まだ辺りは暗く、天には星が瞬いている。静まり返った校舎の裏庭。森と見間違うほどに豊かに生い茂る木々の間を、リオンの振る剣の風切音が響いていた。
ここがリオンの毎日の鍛錬の場所だ。
朝の鍛錬は、もっぱら体力づくりと素振りなどの基礎が主なものとなる。一人しかいないのだ。それ以外はやろうにも出来ないというのが実際のところだ。
走り込みから始めて、筋トレに移る。初めの頃は、この筋トレまでで朝の鍛錬は終わってしまっていたのだが、今は数を倍に増やしても、こなすことが出来るようになった。
更に数を増やすことも考えたが、リオンには時間が限られている。三年にも満たない期間で、学院最強であろうマリアを殺す力を身につけなければならないのだ。出来た時間は、実戦で使える技術の取得に当てることとした。
そうはいっても、リオンには実戦が分からない。たまに魔獣討伐を行うなどして、何とか実戦経験を積もうとはしているが、相手はあくまでも魔獣、剣や魔法を使う対人戦とは違う。
何が必要なのかは、ひたすら自身の想像力に頼る事になっている。
色々と考えた結果としてリオンが選択したのは魔法を磨く事。独学では剣の上達は見込めないだろうという事と、自分にマリアよりも優れた点があるとすれば、複数属性を扱える点しかないという考えからだ。
この利点を何とか活かす方法はないかをリオンは考え、試みている。
剣を構えたリオンの周囲にいくつもの光が展開している。よく見れば、わずかに光の色の違いが分かる。やや赤みがかった光は、『サラ』とリオンが名付けた火の精霊、青みがかった光は『ディーネ』。水の精霊の光だ。
属性の色をはっきりと示すことなく、精霊がリオンの周りに集まっているのは、火の力も水の力も使う必要がないからだ。今、行っているのは、簡単に言うとフォーメーションの訓練。動きを確認する為のものなので、魔法として力を発動する必要はない。
自身の魔力を消費しないで、精霊を呼び出す方法、とリオンは考えているが、これは間違い。
普通は魔力を餌にして周囲に居る精霊を集めているのだから、魔法として属性の力を発動しようがしまいが、魔力は消費する。リオンが魔力を消費しないでいられるのは、リオンの精霊たちは、リオンだけに力を貸すと決めて常にリオンの側に居るからだ。魔力を対価とした契約ではなく、友情のような関係だった。この事実をリオンは全く分かっていない。それでいて、こんな関係を築けているのだ。
「サラ、ディーネ。まずはエフワン(フォーメーションワン)だ」
精霊たちにリオンが指示を出す。精霊たちは、リオンが無意識に行っている、こういう行為が好きなのだ。同じ人であるように自分たちに接するリオンの態度が。
指示通りに嬉しそう?に、フォーメンションを組む精霊たち。攻撃役がサラ、防御役がディーネという役割分担で、リオンの周囲をディーネがクルクルと周り、サラがリオンの前面上空に展開する。
フォーメンションが完成した所で、リオンが先にある一際大きな木に向かって突き進む。ディーネは、リオンから離れないように体の周りを動きまわり、サラはリオンの頭上で指示を待つ。
「アタック!」
リオンの号令を受けて、サラが一斉に前方に向かっていく。途中の木々を縫うように進んでいく様は、まるで光の巡航ミサイルのようだ。
目標である大きな木に着弾、といっても燃やわけではなく、周囲に浮かんでいるだけ。それに僅かに遅れて、リオンの剣が木を打つ。
「……タイミングはバッチリだな。後は、魔獣討伐で実際に試してみて」
こんな感じで、複数属性を戦いに使う方法を試しているのだが、これはもう、ただ複数属性を使えるという事ではなくて、魔法の同時展開だ。そこに更に魔法を展開しながら、全くそれに気を取られる事なく、体を動かし、剣を振るっている。
この時点で、一対一の戦いにおいて、リオンに抗えるものは学院内では、ほとんどいないだろう。だが、リオンの倒すべき相手は、この世界の主人公、世界に守られた相手だ。どれほどリオンが強くても勝てる保証を得られる事はない。
