からない。敵の援軍が到着してから王都を攻めるという事態は、状況としては最悪だ。
そして何より、アーノルドに進軍を躊躇わせているのは、エアリエルだった。進軍を止めるように伝えてきた意味。そして、今も尚、この地に残っている意味。それをアーノルドは考えている。
「じゃあ、少しだけ期待に応えようかしら?」
アーノルドが自分の反応を伺っている事に、エアリエルは気が付いている。そうでなくては困る。エアリエルは、グランフラム王国本軍が勝手な動きをしないように牽制する為、動いた場合に速やかに状況をリオンに伝える為に、ここに居るのだ。
「何の事だ?」
「もう少し待った方が良いわ。グレートアレクサンドロス帝国から攻めてくる可能性も十分にあるもの」
「もう少しとは?」
「北部の敵軍の動きを掴めたのだから、もうすぐじゃないかしら?」
北部の情勢が分かった事が合図。それでは、誰が情報を止めていたのだという事になるが、アーノルドは、そこに触れる事は止めておいた。聞いても無駄だと分かっているからだ。
「……そうか。では、もう少し待ってみよう」
「陛下!?」
アーノルドの決断に、マーカス騎士兵団長が不満を訴えている。だが、アーノルドの決断が変わる事はない。エアリエルの言葉は、リオンの意向を受けてのものである事は間違いない。
戦略、戦術において、アーノルドはリオンを誰よりも信用しているのだ。
◇◇◇
グランフラム王国本軍が、ようやく現在の状況を少し知ることが出来た頃、グレートアレクサンドロス帝国には、それ以上の情報が飛び込んできていた。グランフラム王国とは反対に、その多くが悲報だ。
「南部の行政府軍、国境防衛軍は、今のままでは動きが取れません」
「では、どうすれば良いと言うのだ?」
ボルドー宰相の泣き言には、ランスロットは飽き飽きだ。ランスロットが求めているのは、現状を打開する為の方策だ。
「南部に軍を派遣するべきではないでしょうか?」
「……どの程度を考えている?」
拠点に釘付けにされている行政府軍と国境防衛軍。この状況は打開する為に、増援を送るというのは悪くはない。ただ、それで本当に事態が打開出来るのかが、ランスロットには気になる。
「二万。敵軍の倍を派遣します」
「……どの二万だ?」
「国軍では問題がありますか?」
どの軍と聞くからには、国軍では駄目だと、ランスロットは考えている。
「国軍二万で勝てるのか?」
「オクス、ハシウ王国の軍は、思っていた以上に強いようですが」
「そうではない。リオンが、帝都からの援軍を予想していないと思えるかと聞いている」
帝都から派遣する二万が戦うのは、不思議の国傭兵団になる。ランスロットは、こう考えている。こう考えさせられてしまうのだ。それだけ、帝国は、不思議の国傭兵団に良い様にやられている。
「しかし、それを恐れては、南部の軍を使うことが出来なくなります」
「オクス、ハシウの両国軍を、南部に引き止めているだけで良しと考える事も出来なくはない」
「国境防衛に配置している部隊は、我が国の中で強兵の一つです。それを無駄にするのですか?」
無駄は言い過ぎだ。メリカ王国の侵攻を防ぐという本来の役割は変わらない。だが、メリカ王国以前に、グランフラム王国との戦いに勝つことを優先すべきだと、ボルドー宰相は考えている。
「……不思議の国傭兵団の居場所は分かったのか?」
グランフラム王国との戦いを優先すべきというのは、元々、ランスロットの決断だ。ただ、ランスロットの心境には少し変化がある。不思議の国傭兵団、リオンに対する恐れが、以前よりも、かなり増していた。
「……西部のどこかにいると考え、捜索を続けているのですが」
つまり、行方は掴めていない。
「西部の行政府軍は?」
「半数ほどが、無事に帝都に向かっております」
帝都に近づいたところで、不思議の国傭兵団による行政府軍への攻撃は止んでいる。それでも既に半数の犠牲だ。まんまと策に嵌められたと、帝国側も気付いている。
「……北部も併せれば、二万にはなるか」
予定していた数の半分以下だ。それでも、決戦に向けて、増援が出来たと喜ぶべきなのかもしれない。
「やはり、帝都で戦うべきと、私は思います」
「今更、グランフラム王国が攻めてくるか?」
戦況はグランフラム王国優位に進んでいる。南部の実質的な支配は、すでにグランフラム王国に、正確には不思議の国傭兵団だが、移っているといって良く、西部もほぼ空っぽで、グランフラム王国が軍を進めれば、呆気無く落ちるだろう。
そして北部も貴族たちが、この状況を知った途端に、雪崩を打ってグランフラム王国に寝返る事になる。
今の状況を放置しておけば、帝国の負けは確実だ。これがアーノルドに分からないはずがないと、ランスロットは考えている。
「あらゆる手を使って、グランフラム王国に攻めさせます」
「……自信はあるのか?」
「さすがに断言は出来ません。ただ、可能性は十分にあります」
ランスロットが知らない切り札を、ボルドー宰相は持っている。実際に、切り札を持っているのはマリアであるくらいは、ランスロットにも分かっている。
