月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #55 第五百回くらい精霊会議

異世界ファンタジー小説 四季は大地を駆け巡る

 ドュンケルハイト大森林の外縁も外縁。出口にあたる場所にヒューガたちは立っている。今日はいよいよエアルたちが出立する日なのだ。
 旅支度を整えたエアル、ハンゾウたち十一人は彼等が大森林に入るときに使った隠し通路から外に出て行くことになっている。
 ハンゾウたちは結局全員で行くことになった。状況を報告する人員が必要ということ、だけでなく仲間の居場所が分かった場合、速やかに接触する必要があると判断したからだ。
 傭兵王に通じている裏切り者は一人とは限らない。出来るだけ早く動くことが、仲間の命を救うことになる。実際にどれだけの仲間の行方が分かるかは不確定であるだが、出来るだけの備えはしておくべきと考えた結果だ。

「じゃあ、皆、くれぐれもエアルを頼む。エアルは皆の言うことを良く聞いて勝手な行動をしないように」

「私、子供じゃないわよ」

「子供みたいなもんだろ? とにかく皆くれぐれも無理はするな。無事に帰ってくること。それが一番大事だからな」

「「「「はっ!」」」」

 ヒューガの言葉に声を揃えて応えるハンゾウたち。

「じゃあ、行ってくるわ」

「ああ」

 それに遅れて、エアルもヒューガに出発を告げる。

「…………」

 だがエアルは出発を告げても、動きだそうとはしなかった。じっとヒューガを見つめている・

「何だよ?」

「私がいない間に変な女に手を出したら許さないから」

「はあ? 僕がそんなことするはずないだろ?」

「冗談よ。ちょっとこういう台詞を言ってみたかっただけ。ヒューガを束縛する権利は私にはないわ」

 今のエアルは赤い髪、そしてエルフの特徴である耳を隠すために頭にターバンのように布を巻いている。更に口元を隠して一見女性とは見えないようにしているのだが、隙間から見える目だけで美人だと分かってしまう。
 そのエアルの切れ長の目がじっとヒューガを見つめている。

「……あるよ」

「えっ?」

「エアルには僕を束縛する権利がある」

「……馬鹿」

 小さくつぶやくエアルが可愛くて、ヒューガは無意識に彼女に向かって手を伸ばしてしまう。

「えっと、そろそろよろしいですかな? 離れ離れになる寂しさは分かり申すが、先の旅程も詰まっておりまする」

 それを邪魔したのはハンゾウの言葉。その言葉に我に返ったヒューガは急に恥ずかしくなってしまった。

「あっ、ごめん。じゃあ、皆。気を付けて!」

「「「はい!」」」

 崖に空いた岩の裂け目。そこに皆が次々と入っていく。ヒューガ自身は入ったことがないのだが、入り口の狭い場所を抜けると、割と中は広いと聞いている。
 そこを通って先に進むと、洞窟は少しずつ狭くなっていく。やがて立っていられないくらいの狭さになるのだが、さらにそこを進んでいくと、草木に囲まれた小さな滝の裏側に出るのだ。
 人工的に作られたものか自然にあったものなのかの答えは誰も持っていない。だが、そこにエルフの結界が張られていることを考えると、何らかの手は加えられているのだろうと思える。

「さて、そろそろ戻りませんか?」

 じっとエアルたちが入っていった裂け目を見つめていたヒューガに、カルポが声を掛けてきた。

「……そうだな。戻ったらすぐにこれからのことを話さないと」

「ええ。暫くは二人ですからね。忙しくなりそうです」

 

◆◆◆

 カルポと二人、ヒューガは拠点に戻ってこれからのことを話し合う、予定だったのだが、それは思わぬ存在に邪魔されることになった。

「ではこれより精霊御前会議を開くのです」

 ルナがはりきって会議の議長を務めようとしている。しかも、ヒューガの知らない会議名まで定めて。

「えっと、ルナ。その御前会議ってなんだよ?」

「王の前の会議だから御前会議なのです」

「まあ、そうだけど……あと、ルナ?」

 王であるヒューガの前で行われる会議。確かにルナの言う通りである。だがヒューガには、もう一つ気になることがある。

「何なのです?」

「その口調……いつからそんな言葉づかいするようになったんだ?」

 ルナの口調がおかしいのだ。

「今日からなのです」

「なんで?」

「ルナたちも色々と考えたのです。皆、成長してるのです。だからルナたちも成長しなければならないと考えたのです。大人への一歩はまず言葉づかいから。ルナたちは敬語を使うことにしたのです」

