月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

悪役令嬢に恋をして 第48話 予定外の結末

異世界ファンタジー小説 悪役令嬢に恋をして

 魔物が去った後のハッカータの街は、賑わいを取り戻していた。それどころか、普段以上に街は喧騒に包まれている。魔物に襲われることなく無事で居られた事に対する祝いの宴が、街のあちこちで開かれているからだ。
 それらの宴の主人公は名も無き領軍の兵士たちだ。彼らは魔物との戦いの様子を知っている。それも、お伽話でしか聞いたことがないような勇猛果敢な戦いの様子を。
 酒が入った事で能弁になった兵士たちは、まるで吟遊詩人にでもなったかのように、戦場での英雄譚を人々に語って聞かせている。それは大いに人々を喜ばせ、瞬く間にハッカータ中に広がり、やがてこの時にハッカータの街に居た商人たちによって、王国中に広まる事になる。
 王国にこの日、英雄が生まれた。まだそれはごく一部の者だけが知る事だった。

 街中で開かれている祝いとは、少し趣が異なるが、領主館でも宴が開かれていた。こちらは勝利を祝う為の宴だ。戦いに参加した者たちへの領主からの慰労という意味もある。もっとも慰労を受けられるのは、限られた一部の者に過ぎない。
 列席しているのはアーノルド王太子、近衛騎士団長、ランスロット、エルウィン、シャルロット、そしてマリアといった王国から派遣されてきた者たち。それにバンドゥ領軍の指揮官、カシス、アペロール、モヒート、そしてキールの四人が加わっている。
 リオンとエアリエルはこの場に居ない。まだ領軍の残務があるという理由で、遅れての参加だ。ただこれは口実で、二人に参加するつもりは、最初から、これっぽっちもない。
 二人がいなくても、宴の席はそれなりに盛り上がっている。居ないから盛り上がっているとも言える。

「いや、見事だな。十万もの魔物の大群にわずか数百で突入したとは。きちんと報告を受けたが、今も信じられない」

「いや、まあ、魔物などと言っても、大して強い訳でもない。数が多くても何という事はありませんな」

 領主の煽てにアペロールは上機嫌だ。これでこの場にリオンが居れば、こんな態度は取らないだろう。アペロールにとってリオンは、年下であっても怖い領主なのだ。

「そうだとしても十万だからな。しかも、それが陽動だというのから驚きだ。勇気がなければ、とても出来る事ではない」

「敵を倒すためであれば当然の事。陽動であっても、陽動であるからこそ、全力で戦う必要がありますな。それを実践したまで」

 こんな事を言っているが、アペロールはキールたち青の党の奇襲など知らされていなかった。領主が言う通り、陽動の意味もあると知ってしまえば無理をしようとしないだろうと、リオンが考えていたからだ。