それが分かっているリオンの試みは、これだけでは済まない。異世界人の知識を持つリオンらしく、この世界の常識を超える試みを行っていた。
どちらかと言えば、こちらが本命だ。この世界に抗うにはこの世界を超える以外にない。リオンはそう考えていた。
意識を集中というよりは、全力で精霊たちに向ける。リオン相手には滅多に表さない抵抗の意思を宥める為に。
「……頼むから仲良くしてくれ」
更に言葉で自分の思いを伝える。かなり渋々といった雰囲気ながら、了承の意思が伝わってくる。後は具体的なイメージを精霊たちに伝えて。
「氷槍(アイスランス)」
赤と青の光が入り混じり、それが一つになった時、氷の槍が宙に浮かんだ。
「アタック」
空に向かって伸ばしていた腕を振り下ろす。氷の槍は、リオンの指差す先、一本の木に向かって真っ直ぐに飛び、その太い幹を一気に突き抜けた。
「……成功、だけどな」
魔法の氷槍は見事に木に穴を開けている。それでもリオンは不満そうだ。これでは、ディーネ単体での水の槍と何も変わらないからだ。
「だけど、何?」
「えっ!?」
誰もいないはずが、いきなり背中から声が聞こえてきた。しかも、リオンが良く知っている声が。
恐る恐るリオンが振り返ってみれば、案の定、エアリエルが立っていた。
「……お早うございます」
「お早う。リオン」
「何かありましたか? 起きる時間にはまだ随分、早いと思いますが」
「リオンの事だから、どうせ朝早く起きて鍛錬しているだろうと思って、見に来たの」
「……よくここが分かりましたね?」
「何となくよ」
「何となくって……」
「場所が分かって良かったわ。おかげで随分と面白いものが見れたもの」
「……そうですか」
最初から分かっていた事だが、誤魔化しは失敗に終わった。
心の中でリオンは精霊たちに全力で文句を言っている。近づく者が居れば、知らせるようにお願いしていたのだ。それに対して、精霊たちからも、逆に文句のような雰囲気が伝わってくる。エアリエルと会うのはリオンにとって喜ばしいことだ。それに何故、文句を言うのか。こんなところだ。
それを理解した時、リオンにはどうしてエアリエルがここに辿りつけたのかも分かった。精霊たちが協力したに違いない。
「さっきの魔法は何かしら?」
リオンが聞かれたくない質問がエアリエルの口から発せられた。
「水属性魔法の応用です」
「さっきの魔法は何かしら?」
言葉は同じ。だが、これを言うエアリエルの目はやや釣り上がっている。リオンが嘘をついた事を怒っているのだ。
「……水属性と火属性の融合です」
こうなるとリオンはもう、エアリエルに逆らえない。素直に白状した。
「融合? それはどういう事かしら?」
「混ぜるというか、組み合わせるというか。そういう事です」
「……異なる属性魔法を混ぜたの?」
「そういう事です」
「リオン、貴方って……」
リオンの為す事について、エアリエルは大抵の事は受け入れる。実際に複数属性を使えると聞いた時も、全く疑う事なく、そういうものだと受け入れてみせた。
だが、今回のこれはさすがのエアリエルも、リオンのあまりの非常識さに驚いている。
「……すみません」
「別に謝ることではないわ。でも、どうしてそんなことが出来るのかしら?」
「どうして? お願いしてみたら出来ました」
「…………」
リオンを見るエアリエルの瞳が、すっと細められ、冷えたものに変わった。リオンにからかわれていると思ったのだ。もちろん、リオンにそんなつもりはない。
「あっ、えっとですね……仲が悪いのは分かっているので仲直りをさせればうまく行くかと思って」
「…………」
フォローのつもりで、より分かりやすい説明をリオンは考えたつもりだったが、残念ながらエアリエルの機嫌を直すには至らなかった。
「えっと……」
「……もしかして本気で言っているのかしら?」
「もちろん」
