月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

悪役令嬢に恋をして 第39話 悩みの種は新領主

異世界ファンタジー小説 悪役令嬢に恋をして

 カシスたちは、領主であるリオンを測れないでいる。自分たちに良い感情を持っていないのは分かる。そのくせ、朝の日課でどれだけ酷い目に遭おうと、立ち合いの相手をさせる事を止めようとしない。
 盗賊に身を落としたバンドゥの住民たちに過酷な罰を与えた。そう思ったのだが、いざ蓋を開けてみると、食べる物に困らない生活に元盗賊たちは喜び、罰を受けているとは思えないくらいに生き生きと毎日働いている。
 その様子を知って、自ら投降を申し出てくる他の盗賊たちは引きも切らず。バンドゥの地の治安は瞬く間に改善されていった。
 更に投降してきた元盗賊たちの労働力によって領地は活気に溢れ、街道は綺麗に整備され、荒れ果てていた土地は、少しずつではあるが開墾や耕作が進み、きちんとした農地に生まれ変わろうとしている。
 それでも収穫はまだずっと先のことであるので領地が貧しい事に変わりはなく、いつか破綻すると悲観的な目でカシスたちは見ていたのだが、そこに王都から大金が送られてくる事になった。
 バンドゥの地に派遣されていた役人たちが不正に搾取していった金が戻ってきたのだ。すでにその多くは使われていたとはいえ、何十年にも渡って行われていた不正だ。回収出来た分だけでも、相当な金額になっている。それこそ数年は、税収がなくても領地を運営出来るくらいに。
 カシスたちは知らない。王国騎士団監察部が、失態回復の絶好の機会として、本人が死んでいるなら息子や孫、ひ孫であろうと不正蓄財の回収に動いた事を。それが駄目なら親類縁者にまで手を広げて、強引な取り立てを行った事を。
 かくしてバンドゥの財政問題は一気に解決となった。全てリオンただ一人の手柄である。カシスたちにとっては性格面で極めて問題のある人物なのだが、領主としての手腕は認めざる得ないところに来ている。
 そして事はこれで終わりではない。リオンにとっては、これまでの事はあくまでも繋ぎであって、本当の領政改革はこれからなのだ。

「捕らえた盗賊を働かせるというのは悪くない。王国でも鉱山などでの重労働を担っているのは犯罪者だからな」

「その言い方だと現状には問題がある?」

「運用をもう少し考えた方が良い。同じ働かせるなら、もっと効率的に働かせるべきだ」

「効率的に? 労働時間とか環境の問題か?」

「それよりも働かせる場所だ」

「……この地には鉱山はない」

 リオンも本当は鉱山などで働かせたいのだ。人が嫌がる仕事をさせてこそ罪なのだ。今の罪人たちの仕事内容は、そうでない者と何も変わらない。

「そうじゃない。同じ開墾をするにしても、もっと良い場所があるのではって事だ。元々そこが耕作地だからといって、そこが良い耕作地とは限らない」

「なるほど。確かにそれは考えていなかった」

「耕作地に適した場所を探すことをしたほうが良い。一番は水、何箇所か、水場から遠いのに耕作地にしている所があった。あとは土の豊かさとかだが、これは農民のほうが分かるはずだ」

「分かった。すぐに手配しよう」

 という感じで、新しい施策も動き出している。資金が手に入った事もあるが、それを助けてくる人材が加わったのが大きい。
 リオンと話をしているのは、王国学院での知り合い。平民出身の生徒で、ヴィンセントの家庭教師代わりをしていた者の一人、ジャンだ。学院を卒業したジャンは、リオンがダメ元で行った求人、王都の食堂や酒場に人材募集の張り紙を出すという、この世界ではあり得ない方法に応じて、はるばるバンドゥまでやってきていた。
 ジャンだけではない、他にも何人かいる。彼らは皆、職に困っていたわけではない。亡くなったヴィンセントの為に、エアリエルの力になれることはないかと考えての行動だ。
 そういう事なので、彼らはリオンの部下ではなく、食客といった立場でここに居る。