「さて、奇襲を見事に成功させた貴殿も又、見事であるな」

 領主は次にキールに向いた。

「……私は、ただ指示された通りに動いただけです」

 キールにはアペロールのような浮ついた様子はない。勝ったのは嬉しいのだが、アペロールの様子を見て、気持ちが冷めてしまっていた。

「そうだとしても、大将首をあげるという一番手柄だ。褒められるのは当然であろう」

「領主様もご存知の通り、陽動があっての事。褒められるのは私だけではなく、戦いに参加した全員です」

「これは又、随分と控えめだな。同じバンドゥの者でも随分と違うようだ」

「ふっ、キールはご領主様のお気に入りだからな。人に好かれる術を知っておるのだ」

 キールが褒められた事が気に入らないのか、アペロールが言わなくて良いことを口にしてきた。内輪もめなど、他家の前で見せるものではない。

「アペロール。口を慎め」

 注意したのはカシスだ。ここでキールが何かを言えば、事態がもっと悪くなると考えての事だ。

「お主だって同じではないか。ご領主様に全く相手にされておらん。ご領主様は頭が良すぎるからな。お前や儂のような無骨な者は気に入らんのだ」

 カシスが注意してもアペロールの文句は止まらない。完全に酔っ払いの愚痴だ。

「いい加減にしないか。酔いが過ぎるぞ」

「良いではないか。これほどの旨い酒を飲むのは久しぶりだ。やはりハッカータの街は違いますな」

 アペロールは、カシスではなく領主に向かって話しかけている。カシスの小言が煩わしくなったのだ。

「伊達に南部一の商業都市とは呼ばれていない。南部の旨いものの全てはこの街に集まると言っても過言ではないな」

 領主も煽てられるのは好きなようだ。アペロールの一言で、喜々として自慢を始めた。

「それは羨ましい限りですな。バンドゥの地は何もない所ですから」

「いや、最近ではかなり賑やかなのではないか? 東部では一番の歓楽街という噂を聞いた事がある」

「地元で、そういう場所には行けません。次の日には街中の噂になってしまいますな」

「それはそうだ。遊びたくても遊べないでは却って辛いものだな」

「その通り! バンドゥは余所者に優しく、地元の者には冷たい。そもそも、ご領主様が余所者ですからな」

「では出て行けば良い」

 ここでキールが話に割り込んできた。さすがに今のアペロールの言葉は聞き捨てならなかった。

「何だと?」

「貴方が言う余所者であるリオン様が、バンドゥの地にどれほどの貢献をしてきたか。バンドゥの復興に対して、どれだけの思いを込めているか分からない者に、バンドゥの地に住む資格はない」

「それは……」

 愚痴を口にしてはいても、キールの言葉はアペロールにも絶対に否定出来ない。バンドゥの今はリオンによってある。これはバンドゥの地に住む者、共通の思いだ。
 これを否定する者は、キールの言う通り、バンドゥの地でリオンの恩恵を授かる資格はない、とアペロール自身も思っている。

「酒の席とはいえ口が過ぎる。文句があるのであれば、リオン様に直接言えば良い。それを聞かないリオン様ではない。まさか、これも分からないと?」

「……いや、知っている」

 これもそうだ。リオンは諫言を、それがどんなに厳しいものであっても、聞く耳を持っている。熱くなった王国学院の卒業生たちが、かなり厳しい言葉で、リオンの間違いを正している場面を、アペロールも何度も見ていた。

「そうであれば」

「分かった。すまなかった、少し調子に乗りすぎたようだ」

 実際にアペロールは調子に乗っていた。武で生きると決めていても、バンドゥ六党が戦果を褒められるのは初めての事だ。それが魔物相手であったとしても嬉しい事だった。
 その浮かれていた気持ちが、一気に冷めた。

「戦の後で、酒に浮かれるのは仕方のない事だ。こういった場での言動など、誰も気にする事はない」

 アペロールを庇う発言をしてきたのは近衛騎士団長だった。あまり場の雰囲気を悪くさせないようにという、近衛騎士団長なりの気遣いからだった。

「そう言ってもらえると助かる」

「さて、では話題を変えよう。お主たちにとって、どうにも癖が強くで扱いづらい、それでいて文句を言えない領主はバンドゥで何をしたのだ?」

 癖が強くて扱いづらいは近衛騎士団長にとっての印象だが、カシスたちにとってもそれは同じだった。

「何をしたか……全てを語るにはいくら時間があっても足りない程の様々な事を」

「それでは分からんな。そういえば先ほど、バンドゥが東部一の歓楽街と言っていたが?」

「ああ。それだけであれば話せますな」

 こう言ってアペロールが話した内容は、学院でのリオンを知る者には驚きだった。彼らは従者としてのリオンしか知らない。リオンが施政者として仕事をしている姿など想像が付かなかった。
 ましてその発想は、彼らの知識にはないものだ。

