ウェヌス王国との間に交渉の余地はない。そうなれば、ゼクソン王国にエステスト城塞を引き渡して次の行動に移る、という風にはならないのがグレンのしぶとさだ。
トルーマン前元帥との交渉を終えてからの数日間、グレンは周りから見れば、惚けているように見えるくらいに考えに沈んでいた。
今もそう。夕食のスープを口に運ぶでもなく、ただスプーンで器を掻き回しながら、宙を見つめていた。
「団長、そんなに落ち込まないでください」
その様子を見て、心配そうにジャスティンが声を掛けてきた。
「……落ち込む?」
「あれ? 勇者を討つ機会を逃して落ち込んでいるのではないのですか?」
「ああ、それに落ち込まなかったと言ったら嘘になるけど、今は別のことを考えていた」
「別のこととは?」
「この城塞をどちらに引き渡すべきか」
「えっ?」
驚いたのはジャスティンだけではない。その場にいる全員が驚いてグレンを見詰めている。
「何? 何か変なこと言ったか?」
「ウェヌスに渡すという選択肢があるとは思いませんでした。それで何を得られるのですか?」
健太郎の首は無理。そうなれば、ウェヌス王国にエステスト城塞を引き渡す意味はないと、ジャスティンだけでなく皆が思っていた。
「得られるというか、勇者を引き寄せることが出来ないかを考えていた」
「……アシュラムに向かったのですよね?」
「そう。その戦いにはウェヌスが問題なく勝つとして次にどう出るかなと」
「ゼクソンと再戦なんて選択をウェヌスはするのですか?」
そんな気にならないほどの打撃を自分たちは与えたとジャスティンは思っている。その通りだ。だからウェヌスはゼクソンとの交渉を行っているのだ。
「城塞をゼクソンに引き渡したら可能性は限りなく低くなる。でも、ウェヌスが城塞を手に入れたらどうなるか。それを考えていた」
ゼクソンに戦う気がないなら、ウェヌスをもう一度その気にさせる。グレンはこれを企んでいる。
「……どうなるのですか?」
「結論はまだ。結論が出ないから悩んでいる」
「アシュラムにそのまま侵攻するとは考えないのですね?」
「負けたら分からない。でも勝ったら恐らくはしないと思う」
「どうしてですか?」
負けて引くのであれば分かるが、どうして、その逆の勝てば引くという考えに至るかがジャスティンには分からない。
「勝ち逃げ。勇者はそれを選ぶと思う。勇者というより、勇者軍だな」
「……その勝ちで、ゼクソンとの負けと相殺ですか」
「相殺じゃないだろうな。負けたのは騎士団、唯一、勇者軍だけが勝った。そうなると思う」
グレンは勇者軍の上層部を軍人ではなく貴族として考えている。それも自己保身しか考えていない貴族だ。
「では、ゼクソンとも戦わないのではないですか?」
「そこは、俺がどこまで評価されているかだな。俺がいなければゼクソンに勝てるなんて思ってくれれば、戦う可能性が出てくる」
「絶対にそう思いますよ。そうなるとウェヌスに城塞を引き渡すわけですね」
「そうはいかない。それをすれば、ゼクソンは俺に兵団なんて渡さないだろう。そうなると俺は勇者と戦おうにも兵がいない。単独で討つ機会があるかを考えていた」
「あの、どうしてそうなるのですか?」
このグレンの考えもジャスティンは分からなかった。
「どうしてって、そうなるだろ?」
「自分たちはゼクソンの兵士ではありませんが」
銀狼兵団の半数以上が、ゼクソン王国の兵士ではない。国民でもない。ゼクソン王国に戻る必要はないとジャスティンは言ってるのだが。
「そう。だから城塞をどちらかに引き渡した時点で、銀狼兵団は解散になる」
「「「えっ!?」」」
「何? また変なこと言ったか?」
「どうして解散になるのですか?」
「養えない。それに元々、ウェヌスに帰ってもらう予定だったから。ああ、ゼクソンの人は当然、ゼクソンに戻る」
「養えないは分からなくないのですが、帰るというのは?」
