月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

異伝ブルーメンリッター戦記 第111話 過去の為に戦う人と未来の為に戦う人

異世界ファンタジー 異伝ブルーメンリッター戦記

 ユリアーナ率いる魔王軍の物量作戦に対抗するには味方もそれに負けない物量で。ローゼンガルテン王国軍はその方針で反撃の準備を進めた。王都から送られた増援軍により総兵力を増加させただけではない。味方を悩ませている魔王軍による遠距離攻撃。それに負けないだけの攻撃力を持つ為に、各地から投石機や弩砲をかき集めて、戦場に投入していく。それが揃うまでの間は味方陣地の構築。守りについては敵陣地に勝るくらいの堅牢な陣地を構築しようと、戦いが行われている中でも朝から晩まで作業が続けられた。
 それが実現出来たのは魔王軍がその戦力の多くをリリエンベルク公国に移したため。ローゼンガルテン王国としてはアーベントゾンネ攻略戦に人員や資源を集中させることが出来るようになったのだ。魔王軍の戦略ミス、とまでは言えない。アーベントゾンネ攻略戦は魔王軍の戦略上、時間稼ぎが出来ればそれで十分。ローゼンガルテン王国軍は自らその時間を作ってくれたのだ。時間稼ぎによって得られた結果が望み通りのものであるかは別にして。

「どうやらラヴェンデル公国軍には逃げられたようだ」

「またぁ?」

 フェンの報告を聞いて、ユリアーナは呆れ顔だ。これまで何度も、後方に抜けたタバート率いるラヴェンデル公国軍を捕捉しながら、その度に逃げられている。それを許す味方への不満はたまるばかりだ。

「君が言っていた通り、難しい相手のようだね。こちらの動きを読まれ、裏をかかれている」

「そう……それで? 今度は何をやられたの?」

 ラヴェンデル公国軍の目的は補給線への襲撃。各地から物資をアーベントゾンネに運ぶ輸送部隊を何度も襲われていた。

「なにも。味方もただ襲われるのを待っていたわけではないよ。ラヴェンデル公国軍の拠点を探し出し、そこを襲撃しようとしていた」

「でも逃げられた?」

「北西の森がそれだと判断して、襲撃をかけようとしたのだけど、もぬけの殻だったそうだ。一応、言い訳しておくと拠点であったことは間違いないらしい。それらしい形跡が残っていた」

「どこに行ったのかはまったくわからないの?」

 今のところアーベントゾンネの蓄えは十分。補給部隊が襲撃を受けた影響は大きくはない。だが本格的な戦いが再開されればそういうわけにはいかないとユリアーナは思っている。自軍を支えているのは大量の武器。その武器である投石や矢は後方の占領地からの補給に頼っているのだ。

「足跡を追ったのだけど、途中で完全に消えた」

「つまり分からないのね?」

「そうだけどね……」

 人族では決して真似出来ない優れた追跡能力を持った味方が追えなかった。それは大いに驚くべきことなのだが、ユリアーナには伝わらなかった。

「どうする?」

 これはフェンではなく、ユリアーナについてきた元ブルーメンリッター所属の騎士たちに向けた問い。補給などの後方支援活動について考えるのは彼らの役目。他に出来る人がいないのだ。

「……効率は悪くなりますが輸送を分散するしかないでしょう」

 襲撃を防ぎきれないのであれば、被害を少なくすることを考えるしかない。その為の方策として、物資をいくつもの輸送部隊に分散して運搬することを提案した。

「そうね。じゃあ、手配はお願いね」

 あっさりとユリアーナはそれを受け入れる。彼らは戦闘能力は高くても軍事の天才ではない。驚くような策は最初から期待していないのだ。

「敵のほうの準備も整ったようだよ」

「それは良かった。いつまで経っても攻めてこないから、もう戦う気がないのかと思っていた」

 魔王軍の戦略ではアーベントゾンネの戦いは時間稼ぎが目的。リリエンベルク公国での戦いに決着がつくまで、そこまでいかなくても戦力をゾンネンブルーメ公国に戻せる余裕が出来るまでの時間が稼げれば良かったのだ。だがユリアーナにとっては時間稼ぎなど無用。逆に決着を急ぎたいのだ。