「……付加価値。それが人を呼ぶと?」

「差別化とも言っておりましたな。ただ、ご領主様の言葉は、時々難しくて分かりませぬ」

「ふむ」

 武人である近衛騎士団長にも分からない。だが実際にバンドゥは多くの者が訪れる街になっている。それは、この街の領主も同じだった。

「そういう事なら私も役に立てると思うわ」

 この状況で、こんな事を平気で口に出来るのはマリアしかいない。実際に、リオンがやった事を一番理解出来るのもマリアではあるが。

「そういう事とは?」

「サービス。他とは違う何か。それがお店が繁盛するのに必要な事だって私も知っているもの。私にどこかの街を任せてもらえれば、彼以上の事が出来ると思うな」

「異世界の知識という事か?」

「そうよ。この世界にない知識が私にはある。それを活かせれば、きっと凄い事が出来ると思うな」

「ふむ」

 マリアが何故、自分を売り込むような発言をしているか。それはマリアなりの焦りがあるからだ。今回のイベントでマリアは何の活躍もしていない。それどころか、誤った情報を提供して戦いを困難にしてしまった。
 本来、このイベントはマリアの価値が王国に認められるはずのものだが、それに相応しい事を何もしていない自覚がマリアにはあった。

「キールと申したな。一つ聞かせてもらいたい」

「何でしょうか?」

 だが残念ながら、マリアの売り込みは近衛騎士団長の興味を引かなかった。マリアにではなく、別の事に近衛騎士団長は気を取られていた。そうでなくてもマリアが売り込んでいる内容は、近衛騎士団長の管轄外の話だ。

「どうして、あの様な奇襲を行おうと思ったのだ?」

「どうして? そういう命令だったからですが」

「だが後方に回りこんだからといって、敵に大将が居る保証はなかった」

「それについては確信があったわけではありません」

「では何故?」

「居なければ逃げろという指示でした」

「逃げろだと?」

「はい。リオン様は、魔物を操る者が居ることには確信を持たれていましたが、後方に居るかまでは自信がなかったようです」

「何故だ?」

「私が聞いたのは、魔物は、その種類にもよりますが、統制が取れた行動などしないと。しかも囮を使うなんて真似などするはずがない。それをするという事は、そうさせている存在が居るはずだと」

「いや、聞きたいのはそうではなく……いや、それも興味深い話だ。続けてくれ」

 確信も無いのにどうして、リオンがあれほどの無茶をしたのか、近衛騎士団長は聞きたかったのだが、キールの話は、これはこれで気になった。

「続けてと言われても、もう話す事はありません。操っている者が居るのだから、どれほど大群でも、それを討てば良いと教えられただけです」

「……そうなのか?」

 近衛騎士団長の問いはマリアに向いた。魔物の事をマリアは誰よりも知っているはず。それが問いを向けた理由だ。

「魔人ね。魔物は魔人が操っているのよ」

「その話は聞いている。私が聞きたいのは、魔人を討てば魔物は脅威でなくなるのかという話だ」

「それは……そうではないと思うけど……」

「では何故、フレイ男爵はその魔人さえ討てば大丈夫だと思ったのだ?」

「魔人を討てば、魔物の脅威がなくなるのは確かよ」

「それは全体的な話であって、個々の戦いで……まあ、これは良い」

 マリアと戦場の話をしても無駄だと、近衛騎士団長は話を途中で止めた。

「問いを戻そう。何故フレイ男爵は、あんな無茶をしたのだ? 恐らくは嫌々出陣してきたと思うのだが?」

 近衛騎士団長は、元々キールに聞こうとしていた事に話を戻した。

「……それははっきりとは分かりません。ただ、リオン様はそういう方なのだと思います」

「そういう方とは?」

「あの方は他人を信頼していません。本当の意味で信頼しているのは奥方様だけでしょう」

「そうか……」

 リオンが、そうであってもおかしくない理由を近衛騎士団長は知っている。ただリオンの性質は、ヴィンセントの事が全てではない。貧民街での暮らしが原因だ。もともと人を信じないリオンが信じた貴重な人物が、ヴィンセントとエアリエルであったという事だ。