「……仲直りって?」
「サラとディーネはお互いに相手の事を好きではないようなので、私が間を取り持って、協力し合うように頼んでいるのです」
「サラとディーネって?」
「私の……精霊って言って良いのでしょうか? 魔法の力となってくれる存在です」
「精霊……そう、リオンは魔力の素を精霊だと考えているのね?」
「いや、精霊と呼ぶのが正しいのかは分かりません。でも意思を持っているは確かで、意思がある以上は、こちらのお願いも理解してもらえます」
「……私には出来ないわ」
エアリエルは魔法に関してそれなりに自信があった。だが、リオンの言うような感覚をエアリエルは感じたことがない。それに少し落ち込んだエアリエルだったが。
「そうですか? 出来ていると思いますけど」
「……どうして、そう思うのかしら?」
「この場所に来られたのは、エアリエル様の精霊が導いたからだと思います。もちろん、サラとディーネが手伝ったからこそでしょうけど」
「私の精霊……」
魔法の素となる魔力に対し、『私の』という意識を持った事がエアリエルにはない。世界に漂う魔力は、その資格があるものであれば、誰にでも力を与える存在だと思っていたのだ。
だが、リオンは名を呼び、まるで仲間のように、魔力の事を話す。そして、その魔力が自分をここまで案内してきたのだと言ってくる。
「私にも感じられるかしら?」
「ですから、もう感じています。後は、そうですね……エアリエル様が彼らか彼女らかは分かりませんが、受け入れるだけではないですか?」
「受け入れると言われても……」
「じゃあ、エアリエル様も名を付けてみます? やはり名で呼ぶほうが、より身近に感じられると思います」
「名前……どういう名が良いかしら?」
リオンが実際に名を付けて、自分以上の事をしてみせている。当然、エアリエルもそれに倣いたい。まだ半信半疑ではあるが、言われた通りに名を付ける事にした。
「風の精霊だとシルフですか。シルフィーネもありますね」
「リオン、それって」
「あっ、そのままだと個人の名にはなりませんよね。一部を取ったらどうですか? 私はそうしました」
「……サラとディーネって?」
「えっ? サラマンダーの『サラ』とウンディーネの『ディーネ』ですけど?」
「……そう、そうだわね。私ったら何を変な事を聞いているのかしら」
「いえ。それでどうされますか?」
「そうね……『ルフィー』にしようかしら? おかしい?」
「いえ。エアリエル様の精霊ですから、エアリエル様のお好きな名が良いと思います」
「じゃあ、ルフィーにするわ。でも、名を付けて、この後はどうすれば良いのかしら?」
「呼んであげれば良いのです。片手を軽く上げて名を。あっ、魔力を吸われますけど怒らないように」
「分かったわ」
エアリエルは、リオンに言われた通りに、手のひらを上にして右手をゆっくりと上に持ち上げる。何となく鳥の餌付けをするような心境だ。
「……ルフィー」
恐る恐る名を呼んでみる。
それへの反応はすぐに現れた。蛍のような小さな光の点滅がいくつもエアリエルの手の周りで瞬き始める。それはどんどん数を増していき、更に光の輝きも大きなものに変わっていく。
やがて、それは手の周囲だけでは収まらずに、エアリエルの体全体を光が覆っていくほどになった。
「へえ。流石だな」
それを見ているリオンは感心した様子で呟いた。初めて自分が精霊を呼んだ時と比較しているのだ。エアリエルの周囲に集まった精霊たちの数は、リオンの時よりも遥かに多い。リオンは、それだけエアリエルが精霊に好かれているのだと思った。
「それに……綺麗だ」
東の空から陽が昇り始めている。それでもまだ薄暗い周囲の中で、精霊の光に照らされて、輝いているエアリエルは、リオンにとっては、まるで女神か天使が降臨したかのような美しさだった。
◆◆◆
その日の放課後。
エアリエルに命じられて、リオンは学内の案内を行っている。どうしても必要な訳ではない。ただ単にエアリエルがリオンを連れ出す口実に利用しただけだ。