「……拙速な戦いは魔王を怒らせることになるよ? リリエンベルク公国での戦いはまだ続いているからね」

「頼りない味方は頑張っているのかしら?」

「これまでにないほど頑張って戦っているようだね」

「……それで?」

 リリエンベルク公国での戦いの様子はフェンから聞くしかない。ユリアーナには情報を入手する術は他にないのだ。

「アイネマンシャフト王国軍はそれをことごとく撥ね返している」

「そう……やっぱり頼りない味方ね」

 これを言うユリアーナの顔には笑みが浮かんでいる。ジグルスは本気になった魔王軍と互角に戦っている。それだけの力を得たのだ。

「……こんなことを聞くのはどうかと思うけど……君はこちら側に来る必要があったのかな?」

 ユリアーナが魔人側に寝返った理由をフェンは聞いていない。思いつくのは、寝返った振りをして魔王ヨルムンガンドを討とうとしているということくらいだが、それも今の状況では難しい。素直にジグルスの味方になったほうが良かったのではないかとフェンは考えている。

「あるわよ」

 フェンの問いにユリアーナは間髪入れずに答えた。寝返ったことに迷いはない。自分は魔王側にいなくてはならないと彼女は考えている。

「……リリエンベルク公国、いや、旧リリエンベルク公爵家のご令嬢はジグルスと行動を共にしている」

「当然ね」

「良いのかい?」

 リーゼロッテはジグルスが何者か分かっても行動を共にしている。フェンにとっては驚くべきことで、そしてそれはユリアーナにとっては悲しむべきことだと考えている。

「あの二人はずっと前から愛し合っていたわ。お互いに相手が何者であってもその気持ちは変わらないと、私でも思えるくらいに」

「でも君は……」

 ユリアーナはリーゼロッテに成り代わりたいはず。ジグルスの隣にいたいはずだとフェンは考えている。

「私は選択を間違ったの。いくつかヒントはあったのに、それに気づくことなく、安易に楽な立場を選んでしまった。やり直しの人生でさらにやり直しなんて許してもらえるはずないでしょ?」

「選択って?」

「……人生は選択の繰り返し。それを間違ったってことよ」

「なるほどね」

 明らかにユリアーナは何かをごまかしている。それが分かったフェンだが、それを追求することはしなかった。話したくないからごまかしたのだ。ただ聞いても教えてもらえるはずがない。

「そんなことをわざわざ教えるなんて、以外と女々しいのね?」

「女々しい? 私が?」

「そうよ。自分に重ねているのではなくて? もし自分がジグルスの母の隣にいられたら、なんて」

「……まさか」

 そんなつもりはフェンにはない。少なくとも本人にその意識はない。ちなみにこれを言うユリアーナも本気でそう思っているわけではない。ジグルスとリーゼロッテの話を持ち出してきたフェンへのちょっとした嫌がらせだ。

「さて、厳しい戦いになるのはここも同じね。この先は貴方にも真面目に戦ってもらうわよ。貴方は質で勝る数少ない戦力の一人なのだから」

「そんなこと言うと巨人族の人たちが怒るよ?」

「弱いとは言っていない。敵の精鋭部隊には通用しないってことよ」

 ユリアーナと付き従ってきた騎士たちはブルーメンリッターの実力を良く知っている。中途半端、なんて表現も巨人族を怒らせるものだが、な実力でブルーメンリッターに対峙しては無駄に戦力を失うだけ。対抗出来る戦力をブルーメンリッターに当てて彼らを抑え込み、他の場所で勝ちを得るという作戦を考えている。その対抗出来る戦力の中でも単独でとなると、ユリアーナとフェンしかいないのだ。