「では次は俺から報告を」

 続けて発言を求めてきたのはオクトだ。オクトも又、ヴィンセントの家庭教師だった一人だ。

「内容は?」

「交易の件だ」

「交易? 産物なんてないけど?」

「そうだが、まずは話を聞いてくれ」

「分かった」

「まず王都で出来る限りこの辺りの事を調べてきたつもりだ。その内容を報告する」

「ああ」

「他国と接しているこの地でどうして交易が盛んにならないか。一番の問題は接している国も又、産物が少なく交易が盛んでないからだ」

「オクス王国とハシウ王国、どちらもそうなのか?」

 バンドゥは二つの国と接している。どちらも貧しい小国で王国の上位貴族領のほうが余程豊かな程だ。

「そうだ。どちらも侵略する価値もないほど貧しい。だから残っているのだ」

 このオクトの話は情報が一部不足している。王国が二国を侵略しなかったのは、ただ貧しいというだけでなく、その手前のバンドゥでの戦いがあまりに激しかったからだ。
 多くの代償を払った結果、王国は貧しい土地を手に入れただけで終わった。唯一の成果と言えるかもしれなかったバンドゥ六党の武も、王国との戦いで大いに削られ、その価値は無きに等しくなっていた。
 この先の二国でも同じような状況になれば、逆に国力を減らすだけ。上層部がそう考えた結果、王国は武よりも外交での威圧を選び、それが成功し、二国は独立していても臣従と同じような立場になっている。
 国境といっても隣国に攻められる事はない。この安心感が、役人が不正を行うようになった原因の一つでもある。

「貧しい国と交易をして、どんな利がある?」

「話はまだ途中だ。交易が盛んにならない理由はまだある。少し南に、この領地に接していない、もう一つの東方との交易路があるからだ。そしてそこは産物も、交易量も多いメリカ王国と接している」

 メリカ王国は、二国ではなく、グランフラム王国と比較するべき大国だ。グランフラム王国が覇を唱える上での最大の障壁と言える国なのだ。

「そっちに全ての物流が集まるわけだ。なるほどな。それを逆手にとって、そちらに流せない物を、うちの交易路に持ってくる」

 そんな相手と真っ向勝負して勝てるはずがない。弱者であるリオンたちの側でやれる事といえば、そこから漏れるものを拾う事くらい。

「おっと、理解が早いな」

「いや、変な商人が居て。ここで商売したいというからどうしてかと思っていた」

「それは闇商人ではないのか?」

「認可は与えた。正式な商人だ」

「……それで税は納めるのか?」

 逆に怪しげな商人に認可を与えた事が不安になる。リオンと裏との関係を彼らは知らないのだ。今後も知らせるつもりはリオンにはない。

「もちろん。正式な商人だからな」

「そうか……それは今は良い。物が流れない理由はまだある」

「まだあるのか?」

「ある意味では、一番の問題だ」

「それは?」

「危ない。バンドゥの地は、周りを幾つもの山に囲まれている。隣国との国境もそう。街道は山と山の間を縫うようにして伸びている」

「盗賊はかなり減ったと思う」

「山に巣食う魔獣が居る。王都で調べただけだが、この地の山地にはかなり魔獣が多く出没するらしい。それを討伐するのもバンドゥ領地軍の役目のはずだ」

「……その役目を果たしていた気配はないな。それどころじゃ無かったと言うだろうけど、言い訳だな」

 相も変わらず、リオンはカシスたちに厳しい。

「街道の安全を確保する事。さらに、こちらの街道を使う利点を作り出し、商人に知らしめる。隣国と調整して、関税を低く抑えるなども一つだな。これが交易に関する対応策だ」

