調練場に健太郎と親衛隊が現れた。
失敗に終わったと思った説得が功を奏したのかと思ったグレンであったが、それが誤りだとすぐに分かった。
彼等に鍛錬をするつもりはない。ただ冷やかしに現れただけだった。
「おい! 何だ、その振りは!? そんな剣で人を殺せるか!」
「全然駄目だ! 俺が稽古をつけてやる! ほら、掛かって来い!」
懸命に鍛錬を続けている従卒たちを揶揄する声が、あちこちで上がっている。
「……調練の邪魔はしないで頂けますか?」
しばらくは事を荒立てないように黙っていたグレンだったが、一向に治まる様子がないのに業を煮やして騎士の一人に止めるように告げた。
「邪魔だと? 勘違いするな。俺達は教えてやっているのだ」
「彼等に教えるのは自分の役目です。貴方がたには自分の鍛錬があるのではないですか?」
「生ぬるい鍛錬をしているからだ。こんな鍛錬で一人前の騎士になれると思っているのか?」
この鍛錬を生ぬるいといえるほど、この騎士が自分を鍛えているはずがない。自分は出来もしないくせに従卒たちの努力を侮辱する男の態度に、グレンは苛立ちを覚えた。
「彼等にはまだ時間があります。貴方たちとは違って」
その苛立ちはすぐに言葉として出てしまう。
「何だと!?」
「彼等の鍛錬は閣下の許可を受けて行っているのです。もし、文句があるのであれば、自分にではなく閣下に申されてはいかがですか?」
「……調子に乗るなよ」
トルーマン元帥を持ち出されて、内心は動揺している騎士だが、なんとか強がって見せている。引き際を知らないのだ。
「そのつもりはありません」
「お前は閣下の騎士か? 勇者様の騎士であろう?」
「だから何なのですか?」
「勇者様に従うのが筋だ」
「その勇者様には何も言われておりませんが?」
騎士に対する言葉だが、グレンの視線は健太郎に向いていた。かなり厳しい視線だ。
「……彼等は従卒だから、仕える騎士の言うことは聞いた方が良いと思うな」
グレンの視線を受けて、健太郎はあまり強いことは言えなくなった。親衛隊の騎士としては期待外れの状況だ。
「今は従卒の仕事は免除されております。彼等にその義務はありません」
「そうか。でもさ、いつかは戻るわけだから」
「はい。今ではありません」
「…………」
そして健太郎は何も言えなくなった。
「親衛隊の騎士の方々を引かせて頂けますか? 調練に集中出来ません」
「でも……」
「今の状況を分かっているのですか? ここは調練場です。自分達だけがいるのではないのですよ?」
まだ躊躇いを見せる健太郎に、グレンは引くきっかけを与えることにした。親衛隊の騎士たちを前にしては自分に言い負かされた形では引けないだろうと考えた結果だ。
「あっ……そうか」
最初は見習い騎士が何をやっているのかと、冷めた目で見ていた騎士たちも、厳しい鍛錬を繰り返している従卒たちを見て、その見方は変わってきていた。
その調練を邪魔している勇者親衛隊の面々は、そんな騎士たちにとって侮蔑の対象でしかない。周りの騎士の多くがあからさまにそんな感情を表情に出して、様子を眺めていた。
「勇者様が信頼を得なければいけないのは親衛隊の方たちだけではありません。全ての騎士から信頼されなければならないのです。勇者様が勇者である以上は」
「……そうだね」
「ケン様」
ようやくグレンの言葉に納得した健太郎にすかさず声を掛けてきた者がいた。まるで副官のように健太郎の側に張り付いていた騎士だ。
「何?」
「もっともらしい話をしておりますが、この者の言っていることは、要はケン様が邪魔だと言っているのです」
「えっ?」
「邪魔だからどこかに行け。私にはそう聞こえました」
「そうなのか?」
男の話を聞いて、健太郎は不満そうにグレンに問い掛けてきた。
「どう聞けばそう聞こえるのか自分には理解出来ません。その方は耳がおかしいのではないですか?」
「グレン! 言い過ぎだ!」
この反応でこの騎士が健太郎に相当取り入っているのだとグレンには分かった。
「……それは失礼しました。ただ、その方が言っていることが誤っているのは事実です」
「正しいか正しくないかは、ケン様が判断なさることだ。奴隷騎士風情が言うことではない」