「……そうだね。分かった。ここからは前面の戦いに集中しよう」

 ローゼンガルテン王国軍の主力、というより全軍に近い戦力と魔物主体の軍で対抗することになる。厳しい戦いになるのは間違いない。この戦争において勝利への執着は決して強いとは言えないフェンではあるが、この戦いは別だと考えている。やはり魔王軍の勝利を求めるからではない。この戦いの行く末を、ユリアーナが求める結末がどのようなものかを見届けたくなったのだ。

 

◆◆◆

 空を行き交う色彩鮮やかな魔法。ただ遠くから眺めているだけであれば、その美しさに感嘆するだけで済むだろうが、すぐ近くで魔法の輝きをまともに受けている人々はそんなわけにはいかない。向かってくる魔法は死を運ぶもの。色彩の鮮やかさは、全てとは言わないが、それだけ強力ま魔法である証なのだ。
 リリエンベルク公国領に戦力を集めた魔王軍。ただ集めただけではない。残っていた大魔将軍は魔王の近衛軍を率いるローズルを除いて全員が解任。麾下の各軍団も解散した上で占領地の守り等、軍団とは別行動していた部隊も含めて再編が行われた。
 さらに魔王軍はこれまでとは違う動きを見せる。リリエンベルク公国の中心都市だったシェバルツリーリエの防御設備の修復やその周辺に砦を構築するなど守りの態勢を見せたのだ。これはジグルスにとっては誤算。当面はブラオリーリエ、そしてアイネマンシャフト王国の都での防衛戦が続くと考え、その為の準備を行っていたのだ。
 魔王軍が守りに入るようなことになればジグルスの側は攻めるしかない。そうであれば敵の備えが出来上がる前に攻めるべき。そうジグルスは判断した。誘いである可能性は認識している。だが守りに徹しているようで実はジグルスは長期戦を望んでいない。戦力差を埋めるには守る側が有利な防衛戦を行ったほうが良いと考えていただけだ。
 空中に一際巨大な魔法が展開された。攻撃魔法ではない。敵から放たれた魔法を防ぐためのものだ。衝突する魔法と魔法。何発もの敵の魔法を受け止めたところで魔法の壁は霧散した。
 それと同時に土煙をあげて半人半馬の姿をしたセントール族の群れが駆け出してくる。

「来たぞ! セントール族の足を止めろ! 今度こそ、バルドスの息子を討ち取るのだ!」

 魔王軍からまた魔法が放たれる。それと同時に四百人ほどが固まって前に出てくる。鉄鎧に身を固め、大きな盾を抱えたドワーフ族だ。ドワーフ族の部隊は方陣を組むと、大きな盾を隙間なく並べて身構える。セントール族の突撃を受け止めるつもりなのだ。力自慢のドワーフ族だからこそ為せる技。といっても盾の群れに突撃するセントール族もそれを受け止めるドワーフ族も無傷で済むはずがない。

「来るぞ! 一歩も下がるな!」

『おおっ!!』

 すぐ先では敵味方の魔法がぶつかり合い、目が眩むほどの光が明滅している。それが完全に消えた時がセントール族が現れる時だ。気合を入れ、腰を低く落として衝撃に備えるドワーフたち。
 だがドワーフたちを襲ったのはセントール族の突撃ではなかった。

「ぐあっ!」

「何!? どうした!?」

 突然、うめき声をあげて地に倒れる仲間に驚く声。だがその声をあげた彼も、すぐに同じように地に倒れることになる。セントール族の突撃にも耐える頑丈な鉄の矢を貫く光の矢によって。

「……これは……まさか?」

 その攻撃に覚えがある人がいた。以前、見たことがあるのだ。その時は味方としてであったが。
 驚きながら視線を正面に向ける。その目に移ったのはセントール族の背に立って矢を構えている女性。だが彼の記憶にある女性ではなかった。その女性の髪は銀髪。だが今、魔法の矢を放っている女性の髪は金色だ。

「隊列を整えろ! 急げ!」

 その女性が何者かを考えている時間は彼には与えられなかった。矢を受けて倒れる何人もの味方。鉄の盾の守りにほころびが生まれていた。
 衝撃音があたりに響く。鈍い衝撃音だ。隊列のほころびを狙って、突撃をかけたセントール族。勢いを完全に止めることが出来ずにドワーフ族の部隊は乱れている。