「ウェヌスに戻るってこと」
グレンは捕虜とされていた人たちを全てウェヌス王国に返すつもりだ。
「自分たちはウェヌス軍と戦ったのですよ?」
「そんなのばれるはずがない」
「いや、ばれますって」
「ずっと捕虜だった振りして帰ればいい。交渉となれば、捕虜の返還も条件に入るはずだ。いや、城塞を引き渡す条件として講和条件に入れさせる。それに紛れれば良いだけだ」
ゼクソン王国での軍歴など残っていない。全員が知らぬ存ぜぬで押し通せは、ウェヌス王国には分からない。
裏切るとすれば捕虜のままでいた者だが、そういう者は帰すことなく、そのまま強制労働をさせておけばいい。そういう非情さをグレンは持っている。
「……まさか、最初からそのつもりで?」
「当然。俺はゼクソンが戦う気がある間だけ、ゼクソンに協力するつもりだった。そして、ある程度勝てばゼクソンが講和に移るのも分かっていたからな。俺だけ自由の身で、他の人がまた捕虜に逆戻りじゃあ、不公平だろ?」
「…………」
「やっぱりそうだな。戦場でたった一人では無理だ。そうなるとゼクソンか。でも、それだと工夫がないな。他にないか……」
これでジャスティンとの会話は終わりと、自身の思考に引き籠ろうとしたグレンを、今度はセインが遮った。
「団長!」
「何?」
「解散なんてする必要はありません。このまま兵団を率いれば良いじゃありませんか?」
「そういうわけにはいかない。さっきも言った通り、養えない。それに、本音を言えば、皆が母国に戻りたいはずだ。家族がいる。恋人だっているかもしれない」
「それは……」
セインにも家族がいる。会いたいと思う気持ちは持っている。
「誰かが残ると言い出せば、帰りたいとは言いづらくなる。募兵の時と逆だな。人は流されるものだ。その場の雰囲気で意見を左右されてしまう」
「しかし……」
「仮に付いて来るとしても、それは帰る場所もない人だ。そういう人は仕方ないよな。それこそ放り出すのは可哀想だ」
「そういう者だけ許可すると?」
「まあ」
「そうですか……」
今度はセインがじっと考え込んでしまう。セインだけではない。周りで二人の話を聞いていた者たちの多くが考え事を始めた。
話し掛ける者がいなくなり、今度こそ考えを纏めようとしたグレンだったのだが、それをまた、邪魔する者が出る。
「団長!」
「……今度は何?」
「ゼクソン王国のヴィクトリア殿下が参られました」
「……嘘だろ?」
まさかの来訪者にグレンは驚いている。
「本当です。城砦の門の前にいらしてます」
「同行者は?」
「男性が一人同行しております。誰かは分かりません」
「つまりシュナイダー将軍ではない?」
「はい。文官のように見えます」
「……明日とは言えないよな。追い返せないようにワザとか」
いきなりの来訪は断る機会を与えない為だとグレンは考えた。強引さは相変わらずだ。
「如何いたしますか?」
「野営しろとは言えないだろ? 良いよ。執務室に通して。それと部屋の用意も。飾る必要はない。清潔にだけはしておいてくれ」
「はっ」
「……何を企んでいるのか。まあ、会ってみれば分かるか」
◆◆◆
グレンが執務室に入ると、すでにヴィクトリア殿下はソファーに座っていた。その後ろに立ったままでいる男。グレンも良く知っている諜報機関の人間だ。
「ああ、貴方でしたか」
「お久しぶりです」
「本当に? 実は側にいて見張っていたとかないですか?」
「そうしていれば良かったと、今は反省しております」
「……何だか、すみません」
暗に誰にも知らせないでエステスト城砦を落としたことを非難されているのだと思って、グレンは素直に頭を下げた。
「謝って頂く必要はございません。領内の戦いが決着したことで全てが終わったなどと考えてしまった私共が未熟なのだけです」
「ではお互い様という事で」