「敬語? ただ『です』を付けてるだけじゃないか?」

「ですますは敬語の基本なのです」

 この知識の元はヒューガの元の世界での記憶。だが間違って読み取ってしまったようだとヒューガは考えた。これは知識ではなく過去の記憶。日本に移住したばかりの頃、自分がこんな話し方をしていたことをヒューガは思い出した。

「……前に精霊がついている理由は?」

 ルナはただの御前会議ではなく、精霊御前会議だと宣言していた。精霊をつける理由がヒューガには分からない。

「ルナたちは定期的に会議をしてたのです。それが精霊会議なのです。精霊会議を王の前でやるから精霊御前会議なのです」

「会議って、もしかして三人で?」

「そうなのです」「ん」

 ゲノムスの口調は以前のまま。それにヒューガは少しホッとした。口調というより、極端に口数が少ないだけだが。

「ちなみにその精霊会議って何回目?」

 三人で集まって何を話していたのか。ルナたちにことだから集まって話していれば、すべて会議としているのではないかとヒューガは考えている。

「この間までは第三回だったのです。でも今回は第五百回くらいなのです」

「……なんで急に増えるんだ?」

「ルナたち以外にも会議をしていた者がいるのです。でもルナたちの会議が正式な精霊会議と認められたのです。だから、これまでの分も回数に付け加えたのです」

「それが五百?」

 やはりただ集まっていればそれで会議なのかと思ったが、ルナは「正式な精霊会議と認められた」と言った。きちんとしたものなのかもしれないが、そうなると今度は五百という数が多すぎるとヒューガは思う。

「適当なのです。誰も数えてなかったのです。ずっと昔からなのでそれくらいの回数はいってるはずなのです」

「……そう。あとルナ、その『です』って、やっぱり止めないか?」

「駄目なのです」

「なんで?」

「大人の道以外にも理由があるのです」

「何だろう?」

 おかしな敬語を使う理由が他にもある。ヒューガにはそれが何かまったく見当がつかない。

「ルナたちはディアに似てるのです。しかもどうやら口調まで。そうなるとルナたちとディアはキャラがかぶるのです。どっちが話しているか分からなくなるのです」

「……分かるよな?」

「読んでる人には分からないのです。ちなみにナツとセレネとエアルもキャラかぶってるので気を付けた方が良いのです」

 読んでる人って誰だ、という疑問は横に置いておいて、確かに三人の口調は似ているとヒューガは思った。違いがあるとすれば……夏は自分を「あたし」と言う。セレはヒューガを「貴方」という、エアルは時々口調がデレる、それくらいだ。

「そういうことなのです。違いが分かりましたか?」

「誰に話しかけてんだ?」

「内緒なのです」

「……それで? ルナたちの議題は何なんだ?」

 会議の名称はなんであれ、まだ何も話し合われていない。ルナは何を話したくてはりきっているのかをヒューガは尋ねた。

「やっと会議が始まったのです」

「だから議題」

「エアルとハンゾウとサスケとサイゾウとセイカイとイサとコスケとカマノスケとジュウゾウとロクロウとジンパチは外に出て活動を始めたのです」

「……エアルたち、もしくは皆じゃあ、駄目なのかな?」

「彼らの名前は全然呼ばれてないのです。可哀そうなのです」

「……そう」

 ルナのこだわりが良く分からない。

「そこでルナたちも外での活動を本格化させようと思っているのです」

「外での活動を本格化? その言い方だと既に活動を始めてるみたいだ」

「始めているのです」

「また勝手に……それで何をしてたんだ?」

 ルナたちの活動範囲は大森林外にまで及んでいた。ただ何故、大森林外での活動が必要なのかが分からない。

「大森林の外の精霊と繋ぎをつけてたのです」

「何の為に?」

「外のエルフと連絡を取る為なのです」

「えっと……連絡を取ってどうするつもりなんだ?」

 実際には聞かなくてもルナの答えはヒューガには分かった。それでも質問にしたのはカルポにも聞かせる為だ。

「呼び戻すのです」

「やっぱり……」

 ヒューガの予想通り、すでにルナたちは大森林の外にいるエルフたちを呼び戻すことを考えていた。

「外にいるエルフたちは可哀そうなのです。これまでは大森林も安全ではなかったのです。でもルナたちの頑張りのお蔭で大森林は良い場所になってきたのです。今なら外にいるよりは良いと思うのです」