「では、まずは魔獣討伐だな。それが得意そうな奴等には心当たりがある」

「領地軍だろ?」

「まあ、そうだ。という事で討伐計画とそれに必要な費用の算出を」

「我らにお任せを」

 ずっと黙って話を聞いているだけだったカシスが、ここで発言してきた。このままでは、以前と同じ。ただ指示されるままに動く駒になってしまうという危機感からだ。

「出来るのか?」

「事が戦いに関するものであれば」

「なるほど。じゃあ、任せる。作成は急ぎで、ただし、計画は焦らず」

「焦らず、ですか?」

「魔獣の殲滅なんて何十年掛かっても出来るとは思えない。要は旅人を襲わない程度に数を減らす事だ。それも無理しては犠牲を多く出すようでは駄目。少し減らしても魔獣はすぐに増える。それに比べれば、戦える兵士はすぐには育たない」

「……はい」

 こういうリオンの言葉が、カシスたちを混乱させる。非情なのか、温情に厚いのか分からなくなるのだ。正解は非情。兵を大事にするのは、機能としてそれを必要としているから。温情を与えるほどにリオンは、この土地の人たちを信頼していない。

「街道の所々に駐屯所を置くことも考えた方が良いか。魔獣に襲われても逃げ込める場所があると思えば、少しは安心するだろうし、それだけ気を使っていると思ってもらえるかもしれない」

 リオンの意識はすぐにオクトに戻っている。
 
「リオン、君はいつも僕たちを驚かせるな」

「はっ?」

「いや、ちょっとした事なのだが、それでいて効果的な策が出てくる。貧民街育ちと侮っているつもりはないのだが、どうして、このような発想が生まれるのか不思議だ」

「別に。利用者の立場って奴を考えているだけだ」

「利用者の立場……なるほど。参考にさせてもらおう」

 この利用者の立場を考えるという発想自体が、この世界にはそれほどない。酒場は酒と食事を提供するだけの場所、接客態度なんて大抵の店は酷いものだ。娼館の娼婦だって体を提供しているだけという思いがある。プラスアルファのおもてなしなど提供しようと考える者はいない。
 だからこそ王都の貧民街は、本来は人が寄り付かないような不利な場所でありながら、客を集める事が出来たのだ。

「後は、広報活動か。これはまあ、少しずつだな」

 こう口にしながらも、リオンはすぐに始めるつもりだ。少なくとも下地を今のうちから作っておかないと、無駄な時を作ることになる。
 これを口にしないのは、広める相手が非合法な者となるからだ。そこから広めるのが一番早い上に、どうせ隣国にも手を伸ばす予定だったのだ。良いきっかけになる。

「あっ、そうだ。耕作地の件だけど」

「えっ? ああ、ジャンの」

「そう」

「……耕作地が何か?」

 自分の番はすっかり終わりだと思っていたジャンは、いきなり話を振られて怪訝そうな顔をしている。

「領地のあちこちに砦があるみたいだ。そこが耕作地としてどうか調べてもらおう」

「砦を耕作地に?」

「砦だから水の手は確保してあるはずだ。それを農地の用水に利用すれば良い」

「確かに。しかし、生活の場としては不便では?」

「彼らは罪を犯した罰として農作業をしている。不便であるほうが正しい処遇だ。生活に便利な場は真面目で居た者たちのものであるべきだと思う」

「……ふむ。それも道理だ」

 リオンの説明にジャンは納得した様子だ。だが、納得出来ない者もこの部屋には居る。

「あの、ご領主様?」

 代表して声を発するのは、やはりカシスだった。

「何だ?」

「捕らえた者たちを砦に戻すのですか?」

 カシスたちの疑問は当然。こう考える方が普通だ。

「砦の周辺が耕作地として良い場所であればの話だ」

「しかし、それで砦に篭もられては又」

「砦の守りを何箇所か壊しておけば良い。そもそも、食事の供給を止められる事を彼らが望むか?」

「……いえ」

 毎日の食事に困らない生活に慣れた者たちが、それを捨てるはずがない。別に彼らは考えがあって、盗賊をしていた訳ではない。そうしないと食えないから、仕方なく盗賊になっただけだ。