それで男との話しは止めて、グレンはヴィクトリア殿下の前に腰掛ける。ヴィクトリア殿下は、一応は戦場ということで気を使ったのか、割と質素な白いドレス姿だった。
「わざわざ、このような場所にお越しとは。どの様なご用件ですか?」
「ハインツでは話が進まないようですので、私が参りました」
「ヴィクトリア殿下でも同じだと思いますが?」
誰が来ようと情勢が変わらなければ同じことだ。
「……そのように言われると思いました。今回は兄からかなりの権限を頂いております。グレン殿の要求は、この場で判断致します」
「それは大権ですね。しかし要求と言われても、すでにお伝えしたことが全てです。改めて、お伝えすることはありません」
グレンがゼクソン王国に求めるのは戦争の継続だ。それ以外の条件をグレンが提示することはない。今はだが。
「あくまでもウェヌスと戦うのですか?」
「はい」
「しかし、我が国はもう講和交渉に入っていますよ。グレン殿が一人で頑張っても」
「それを何とかする方法を考えております」
「方法は見つかったのですか?」
「いえ。まだです」
「……もう、無理だと思います。勇者は去りました」
ヴィクトリアも情勢は確認した上で、この場に来ていた。
「そのようですね」
「知っていたのですか?」
「はい。ウェヌス側から聞きました。アシュラムとの国境に向かったようですね」
「そんなことをウェヌスは話すのですか?」
ほとんど形だけとはいえ、今も戦争中の相手に自国の軍の動きを話したのだ。かなり非常識だとヴィクトリアは思った。
「話しましたね。まあ、相手はトルーマン前元帥閣下ですから。あの方はそういう方です」
「…………」
トルーマン前元帥の名が出たことで、ヴィクトリアは続ける言葉をすぐには見つけられなかったようだ。じっと黙ってグレンを見詰めていた。
「私が会ったウェヌス側の使者を知らなかったようですね?」
「ええ。それで何を言われたのですか?」
「交渉内容を明かせと?」
「……はい」
この要求もかなり非常識だ。
「別に構いません。ただ、これはトルーマン前元帥の言葉ではありません。同行した外交担当の文官からの言葉ですが」
「その方は何と?」
「エステスト城塞を明け渡せば、ウェヌス王国でしかるべき地位を約束すると」
「……それは嘘ですね」
ヴィクトリアの顔には更なる動揺が広がっている。土台無理なのだ。化かし合いでヴィクトリアがグレンに敵うはずがない。
「言われたのは本当です」
「ですが、それをウェヌスが守るはずがありませんわ」
「そうかもしれません。しかし、守るかもしれません」
「守るわけがありません。捕えられて、処罰を受けるだけですわ」
「そうでしょうか? ウェヌス騎士団は今回、更に大きな損害を出しました。これで勇者がアシュラムに勝利などしてしまえば、勇者は更に図に乗って、軍内での地位を強くするでしょう」
「それとグレン殿に何の関係があるのです?」
「しかるべき地位とは、勇者を牽制する役目。つまりウェヌス騎士団側に立って、勇者に対抗しろということです」
「……でも、それでは」
ヴィクトリアは何とか反論しようとしている。
「それでは?」
「……ウェヌス軍と戦うことは出来ません」
「分かっていて、それを言っていますよね? ちょっと苦しい発言です」
グレンに対しては、全く反論になっていなかった。
「……勇者さえ倒せれば手段は問わないというのですか?」
「はい。別に戦争でなくても、国内の権力争いでも自分は構いません。要は、勇者を殺せれば良いのですから」
「でも」
「それに最近は殺さなくても良いかなと思っています。大将軍になどなって、浮かれている勇者を追い落として、全てを奪う事の方が余程、勇者は堪えるのではないかと」
「…………」
グレンに反論の芽をことごとく潰されて、ヴィクトリアは何も言えなくなってしまった。
「説得の材料はまだありますか? ないのであれば、お帰り下さい」