「そうだな」

 確かに大森林は以前とは違う。ルナたちが頑張って結界は張ったことで、居住空間は広がっている。だがそれで十分であるのかはヒューガには分からない。どれだけの数のエルフが大森林の外にいて、その中のどれだけが戻ろうと考えるのか、分からないのだ。

「どれくらいの数になるとルナは思う?」

「わからないのです」

「そうだよな。もしかしたらこの拠点では狭いかもしれない」

 西の拠点の現状を考えると、そこよりは少し広いこの東の拠点の収容可能数は百八十というところ。すでに七十人ほどが暮らしていて、そこに春の母族とハンゾウたちの仲間が加わることが予定されている。
 それがどれくらいかさえ、見当がつかないのだ。

「南の拠点も開くのです」

 大森林には三つの砦跡がある。西は元々ヒューガたちがいた場所。今はセレネたちが暮らしている。今、ヒューガたちがいるのは東の砦。
 そして残る一つが南の砦だ。だがそこはヒューガが知る限り、まったく手つかずであるはず。

「大丈夫か? ルナもゲノムスも色々とやってることがあるんだろ? それで更に新たな拠点の準備なんて」

「大変でもやるのです。ヒューガたちも頑張ってる。ルナたちも頑張るのです」

「ゲノムスも大丈夫か?」

「ん」

 ゲノムスに聞きながらもヒューガはカルポに視線を向ける。ゲノムスが無理をしていないかは結んでいるカルポなら分かるはず。それを確かめようと考えているのだ。
 カルポは軽くうなずくことでヒューガの視線に答えた。大丈夫ということだ。

「ゲノムスも強くなったのです。ゲノムスは先輩がその座を譲ってくれたので、今では土の精霊のえらい人なのです。土の精霊の多くはゲノムスを手伝ってくれるのです」

「……そうなのか。すごいなゲノムスは。もしかしてイフリートも?」

「イフリートはまだなのです。イフリートの先輩は強いのです。その先輩に勝たないと認めてもらえないのです。でももうすぐだとルナは思うのです」

「さっきから先輩って言ってるのは誰のことなんだ?」

「ゲノムスの先輩はノーム。イフリートの先輩はサラマンダーなのです」

 エレメンタルの二人だ。聞く前から予想はついていたが、さすがにヒューガも呆れた。精霊の頂点に立っていたはずのでエレメンタル。その座の一つがゲノムスのものとなっている。そしてルナが言うにはイフリートももうすぐだ。
 そんな力をいつの間にかルナたちは手に入れていたのだ、

「……わかった。もしかしてこれは許可を求めてるのかな?」

「そうなのです。領地のことは王の許可を得るべきだとルナたちは思うのです」

「じゃあ、許可する。大変だろうけど頑張ってくれ」

「頑張るのです」「ん」

 これで南の拠点を開くことが正式に決まった。その為にルナたちは本格的に動き出すことになる。

「他に議題はあるか?」

「議題ではないですが、報告があるのです」

「報告?」

「大事な報告なのです」

「……分かった。話してくれ」

 何故、大事な報告を改めてこの場で報告するのか、ヒューガは不思議に思った。重要であればあるほど、ルナは即時に知らせてくるはずなのだ。

「ディアの居場所がわかったのです」

「……はい?」

「だからディアの居場所がわかったのです」

「……いつ?」

「……ブロンテースがここに来たとき、なのです」

「どうしてブロンテース?」

「ブロンテースは怒りで我を忘れてディアを襲おうとしてたのです。ルナたちはディアを助ける為にブロンテースを転移させたのです」

「そうか……それは良くやってくれた。ディアを助けてくれてありがとう」

 肝心のブロンテースが何故ディアを襲おうとしたかの説明はないのだが、とりあえずルナに御礼を言うことにした。プロンテースを転移させた件も、結果としてとても良い結果を生み出しているのだ。