成功を信じる事が出来るのか。嘗ては迷うことはなかったが、リオンが現れてから、打つ手はことごとく裏目を見ている。今回もそうなるのではないかという不安が、ランスロットの心に広がっていた。
「……ライオネル、野戦で勝てる自信は?」
「当然あります。但し、不思議の国傭兵団の所在を掴むことは必要だと思います。傭兵団が参戦してくるか、こないか。参戦してくるにしても、奇襲を許すと許さないでは対応が変わってきます」
ライオネル帝国兵団長は、負けるとは決して言わない。言わないが、不思議の国傭兵団の脅威については、素直に認める発言をした。
少なくとも野戦において国軍が、不思議の国傭兵団に歯が立たないのは、もう十分過ぎるほど分かっている。高い機動力と驚異的な魔法攻撃力を持つ不思議の国傭兵団は、銃火器頼りの国軍にとって天敵のような存在だった。
その傭兵団と戦おうと思えば、その特徴を封じる事。機動力と魔法を封じようと思えば、帝都に篭っての戦いが、一番という事になる。
「……グランフラム王国本軍を帝都に」
ランスロットが、ボルドー宰相に策の実行を許可しようとした、その瞬間――いきなり、足元が大いに揺らいだ。
「なっ、何事だ!?」
「わっ、分かりません!」
「しっ、城は大丈夫なのか!?」
「どうすれば良いのだ!?」
この世界では、地震など起こらない。初めて経験する事態に、誰もが恐れ慄いている。
ただ揺れそのものは、すぐに収まった。問題は揺れの原因が何かという事だ。その報告を、会議室の面々は緊張した面持ちで待ち続けた。
「……ご報告致します」
やがて、やってきた一人の騎士が、真っ青な顔をしながら、事態の報告を始める。
「帝都の南側の外壁のかなりの部分が崩壊した模様です」
「なっ、何だと!?」
「詳細はまだ調査中ですが、城から見える範囲でも、内壁まで、かなり崩れているように見えます」
「……かなりとは、どの程度だ?」
「説明が難しいのですが、先の外壁が崩れている様子が見えるくらいです」
「何と……」
帝都を守る壁の一辺が崩れた。この事実は、これから帝都防衛線を戦おうという、帝国軍にとって、悪夢のようなものだ。グランフラム王国が、その場所に集中して攻勢を掛けてくるのは、明らかだ。
「……至急、詳細の調査を。補修に掛かる期間、それが長期になる場合の防衛計画の策定をすぐに立てるのだ。時間はない! これを知ったグランフラム王国は、明日にも進軍を開始するかもしれないのだ!」
壁が崩れた帝都での防衛線か、出撃しての野戦か。この選択を、帝国は迫られる事になった。それも数日の内に。
◇◇◇
帝都の外から見ると、崩れている壁だけでなく、地面が深く陥没している様子が、よく分かる。南側にまっすぐに走る陥没の下にあったのは、魔人が使うはずだった地下道だ。地下道といっても、魔物の大軍が通れる空間。かなりの幅がある。陥没によって、帝都の壁が支えきれずに崩れるくらいに。
「まあ、こんなもので良いかな?」
「…………」
軽い調子で話すリオンとは対照的に、シャルロットは真っ青な顔をして、固まってしまっている。
「……どうしました?」
そんなシャルロットに気付いたリオンが、声を掛ける。
「どうしたって、こんな事になるなんて」
「地下の空間は、結構な大きさですから。それを崩せば、これくらいになります」
地下道を崩壊させたのはリオンたちだ。リオンとアリス、そしてシャルロットの三人で、土属性魔法を使って、地面を陥没させた。数カ所を陥没させれば、後は連鎖していったので、労力としては、それほど大変ではない。もちろん、リオンたち三人の魔法が並外れたものであるからこそだが。
「……住民たちは」
「少しは犠牲は出たでしょう。でも、考えてみてください。帝都を戦場にするよりは、マシだと思いませんか?」
帝国を野戦に引きずり出す。この為にリオンたちはこんな事をしたのだ。帝国が帝都での籠城を選んだら選んだで、更に地下を陥没させるだけだが。
「……そうね。これで野戦になるのであれば」
リオンの説明に、シャルロットも、少しだけ納得した様子を見せる。実際に、帝都が戦場になれば、多くの民が戦闘に巻き込まれる事になる。グランフラム王国側に、住民の事を考えながら、攻める余裕などない。
「落ち込む必要ないのに。帝都、というより、旧王都は崩壊する運命だったの。それが少し遅れて、現実になっただけよ」
アリスも一応は慰めているつもりなのだが、シャルロットの理解出来ない内容では意味をなさない。バッドエンディングを迎えたグランフラム王国の都は、崩壊するはずだった。こんな事はシャルロットには分からない。
リオンは、シャルロットには世界の事を話していない。シャルロットがショックを受ける事が分かっているからだ。
「さて、舞台は整った。あとは開演を待つだけだな」
リオンは開演と言っているが、それは終幕に向けての始まりだ。ゲームではなく、リオンの復讐劇のエンディングが近づいている。