グレンと健太郎の会話にその男が割り込んでくる。グレンを侮辱する言葉をあえて使ってくる男。
「つまり貴方が判断することでもない」
「……何だと?」
だが、口喧嘩でグレンに敵うはずがない。
「自分で今そう言われた。そう聞こえましたが? もしかして自分の言葉も正しく聞こえない?」
「貴様……」
挑発し返されて、怒りで顔を赤く染めることになった。
「間違いか間違いでないかのお返事を頂けますか?」
「お前の耳がおかしいのだ」
「では正しいか正しくないかは貴方が判断することだと言うのですか?」
「そうは言っていない」
「自分の言った言葉に何か違いがありましたか?」
「……ケン様がご判断されることだ」
男のすがる相手は健太郎。だが、その健太郎を本心ではグレンは何とも思っていない。健太郎を持ち出してこられても、グレンが引き下がることなどない。
「自分は最初からそう言っているつもりですが?」
「その生意気な口をいい加減に閉じたらどうだ?」
「口を開かせているのは貴方ではないですか? 自分はただ、今の状況は良くないので、速やかに調練場を出るべきだと申し上げているのです」
「それがケン様を邪魔と言っているのだ」
全く論理的ではない、ただの強弁。
「……貴方は勇者様の評判が落ちても良いと思っているのですか?」
グレンは攻め方を変えることにした。
「ケン様の真価は戦場で発揮されるものだ。日常の些細な事などにお気を煩わす必要はない」
「なるほど。つまり貴方は味方の支援の一切を無しにして、勇者様に敵に突っ込んで行けと言っているのですね?」
「何故そうなる?」
グレンの論理の飛躍に相手は付いてこれない。付いてこれない様な飛躍をわざとグレンはさせているのだ。
「信頼していない人を自分の命を削って助ける人がいますか?」
「ケン様は勇者だ! 助けるのは当然であろう!」
「逆です。勇者であるからこそ、皆を助けなければならないのです。だから勇者なのです」
「つまりお前はケン様に命を削って、人を助けろというのだな?」
「そう言っています」
ようやく男は正しくグレンの言うことを理解した。
「何だと?」
本人にそのつもりはなかったようだが。
「自分には貴方が何を言いたいのかさっぱり分かりません。貴方は勇者様を何だと思っているのですか?」
「尊敬する主だ」
「聞き方を変えましょう。勇者様ではなく勇者を何だと思っているのですか?」
「何が違う?」
「勇者様個人ではなく、勇者という存在は何かと聞いているのです」
「……同じではないか」
難しい質問に男は屁理屈も思いつかない。
「勇者という存在は勇者様が最初ではありません。過去にも勇者はいました。そう言った勇者は何を人々に期待されていたと思うのですか?」
「勝利だ」
「……貴方とは話になりません」
首を大きく左右に振って、グレンは呆れた様子を見せている。
「何だと?」
「貴方は勝利さえもたらせば、勇者は何をしても良いと考えている。違いますか?」
「そうだ」
グレンの極論を、はっきりと肯定するこの男はやはりどうしようもない。
「自分は勇者とは導き手だと思っています。根本的な考え方が違う」
「分かりにくい言い方をして誤魔化すな」
「分からないのは貴方だからではないですか? 導き手は言葉の通りです。人々を導く方です。勝利も確かにその一つかもしれない。でも、それだけではありません」
「他に何があると言うのだ?」
「例えば、正義を人に示す事」
「正義だと?」
「身近に言えば騎士の規範となる事もそうかもしれません。大きな話では苦しんでいる人々に希望を与える事もそうかもしれません。ただ強ければ勇者というわけではない。そして勝利とはただ相手を多く殺す事が勝利ではない」
「……お前は何を言っているのだ? お前の言っている事こそ、さっぱり分からん」
男は分かっていない。グレンは男に向かって話しているのではないということを。
「だから貴方とは話にならないと言った。それを無理に説明させようとするから」
「ケン様、この男はこういう訳の分からない事を言って、ケン様を誑かしているのです。騙されてはなりません」