朝の件もあってか、エアリエルは機嫌が良い。表向きは普段と変わらない様子で振舞っているが、リオンにはそれが分かる。他に分かる者が居るとすれば、ヴィンセントと、親である侯爵夫妻くらいだろう。
今日一日、楽しく終わる――と、思ったリオンが甘かった。
「あれは何をしているのかしら?」
先に見える光景をエアリエルの目に入れてしまったのはリオンの不覚だ。エアリエルが気付く前にうまく別の場所へ誘導するべきだったのだ。
「さあ、何でしょう? あまり良い雰囲気ではなさそうです。別の場所に向かいましょう」
それでも何とか誤魔化そうと悪あがきをしてみたが、それは無理というものだ。
「その雰囲気を悪くしているのは王太子殿下だわ」
「……そうかもしれませんね」
アーノルド王太子の前では、明らかに貴族の令嬢と分かる豪奢な髪型をした女子生徒たちが、小さくなって震えている。その反対側。アーノルド王太子の背中に隠れるようにして立っているのはマリアだ。
これだけで、リオンには何が起こっているのか見当がついた。
「行くわよ」
「えっ、いや、それはどうかと……」
「……どうして?」
「お取り込み中です」
「それは分かっているわ。その、お取り込みが何かを聞きに行くのよ」
「しかし……」
「じゃあ、私一人で行くわ」
「……お伴します」
止められるはずがない。それが分かっていても、リオンは自分の無力さが悔しい。重く感じる足を無理やり前に進めて、リオンはエアリエルの後を追った。
すぐに聞こえてきたのは、アーノルド王太子が女子生徒を詰問する声だ。
「もう一度聞く。お前たちはマリアに何をしたのだ?」
「な、何も」
「では、何故、マリアが泣いている!?」
「そ、それは、その女が勝手に」
「理由もなく泣くはずがないだろ!?」
「ですが……」
リオンの予想通り、マリアに嫌がらせをしていた現場をアーノルド王太子に見られて、責められている様子だ。攻略対象であるアーノルド王太子が絡む以上は、イベントの一つに違いない。そうなると、そこにエアリエルが絡む事によって起こる結末は、ろくでもない事が目に見えている。
「王太子殿下、御機嫌よう」
リオンの焦燥など少しも分かっている様子もなく、エアリエルはアーノルド王太子に向かって、嫌味と受け取られかねない挨拶を平気で言ってしまう。
「……エアリエル」
案の定、アーノルド王太子は女子生徒たちに向けていた怒りの視線を、下手するとそれ以上の視線をエアリエルに向けてくる。
「このような所で何を為されているのですか?」
「お前には関係ない」
「私には関係なくても、女子生徒を男子生徒が虐める様は、周りから見て、あまり良い光景とは思えませんわ」
「何だと?」
マリアと衝突するどころではない。エアリエルはまるでアーノルド王太子に喧嘩を売っているかの様な言葉を、続けて放っている。これはさすがに貴人の会話に従者ごときが割り込むのは無礼極まりないと分かっていても、リオンはそれをせざるを得ない。
「エアリエル様、まずは事情をお聞きになられてはいかがですか?」
「その必要はないわ」
「どうしてですか?」
「事情は大体分かっているわ。彼女たちが、そこの平民の女に何かした。それを王太子殿下は怒られている」
「そうであれば、この方々に非がございます。アーノルド王太子殿下からお叱りを受けるのは当然ではないでしょうか?」
「リオン。さすがの貴方もこういった事には疎いわね?」
「私の考えは間違っていますか?」
「ええ。間違っているわ。社交界は女性にとって戦いの場でもあるわ。その社交界の女性同士の戦いに、男性が、それも王族の男子が干渉するなどマナー違反だわ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものよ」