「……まだ話は残っています」
「何でしょうか?」
「交渉材料はないかもしれません。それでもゼクソンに残って下さい」
これは交渉でもなんでもない。ただのお願いだ。とはグレンは考えない。
「それワザとですか?」
「…………」
ヴィクトリアの小さな企みは、あっさりとグレンに見破られていた。
「議論は城塞をどちらに渡すかです。ゼクソンに残るかどうかは話し合いの上に乗っていません。仮にゼクソンに城塞を渡したとしても、自分がゼクソンに留まるかは別の話です」
「……城塞を明け渡してください」
「はい。まずはそこです。それに対する答えは、まだ決めていません。以上です」
「…………」
全く取りつく島もないグレンの態度に、ヴィクトリアの眉が顰められる。
「別に嫌がらせではありません。本当に決め切れていないのです」
「……交渉が行き詰まっています。ウェヌスは。まだ城塞の所在は定かではないと言って、交渉条件を詰めようとしません」
グレンとの交渉は無理だと、ようやく分かって、ヴィクトリアは本音を話し始めた。つまり、ゼクソン王国はウェヌス王国との交渉においても追い詰められているのだ。
「先走って講和を始めるからです。それはウェヌス側もはっきりと言っていました。足元を見ていると」
「その通りです。城塞以外の条件をまずは提示しろと。それを合意出来るか、まずは議論を進めるべきだと」
「そうしてゼクソン側の出せる条件を全て出させて、じっくりと考えて取捨すると。交渉事ではウェヌスが上手だとは思っていましたが、思った以上にやられていますね」
ゼクソン王国には優れた文官がいない。こんなところで、国力の全てを軍に偏らせた弊害が出ている。
「……これで城塞もグレン殿もウェヌスに付くとなれば」
「講和交渉そのものが無になる?」
「はい……」
「無にすることは出来ないのですか?」
「出来ません」
「出来そうだけどな。まあ、それは分かりました。それと交渉の状況も分かりました。分かりましたが、自分はまだ結論を出せません」
行き詰まっているのはグレンも同じだ。次の一手がなかなか決まらない。
「結論を出して頂きたいのです! お願いします! ゼクソンに残って下さい!」
「……また条件を一段上にされました。それは良いとして、今はまだです。少し待ってください」
「待っていて、良い方向に進むのですか?」
「それはお約束出来ません」
「…………」
ヴィクトリアの顔に不満げな表情が浮かぶ。グレンは初めて、ヴィクトリアに本当の感情を見た気がした。
「とりあえずは、一度お帰り頂けますか? 自分もまだ考えが纏まっていませんので、今は何を言われても結論は出ません」
「……では、結論が出るまでお待ちします」
「どうぞ」
「ここで待たせて頂きます」
「はい?」
まだヴィクトリアは諦めていなかった。
「ここで待たせて頂きます。何日でもお待ちします」
「……それは不味いのでは?」
「何がですか?」
「国を離れていて良いのですか?」
「構いません」
「……そうですか。でも」
「待ちます。それに今日はもう帰れません。まさか、夜の闇の中で国境を越えろと?」
こんな言い方をされると、わざわざ帰れない時間を狙って、ここに到着したようにしか思えない。
「……謀られたような気がするのは?」
「気のせいです」
「そうですか……まあ、今晩については、そうなるだろうと準備はしておりますので」
「そう。では、まだお話は出来ますね」
「……はい?」
交渉事が終わった後は、何だかグレンのほうが押され気味だ。
「まだお休みになるには早いですよね?」
「まあ……」
「荷物を部屋に運んでいただけますか?」
「はい」
「グレン殿ではなく、彼にお願いしたのです。部屋への案内はお願いしたいと思います」
ヴィクトリアは席を立とうとしたグレンを引き留めて、同行した男性に荷物を運ばせようとする。