グレンとの言い合いでは勝ち目はないと思ったその騎士は、健太郎に話を向けた。それは正しい。言い合いでグレンがこの程度の男に負けるはずがないのだ。騎士に勝ち目があるとすれば健太郎に頼るしかない。
「いや、でも少し分かる気が」
だが、健太郎はグレンの話の方を正しいと感じている。いかにも勇者らしいあり方を気に入ったのだ。
「何を申されているのですか? それが既に誑かされているという事なのです」
「そうかな?」
「そうです。この男はケン様の優しさに付け込んで図に乗っているのです。厳しくする所はする。それが主というものです」
「それは分かるけど、グレンの言うことも一理あるような」
「……ではこの男が本当にケン様に忠誠を向けているか試してみるのはいかがですか?」
騎士の言葉を聞いて、内心でグレンは嫌な予感を感じている。それを表に出すことはしない。それを表に出せば、それを見た騎士が調子に乗るのが分かるからだ。
「試すと言っても」
「この男が本当にケン様に忠誠を向けているのであれば、ちゃんと命令を聞くはずです。それがどんな事であっても」
「……死ねとか言えないから」
「それでは忠誠は試せません。命に変わる大切な物を差し出させましょう」
「それって?」
「確かこの男は妹を何よりも大切にしているはずです」
騎士がこの言葉を発した瞬間にグレンの雰囲気が様変わりをしたことに男は気が付かなかった。それだけこの騎士に実力がないということだ。それがこの騎士の不幸。
「いや、妹は」
「その大切にしている妹を差し出すのであれば、この男の忠誠を信じても良いでしょう」
「……そこまでしなくても、グレンはちゃんと」
健太郎は勇者としての資質のおかげかグレンの変化に気が付いている。自分が最強だと信じている健太郎でも圧倒されるグレンの殺気に。
「いいえ、いけません。そういうケン様の優しさがこの男をつけ上がらせるのです」
「いや」
「ケン様はお優しすぎます。では代わりに私の口から申し伝えましょう」
「や、止めたほうが」
「大丈夫です。おい、ケン様への忠誠を示してみろ。それを示すためにケン様に妹を差し出すのだ」
「差し出すの意味を教えてもらおうか」
「決まっている。ケン様の妾――」
男はその先を続ける事が出来なかった。男が最後まで言葉を発する前に、その体はグレンの裏拳一発で大きく真横に吹き飛んだ。数ヤードの距離を跳んだ騎士は、そのまま地面に叩きつけられる。
「「「なっ!?」」」
驚きの声をあげる親衛隊の騎士たち。
だが、それでグレンは終わらない。ゆっくりと地面に倒れている騎士に近付くと、その腕を足で強く踏みつけた。
「ぎぃあああああああ!」
ミシリという骨のきしむ音が離れた場所からでも聞こえた。
「今の言葉をもう一度口にしてみろ。その時は殺すからな」
「がっ……うあああ」
「返事をしろ。それとも今死ぬか?」
男が呻こうが構うこと無く、グレンは更に足に力を入れていく。きしんでいた腕が遂にあらぬ方向に曲がった。
「止めろ!!」
「貴様、ふざけおって! 自分が何をしたか分かっているのか!?」
「やっちまえ! ふざけやがって!」
親衛隊の騎士たちはグレンを取り囲むと一斉に腰の剣を抜いた。この騎士たちも相手の技量を読めない愚か者だ。
「何だ、お前たちも死にたいのか?」
二百人の剣を抜いた騎士を前にして、グレンは平然と言い放った。そのまま腰の剣を抜いて肩に担ぐようにして構えを取る。
「じゃあ、殺してやる」
「……き、貴様」
吹き上がるグレンの闘気に二百人の騎士のほうがひるんでいた。
「止めんか!! 剣を収めろ!!」
グレンと騎士たちの間に割り込んできた声はトルーマン元帥のそれだった。やってきたのはトルーマン元帥だけではない。数人の将軍たちも一緒だ。
さすがにその姿を見て、親衛隊の騎士たちの怒りは一気に萎んでいった。
「何をしている! ここをどこだと思っているのだ!」
トルーマン元帥についてきた将軍が怒声をあげた。第三軍の軍団長アステン将軍だ。
「しかし、この奴隷騎士が」
「我が軍に奴隷騎士などという役職はない!」
「……勇者付の準騎士が」