「落ち着け! 足を止めろ!」

 指揮官がなんとか味方を落ち着かせようとするが、敵はそれを許さない。爆風とともに味方の体が宙を舞う。近距離で敵の魔法の直撃を受けたのだ。

「エルフを引き摺り下ろせ! 魔法を放たせるな!」

 セントール族の背にはエルフ族が乗っている。そのエルフ族が放った魔法だ。

「させるか!」

 エルフたちへの攻撃を許すまいとセントール族は手に持つ槍を周囲のドワーフたちに向ける。だが、そのセントール族たちに。

「グラニ! 熱くなって任務を忘れるな!」

「王!」

 ジグルスから声がかかる。ジグルスはグラニの背に乗っていなかった。敵の目を欺く為だ。

「……動け! 敵の背後に回るのだ!」

 敵への攻撃をやめて、後方への突破を図るセントール族。当然、ドワーフたちはそれをさせまいと群がってくるが、その敵には背に乗るエルフたちが攻撃を仕掛ける。セントール族に守ってもらわなくても戦う力がエルフたちにはある。馬上での戦い方についても訓練を重ねてきたのだ。
 ドワーフ族の部隊の背後に回ったセントール族。今度は彼らがドワーフ族が移動するのを邪魔する番だ。一人を除いて。
 ジグルスを載せたセントールだけはドワーフ族に構うことなく先に向かって駆けていく。その目的は。

「はい。到着」

「……来たか。バルドスの息子」

 敵の大将、新たに大魔将軍に任命されたアース族のブラギと戦う為だ。

「いい加減、その呼び名は止めてもらえないかな? 会ったこともない男の息子と呼ばれても、自分のことと思えない」

「バルドスの息子と呼ばれるのが嫌なら、自らの名で呼ばれるに相応しい力を見せてみろ」

「ああ、そうする。その為にここに来たんだ」

 背負っていた剣を抜くジグルス。黒光りする刀身が露わになる。

「参れ」

 ブラギも座っていた椅子から立ち上がり、手に持っていた剣を鞘からに抜いた。

「……相変わらず、すごい上から。まあ、いい。参らせてもらう」

 ふらりと体が揺れた、と見えた瞬間にジグルスの体はブラギの目の前にあった。斜めに振り下ろされる剣。肩口から真っ二つに割れたブラギの体は、すぐに消えた。

「残像?」

 驚きの声をあげるジグルス、だが隙はない。空気を切り裂く音が襲いかかった時には、ジグルスの体もまたその場から消えていた。

「ふん」

 鼻を鳴らして、後ろを振り返るブラギ。そこにはジグルスが剣をだらりと下におろして立っていた。

「余裕を見せたつもりか?」

「さあ?」

 地面を蹴って、地を這うような低さで跳ぶジグルス。片足で地を蹴って方向を変え、また地を蹴る。ジグザグに進みなからブラギの足元に近づいていく。

「その程度の動きで、我が目をごまかせると思ったか!?」

 斜め右か跳んでくるジグルスに向かって、剣を振り下ろすブラギ。さらにその剣は、避けようと方向転換したジグルスを追って、真横に振られた。
 真上に跳ね上がったブラギの剣を避けるジグルス。

「馬鹿め」

 宙に跳んだジグルスに向けて、ブラギは剣を斬り上げた。周囲に響く金属音。ジグルスはくるくると回りながら後ろに跳んでいく。そのまま地面に落ちて転がるジグルス。かなり遠くまで転がったところで、ゆっくりと立ち上がった。