「では問題ないな」

「はい……」

 論破と言えるほどの事もなく、カシスは異を唱えることが出来なくなった。

「さっきも決めた通り、土地の確認は、それに詳しい人を探してやってもらう。その手配を。ああ、それと水の手の確認もきちんとした方が良いな。この二つをまず調べよう」

「よし、次は俺だな」

 又、別の学院の卒業生が報告を始める。経験はないとは言え、全員が、その優秀さを認められて、王国学院で学んでいた者たちだ。
 これまで止まっていた領政が一気に動き出し、色々な事が進んでいく。
 それに取り残されているのは、この地で生まれ育ち、一番、バンドゥを何とかしたいと思っているはずのカシスたち、バンドゥ党の面々だった。

 

◆◆◆

 一日の執務が終わった後。カマークの、ある酒場の建物の一室にカシスたちが集まっていた。
 仕事の鬱憤を晴らす為の飲み会、という訳ではない。酒は口にはしているが、誰もが仕事の文句どころか、一言も口を効く事なく、まんじりとして、それぞれの思いに耽っている。
 しばらく、こんな状況が続いたところで。

「……どう思う?」

 誰にともなく、カシスが問い掛けた。

「優秀さは認める。ロクに経験もないくせに、ここまでやってみせるのだ。この先、成長すれば本気で仕えるに足る主となるでしょう」

 答えを返したのは青の党のキール・ブラウだ。リオンについての話である事は明らかで、評価としては高いものだ。

「ただ優秀であれば良いというものではない。優秀であっても愚王、悪王と呼ばれた者は過去に大勢居る」

 キールとは反対に批判的な発言を行ったのは、黄の党のアペロール・ケルプ。

「性格の事を言っているのですか? そうであれば、その評価はどうでしょう? 非情である事も、上に立つ者には必要な資質。それに彼は、結果として、盗賊にまで堕ちた者たちを救っています」

 アペロールの発言に緑の党のモヒート・グリューンが異を唱えてきた。

「それは分かっている」

 モヒートの発言は、アペロールも認めるところだ。元盗賊たちに食を与えているという事だけでなく、何だかんだでリオンは、未だに一人の処刑者も出していないのだ。

「では、何が不満なのですか?」

「得体が知れない」

「それは、まあ。確かに」

「貧民街育ちである事は分かった。その貧民街で、悪党の親分をしている事も。しかし、どうしてそんな者が貴族になって、バンドゥの領主を任される?」

「それは私に聞かれても」

「確かに魔法はすごい。貴族の地位をもらってもおかしくはない。だが、男爵の身分で領主というのはどういう事だ? 男爵で領地持ちなど聞いたことがない」

 ほぼ第一印象から最悪だった為に、リオンは自分の事を何も話していない。そうでなくてもヴィンセントの事などは人に話したくない。貧民街の件も他人に本来は知られて良いような話ではないのだ。
 もっともリオンが全てを話したとしても彼らの疑問が全て解けるわけではない。リオンも自分が現国王夫妻の息子であるなんて知らないのだから。

「結局はそこなのだ。我らはあまりに領主の事を知らなすぎる。奥方だって只者ではないはずだ。魔法も、そして餞別として母親から送られた金も常識外れだ」

 全員の共通の思いは、カシスのこの言葉の通り。リオンの事が分からな過ぎるのだ。そうであれば、別にこんな話をしないで、表面上だけ臣従していれば良い。リオンはそれが分かっても何も言わないだろう。
 だが、彼らはこうして集まって、悩んでいる。
 得体は知れないが、真に主として仕えようかと思う何かをリオンから感じているからだ。

「白と黒はまだ戻らないのですか?」

 キールがカシスに尋ねてきた。

「先に戻った者から連絡は入った。思いの外、調べる事が多く、予定よりも遅れるという話だ」

「それだけ色々と秘密があるという事か」

「そうであろうな。結局は二人が戻るのを待つしか無いのだ。それは分かっているのだが」

 全く予想していなかった勢いで物事が進んでいく。それをただ見ているだけでは、リオンに完全に見捨てられる事に成りかねない。この焦りが、このような会を彼らに開かせていた。