「ああ、では」
それではと部屋に案内するために席を立とうとしたグレンだが。
「他の方に」
それも制されてしまう。
「……部屋の外に控えているはずです。その者に」
グレンは口実を作って、この部屋から逃げ出すことを諦めた。
「分かりました。では、ヴィクトリア殿下、先に部屋に入っておりますので」
「ええ。お願い」
グレンの中でまずます不審感が広がっていく。男の態度は始めから、そうすることを決めているかのような、それだった。
荷物は運んでも戻ってくるのが普通なのだ。何と言ってもヴィクトリア殿下は王妹という立場なのだから。
グレンのそんな思いを気にする様子もなく、男は出ていく。そして部屋に残ったのは二人だけになった。
「……何を考えているのですか?」
「二人だけで話をしたいと思いました」
「何故、二人になる必要が?」
「二人ではないと話せない内容ですから」
「……では、どうぞ」
「ゼクソンに残って下さい」
ヴィクトリアの口から出たのは、これまでグレンが何度も聞いた台詞だった。
「それにはお応え出来ません」
「残る気はないのですよね?」
「……分かっていて、しつこく言い続けたのですか?」
「では、せめて城塞をと言いたかったのですけど、グレン殿がそう言わせてくれないので」
「……それも先ほど、お答えしました。結論は出ていません」
「その結論を出して頂きたいのです」
これでは先ほどまでの交渉と何も変わらない。
「……何故、そこまで?」
無駄なことを繰り返そうとするヴィクトリアの気持ちが、グレンは気になった。
「私が交渉出来るのはこれが最後でしょうから」
「……分かりません」
「きちんと代償はお支払い致します」
「代償?」
「……私を差し出します」
「それ、前も聞きました」
戦争が始まる前のことだ。グレンを引き留めるための嘘。嘘であることを指摘した上で、グレンはきっぱりと断っている。
「そうではありません。今、この場所で、私を……その……好きにしてください」
「……はっ?」
「全てをグレン殿にお渡しすることは出来ません。私はそれが許される立場ではありません。ですから、せめて、私自身を……そう思いました」
前回とは異なっていた。ヴィクトリアは少なくとも体は、本当に差し出すつもりだ。
「正気ですか?」
「正気って……私は本気です」
「ご遠慮いたします」
「そんなに私はグレン殿にとって、魅力がないですか?」
体を差し出す覚悟を見せているのに、グレンは受け入れようとしない。交渉に関係なく、その態度がヴィクトリアは不満だった。
「はい」
「…………」
魅力がないと肯定されて、ヴィクトリアは言葉を失ってしまう。
「一応言っておきますが、外見ではなく、中身がです」
「……そんなに私は性格が悪いですか?」
「性格というか、それ以前に偽物ですよね? 自分は女性に対して堅いということはないのですけど。どちらかと言うと逆ですね。それでも偽物を相手にする趣味はありません」
「偽物?」
「はっきりと聞いて良いですか?」
「……どうぞ」
「貴方は女装した男性なのですか? それとも男装の女性?」
「……どういう意味でしょうか?」
ヴィクトリアの瞳が大きく見開かれた。驚きを見せながらも、ヴィクトリアはグレンに発言の意味を尋ねてくる。
「あれ、まだ惚けますか。では、もっとはっきりと。貴方はヴィクトリア殿下なのですか? それともゼクソン国王ヴィクトル様なのですか?」
「…………」
答えはないが、否定の言葉も出ない。
「双子なんて嘘ですよね? 貴方はその時々によって、ゼクソン国王になったり、ヴィクトリア殿下になったりしている。本当の貴方はどちらなのですか?」
「……何故、分かったのですか?」
口調はヴィクトリアのままではあるが、眉間に寄せられた不機嫌そうな眉は、グレンがよく知るゼクソン国王の表情だった。