「何があったのだ? ちゃんと説明しろ」
「準騎士がいきなりマークを」
「マーク?」
「そこで倒れている者です。マークをいきなり殴りつけて、その上、腕まで。多分折れています」
グレンを一方的に悪者にしようと説明するが相手が悪い。アステン将軍はグレンを高く評価している将軍の一人だ。
「何故、そのような事態になった? グレンのことは私も少し知っている。理由なく、そのような真似をする男ではない」
「しかし」
「そもそも、騒ぎを起こしていたのは貴様等ではないのか? グレンが収めようとしているので、大人しく見ていれば」
親衛隊の騎士たちが騒いでいた様子をアステン将軍も知っている。この状況で嘘をつこうとする方が愚かだ。
「ちょっと待ってください! 怪我をさせたそいつは咎めなしですか!?」
「そうは言っていない。理由を教えろと言っているのだ」
「それは……」
「はっきりと言え! これは命令だ!」
無駄に足掻く相手に、とうとうアステン将軍も声を荒げてしまう。
「は、はい。その準騎士のケン様への忠誠を試すためにマークが」
「何だ?」
「命令を伝えました」
「……命令の内容は?」
「…………」
「抗命罪に問う事になるぞ」
「それはその準騎士のほうです。命令を聞く事を拒否して」
「だから、その命令を教えろと言っているのだ!」
「……妹をケン様の妾として差し出せと」
その騎士の言葉を聞いた瞬間に、グレンの剣がその騎士に振るわれた。
「ひっ!」
だがその剣は騎士に届く前に別の剣で遮られている。トルーマン元帥の剣だ。
「落ち着かんか! この馬鹿者が!」
「二度と口にするなと警告済みです。次は殺すとも言っております」
冷静な口調でこれを告げるグレン。これが却って、恐怖を感じさせる。
「頭を冷やせ! お前には妹はおらんだろうが!?」
「あれ? ……あっ、忘れていた」
この瞬間にグレンが纏っていた闘気が一気に散っていった。
「この馬鹿が!」
「すみません……」
「閣下、妹がいないとは?」
事情が分からないアステン将軍がトルーマン元帥に尋ねてきた。
「こやつの妹は養女だ。そして両親は二人とも亡くなっておる。養女縁組は解消され、戸籍上はこやつに身内は一人もいない。差し出す妹などいないのだ」
「そういう事でしたか。しかし、それだと……」
トルーマン元帥の説明を聞いて、アステン将軍は表情を曇らせている。グレンにとって良くない話だった。
「なるほど。言い訳のしようがないか」
「そうなります。身内を妾になどと言われて怒るのは当然です。情状酌量の余地は十分にあるかと。しかし、実際にはその身内はいない訳ですから」
「ふむ。それなりの処罰は必要だな」
「はい」
どんな事情があろうと演習場で自国の騎士を怪我させた事実は咎められるべきもの。こういった件でトルーマン元帥は公正な判断を譲ることはない。アステン将軍も同じ考えだ。
「それは仕方がないだろう。だが、こやつらはどうする?」
「正直、罪に問うまでは」
「はっ、こんなボケ共が無罪か。軍の規則も少し見直さねばならんな」
「それでも今の規則では、騒動を起こした事への口頭注意くらいがせいぜいです」
調練場で非常識な騒ぎを起こす。こんな馬鹿馬鹿しいことは想定などされていない。
「……そもそも騎士の資格がないのではないか?」
「そうは思いますが」
「「「そんなっ」」」
トルーマン元帥とアステン将軍の会話を聞いて、親衛隊の騎士たちが不満の声をあげた。
「不満か?」
「か、閣下に対して失礼かとは思いますが、自分たちは規定の調練を終えて、騎士として認められた訳で」
「どんな調練をしてきたのだ? それも見直さなければならんのか?」
「しかし、騎士団で定めた調練は消化しております」
「消化すれば良いというものではない。それを身に付けなければな。ボンクラは規定がどうであれ、儂は騎士とは認めん」
トルーマン元帥は実力主義者だ。形だけの騎士など騎士として認めない。
「いくら閣下といえ、それはあまりの言いようです。まして何故、あのような者を庇うのですか? 上職の騎士に乱暴を振るうなど、規律を知らない狂犬と同じです。あの者こそ準騎士の資格もない」
「狂犬だと?」