「ただ信用している者は居て」

「ち、ちょっと待て。信頼と信用の何が違うのだ」

「言葉の本来の意味は分かりませんが、信じて頼る者と、信じて用いる者の違いで、私は使いました」

「……なるほど。なんとなく分かるな」

 用いる事はあっても頼る事はない。近衛騎士団長には、リオンの性質を良く表しているように感じられた。

「その信用している者たちをリオン様は、とても大切にします。これがあの方の不思議なところです。明らかに人嫌いでありながら、その人に対して、どこまでも優しいのです」

「どこまでも優しい。そこまで言うのか」

 リオンが他人に見せる優しさを近衛騎士団長は見たことがない。キールの言葉が実感出来ない。

「はい。何故なら、あの方は信用していない、赤の他人に対しても、やはり優しいからです。村が魔物に襲われていると知った時、それが複数だと分かった瞬間に、あの方は決意しました。その全てを救おうと」

「……それは無理だ」

「はい。実際に無理でした。でも、そうだと分かっていても、リオン様は諦める事をしません」

「そうか……それで無茶と言える、戦い方をしたのだな」

「自分たちだけでは全ての村は救えない。だからリオン様は頼ったのです。恐らくは、最も頼りたくない方たちに」

「おい、その物言いはどうなのだ?」

 リオンが最も頼りたくない者たち。それはアーノルド王太子たちに決っている。リオンの気持ちは理解出来ても、近衛騎士団長の立場では、こう言うしか無い。

「口が滑りました。申し訳ありません。私も人の事は言えないようです」

「どうにもバンドゥの者は酒に飲まれる傾向にあるようだな」

「久しぶりの宴席ですので」

 酒の席での戯れ言で近衛騎士団長は終わらせようとしている。その気持ちを察して、キールも話を合わせた。

「俺にも教えてくれ」

「王太子殿下……」

「心配するな。酒の席での事を咎めるつもりはない。そうでなくても……文句を言える立場ではない」

 リオンが嫌々伸ばした手にすぐに応える事が出来なかった自分をアーノルド王太子は恥じていた。まして、それは自分が守るべき国民の為だったと知ったからには、何も言えない。

「それでは何を?」

「さっきの話が気になる。どうして、リオンは部下であるお前たちに冷たいのだ?」

「それは……私たちが不甲斐ないからです」

 キールは嘘をついた。今はもうキールも、リオンがどうしてバンドゥ六党の面々に冷たかったのか薄々分かっている。だが、それはこの場で言うべきではない内容だ。

「不甲斐ない?」

「我らは、自分たちが生まれ育った土地に対して、本気で何かをしようとしなかった。何もしてこなかったくせに、不満だけを抱いていた。これをリオン様にひどく怒られました」

「それを今も?」

「今はもう、少なくとも私は冷たくされているとは感じておりません。そしてそれを感じている者は、リオン様に本気で向き合っていないからだと思っております」

「……自ら壁を作っていると?」

「ああ。そのお言葉は良い表現だと思います。ただでさえ心に壁を持つリオン様を、更に自分で作った壁の裏側から見ている。それでは何も見えません」

「なるほど……」

 リオンとの距離を縮めるには自らの壁を取り払う事から始めなければならない。アーノルド王太子は、それを心に止めた。アーノルド王太子はリオンに対する見方を大きく変えている。正直、忠義の臣を装いながら、結局は主人の死を利用して出世したではないかという思いを抱いていた。
 だが、今日の戦いを間近で見て、キールの話を聞いて、そうではないと思い直した。リオンという男は、なるべくして領主になったのだ。
 もっとリオンの事を知りたいと、アーノルド王太子は思っている。

「遅いな? 残務とは何をしているのだ?」

 軍の残務があって遅れている。この嘘をアーノルド王太子は信じていた。

「……恐らく、リオン様は今日は無理ではないかと」

 さすがに誤魔化し続けるのは不味いかと思って、キールは正直なところを話した。

「そうなのか?」

「リオン様は街の外におります。戻りがいつになるか分かりません」

「……それはどこに?」

「……襲われた村を回っております。調査と言っておりましたが、恐らくはそれは口実だと思います」

「口実だと? それは何の為だ?」

 ここに来ない為の口実だと思って、アーノルド王太子の口調にわずかに苛立ちの色が混じった。

「……助けられなかった事への謝罪の為かと」

 少し躊躇いながらも、キールは口にした。この場に居る者たちへの批判とも受け取れる内容だったからだ。それを口にしたのは、キールの中にもそういう批判の気持ちがあるからだ。