エアリエルが言っているのは、社交界の、それも女性の間だけの暗黙のルール。女性の戦いに男性の権威を持ち込むのは野暮というもので、それによって勝ったとしても、社交界ではそれ以降、マトモに相手にされることはない。
そんな社交界でのしきたりをエアリエルはこの場に当て嵌めようとしている。それが正しいのかリオンには分からないが、エアリエルなりの理屈があることだけは分かる。
「しかし、あまり事が大きくなるようであれば、誰かが収めなければいけないのでは?」
「ええ。もちろんだわ」
「それは誰が?」
「社交界の頂点に立つ御方は、王妃殿下だわ」
「……そうですか」
その王妃殿下は学院の揉め事に介入してくるはずがない。そうなると、学院での女子生徒同士の諍いが治まらないという事になる。
「母上が居ないから、お前が代わりにとでも言いたいのか?」
相も変わらずに、アーノルド王太子は不機嫌そうな声で、会話に割り込んできた。
「どうして私が、王妃殿下の代わりになどなれましょう?」
「俺の婚約者という肩書を利用するつもりだろう?」
「婚約者はあくまでも王太子殿下の妃候補であって、王妃はもちろん、王太子妃でもありませんわ」
「何?」
エアリエルの言い方は、聞きようによっては、アーノルド王太子とエアリエルの結婚には破談の可能性があると言っているように聞こえる。
「王太子殿下が今、為さるべきは、女子生徒の誰もが納得する、学院における王妃殿下のような方を指名される事ですわ。その方が学院内での女子生徒同士の争いの調整者になる。あとはその方に任せれば宜しいのです」
「お前を指名するとは限らない」
「私は学院に入学したばかりですわ。そのような大任は上級生の方が担うべきかと思いますわ」
これも又、王太子妃候補として扱われる事をエアリエル側から拒絶しているようにも受け取れる。実際にアーノルド王太子はそう受け取った。
「……ではお前以外で指名する」
「ええ。それが宜しいと思いますわ」
最後の嫌味も全くエアリエルに通じない。アーノルド王太子は、これ以上は発する言葉を失くして、悔しそうな表情で、この場から離れていった。そのアーノルド王太子のあとをマリアが嬉しそうに追いかけていく。初めはエアリエルの態度に困惑していたマリアだったが、アーノルド王太子と直接やり合っている様子を見て、二人の仲に亀裂が入ったと喜んでいるようだ。
そのマリアの気持ちが嫌でも分かってしまったリオンは、苛立ちが押さえられないでいる。
「リオン、待たせたわね。次はどこに案内してくれるのかしら?」
「……エアリエル様」
「私は学院生活を楽しいものにしたいの。それ以外の事に、余計な時間は取られたくないわ」
「……はい」
リオンはエアリエルの言葉を気分転換を図りたいという意味だと捉えた。マリアへの苛立ちは治まってはいないが、エアリエルの為に、それを忘れて、気分転換に良い方法がないかを考える事にした。
「貴女たちも、くだらない事で私の大切な時間を無駄にしないでもらえるかしら?」
アーノルド王太子が去ってホッとしていた女子生徒は、それを言うエアリエルを見て、真っ青な顔に変わってしまう。エアリエルが本気で怒っていることが分かったからだ。そして本気で怒ったエアリエルは、アーノルド王太子の怒りなど比べ物にならない程、恐ろしかった。
「あっ、食堂に行ってみましょうか? 安くて美味しいお薦めのデザートがあります。エアリエル様は普段はご利用になられないでしょうから、この機会にいかがですか?」
考えに没頭していたリオンは、震える女子生徒たちに気付かずに、呑気な提案をしてくる。
「ええ。リオンがお薦めというなら、それで良いわ」
そのリオンにエアリエルは、女子生徒たちに向けていた表情を一変させて、ニッコリと笑みを浮かべて返事をした。
「じゃあ、行きましょう」
「ええ」
エアリエルにとって、リオンと過ごす時間以外は全て無駄なのだ。限られた時間の中で、出来るだけ、リオンとの楽しい思い出を作りたい。これがエアリエルの学院生活での、ただ一つの望みだった。