「……そ、そうではありませんか?」
トルーマン元帥に厳しい視線を向けられて怯んだ騎士だったが、ここで引き下がってはと、なんとかこれを口にした。
「完全なボンクラだな。犬と狼の区別もつかんとは」
「……狼?」
予想外のトルーマン元帥の言葉に言われた騎士はきょとんとしている。
「やはり知らんのか? そうだろうな。そうでなければ小僧に立ち向かおうなどとは思わんはずだ」
「あの、その準騎士は?」
「銀狼、小僧の通り名だ」
「はあっ?」
驚きの声をあげたのはグレン本人だった。
「……お前も知らんのか?」
「そんな恥ずかしい名は知りません」
「まあそうか。軍内のそれではないからな。お前は裏の筋でそう呼ばれているらしい」
「裏?」
「盗賊、まあ色々な盗賊だ」
「……何故でしょう?」
呼んでいる相手は何となく分かったが、呼ばれる理由が分からない。
「お前な、十五で軍に入って、初めての参戦から敵を殺しまくる奴がどこにいる? その後も、出動の度に盗賊どもを血祭りにあげている。恐れられるのも当然だ。銀狼には近づくな。これがその筋の教訓になっているようだぞ」
「何故、閣下がそのような話を? そんな話は自分は今日初めて聞きました」
国軍にいた時には全く耳にしていない話。これが何故、今頃、それもトルーマン元帥の口から聞かされるのかもグレンには疑問だ。
「色々調べた結果だ。お前の言うなんたら勢力が少し気になってな。捕えた者の調書を読んでみれば何やらそんな文字が幾つもある。誰の事かと聞いてみれば、お前だった」
「それは恥ずかしいですね」
「何故ここで恥ずかしいの言葉が出るのだ? まあ儂も通り名なんて付けられるのは嫌だな。とにかくそういう事だ。さて何故、小僧をかばうかと聞いたな?」
グレンとの話を終えてところで、トルーマン元帥はまた親衛隊の騎士に話を向けた。
「は、はい」
「今の話を聞いても分からんか? 小僧は国軍に入って、常識では考えられない速度で功績を上げていった。それで最年少且つ最短昇進記録での小隊長。そしてすぐに中隊長だ。お前は騎士になって、どれだけの戦功を上げたのだ?」
「それは……」
言えるような戦功などあるはずがない。だからこそ勇者親衛隊に送られたのだ。
「小僧を超えているのか? 超えていないのであろう? 軍の上層部として、どちらを大事にするかは明らかだと儂は思うがな」
「…………」
「分かったか。とにかく、小僧には処分を下す。どんなものになるかは儂も知らん」
「はい……」
「儂としては納得いかんところだが、これで解散だ。小僧はどうする?」
「今は拘束までは不要かと思います。ただ処分が決まった後は、恐らくは独房入りになるのではないかと。それが何日かは今は分かりません」
トルーマン元帥の問いにアステン将軍が自分の推測を述べてきた。推測といっても、かなり正確なものだ。処分を決める人の中にはアステン将軍もいるのだから。
「罰としてはそんな感じか。まあ、そんなものだろうな。では今日のところは家に帰れ」
「彼等は? 自分が処分となれば、しばらく面倒は見られないのではないでしょうか?」
鍛錬もそうだが、自分がいない間にまた親衛隊の騎士たちがちょっかい出してくることをグレンは心配している。
「そうだな……よし、では儂が指導してやろう」
言葉にしないグレンの思いを正確に読み取った結果がトルーマン元帥のこの台詞だ。
「「「はあっ!!」」」
トルーマン元帥のまさかの言葉に、この場にいる全員が一斉に声を上げた。
「何だ? 儂では不満か?」
「閣下、彼等の気持ちも考えてください。見習い騎士の身分で、閣下から教えを受けるとなれば」
従卒たちでは何も言えないだろうと、気持ちを代弁したアステン将軍だったのだが。
「何か問題があるのか?」
「……ありません」
トルーマン元帥の有無を言わさぬ口調に何も言えなくなった。
「では、決まりだ。よし、若者たちよ。明日からは儂が教官だ」
「「「「……はい」」」」
「不満か?」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
こう言うしかない従卒たちだった。