「そんな……」

 案の定、アーノルド王太子はショックを受けている。だがこの反応はまだ良い。ランスロットやエルウィンは、黙ったままだが、その顔には苦々しい表情が浮かんでいる。批判と受け取っても、それに対し反省する気持ちがないのだ。

「先程申し上げました。あの方は、人が嫌いでありながら人に優しい。二つの異なる性格を心に宿しているのです」

 キールは真実を言葉にしている。真実とは知らないままに。

「そうか……」

 アーノルド王太子の反応を見て、思っていたよりもマトモな人間だとキールは内心で思っている。リオンたちが、バンドゥの者たちに冷たく接しているのは関わりを深めてはいけない理由があるからで、それには恐らく、アーノルド王太子も絡んでいるとキールは睨んでいた。
 話に聞いた事情から、二人がアーノルド王太子を、この場に居る者たちを恨んでいる事は明らかだ。王国の王太子と侯家の人間たち。これに逆らう事は王国に逆らうのと同じ。それをリオンたちはやろうとしている。そして、それを行っても失敗する覚悟を持っている。
 だからこそ、二人は他人とあまり関わりを持とうとしない。関わりを持つことで、周囲を巻き込む事を恐れている。そうキールは考えていた。
 それでも、キールはリオンに従おうとしている。それが、自分に生きがいを与えてくれたリオンへの、キールなりの恩返しだった。

 

◆◆◆

 ハッカータの領主館で話題の中心となっているリオンは、キールが考えた通り、襲われた村を訪れ、遺族に対しての謝罪をして回っていた。
 それと共に遺体の埋葬と荒れた村の整理も。これは兵たちに命じてやらせている。
 この事への感謝はほとんどない。村人たちの多くは、家族や知り合いを失った悲しみを、謝罪に来たリオンに怒りとしてぶつける事しか考えられなかった。リオンが何者であるかは関係ない。悲しみをわずかでも癒やす為に、そんな行動を取る事しか出来なかったのだ。
 リオンは何も言い訳することなく、村人たちの罵倒を受け止めて、謝罪を繰り返していた。それが何ヶ所か終わったところで、エアリエルが心配そうに声を掛けてきた。

「もう良くないかしら?」

 本来はリオンが謝罪する事ではないのだ。それでリオンがひどく傷つき、落ち込んでいる事が、エアリエルは納得がいかない。

「残りはもうわずかだ。ここで止めては中途半端だ」

「でも、リオンが悪いわけではないわ」

「……本当にそうなのかな?」

「えっ?」

「本当に俺のせいではないのかな? 主人公が活躍するゲームで、これほどの犠牲が出るとは思えない」

 ゲームのイベントにしては、今回のこれは結果が酷すぎる。それをリオンは疑問に思っていた。

「だからって、やっぱりリオンのせいではないわ」

「本来は関係ない俺が介入したからかもしれない」

「それもリオンのせいでは」

 望んで参戦したわけではない。仮にリオンが参戦したせいだとしても、それはそうさせた者の責任だ。だが、この慰めもリオンには届かなかった。

「……俺はやっぱり、不吉な存在なのかな?」

「リオン!?」

 リオンがオッドアイの事をこんな風に口にするのは初めてだった。それだけ今のリオンは弱気になっている。村人たちに罵倒されたからではなく、その前に、多くの犠牲を目にしてしまったからだ。
 人殺しの経験があるリオンも、これだけ多くの人が、それもかなり凄惨な状況で死んでいるのは初めて見た。もしかしたら、これは自分の責任かもしれない。こんな思いが今、リオンの胸に湧いてきている。
 リオンが決して口にする事はなかった思い。ヴィンセントの死の責任は自分にあるのではないかという心の傷口が、ここに来て開いた感じだ。
 今回のイベントはリオンの心に暗い影を落とした。だが、そんな事は世界は気にしない。リオンの意思に関係なく、世界はリオンの為に、次の舞台を用意しようとしていた。