「もう少し話を聞ける機会があれば良いのですけど」

 このモヒートの言葉も共通の思い。

「鍛錬の時に何か聞けた者は居ないのか?」

 これを周りに聞くアペロールは何も聞けていないという事だ。それは他の者も同じ。唯一人、カシスだけが、少し考えてから口を開いた。

「これに何の意味があるのか分からんのだが」

「何か聞いたのか?」

「騎士団長を倒すつもりのようだ」

「何!?」

 カシスの発言にはアペロールだけではなく、全員が反応を示した。彼らにとって実に興味深い発言なのだ。

「口ぶりから、戦った事があるように思えたな」

「……王国と敵対、いや、そんなはずはない。そうであれば領地など任されるはずがない」

「その通りだ。逆に騎士団長と親しいという可能性も考えた」

「なるほど。師弟関係でいつか師を倒すというところだな。あり得るな」

「いや。無いと判断した」

「何故?」

「剣が王国のそれではない。真似ては居るが、基礎が全く為っていない。近衛か王国かは分からんが、騎士団長に師事していては、あんな剣にはならん」

「確かにそうだ。あまりに荒削り過ぎる。騎士団長どころか、あれは誰にも習っていないな」

 ここに居る者たちは、誰もがかなりの実力を持った武人だ。嘗ての力は失ったとはいえ、その武で王国を苦しめたバンドゥ六党の党首なのだから、それも当然だ。そんな彼らから見ると、リオンの剣は子供のちゃんばらと大差がない。

「才能はあるのだ。あの目の良さは異常だ。素人同然の相手に、何度剣を合わせられた事か」

「それは俺もだ。あれだけ見切られると、ついムキになってしまう」

 アペロールの言葉に全員が頷いている。リオンが痣だらけになる理由は実はこれだった。
 本人は自覚していないが、リオンの動態視力はかなり優れている。そのおかげで技術は拙いくせに、相手の剣を避け、相手の隙を見つける事が出来る。
 最初は皆、手加減しているのだが、あまりに剣を打ち込めないので、少しずつ本気を出す事になる。そして、リオンが避けられないくらいになる時には、かなり本気の振りになっていて、それを食らったリオンは気絶するような事になるという結末だ。

「あの才能を騎士団長なんて地位にある者が見逃すだろうか?」

「だとしたら、その騎士団長は飾り物だな」

「そんな相手を倒したいとは思わんだろう。親しくはないのだ」

「となると……」

 一つの可能性が考えられるが、それを口に出来る程の確信は誰もが持っていない。結局、いくら集まって話をしても、結論など出ないのだ。

「やはり事を焦るべきではないな。担ぐべき主かを見極めるには情報が必要だ。二人が戻るのを待とう。なに、先代も先々代も、その前の代から、時を待っているのだ。今更、少し待っても構わないだろう」

 冗談めかしてカシスは言っているが、誰も笑う者はいなかった。
 バンドゥ六党には何代にも渡って、受け継がれてきた想いがある。バンドゥの地を再び、自分たちの手に、というものだ。
 もっとも時を待ってきたと言えば聞こえは良いが、反乱を起こす機会を見つけられずに、ただ世代を重ねてきたに過ぎない。それでも受け継がれてきた想いというものは重いもので、彼らには捨て去る事は出来ない。何とか自分たちの代でという焦りもある。
 そんな彼らの前に現れて、驚くべき才覚を示したリオンは、時のきっかけかもしれない、と思われていた。
 つまり反乱の盟主として担ぐべき人物かどうかを彼らは考えているのだ。
 この結論は今日も出ない。
 黒と白。バンドゥ六党の残りの二人は、リオンの前に姿を見せていない。二人は、カマークどころか、バンドゥにも居ない。リオンについて調べる為だ。
 この二人が戻ってきた時、結論が出るどころか彼らは更に悩むことになる。それをこの時の彼らには分かるはずもない。