「どういたしまして、なのです」

「でも、それって随分前だよな?」

 ブロンテースがここに現れたのは冬になる前。三ヶ月以上前であることは間違いない。

「そう……なのです」

「何で今頃?」

「……忘れていたのです」

「大事な報告って言わなかった?」

「……ごめんなのです」

 しゅんとしているルナ。その仕草を見るとヒューガは怒れなくなる。ルナたちはクラウディアを見つけ、助けてくれた。それで良いとヒューガは思った。

「まっ、別に良いけどな」

「良いの?」

「ああ、もっと前に居場所が分かったからって何かしてたわけじゃない。今、知っても何か出来るわけじゃない。無事でいることが分かった。それで十分だ。ありがとう、ルナ。ディアを見つけてくれて」

「へへ」

 ヒューガに褒められて、ルナの顔に笑みが浮かぶ。

「さて、ルナたちの活躍で新しい人の受入準備が一層大変になるわけだ。時間には余裕があると思うけど、予定よりも規模が倍になるな。実際の作業はそれ以上だ。拠点をもうひとつ一から整備するわけだからな」

「そうですね。どこから手を付けますか?」

「まずは必要なものの調達。シエンさんに手伝ってもらって、その辺の洗い出しを頼む。それが出来たらブロンテースにお願いしなきゃだな。それでまた必要な資材が分かる。それの調達をして……やばい、これ本当に大変だな」

「……そうですね」

「まずは南の砦跡の視察だな。状況が分からないと何も始まらない。セレにも話を通しておいたほうがいいだろう。

 万が一、南が間に合わなかった場合、西の拠点に一時的な受け入れをお願いする可能性がある。ヒューガはこう考えて、セレネに話を通しておこうと考えた。

「お願いするのですか? 元は僕たちの拠点ですよ」

「カルポ、そういう考えは捨てろ。譲ったんだからそれはもう彼等の物だ。カルポは部族の長、人の上に立つ人間だ。カルポのそういう態度は他の人にも伝わる。それがどういう結果になるか、それに最初に気づいたのはカルポだろ?」

 西の拠点での東に対する根拠のないひがみ。それをヒューガに報告してきたのはカルポだ。早い段階でそれに気付けたことで、大きな問題になることは防げた。
 だが今のカルポの発言はそれとは逆。東から西への不満に繋がりかねない。

「すみません。僕の自覚が足りませんでしたね」

「それは僕も一緒。王なんて言われてもな。まっ、お互いゆっくりと慣れていこう」

「はい!」

「……ヒューガ」

 カルポと話し合いを進めているヒューガに、ルナが少し不満そうな声音で声をかけてきた。

「どうしたルナ? まだ何かあったのか?」

「ヒューガはディアがどこにいるか聞かなくて良いのですか?」

 ヒューガはせっかくルナが突き止めたクラウディアの居場所を聞かないままに、カルポと話を先に進めていた。それはルナは不満なのだ。

「あっ、ごめん……教えて」

「んん? これはもしかしてルナの中の順番を変えなくてはいけないかもなのです」

「順番?」

「何でもないのです。ディアは割と近くなのです。イーストエンド侯爵領、それがディアの居場所なのです」

「確かパルスの東の端だな。あれ? ディアと別れた街もそうじゃないか。そんな近くにいたのか……それでディアは何してたんだ?」

「傭兵だと思うのです。魔獣討伐に参加してたので間違いないと思うのです」

「へえ、まあ、ディアも食べてかなきゃいけないからな。その仕事に傭兵を選んだわけだ。強かったか、ディア?」

 クラウディアの選択はヒューガと同じ。お金を稼ぐ商談として傭兵を選ぶことに驚きはまったくない。

「まあまあなのです」

「それはどっちの意味だろう? かろうじて傭兵としては合格って感じ? それともかなり出来るほう?」

「知らないのですか?」

「ディアが戦う姿を見たことないからな。でもディアを僕たちの魔法の先生だから強いことは間違いないか」

「先生? ディアはヒューガの先生なのですか?」

「ああ、僕はディアに魔法を教えてもらったんだ」

「んん? ……そこまでじゃないと思うのです」

 ルナが見る限り、クラウディアはヒューガの先生となれるほどの実力ではない。ただこれは今のヒューガを基準にして考えているからだ。

「ああ、同じ先生でも先生とは……分かりづらいな。ここにいた先生とは違うからな。初歩を教えてくれた先生ってことだ」

「小学校の先生なのですね?」

「……まあ、そんな感じ。さてとじゃあ、カルポ。シエンさんのところに行こうか」

「はい!」

 ヒューガはカルポと共に会議室を出て行った。やらなければならないことがまた増えた。それを知って、ゆっくりとしていることはヒューガには出来ない。
 とにかく役割分担だけでも早急に決めて、動き出したいのだ。結果、精霊御前会議は終了となったのだが。

