月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第150話 エピローグ、これで終わり

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ エミリー ◇◆◇

 

 カンバリア魔王国に捕えられた私は、転移魔法陣を使って、魔王国の都に送られた。そういえばカイトにはこれがあった。この世界で最速の移動手段は翼竜。でも翼竜は絶対数が少ない上に、人を乗せて飛んでいられる時間はせいぜい三時間。長距離移動となると、馬とそう変わらない。転移魔法陣による移動時間の短縮は、それを使わない他国に対するアドバンテージになる。きっと国造りに役立てているに違いない。
 魔王国の都はザイズ王国に攻められたと聞いていたけど、お城の中はその事実があったようには思えない。城までは攻め込まれなかったのか? 今はどうでも良い。これから私はどうなるのかのほうが大事。でも考えるのが怖くて、無意識にこういう関係のないことに思考が飛んで行ってしまう。
 もしかしたら、このまま処刑台に上ることになるのかもしれない。目隠しされているのは、それを意味しているのかもしれない。怖い。足が震える。立ち止まりたいけど、それは左右から私を抱える魔族が許してくれない。

 

「さて、ミネラウヴァ王国のエミリー・セイ。お前への裁きを伝える」

 

 床に跪かされたところで声が聞こえた。聞き覚えのある声。カイトの声だ。彼もすでに魔王国の都に戻っていた。

 

「今日から一年間、毎日、超ミニのメイド服を着て城の掃除」

 

「……はい?」

 

 今、カイトは何を言った? 私への罰は何? 「超ミニのメイド服」って、聞き間違いではないわよね?

 

「北城さんのメイド服か……ちょっと、わくわくするな」

 

「なるほど、セナも変態だったか」

 

「変態って……罰を考えたのは王じゃないか」

 

 どうやらセナくんもいる。これは……怒っても大丈夫の状況かしら? どう聞いても、ふざけているようにしか思えないのだけど。

 

「考えたのは俺じゃない。殺すとか傷つけるのとかは無しという条件で、被害者の意見を聞いて決まったことだ」

 

「……あの……目隠し外してもらえるかしら?」

 

 どうやら本当に私への罰は「超ミニのメイド服」を着て。お城の掃除をすることのようね……誰が考えた? 被害者って……そうかもしれないけど……超ミニって。

 

「駄目だな。これから鎖の代わりに縄でお前を縛る。だから目隠しは必須」

 

「この変態! 何を考えているのよ!?」

 

「はあ……じゃあ、目隠しを外してやれ」

 

 目隠しを外されても、眩しさで視界が遮られたまま。周囲の様子が見えるようになるまで、数秒の時間が必要だった。連れて来られていた場所は大きな部屋。正面には玉座に座るカイトがいた。その隣にはクリスティーナさん。彼女の逆側に元退魔兵団のミユウさんが座っている。ん? クリスティーナさんの反対に椅子を用意されているって。

 

「クリスティーナさんが王妃で……?」

 

「最初に聞くのがそれか? ミユウは第二妃」

 

「……ちなみに第三妃なんて?」

 

「……いたら悪いか? 俺は、これでも王だ。王様となると、色々あるんだ」

 

 いるんだ。しかも第三で終わらないのかもしれない。ハーレム属性持ち主人公かよ。

 

「それは後で聞くとして……私はどうなるの?」

 

「今伝えただろ? 一年間、超ミニメイド服で仕事」

 

「それは……それだけで終わりということかしら?」

 

 それが私の罪に対する罰。冗談のような話だけど、本当にそれで良いのか? それで私は許されて良いのかしら?

 

「えっ、足りないか? じゃあ、縄で」

 

「変態はいらない!」

 

「ふざけているようだけど、正式決定。感謝するなら決めた人たちに感謝しろ」

 

「……ここには何人いるの?」

 

 カイトは転生者を魔王国に集めたと聞いた。どれだけの人がこの国にいるのか? いない人は殺されたということ。

 

「俺とセナを除くと三人」

 

「三人……」

 

「異世界に転生すると皆、舞い上がってしまうのか、転生者同士で戦争していた。自分こそ、この世界の主人公って思っていたのかもな」

 

 気持ちは分からなくはない。ゲームの主人公に転生していなくても、自分は特別だと思ってしまう。ゲームには登場していないからこそ、特別なことが出来てしまうと思ってしまう。異世界転生アニメにそれほど詳しくない私でも、そういうストーリーがあることを知っているくらいだもの。

 

「誤解しているみたいだから言っておくけど、俺は転生者を片っ端から殺して回ったわけじゃない。確認出来ているだけで、同級生は十四人くらいだ」

 

「半分くらい……まだ見つかっていない人がいるのね?」

 

「それはどうかな? 美玲さんの話だと俺たちは榊の父親に恨みを持つ誰かに殺されたらしい。クラス全員が殺されたとは思えない」

 

「……そうね……美玲の話?」

 

 その時の記憶はなかった。前世でどうやって死んだのか知らなかったけど、それも榊絡み。つくづく最低だ。榊も榊の父親も。ただ、それよりも、美玲の話ってどういうこと?