「……余裕を見せたつもりか?」

「くだらない強がりを。その程度の力で、よくもまあ、魔族の頂点に立てるなどと思い上がったものだな?」

「何を言っている? 俺は魔族の頂点に立とうなんて考えたことは一度もない。滅ぼそうと思ったことはあるけどな」

 魔族を統べる、なんて考えはジグルスにはない。種族がなんであろうと味方は守り、敵は討つ。簡単に言うと、それだけだ。

「……それも思い上がりだ」

「それはどうかな?」

 まるでその時を知っていたかのように、ジグルスが言葉を発し終えたとほぼ同時に魔王軍の陣地のすぐ後ろで爆発音が響き渡った。少し遅れて空に立ち上る煙。

「……あれは?」

「ブラギ様! 兵糧が焼かれました!」

 空に立ち上る煙は燃えている兵糧から出ているもの。アイネマンシャフト王国軍に攻撃によるものだ。

「兵糧を狙うとは卑怯な!」

「卑怯って……戦いに夢中になって指揮を忘れた自分の責任だろ?」

「なんだと……」

 ジグルスがブラギと一対一で戦っていたのは、指揮をさせない為。そんな発想はブラギには浮かばないものだ。

「では今日はここまでで」

 目的を果たした以上は、この場にとどまって戦い続ける必要はない。ケリをつけるにしても今日ではないのだ。
 背中を向けて自陣に戻ろうとするジグルス。

「決闘に背を向ける卑怯者を逃がすと思っているのか!?」

 敵本陣に乗り込んできたジグルスが一対一の戦いを続けていられたのは、決闘を邪魔するのは卑怯という考えがブラギの側にあるから。それをジグルスは分かっているから一人で突入してきたのだ。
 だが決闘から逃げようとしているとなると話は別。卑怯者に礼儀は必要ないのだ。敵本陣にいた魔人たちがジグルスを討とうと動き出す。
 その彼らの足を止めたのはリーゼロッテが放った光の矢だった。

「ジーク! 急いで!」

 駆けていくるジグルスにセントールの背から手をのばすリーゼロッテ。その手を借りてジグルスはひとっ飛びでリーゼロッテの後ろに飛び乗った。

「おのれ! 貴様のような卑怯者に魔王の座を渡すわけにはいかない! 必ず我が手で息の根を止めてくれるわ!」

「……俺が卑怯者なら貴様は愚か者だ!」

「なんだと!?」

「弱者の知恵や工夫を卑怯の一言で切り捨てる! そんなんだから今の魔族があるんだ!」

 強者であるという驕り。それが魔族を辺境に追いやったのだとジグルスは考えている。戦いのきっかけは人族の排他的な性質のせいであるとしても、魔族側にも非はあると思っている。

「お前はやはり魔人ではない! 魔人の誇りを理解出来ないお前に魔族を統べることなど出来ない!」

「今の時代では害にしかならない魔人の誇りなど理解したいとは思わない! 魔族に限らず、次の時代に生き残れるのは変われるものだ! 変化こそが今の時代に必要なんだ! カビの生えた考えにとらわれている奴らなど滅びてしまえばいい! 俺はこの世界を変える! 仲間たちの歴史を未来に繋ぐ為に戦うんだ!」

 ジグルスと共に戦っている魔人たちは古い考えを捨てている。初めは魔人としてのあり方に拘っていたいる人たちばかりであったが、ジグルスと何度も話し合い、本当に大切なのは何なのかを確認し合う中で、納得していった。そうであるからジグルスもこの作戦が実行出来たのだ。
 魔人も考えを変えられる。ジグルスはそれを知っているのだ。

「……認めん。私は決してお前を認めんからな!」

 自分の考えをカビが生えているなどと言われて、ブラギは怒り心頭だ。同族とまでは言えないが同じアース族であったバルドスの息子だということで、単純に敵として見るのではなく、力試しをしてやろう、見どころがあるのであれば手助けしてやっても良いなんて考えていたのだが、その思いは完全に吹き飛んだ。
 ブラギは分かっていない。ジグルスは考えが相容れない相手の手助けなど微塵も求めていないことを。怒りにとらわれてしまっているブラギは気づいていない。ジグルスを討とうと駆け出していった味方の何人かの足が、ジグルスの言葉を聞いて、止まってしまったことに。