 

「う~ん」

 その場に残ったままのルナは考え事をしている。ルナにとってヒューガの反応は意外なものだったのだ。

「ルナ、どうした?」

 そんなルナにゲノムスが何を悩んでいるのか尋ねてきた。

「悩んでいるのです」

「何を?」

「順番なのです」

「それ、さっき言ってた」

 ヒューガとの会話の中で出てきた言葉。ゲノムスはきちんと覚えている。

「そうなのです。ヒューガには言わなかったですが、ルナたちの中には順番があるのです」

「何の?」

「ヒューガの大切な人。これまではディアがダントツ一番、エアルが二番、それにやや遅れてカルポとハンゾウ、サスケとサイゾウとセイカイとイサとコスケとカマノスケとジュウゾウとロクロウとジンパチだったのです」

「ルナ、それ長い」

「……さらに拠点のエルフたちが続くのです」

 さすがに残りは「たち」で済ませたルナだった。

「でもディアとエアルの間がかなり詰まってる気がするのです」

 ヒューガのディアに対する想いとエアルに対する想いの距離。それが縮まったとルナたちは感じていた。

「そうかな?」

「ルナが報告を忘れていたのにヒューガは怒らなかったのです」

「それはルナの為」

「それだけではないのです。肝心の居場所を聞くのを忘れてたのです」

「そうだね」

 ヒューガがクラウディアを変わらず大切に思っていることをルナたちは知っている。問題はその「変わらず」なのだ。エアルへの想いが大きくなると、相対的に距離は縮まることになるのだから。

「これは考え直したほうが良いのです」

「考え直したらどうなる?」

「……考えたら何も変わらないのです」

「……ん?」

「ヒューガの大切な人のディアにはルナたちが少し付いているのです」

「少しじゃない」

「まあそうなのです」

 当初、クラウディアを探しに向かったのは半分ほどのルナたち。彼女を見つけたあとも、そのルナたちはそのままクラウディアの側にいる。プロンテースの時のような危険がクラウディアに迫った時に、助ける為だ。
 ルナたちはその後も仲間を増やしたが、それでも三分の一ほどのルナたちがディアの下にいる。少しと言える数ではない。

「エアルがヒューガの一番大切な人になったらディアから少し移ろうと思ったのですが、考えたらエアルにはイフリートがいるのです」

 ルナたちがエアルにつかなくてもイフリートが彼女を守る。ルナたちの出番はないのだ。

「ん」

「ディアもヒューガの大切な人に変わりないのです。だからルナたちは変わらずディアを守るのです。何も変わらないのです」

「ん」

「ヒューガは大切の量が増えたのです」

 エアルへの想いの量だけでなく、想いの数、大切な人の数も増えている。始めはディアとルナたち。それに夏と冬樹、十二人の子供たちだけだったのが、今はその何倍もの人がヒューガの大切な人となっているのだ。

「それは良いこと」

「うん。増えてもヒューガはルナたちを大切に思ってくれてるのです。大切の量も減らないで増えているのです」

「ん」

「ルナたちが顔を見せなくても、ちゃんとルナたちのことを考えてくれるのです」

 ヒューガはどんなに忙しくてもルナたちのことを考えることを忘れない。しばらく顔を見ないと寂しいと思い、元気にしているのかと心配してくれる。それをルナたちは知っている。結ばれているというのはそういうことなのだが、それとは別に気持ちが繋がっていると感じられる。それがルナたちには堪らなく嬉しいのだ。

「カルポも最近そう」

「ルナたちは良い人と結んだのです。ん? う~ん……」

 そう考えるとヒューガと出会うきっかけを作ってくれたセレネにも感謝をしなければならないとルナたちは思った。セレネはヒューガに対して生意気なので、彼女の月の精霊たちも皆、ルナにしてやろうと企んでいたのだが、それは保留にしてやろうと考えた。

「ルナ、悪いこと考えてる」

「そんなことないのです。ルナたちはセレネにも優しくしてやろうと思ったのです」

「ん?」

「話は終わりなのです。ルナたちも働くのです」

「ん」