 

「ごめんなさない。貴女に伝える時間がなかったの。慈愛の神ミレー様から貴女へのお言葉です。間違ったのなら正せば良い。世界中の人が貴女を憎んでも、私は貴女を愛している。貴女は私にとって誰よりも大切な親友だから」

 

「……それは……美玲が?」

 

「慈愛の神ミレー様として、貴女たちより先に転生していたようですわ」

 

「…………」

 

 私のことを忘れないでいてくれた。まだ私のことを好きでいてくれた。私の大好きな、大親友の美玲は、まだ私を親友と想ってくれていた。美玲の言葉は私の救い。止まらない涙と共に、私の心の汚れを流してくれているように感じた。これで罪が許されるわけではないけれど、元から反省はしていたつもりだけど、もっと正面から自分の罪に向き合える気がする。その勇気を美玲は私に与えてくれた。

 

 ――終戦交渉決裂後、ミネラウヴァ王国では交渉団の責任を問う声があがり、国王陛下は交渉を決裂させた責任者であるレスター伯爵に事態の収拾を命令。再度、交渉団の責任者としてカンバリア魔王国へ派遣した。交渉、決裂、交渉、決裂、交渉を何度も繰り返した結果として、締結出来た条約は無条件での終戦の合意。当然。そんな成果がミネラウヴァ王国で評価されることはなく、交渉団は批判を浴びることになる。好戦派、併合派はこれにより勢いを失い、権力を握る前に失脚することになった。
 その後、再度交渉団の団長となったウイリアム王太子殿下が、相互不可侵条約、交易条約を締結し、両国の友好、発展に繋がる外交を成功させ、賞賛されたのとは大違いの結果。

 

「……王になると政争なんてことまで出来るのね?」

 

「隣国のミネラウヴァ王国に良からぬことを考える奴がいると困るからな。友好的な人に権力を握ってもらわないと」

 

 交渉の決裂は、カイトとミネラウヴァ王国の国王陛下との間での密約の結果。好戦派、併合派に、裏でカンバリア魔王国の王となったカイトはミネラウヴァ王国の利益を考えて決断するという嘘の情報を与えることまでして、交渉団に参加させていた。馬鹿な要求をすると思っていたのは、これが原因だったみたい。
 今回の外交で王家は国民の信頼を、完全とは言わないまでも、回復。カンバリア魔王国との交易によって不足している食料、物資の供給が進めば、さらにウイリアム王太子殿下の評価は上がるはず。

 

「飴と鞭?」

 

「そんなことじゃない。敵意には敵意、好意には好意を返すだけだ」

 

 このカンバリア魔王国のやり方を今回、他国も知った。下手な駆け引きは交渉を失敗させるだけ。誠意をもって交渉に臨むのが正しいと思ってくれれば、他の国とも良い条約を結べることになる。

 

「本当にすごいわ」

 

「別に俺が凄いわけじゃない。この国は優秀な人材が大勢いる、使う場所を間違えなければ、良い成果を出してくれる」

 

 前の魔王もカイトに仕えていることを知った。それも宰相を任せている。信用出来るのかと聞いたら、信用なんてしていないとカイトは答えた。相手がどうかだけでなく、自分は無条件に信頼を集められるような人格者じゃないとも言っていた。
 でも多くの人材がカンバリア魔王国に集まっている。騎士養成所にいたリーコさんも、いつの間にか、カンバリア魔王国で働いていた。他にもこういう人が大勢いるに違いない。これからもきっと、カイトの周りには人が集まってくる。

 

「……どうでも良いけど、いつまでここにいるつもりだ?」

 

「えっ?」

 

「一年の刑期は終わったのだから、ミネルヴァ王国に帰れば良い。きっちりと勤め上げたとは言えないけどな」

 

 メイドとしての一年は終わった。私にはお掃除の才能も、お料理の才能も、当然、裁縫の才能なんてものも何もなくて、まったく役立たずだったけど、一年は経ったわ。超ミニメイド服にも慣れた。意外と悪くない。

 

「ああ……でも、美玲が何て言うかな? 美玲は私たちがやり直すことを望んでいたからなあ」

 

「お前……まさか……本当にまさかだけど……王妃の座なんて狙っていないだろうな?」

 

「い、嫌だわ。そんなはずないでしょ? カイト相手に、私が、あれなんて……」

 

 ミネラウヴァ王国に戻る理由が私にはない。両親はいる。両親には会いたいけど、別に会おうと思えばいつでも会えるわ。帰っても男爵令嬢として、どこかの平凡な貴族に嫁ぐだけ。それも幸せのひとつだとは思うけど、カイトたちを見ていると、私もこの世界でもっと何かをしたいと思ってしまう。

 

「……でも美玲は喜ぶかも?」

 

「いや、喜ばないと思う」

 

「どうしてよ!?」

 

「そもそもお前、それが国王に対する態度か!?」

 

「別に良いでしょ!」

 

「良くない!」

 

(それで良いよ。二人が仲良くしてくれれば、私はそれで良い)

 

「えっ?」「何?」

 

 今の声は美玲の声? 間違いない。今のは美玲の声。彼女の声を私が聞き間違えるはずがない。美玲は私たちを見守ってくれている。仲良くしていると喜んでくれる。本当は前世で、三人で楽しく話をしたかった。でも、それは叶わない。だからせめて、この世界でやり直そう。これは美玲が私に与えてくれたやり直しの機会なのだから。

 

                                 ―― 終わり